「・・・・・・そっちはどう?」
深夜の魔法の森。
月の光さえさえぎられる漆黒の空間で、レティは隣にいたチルノに尋ねる。小声で。
チルノも可能な限り声を落としてそれに答えた。
「おっけー、こっちはまだ大丈夫」
「そう。それなら北東に移動しましょう。あちら側ならまだ隠れるところはあるわ。リグル、時間のほうは?」
「月の具合からするに、あと5時間ってところかな」
半月を見上げるリグル。
5時間。それは、日が昇るまでの時間。
「長すぎる」
レティが険しい顔をする。
レティ、チルノ、ルーミア、リグル、ミスティア、橙。
残ったのはたったの6人。橙は別行動中なので、ここにいるのは5人。
彼らの実力から考えれば、6人も残っていると言ったほうが正しいのだろう。
雛とパルスィ。二人がいなかったら今の半分も残っているかどうか。彼らが身を呈してくれたからこそ、ここまで逃げおおせることが出来たのだ。彼らにはいくら感謝しても足りない。
しかし残ったこのメンバーで、5時間も逃げ続けられるだろうか。
「リグル。竹林に逃げた奴らはどうなのさ」
「あっちもまだがんばってるみたいだよ。紅魔館に立て篭もっている囮メンバーも、もうしばらくはいけそうだ」
チルノの問いにリグルは気休めに嘘をついた。
そんなもの、とうに全滅している。その真実を、リグルはレティにだけ伝えていた。
竹林へと逃げたグループはアリスをリーダーに組織的抵抗戦を繰り広げてはいたが、その甲斐むなしく壊走。ちりじりになったメンバーは各個撃破され、捕縛された。紅魔館など最初期に襲撃されて、レミリアや慧音、フランドールも倒れた。妖怪の山に陣を構えたグループも同じ末路を辿っており、すでに仲間など残ってはいない。
奴らを相手にするには集団で行動すべき。これは間違ってはいなかったが、一網打尽にされると言う意味では間違っていたのかもしれない。
あれだけいた妖怪も残ったのはこの6人。
そもそもが遠距離通信魔法を扱えるアリスやパチュリーがやられてしまった時点で、こちらに勝ち目などなくなっていた。
「とにかく移動するわ。全員付いてきなさい」
レティが促す。残りの4人もレティと言うリーダーについていった。
最後に残ったのが1面・2面ボス集団などと、これほどの笑い話があろうか。
最初の作戦会議で「戦力外通告」された彼らは、仲間が捕らえられた際に捨て身で救出に向かうグループだった。それは6ボスメンバーが簡単にやられるわけがないと言う自信と、慢心ゆえの作戦だった。このグループのリーダーは、レティが受け持つことになった。
昼過ぎ。アリスから「メディスンと諏訪子が捕まった」という報を受けて救出に向かったメンバーは、その途中敵に見つかり撤退を余儀なくされた。今でこそ6人だが、先に挙げたパルスィや雛、秋姉妹・ヤマメなどのチームのメンバーがやられたのもこの時だ。必死で魔法の森に身を隠したはいいのだがそこから身動きがとれず、今に至っている。
リグルが虫を放つことで周囲の状況だけは把握できる。それだけが、力の弱い彼らの唯一の武器だった。
そこに1匹の虫が飛んできた。橙との連絡用の虫はリグルの肩に乗り、何事かを伝えてからまた飛び去っていった。
すでにスペルカードを使いきった橙は森の入り口付近で偵察役をしてもらっていたのだが。
「橙からだよ。東から敵が2人、南から一人やってきてる。それと・・・・・・・・後はよろしくって」
リグルがそう伝えた直後に、爆発音。橙のいるはずの南の方角から。
これで、残るは5人。
橙という犠牲を無駄にするわけには行かない。
「ねぇみすちー。北西に逃げたほうがいいんじゃない?」
「チルノの言うとおりね~。東と南から来てるんなら・・・・・・」
「だめ、西側に放った虫達と連絡が取れなくなった。そっちからも来てる」
こっちにリグルが残っていると踏んで虫を倒しに来たのだろう。西から来ている奴は頭が回る相手らしい。
一旦移動をやめ、5人がその場で立ち止まる。もちろん周囲への警戒は怠らない。
このままでは5時間と待たず、完全に包囲されてしまう。そうなったら・・・・・・
「こっちは敵に会ったが最後よ。なにせまったく勝ち目がないんだから」
「じゃあどうするのさレティ」
チルノが頬を膨らませる。
「このまま逃げても捕まるんだから、簡単。・・・・この森から脱出するわ」
「脱出というと、突破するのか~?でもそうなると戦うことになるよ」
ルーミアが心底嫌そうな顔をした。戦って勝てない相手だからこそ、これまで逃げ続けていたのだから。
しかしレティは説明する。
「一度紅魔館の方角へ逃げる。その後可能であれば竹林まで飛ぶわ。そうすればまた時間を稼げる」
「湖は、逃げるには見晴らしがよすぎるよ。それにあっちは東側。2人来てる方角だよ」
「でも人里に妖怪は近づけないから、そうなるとこれしかないわ。それにね、2人だからそっちに行くのよ」
「2人だから?・・・・・・あぁ、そういうことね~」
リグルとミスティアが納得して頷く。
チルノとルーミアは納得できず首をかしげる。
「見つかっても、敵より速く逃げればいいのよ。それにはあいつが邪魔」
「決まり」
3人が勝機を見出しているその横で、ルーミアとチルノは頭の上にはてなマークを浮かべている。
「でも、囮が必要」
レティが言う。
そう、囮が必要だ。奴らの追撃から逃れるに必要な犠牲。足止めという役目。
しかしそれにはあっさりと立候補者が出た。
「それなら私がやるわ~」
「ミスティア?」
「私は後1枚しかスペカ残ってないしね。それに歌で惑わせることができるから、あんたたちよりは時間を稼げる」
「・・・・・・ごめん、みすちー」
「いいわよ」
リグルとミスティアが手を握り合う。
「そうなったら他の方角から来てる奴が来る前に終わらせないとね。チルノ、ルーミア。ぼけっとしてないで早く来なさい」
「あ、そういうことなのかー」
「む~?」
やっと理解が追いついたルーミアとやっぱりわかっていないチルノを呼んで、5人は東へと移動を始めた。隠れる必要はないので、可能な限りの速度で東へと向かう。
失敗すれば、後はない。
となると残りの手札がいくら残っているかが問題だ。誰しも3枚まで使うことができるルールだったが、今はどれだけ残っているのだろうか。
確認のために、レティは聞いてみた。
「みんな、残りのスペカは?私はちゃぶ台返しとリンガリングの2枚」
「あたいはパーフェクトフリーズ、アイシクルフォール、フロストコラムス。えっと、3枚」
「チルノって1枚も使ってなかったんだ。ごめん、僕は使いきった」
「ナイトバードとムーンライトレイだけなのかー」
「夜雀の歌だけね~」
それを聞いたレティはしばし悩む。単品で使っても役には立たない。
どうする。
「いたよ」
リグルが敵を知らせる。
5人の正面。2人の敵がゆっくりと飛びながらこちらに向かってきていた。
だが暗い為、こちらには気づいていない。
「いけるわ~。私があいつらの目の前に出るから、その間に突っ切りなさい。そっちに行こうとしたら夜雀の歌で足止めする」
「がんばれみすちー!」
一隊から離れるミスティアの背中にチルノが声援を送った。
ミスティアの姿はすぐに見えなくなり・・・・・・夜空が弾幕で彩られる。
「全員湖まで出るわよ。付いてきなさい!」
レティの掛け声で、全員が必死に森を飛ぶ。
そしてそれに敵も気づいた。
「魔理沙、下!」
「おっとあんなところにいたか。そっちは頼んだぜ霊夢!」
「よそ見しない~。夜盲・夜雀の歌!」
レティ達に向かおうとした魔理沙を、ミスティアのスペルカードがその行く手をさえぎる。
元最速。だが追撃が出来ない。
その間にレティ達は森を疾走し、魔理沙の視界外へと消えた。
「自分のために使わないとは、見直したぜ夜雀」
SPELL BREAK
「人間なんて通常弾幕で十分・・・・・・ふみゃあ!?」
ミスティアの背後から一撃。それでミスティアは気絶した。
そこに浮かぶ、一人の人間。
「いいところに来たな、妹紅」
「さっさとあいつらを追え。ミスティアは私が運ぶぞ?」
「よろしくな。・・・・・・最後の最後で燃えて来た。いくぞ霊夢」
「わかってるわよ」
「いつ魔理沙が来るかわからないわ。リグル、後ろも警戒しておいて」
全力で飛びながら、レティが言う。
「わかった。でもうまく突破できたね。これなら竹林までいけるかもしれない」
「霊夢と魔理沙はわかったわ。南から来たのが一人。西からも最低一人。でも、残り全員が神社にいるとは思えない」
「その通り」
聞き覚えのある声とともに正面から飛んできた数十のナイフを、4人は散開して避ける。
ナイフ。と言うことは・・・・・
「紅魔館のメイド長!」
「魔理沙を止めれば逃げられる、当たり前じゃないの。そしてそのルート上で待ち伏せがあることも、当たり前。
烏合の衆がよくここまでがんばったわね。さぁ、そんなあなたたちの為のご褒美に狩りの時間を用意したわ。・・・・・・楽しみましょう?」
楽しそうに笑いながら、瀟洒にナイフを構える十六夜咲夜。
アラート。
勝てない。逃げろ。
「全員突っ切りなさい!とにかく湖まで出るのよ!」
その声で、4人がバラバラになって飛び出す。
だが、ナイフが迫る。
「はい、チェックメイト」
「やばいのかー、夜符・ナイトバード!」
ルーミアがスペカを消費する。
SPELL BREAK
一人では逃げることすらかなわないと言うのか。
いや。
相手は一人だ。
多少スペカを消費しても、倒す。
「チルノ、アイシクルフォール!ルーミアも最後の1枚!」
「ふぇ?え、えっと、氷符・アイシクルフォール-easy-!」
「月符・ムーンライトレイ!」
「やっぱりeasyか!寒符・リンガリングコールド!」
チルノがアイシクルフォールを放つ。
そしてルーミアのレーザーが左右を塞ぎ、安置をリンガリングが消す。
そして咲夜は、あるはずだった安置に向かって移動中。
「初見殺しすぎるでしょ!?ちょっと待・・・・」
そんなセリフを残し、被弾。
咲夜も保有スペカを使いきっていたらしい。
「ぉお?勝った・・・・・・?」
「時間がない。さっさと行くわよ」
「残念だがタイムオーバーだぜ」
背後に魔理沙の声。
そして、何かの飛翔音。
「レティ!」
とっさに彼女に飛び掛るリグル。
レティがよろけてバランスを崩す。そしてリグルの背に、星弾幕が命中。
追いつかれた。
まずい。
「うぐ・・・・・・レ、レティ」
「私は無事よ。ありがとう、リグル。・・・・休みなさい」
そのまま気を失ったリグルを、地面に寝かせる。
これで、3人。
今いる敵は魔理沙と、今しがた追いついた霊夢の二人。
「倒した人数数えてないんだが、残りはお前ら3人だけか?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないわね」
「あ~、まぁ倒してから人数数えなおせば済む話か」
「私たちより、あなたたちのほうがよっぽど悪人思考してるわ」
レティは背後にいるチルノに寒気を送る。
このバカが気づいてくれればいいのだが。
「紅白。終わりまで、あと何時間かしら?」
「ん?あと3時間ってところね。3分でカタがつきそうだけど。残念」
指先に、冷たい氷の感触。
おーけー。あなたは賢いわ、チルノ。
「それだとカップラーメンにお湯を注いでおかないとね。・・・・・・チルノ、ルーミア!」
「おっと逃がしは・・・・・・」
「そう、逃がさないわ。怪符・テーブルターニング!」
「霜符・フロストコラムス!逃げるよルーミア!」
「逃げるのかー」
スペカを使い、チルノとルーミアは一目散に逃げ出した。
霊夢と魔理沙はというと、2枚のスペルによる高密度弾幕に阻まれて身動きが取れないでいる。
それでもチルノたちに向けて放つ彼らの通常弾幕を、レティが壁となって受けた。当たり判定が横に広い?いいことだわ。
雑魚と思っている2人に逃げられる。その屈辱を存分に味わうといい。
「リーダーの仕事はここでお終い」
そして・・・・・・
SPELL BREAK
「はぁ・・・・はぁ・・・・。や、やっと追いつきました・・・・」
「お疲れ早苗。私たちはあいつらを追うから、リグルとレティをよろしくね」
言ってから、霊夢は頭をかく。
「しかし2回も逃げられるなんてな。いや、3回か」
「でももう残りはあいつらだけよ、たいしたことはないわ。輝夜は神社の警戒をしてもらって、残りは全員湖方面に集めましょう。咲夜、あんた大丈夫?」
「えぇ。まだいけるわ」
ふらふらと立ち上がる咲夜。
「よし、じゃあいくか」
※ ※ ※
少しだけ空が明るくなってきた。日の出が近づいている証拠だ。
希望の光は、すぐそこ。
「ルーミア、後どれくらい時間残ってると思う?」
「う~、多分1時間くらいと思う」
紅魔館の門の壁。そこに身を隠して二人はため息を付く。
竹林まで逃げる。レティがそう言っていた事位はチルノも覚えていた。しかし妖夢が竹林上空で物見警戒をしていたので、仕方なくここにいる。それ以外に隠れる場所がなかった。
残っていると思っていた、紅魔館に立て篭もっていたメンバーとも会えなかった。彼らも、全員捕らえられている。
物音一つしない、紅魔館。
「ねぇルーミア。・・・・・・・・あたい、神社まで行こうと思うんだけど」
スペルカードは後1枚。残ったのは1ボスと2ボス。
戦力とは到底呼べない、微弱な力。
「行くのかー?」
「だってこのままいたって、霊夢たちに見つかったら終わりだもん」
「見つからないかもしれないよ」
「う・・・・・・でもでも!」
「神社には絶対誰か残ってるのかー」
「知らないわよ!」
隠れていると言うことも忘れ、大声を張り上げてチルノは立ち上がった。
「あたい最強だから勝てるもん!要はレティたちを助ければいいんでしょ?そのくらい屁でもないわ。ラクショーね!」
「それなら行こう」
「え?」
てっきり止められると思っていたチルノが裏返った声を出した。
膝を抱えて座っていたルーミアも立ち上がり、さっさと神社へ向けて歩き出す。
「ちょ、ちょっとルーミア?」
「私はスペカ残ってないから、チルノが行くといいよ。その代わり黒いのは私が止める」
「え?えぇ??」
どう考えても無理。
どう考えても無謀。
誰でも分かる。
チルノでもわかる。
虚勢ともいえない強がり。
「善は急ぐのか。どうしたのチルノ?行かないの?」
「だって・・・・・・いいの?」
「私は1ボス、チルノは2ボス。チルノのほうが上なのかー。レティがいないから、今はチルノがリーダーなのかー」
・・・・・・・・。
チルノがうつむく。
「う・・・・・・」
「う?」
そして思いっきり顔を上げて、ない胸を全力で反らせた。
「うっっしゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!小船に乗ったつもりで全部あたいに任せなさい!最強のあたいが全員助けてきてやるわ!」
「まかせたのかー」
ルーミアが十進法を採用して、笑顔で笑う。
※
「霊夢!いたぞ!」
「あの⑨、あんなところに・・・・・・・・って、あいつ神社に向かってる!?」
夜明け前の空を神社に向けて真っ直ぐ飛ぶチルノを見つけ、霊夢たちが焦る。
竹林方面に探しに行った妖夢達もそれに気づいたらしい。だが・・・・・・・・・・遠い。
「まずいぜ、あそこには自宅警備員しかいない」
「自宅警備も出来ない警備員がね。輝夜の奴、寝てなきゃいいけど。魔理沙!」
「わかってる」
向きを転換させ、魔理沙がチルノを追おうと・・・・・・
「行かせない!」
「うぉ、暗っ!ルーミアか!」
その魔理沙に、すぐそばまで近づいていたルーミアが抱きついた。
そして闇を発生させる。自分の周囲にしか展開できない闇。その闇が、魔理沙を包む。
前が、見えない。
「くそっ。先に行っててくれ霊夢」
「りょーかい!」
魔理沙を置いて、霊夢が飛ぶ。
だが、遠い。
※
水平線がいよいよもって明るくなる。
その光景を眺められる、博麗神社。
「自宅警備を始めて数百年」
輝夜が、ゲーム○ーイを床に置く。
「ベテラン中のベテラン、この蓬莱山輝夜」
ゆらりと、立ち上がる。
正面には、すごいスピードで突っ込んでくるバカが見えた。
「この私を抜けると思うたか、氷精!」
「邪魔よ、どきなさい!」
チルノは止まらない。
槍よりも真っ直ぐに突っ込んでいく。
既に敗れ、捕らえられ、絶望の淵に立たされていた妖怪達が一斉にチルノを見た。
「チルノ!?」
「まだいたのかあいつ!?」
「あの子・・・・・・」
「いいぞバカ~!がんばれ~!」
それぞれの思いで、チルノを見つめる。
「さすが妖精。愚かにも策の一つもなく正面からやってきたことには敬意を表するわ。いいでしょう、私のラストワード・蓬莱の樹海で沈めてあげる。光栄に思いなさい、あなたごときにラストワードを使ってあげるのだから!」
「策なら、一個だけならないこともない!」
近づく。スピードは一切緩めない。
後ろから追いすがろうとする霊夢たち。
追いつかれるわけには行かない。
「ラストワード・・・・・・」
「策その1!凍符・パーフェクトフリーズ!」
スペル発動。
瞬間。
空気が、凍る。
完全に、凍る。
ここは、チルノの世界。
輝夜は・・・・・・・・
「う、動けない!?そんな・・・・・・弾幕じゃない!?」
「その2!突っ込む!」
そこからさらに、加速する。
時間がない。
これはそこまで長い時間、止める事は出来ない。
「レティ~!!」
「チルノ!」
「蓬莱、ニート、輝夜?・・・・ニートじゃない!なめないで!」
輝夜が硬直から脱する。
チルノとレティの距離は、まだ50メートルはある。
「そして、自宅警備員をごふぅ!?」
輝夜の体が腰のあたりから曲がって「く」の字になり、不自然な体勢で真横に吹っ飛ぶ。
その輝夜の腰には、
「行っちゃえチルノ!」
「橙!」
橙あの時、うまく逃げ出していたのだ。そして神社のそばで今か今かと機をうかがっていた。
輝夜の動きを封じる橙。抵抗する輝夜。
「うん!」
あと20メートル。
顔から地面に突っ込む勢い。
10メートル。
レティとチルノが手を伸ばす。
3メートル。
飛んできたナイフと針がチルノの服に刺さり、服ごと地面に引きずり落とそうとする。
1メートル。
チルノが、服ごと地面に縫いとめられる。
1メートル。
チルノの頭を、霊夢が押さえた。
1メートル。
届かなかった。
日が昇る。
『橙さんチルノさんアウトぉ!』
文の声が、拡声器によって神社に響いた。
『先ほどルーミアさんも捕まりましたので、妖怪陣営はこれにて全滅です!勝者、警察側人間チーム!』
※
ケイドロ。
警察側は泥棒を捕まえて牢屋に入れ、泥棒は捕まらぬよう逃げる。
これに幻想郷ならではのアレンジを加えて行ったのが、今回のゲームだった。
幻想郷全体を舞台に行われた今回のスペカルール付きケイドロ。人間・不死人間・半人の警察チームと、そのほか大勢の泥棒チーム。審判は最速天狗射命丸文と、千里眼犬走椛という完璧ぶり。
勝者には、紫が外の世界から持ってきた各種豪勢なお酒。それを優先して飲める権利。
「う・・・・・・ひっく・・・・・・」
チルノは泣いていた。
あのまま隠れていれば橙もいたのだし、勝てていた可能性が高かった。
自分が余計なことをしなければ、勝てていたのだ。
「よくやったわあんた」
チルノの体を起こして、霊夢がその頭をなでてやる。
そこにレティやミスティアたちもやってきた。
でも、みんな優しい目つき。
「最後に一泡吹かせたじゃない。チルノ」
「チルノ~お疲れ~」
「うん、お疲れ!」
「泣くなチルノ~」
でも、チルノは泣く。
みんなが頭をなでる。
チルノの髪がもみくちゃにされて乱れる。
その輪から離れて、霊夢が紫の名を呼んだ。
「紫」
「はいはい」
そしてスキマから大量に放出されるお酒たち。
「ほらあんたたち、ぼけっとしてないで準備手伝いなさい!手伝わない奴はそれこそ酒抜きよ!今の勝負は勝ち負けなし!」
霊夢の叱咤で、他の妖怪達も慌てて動き出した。吸血鬼用にテントを立て、スキマからつまみを引っ張り出し、座布団そのほかを手際よく並べていく。
夜が明けたばっかりだというのに、宴会の準備が着々と進む。
その光景に、チルノが目を丸くする。
「なんでみんなあたいを責めないのさ。勝ってたらもっといっぱい飲めてたのに」
「あなたが勝ったからよ。最強の妖精さん」
言ってレティは、手短にあったお酒をチルノの口に突っ込む。
「誰よりも強い妖精さん、お味はいかが?」
「・・・・・・しょっぱい」
「最高の味じゃないの、泣き虫チルノ」
「な、泣き虫じゃないもん!」
「ほら、準備が終わったみたい。行きましょうか。今日の主役はあなたよ」
「・・・・うん!」
つかこれがケイドロって…
なんて廃レベルなwww
だいたい人間VS妖怪ってチーム分けだったみたいだから、ケイドロじゃなくてニンヨウ?
語呂悪いな…
あと、「彼ら」じゃなくて「彼女ら」じゃないですか?
最後にもう一回言うぜ
レティさんがかっこよすぎるぜ!
でもルーミアがなのかー言い過ぎなのかー。