Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

あたたかさ

2009/03/07 22:31:00
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吸血鬼はぐっすりお寝んね。そんな正午。
「あれ、霊夢さん?」
自室に上がりこんできた突然の来訪者に、早苗は目を丸くした。
守屋神社。
妖怪の山にあるそれは、二人の神様と一人の風祝で構成されている。
ただでさえ人間が一人なのに加え、妖怪の巣くう山なので参拝者はほとんど来ない。来ないというよりは道中妖怪に襲われる率95%なので、誰も来れない。
霊夢は麗の神社そのものから出ようとしないし、咲夜もまた紅魔館の仕事のほうがあるので人間の訪問客と言えば魔理沙位。
その霊夢が、珍しくもやって来た。
手にはなにやら包みを持って。
「どうせ誰もいないと思ったから勝手に上がらせてもらったわよ」
「それは構いませんが。どうかされましたか?」
「あ、あんたね・・・・」
わけがわからないという顔をする早苗に、霊夢は引きつった顔で答えた。
霊夢をキレさせるにはそれで十分。
「どうかしてるのはあんたのほうでしょうが。布団の中でぶっ倒れて何の心配してるのよ!」
冷水をいれた桶とタオルを傍らに、寝巻き姿で布団に横になる早苗を指差して霊夢が怒鳴った。
早苗はと言うと、顔を霊夢に向けたまま「何のことだろう?」とでも言わんばかりに不思議そうな顔をしている。
「病気してる奴のところに包みを持ってやって来た。あんたにはこれがクリスマスプレゼントにでも見えるわけ?見舞いよ見舞い」
「ありがとうございます」
「お礼は賽銭で返してね」
決まり文句を言った霊夢は早苗の横にどかりと座り、包みを広げ始める。
出てきたのは握り飯が数個といくつかの果物。
寝ながら食べる芸当はできないので、早苗も布団から身を起こした。
「体調悪いなら雑炊あたりに作り変えてくるけど」
「いえ、食欲のほうはありますのでこちらをいただきます」
握り飯を一つ。つい先ほどまで寝ていたので、早苗にとってはこれが今日最初の食事となる。
訂正。昨日を含めてもこれが始めての食事だ。
東風谷早苗が倒れる。
この事実は超局地的に大きな波乱を呼んだ。具体的に言うと二柱に。
境内の掃き掃除をしていた早苗がいきなりぶっ倒れ、それを見つけた神奈子が担いで寝かせ、精力を付けようとしてハバネロ鍋なんぞを作ったので食えるわけもなく、晩御飯は晩御飯でステーキ肉をどこからか仕入れてきたのはいいがやっぱり食えるわけがなく。そんなこんなしているうちに早苗の症状が悪化したので、神奈子は奇声を上げながらどこかへ飛び去ってしまった。
諏訪子は諏訪子で早苗の代わりに家事をしようとして火事を起こしかけ、洗濯物は川に流し、川から流れてきた桃からは桃太郎が生まれ、帰り道でチルノに凍り付けにされ、腹が立ったので神力を適当に解放してストレス発散させたら境内の地面がえぐれ、仕方なく薬と土木業者を探しに旅に出て以降帰ってきていない。
結果、守屋一家の炊事洗濯掃除を始めとするありとあらゆる機能は完全停止。結局早苗も何も食べれずそのまま寝込み、ただただ体力を消耗させ続けていたのであった。
霊夢が見舞いにやってきていなかったら、生と死の境界あたりまで行っていたかもしれない。
「案外元気そうね」
霊夢がふぅ、と息を漏らした。もっと覇気がないものと思っていたが、とりあえずの所聞いていた以上には元気そうである。
「二つ目、いただいていいですか?」
「全部早苗用に持ってきたんだから食べていいわよ。大体、ぶっ倒れるほど何してたのよあんた」
「特に何もしていなかったんですが。季節の変わり目ですし、そのせいでしょう」
「んなわけがあるか」
即答で霊夢は切り捨てる。
季節としては夏と秋の境目だ。が、それが原因ではない。
神社にいれば二柱の世話及び神社の管理。山に出れば信仰普及活動。里に出ても普及活動。
酒も飲めないのに宴会があれば出席し、プチ異変の解決依頼までこなしている。
そしてこの性格である。
彼女のがんばりは目に見えてその成果を示していた。山を中心に信仰は広まっているし、麗の神社とは違いいつも手入れがなされている。新参として勝手わからぬ幻想郷で生活しながらもよく溶け込めていた。
しかし信念に燃えるのは結構だが、身が持たない。現に今・・・・・・
「『特に何もしていない』っていうあんたの生活は、世間一般では『身を粉にして働く』に当たるのよ。お茶でも飲んでのんびりする時間でも作りなさい」
「ふふ、そうですね。また倒れてしまっては神奈子様や諏訪子様にご迷惑をおかけしてしまいます」
そう、これだ。
早苗は自分の身を大切にしようと言う考えに及ばないのだ。全部、誰かの為にする行動の過程の一つにしてしまう。そして早苗にとってそれが大切なことなので手を抜かない。全力で仕事をする。そして全力で倒れる。
この場で言うことではないと霊夢もわかってはいたが、口に出さずにはいられなかった。
「だからあんたのことが嫌いなのよ」
「まぁ、商売敵ですから」
「そうじゃなくて!あんたの、その性格が、嫌いなのよ」
早苗は首をかしげた。もとより脳が熱でやられているのでいつも通りの思考ができないのだが、例えそうでなくても霊夢の言葉を理解できてはいないだろう。
「性格、ですか。具体的に言うとどのあたりでしょうか」
「あ~?それが生きがいとでも言わんばかりに他人ばっかり立ててるところよ。忠犬咲夜と同レベルかそれ以上にね。だからその無駄に傾けるやさしさを自分に向けろって言ってるの」
「やさしい、ですか」
急に早苗の表情が暗くなる。
「霊夢さんにはそう見えるんですね。でも私なんかより、霊夢さんのほうがやさしいですよ」
「私が?」
「えぇ」
病気の身でわざわざ布団の上で正座し、居住まいを正す早苗。
まるで大切な話があるかのように。
「私は神奈子様諏訪子様、お二人の力になることしか出来ません。そして、それすらも私の未熟さゆえに及ばないんです。霊夢さんの言うやさしさを全力で傾けても足りないんです。
それに私のはやさしさなんてものじゃない、自己中心的で利己的なものです。信仰を集めると言うことは、別の信仰を廃れさせるということなんです。そのことに知らぬ振りをするんです。
でも霊夢さんは違う。魔理沙さんが家に来ればお茶を出します。異変が起これば解決しに行きます。宴会があれば場所を提供するし、杯を酌み交わします。
でも誰も損をしない。私も異変を起こした側ですが、損をしたなどと思ったことはありません。
だから私は霊夢さんがうらやましいんです」
酷い顔色をしているのに饒舌に話す早苗。よくみれば、早苗の体は前後左右にフラフラ動いている。
そんな体で何を訴えたいのか。そこまでして伝えねばならないことなのか。
しかし、いずれにせよこのまま起こしておくのは体に障る。
「わかったから、とりあえず横になりなさい。これ以上無理して寿命縮める気?」
「いいんです」
早苗は霊夢の言葉を強い調子で突っぱねた。一度決めると中々どころか絶対に折れない早苗である。
きっと彼女は、自分が満足するまで寝ない気だろう。
そして、続ける。
「私も幻想郷に住む身ですから、多少の歴史は学びました。
霊夢さん、あなたはスペルカードルールを作りました。でもそれは、誰の為ですか?」
「誰って、妖怪共に頼まれたからとりあえず適当に作ったんだけど」
「そうですか?私にはそうは思えませんでした。
スペカルールが広まったことで、これまでの人間と妖怪の関係は変わりました。
本質的な対立関係は維持したまま、滅多なことで妖怪は死なないし、人間としてもそこまで危険な生活ではなくなりました。
過去のように妖怪達が食料にあえぐこともなく、彼らの本能的な欲求は異変を起こすという形で容認されるようになりました。
そして今、彼らとの間で宴会を催すことさえある。誰が損をしましたか?」
里の人間はこれまで以上の安全を手に入れた。
妖怪はこれまで以上の娯楽を手に入れた。
弾幕ゴッコでボコられることはあっても、全体的に見て言えば全員が何かしらの利益を得ている。
「博麗。妖怪を討伐する仕事。霊夢さんは13代目、でしたか?
それまでの間に多くの妖怪が死に、多くの人間が犠牲になり、多くの恨みを博麗が背負ったはずです。
あなたがなぜ神社から出ようとしないのか。人や妖怪と関わり合いたくないから。
外に出れば妖怪だらけ、博麗がこれまで討伐してきた妖怪達。昔であれば闇討ちくらいはあったでしょう。
外に出れば妖怪に会う。妖怪に会えば戦う。どちらかは倒れる。
外に出れば人に会う。人に会えば友達が出来る。友達が出来れば、それを妖怪達が逃しはしない。
霊夢さんは、怖かったんじゃないんですか?
でも自分がそれほど恐れているのに、あなたは妖怪達にはやさしかった。もし恐れていただけの利己的な人間なら、もっと違うルールを作ったはずです」
「・・・勝手に妄想しないでくれる?」
霊夢が言えたのはそれだけだった。その声と表情には説得力のカケラもない。
早苗が話した内容ほどに深く考えたことはない。そこまで行き着くには、あの頃の自分はあまりに幼かった。
ただ妖怪達に相談を持ちかけられたときはチャンスだと思った。
命なんて賭けず、遊び感覚で出来ること。そうしていくつか考えたうちの一つがスペルカードルールだった。
と、何かあたたかいものにつつかれた感触。
過去に浸っていた霊夢を、早苗が抱きしめたのだ。
「ちょ、ちょっと!?」
「もう終わったんですよ」
あたたかい声。
そう。
終わったのだ。
今やスペルカードルールは世に広まり、妖怪達の娯楽としての地位を築いた。
娯楽。遊び。
討伐とか討滅なんて汚いものじゃない。
誰も手を汚さなくていい。
「誰も博麗や、霊夢さんを恨んではいませんよ。少なくとも私は、妖怪の山でそういう方に会ったことはありません。
もちろん今までの経緯がありますから容易に受け入れられない者たちもいるでしょうが、こんなにやさしい霊夢さんを本気で傷つけようなんていう人はいませんよ。
仮にもしいたとしても、あなたを助けてくれる妖怪や人間は必ずいます。私も守屋の風祝ではなく東風谷早苗として、霊夢さんを助けます」
「ふん・・・・・・地霊殿の一件はどう説明してくれるのかしら?」
「遊びですよ、『弾幕ゴッコ』という名の遊びです。それが、幻想郷ですから」
あたたかい。
むかつくほどにあたたかい。
むかつくので、抱きしめ返してやる。
うん、なんか・・・・
「むかつくわ」
「ふふ」
早苗は笑うばかり。
なるほど、二柱が早苗を慕うのも納得できる。
もしもこれが私の姉とか、母親だったら。
それはそれで悪くはない。
しばらくはこのままでいたい霊夢であったが、状況はそれを許さなかった。
「けほけほ・・・・」
「あ~ばか、そんな体で無理するから。ほら横になる」
霊夢が促すが、早苗の咳は止まらない。しかも気づいてみれば霊夢を抱きしめていると言うより、霊夢にしなだれかかっている状態だ。
早苗を引き剥がし、布団に寝かせつける。
「あぁ、ありがとうございます。けほ・・・・」
それにしても、咳が止まらない。聞いていたよりも病状が悪いのか。
「ちょっと・・・・・しっかりしなさいよ早苗。いい医者は知らないけどいい薬師なら知ってるから、待ってなさい」
「霊夢さん。しばらくの間でいいので傍にいてもらえませんか?さすがに心細くて・・・・」
「情けない事言わない!」
「薬なんてなくてもしばらくしたら楽になりますから。いえ、お忙しければ無理には・・・・」
「私の暇さ加減知ってるでしょうが。・・・・ほら、しばらくいてあげるから」
早苗のすぐ横まで近づいて、その手を握ってやる。

余命半年。
治療不可能。

麗の神社を飛び出すきっかけとなった単語が頭をよぎる。
早苗の手を、さらに強く握る。
早苗も握り返してくる。
このあたたかい手が、後半年で・・・・・・
永琳の薬であれば、救える?
いや、今は早苗の横にいることが最善。
私より先に逝くなんて承知しないわよ。
「・・・・・・霊夢さん」
「・・・・、何?」













「キッチンの戸棚に総合の風邪薬があったと思うので、取りに行っていただいていいですか?やっぱり、気休めでも薬は飲んでおこうかと・・・・・・けほ」












東風谷早苗は、風邪だった。

疲労による免疫力低下。

そうだった。

情報ソースはしめ縄神様とカエル神様だった。

数日後、麗の巫女が風邪を引いた。

守屋の風祝が見舞いに行ったのは言うまでもない。
メモ帳で書く。コピペ貼り付け。微修正。大幅修正削除。
メモ帳で書く。コピペ貼り付け。大幅修正。元の形はいずこへ。


4作目です。シリアスいいよシリアス。もう少し霊夢の心情入れられればと後悔。そしてそのまま公開。
3作目で相当手を抜いた分、ちょっと力入れた感じですが果たして実っているのか。
霊夢の出演回数多いですが、東方キャラソートすると20位入るかどうかってところなんです・・・・・・弄りやすいんでしょうね、私的に。2位はチルノ、3位はアリス。
一位はって?

フルーツのお方ですが何か?


追記)
おいぃぃぃぃぃ!?
下の人も見舞いネタじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!?
誤字修正、誤字修正。
水崎
コメント



1.GUNモドキ削除
ううん・・・何というか、シリア・・・ス?
もしかしたら、私の知らぬ間にシリアスって言葉はギャグの亜種になったんでしょうか?
というかもし早苗さんをそのまま逝かせるつもりだったら私はあなたを許(離)さな(re
2.名前が無い程度の能力削除
境内のはわき掃除…?はわき??
3.名前が無い程度の能力削除
うん…
ちょっと頭冷やそうか…二柱ともww

それは置いといて良いレイサナでしたな
4.名前が無い程度の能力削除
タグに釣られて騙された。だが後悔はしていない。
うま。

>麗の神社を飛び出すきっかけとなった単語が頭をよぎる。
「麗」じゃなくて「麓(ふもと)」
5.NEOVARS削除
>来ないというよりは道中妖怪に襲われる率95%なので、誰も来れない。
確か、妖怪の山に住まう妖怪は、人を襲わないのでは?
風神録のエンディングに、そんなこと書いてあった気がしますが。
人間に排他的な神様はいるらしいですけどね。
6.名前が無い程度の能力削除
タグの使い方を再認識(ry
7.名前が無い程度の能力削除
このタグは読む人を激減させていると断言できるな