『頑張れ小さな女の子』シリーズの続きとなっております。
「う……んぁ?」
目を覚ました霊夢は、右手に違和感を感じた。
「んー?」
右手がしっかりとルーミアに握られていた。両手で包み込むようにして。
首だけを右に動かすと、息がかかる距離にルーミアがいた。
穏やかな表情で眠っているルーミアを見ていると、霊夢自身も頬が緩くなる。
「でも朝ご飯作らなきゃならないし……ゴメンね」
そっと、右手を包んでいるルーミアの両手を離す。
そして霊夢は、起き上がろうとするが、
「やぅ~」
「え、ちょ!?」
温かさを失った為か、ルーミアが新しい温もりを求めて霊夢の右腕にしがみついてきた。
霊夢は再び仰向けに戻されてしまう。
右腕には、がっちりと全身を使いしがみつくルーミア。
片腕の自由を失った霊夢は、もはやこの状況を抜け出すことは出来なくなった。
「ルーミア~ご飯抜きになるわよ?」
やはりルーミアは熟睡していて反応が無い。
霊夢は溜め息を吐く。
「仕方無い、二度寝するか」
とりあえず二度寝という選択肢を選ぶ。
ルーミアはまだ幸せそうな笑みを浮かべていた。
◇◇◇
再び霊夢が目を覚ましたとき、ルーミアは居なかった。
一体何処へ行ったのかと、寝ぼけながら辺りを見渡す。が、やはりルーミアの姿は無い。
しばらくすると、足音が近付いてくるのが分かった。
「あ、霊夢おはよ!」
「んーおはよう。何してたのルーミア?」
「これ~!」
霊夢の目の前にルーミアがおにぎりを差し出した。
霊夢には突然のことで、何が何だか分からない。
「え、と」
「朝ご飯作ったんだよ! 霊夢みたいに料理は出来ないけど、おにぎりくらいなら作れるから」
「あ、ありがとうルーミア」
ルーミアから差し出されたおにぎりを手に取る。おにぎりがまだ熱いことから、今握ってきたばかりということが分かる。
食べるよう急かすルーミアに従い、霊夢は一口食べてみた。
「んぐっ!?」
その瞬間、口の中に何とも言えない刺激が走る。霊夢は思わず吐き出しそうになったが、
「どうかな?」
ルーミアの不安そうな眼を見て、吐き出すに吐き出せなかった。
死ぬわけではない、と言い聞かせてなんとか飲み込む。
「お、美味しかったわ」
「ホント!? よかったぁ、隠し味に蛇とヤモリの尻尾を具に入れたのが正解だったかしら」
「死ぬわっ!」
ルーミアの頭部を思い切り叩く霊夢。
「あうっ! 美味しくなかったの?」
「そんな物入れるな! 殺す気!?」
「あはは~」
久し振りに、このにへらとした表情を、霊夢は割と本気で泣き顔に変えてやろうかと思った。
「そういえばルーミア、足首は大丈夫なの?」
ふと、思い出して尋ねる。
ルーミアは足を見せて言う。
「ほら、もう大丈夫だよ」
確かに赤い腫れは、いつの間にか治っていた。こういう異常な回復力は、流石妖怪といったところだろう。
「そう、よかったわね。ルーミア」
「うん!」
◇◇◇
「今日の仕事を言い渡ーす!」
「おおー!」
わざとふざけた口調で言う二人。
正座をしているルーミアの前に、霊夢は腕を組み、足を肩幅くらいまで開いて立っている。
はたから見たら、実に滑稽だろう。
「今日の仕事は宴会にアリスを出席させること!」
「おおー!」
「別に強制では無いんだけど、アリス最近は研究研究で来ようとしないから。少しは息抜きさせないと、ね」
「おおー!」
「アリスは魔理沙と同じ森に住んでるわ」
「おおー!」
しばし、沈黙する。
「ルーミア、一人で行ける?」
「おおー!」
「私の名前は?」
「おおー!」
ルーミアの頭部を思い切り叩く霊夢。本日二度目だ。
「痛い!」
「はぁ、話聞いてんの?」
「聞いてるよ!」
「じゃあ私は何て言ってたかしら?」
「おにぎりをもう一回食べたいって」
「言ってない! 誰が食うか!」
ルーミアの額に八連デコピンをする霊夢。
「はぅあぃあっ!?」
意外に痛かったらしく、目を見開き驚く。
そんなルーミアを見て、霊夢は笑う。
「ほら、本当はちゃんと聞いてたんでしょ。行ってきて」
「みゅ~霊夢、分かってたのにデコピンするなんて、意地悪よ」
「あんたのおふざけに付き合ってあげたのよ」
ルーミアは、頬を膨らませながらも、ちゃんと出かける準備をしている。とは言っても、麦藁帽子を被るだけなのだが。
「えへ~」
麦藁帽子を被る度にルーミアは頬を緩める。さっきまで膨らませて頬が、今じゃ緩んでにへらとした笑顔になっていた。
「何笑ってんのよ」
「ううん、何でもないよ」
「そ、行ってらっしゃいルーミア」
「行って来ます!」
ルーミアは境内を飛び出した。
◇◇◇
森の中は、晴れている筈なのに境内に居た時よりも多少薄暗く、じめりとしている。
森独特の匂い、落ちている小枝を踏む度に鳴る板チョコを割ったような音、虫の鳴き声など、ルーミアはその一つ一つを楽しんでいた。
しばらくすると、洋風の一軒家が視界に入る。その家の周りだけは、木々なども無く、少し寂しい広場に見えた。
「ここかな?」
扉の前まで来て、二回ノックをする。
室内にノックの音が飛び込んだのは、ルーミアにも分かった。
「どなた?」
扉越しに声が聞こえた。
淡々とした声だ。
「ルーミアだよ!」
「……誰? 用件は何かしら?」
「霊夢からの伝言」
扉が開く。
金髪に大きな瞳、他人を射ぬくような視線、霊夢とは違い和で無く洋といった感じが当て嵌まる人物、アリス・マーガトロイド。
「で、何の話かしら? 私は忙しいの」
「今日宴会あるから来るようにってさ」
「話を聞いていたかしら? 私は忙しいの。大体あんた誰よ?」
「ルーミアだよ」
アリスは己の額に手をやり、溜め息を吐く。
「まぁいいわ。とりあえず帰ってくれない?」
「宴会は?」
「出ないわよ」
「じゃあ帰らない。霊夢がアリスのこと心配してたよ? 研究研究で息抜きが出来て無いって」
「好きでやってるのよ。帰りなさい」
「帰らないわよ」
しつこいルーミアに、アリスは苛立ちを覚える。
「ならずっとそうしてるといいわ」
扉を閉める。
ルーミアは何も言わなかった。
どれくらい経っただろうか。
アリスは研究室に籠り、集中していた。そこでふと、ルーミアを思い出す。流石に帰ってくれただろうと、扉を開けると、
「あ、行く気になった?」
「な!?」
ルーミアはまだ居た。
しかも笑顔で尋ねてくる。
アリスには理解出来なかった。
「入りなさい」
「え?」
「入りなさいって言ってるのよ。ほら」
「わわっ!?」
ルーミアの手を引いて部屋に入れる。
ルーミアの手は冷えていて、それはアリスの手のひらに伝わった。
「あなた馬鹿? 帰ればいいのに」
「あはは~」
ルーミアは笑う。
そんなルーミアの笑顔を見ると、何だか先程の苛立ちが嘘のように消え去った。
「不思議な子ね」
「何が?」
「何でもないわ」
霊夢がルーミアをわざわざアリスの元へ仕向けたのは、これが狙いだったのではないかと、アリスは思った。
負の感情も、ルーミアの笑顔を見ていると、消え去る。
出会って間もないのに、アリスはルーミアに興味を持った。
アリス自身と正反対のルーミアに、憧れに似た感情を持ったのだ。
「で、宴会来てくれるの?」
「そうねぇ……」
「霊夢心配してたよ」
「それはさっき聞いたわよ」
「じゃあ来てよ~」
少し困った表情のルーミアを見ていると、微妙な罪悪感が沸く。
訴えるような視線に、アリスは根負けした。
「はぁ、分かったわ。行けばいいんでしょ」
「やったー! じゃあ早速行こう!」
「え、ちょ、まだ早すぎでしょ!?」
引っ張るルーミアは、意外に力強く、アリスは仕方無く上海蓬莱だけを手早く連れて、博麗神社へ向かって行った。
◇◇◇
「宴会に出るようにとは言ったけど、こんなに早く来ても何も無いわよ」
「私だってこんなに早く来る気無かったわよ!」
空はまだ青い。
ルーミアは、約束通り連れて来たと得意気な表情だ。
そのルーミアを手招きする霊夢。
霊夢に近寄るルーミア。
八連デコピンをかます霊夢。
「へぁふぁいぁ!?」
「まぁアリスを説得したことは褒めてあげる」
「ならデコピンしないでよ! 地味に痛いんだから!」
ルーミアと霊夢のやりとりを見て、アリスは小さく笑う。
「あ、何笑ってんのよアリス。アリスもデコピンくらいたい?」
「いや、私は……」
「アリスもやられてみなよ。痛いから」
「え、ちょ!?」
ルーミアがアリスを捕まえ、霊夢が妖しい笑みを浮かべながら近寄る。
「れ、霊夢!? 私は何もしてないじゃない!?」
「いいえ、したわよ」
「何を!?」
じわりじわりと迫る霊夢。慌てるアリス。笑うルーミア。
「心配させた罰、よ」
霊夢はそう言って、優しくアリスの額を弾く。
「ふぇ……?」
予想と違った優しい衝撃に、アリスは思わず間抜けな声を上げた。
「あー! 霊夢酷い! 私には全力だったのに!」
「よし、じゃあルーミアにも優しくデコピンしてあげる」
「本当に? やったー!」
「いくわよ、そりゃあ!」
再びルーミアに八連デコピンをくらわす。割と本気で。
「ほにゃふぁやぁ!?」
そんなルーミアと霊夢のやりとりを、アリスはほうけながら見ている。
「えと、霊夢?」
「アリス、研究もいいけどたまには顔見せないとダメよ? みんな心配してたんだからね」
そう言われてアリスは、
「ごめんなさい……ありがとう」
とだけ言った。
その言葉だけで、霊夢には全てが伝わった。
「よし、それじゃあ宴会まで時間はあるし、三人でおやつの時間にしましょう」
「やったー!」
「あ、準備手伝うわ」
霊夢とルーミアとアリスは、縁側でお茶と羊羹を食べていた。
軽い雑談を交えながら。
霊夢がルーミアをからかい、ルーミアもたまに霊夢をからかう。が、その後は大体ルーミアが霊夢に叩かれたりする。
そんな二人の滑稽なやりとりを見て、アリスは笑っていた。
そしてアリスの楽しそうな笑顔を見て、ルーミアと霊夢も柔らかい笑みを浮かべている。
縁側は冷たい風が吹いてはいたが、それ以上に、今だけは温かかった。
ルーミアが良い影響を及ぼしているw
今回もほのぼの、ぬくぬくしましたw
今回の成果として一番大きかったのは、ルーミアが自分で食事を作ろうとしたことでしょうか。自分で食事を作るということは、自立できるということ、そして、人間を食べないということです。だんだんとルーミアが成長していきますね。次回も楽しみにしております。
でもこれだけ仲良いと、たまには二人の修羅場も見てみたいという歪んだ心を持ってるのはきっと僕だけでしょう。
あと残り3話も頑張って下さい!
無理だよあんなルナティックラヴラヴムード。
厳しい様で実は甘々な長女霊夢
マイペースに生き過ぎるせいで周囲(主に魔理沙さん)を心配させる次女アリス
天真爛漫お茶目120%なのに憎めないキュートな三女ルーミア
(己の節穴に勝るとも劣らぬ目を通した結果)このような姉妹像ががが。
そして近所のお姉さん的蓬莱人が二人ですかね。
あとはフラ様を四女に迎えられればアリスさんとフラ様の『ツッコミシスターズ』が結成出来る……!(っと設定引き継いでおられないんだったっけいやぁ失念失念)
るみゃの前に立った者は素直にならざるを得ないのですねぇ…
るみゃの純粋な心が輝き叫んでるぜ!
闇の妖怪だけど
こうして幻想郷中にるみゃの優しい闇が広がっていくのですね
みんながほんわかぬくぬくな幻想郷目指して、頑張れ小さな女の子!
『輪』のようにだんだん広がってますw
ほんわかぬくぬくして下さってなによりです。
>>無在様
ルーミアの成長、霊夢の微妙な変化、ルーミアに関わった人たちの小さな変化を上手く書いていきたいです。
>>3様
修羅場を書いたとしても、結果ハッピーエンドを私は書いてしまうと思います。
>>謳魚様
布団のやりとりは甘かったですかねw
最近甘いの書いてない反動かもしれませんw
>>5様
闇の妖怪だからこそ、みんなの小さな心の闇さえ操れるのかもしれません。
その応援でルーミアは次回も頑張れます!
ルーミアもそうだけど、霊夢も頑張れ色々と。君も小さな女の子だ。
それを一見ドライなようでその実優しく見守る霊夢の関係がなんとも言えません。もちろん良い意味で。
あとルーミアに無理やり引っ張られてきたものの満更でもない様子のアリス可愛いよアリス。
しかし八連デコピンのたびに笑ったのは言うまでも無くw
確かに霊夢もまだ小さな女の子ですよね。
ルーミアも霊夢もまだまだ成長途中ですね。
>>名前を表示しない程度の能力様
楽しんで下さったようで幸いです!
このほんわか空気を最後まで貫きたいと思います!
終わることは残念ですが、続きに期待しておりますね。
頑張ってください。
ありがとうございます。
そのお言葉で喉飴は次回も頑張ることが出来ます。
恐ろしすぎるというかそれを実行してしまう霊夢に驚きを隠せないぜ!
もはやいわゆる必殺技並に使いまくりの霊夢には笑ったです。
アリスが可愛いぜ・・。
後半にいくにつれて、心が解れて行く様が見えてにやけてしまいました。
さあ、のどさんはやくパチェを出すんだ(パチェ好き発症
あ、でも紅魔館行く前にルーミアがやられてしまうっ・・!(葛藤
ギャグ部分はそこしかなかったため、そう言って下さると嬉しいです。
あと3話の構成上、紅魔館組が出る予定はありませんw