博麗神社の縁側は買いもの帰りによるのがちょうど良い。
「だからってあんたまで寄ることないでしょうに」
「あはは、すいません」
全くしょうがないものだ。あの人形遣いやら、瀟洒なメイドやら、もしくは月の兎など。
そういった輩が人里から帰るたびにここに寄るせいでついには人里帰りの常識になってしまった。そしてまた一人。
「しかし知りませんでしたよ、買い物帰りは博麗神社に寄るのが礼儀なんて」
いやそれ違うから。
どうもこの風祝は幻想郷の常識を色々と、間違った物も含め、覚えてしまっている。
常識に囚われないとか言ってたけど常識に囚われないっての自体、幻想郷の常識なんじゃないかって何を考えているのだろう私は。
「はい、お茶」
「あ、ありがとうございます」
差し出したお茶を素直に受け取る早苗。
誰かくるたびにお茶を出している私は相当律儀なのではないだろうか。
さりげなく香霖堂のツケを記憶から消去した。
これで貸し借りも消えたはずだ。律儀っぷりもうなぎのぼりね、これで。
あ、夜雀の屋台にもあったような。ついでに抹消した、脳内で。
しかし出したお茶では飽き足らず、饅頭を所望する奴らはどういう了見をしているのだろう。
この私を見習うべきではないのだろうか。
お茶を出すのだからお茶請けは相手が持ってくる、そのくらいの律儀さを持つべきだ。
この理論で行くと咲夜は無罪か、このまえもらった餡子パイの美味しさは危なかった。
安物の餡子が食べれなくなるかと思った。
「ふぅ、やっぱり霊夢さんの入れるお茶は美味しいですね」
「安物の茶葉で入れたの、変わんないわよ」
「いえ、霊夢さんが入れたのは美味しいです。縁側パワーと霊夢さんの愛がこもってます」
なんだ縁側パワーって。
萃香がそこで寝転がると二倍萌えるのか、おい。
「なら愛をこめるのをやめようかしら。お茶がまずくなれば人が減るかも」
「それでも来ますよ。霊夢さんがいますもん。みんな霊夢さんの雰囲気が好きなんですよ」
恥ずかしいことをさらっと言いやがって、そしてこっちを覗いてくるな、自覚なしかこいつは、恐ろしい。
返事をせずに茶を飲み込む。
熱さが心地よかった。
「そういえばお賽銭の方はどうですか?」
時が止まったような気がした。
あら、私、いつのまに時を操る程度の能力をって違う。
これは圧力、無言のプレッシャー、私から放たれ早苗のもとへと。
証拠に早苗の額に弾のような汗がルナティックばりに展開されている。
「やっぱり聞いちゃいけませんでした?」
そう言った早苗の顔は既に青く、発した言葉も震えている。
やっぱりって何なんだ自覚があって聞いたのか、そうかそうかそうなのか。
思わず顔がひきつる。
結論:自覚して賽銭の事を尋ねるとは恐ろしい。始末すべき。
「魔理沙さんが最近お賽銭増えたから話題振ってやれって言ってましたすいません霊夢さんすいません」
ああ魔理沙か、今度お茶にスペルカードを仕込んでやろう。
しかしとっさに友達を売るとはなかなか幻想郷に馴染んできて、いや彼女の場合もとからできそうな‥‥‥。
発していた圧力を消すと、安堵の表情が戻るのが目に見えた。
せっかくだから答えておこう、怖がらせて帰すのも悪い。
「うーん、最近お賽銭どころか参拝客すらいないわ。ひどいわよね」
「ええっ!」
本気で驚かれた。クスリとか笑ってくれると思ったのに。
なまじ純粋な分たちが悪い、泣きそう私、泣こうかしら。
「あの、霊夢さん?」
「ぐすん」
「あ、えっと、あのですね、私の所もお賽銭ぜんぜん入らなくてですね‥‥‥」
「‥‥‥本当?」
「う」
目をそらしやがった。
「ああ、あの霊夢さん、冗談ですよね?」
それは追い討ちなのだろうか。
確かに冗談として言って早苗に笑ってほしかったけどそれは紛れもない事実であり、このタイミングでそのセリフを言われると逆にその事実が私の心を際限なく攻め立てる。
だが、ここで屈してしまったら博麗の巫女としての誇りが廃る。
お賽銭が入らない時点でどうなのとか言わないで、泣くから。
「ええ、冗談よ。参拝客がいないのは昔からだから」
「どうしたの、早苗」
「こ、今度、今度食べ物たくさんもってきます!!」
「食料には困ってないわよ」
「え!?」
「はあ、どうしてみんなお賽銭が入らないっていうと、食料持って来ようとするのかしら」
ため息をついて言う。
「だってお賽銭が生活費なんじゃ?」
「それは驕りよ!!お賽銭が入るというのは当たり前なことじゃないの!!!」
「す、すみません」
「こっちじゃ巫女といったら妖怪退治の第一人者よ。お賽銭でなくそっちで生活しているって気づきなさい!」
「は、はいっ!」
うん、なかなか決まっていたわ。
なぜか理解されないのよね、妖怪退治で謝礼はたっぷりもらってるからお賽銭はなくても大丈夫なのに、うん、本当だから、お賽銭なくても大丈夫、毎日賽銭箱を覗くたびにがっかりなんてことないから、ね。
「本当にちゃんと三食たべてますよね?」
「しつこいわね」
「すすす、すみません。霊夢さんが心配で」
ふむ、そう言われると悪い気はしない。
「心配しなくてもいいわよ。だって謝礼のほとんどが食料だもの。米やら、魚、卵、野菜、芋、みんな食料をもってくるの。そうみんな食料を、食料を、食料‥‥‥」
あれ、しゃべっているうちになんだか怒りが。
「そうよ、誰も彼もそれもこれもあれもみんな、みんな食料を持ってくる!なに、私がそんなに飢えていると思っているの!食べるものがお茶のみだとでも思っているの!違う、違うのよ!もう食料の謝礼は十分なの、みんな持ってきてくれるから!だいいち食料なんて川で魚釣って山で山菜とれば食っていけるのよ!それをお米が豊作でしたので謝礼にと、魚が釣れたので謝礼にと、芋が美味しいから謝礼にと、芋が美味しいから謝礼にと、芋が美味しいから謝礼にと、芋が美味しいから謝礼にと、芋が美味しいから謝礼にと、芋が美味しいから謝礼にと、芋が美味しいから謝礼にと、芋が美味しいから謝礼にと、芋が美味しいから謝礼にと、芋が美味しいから謝礼にと、芋が美味しいから謝礼にと、芋が美味しいから謝礼にと、芋が美味しいから謝礼にと、芋が美味しいから謝礼にと、芋が美味しいから謝礼にと、芋が美味しいから謝礼にと、芋が美味しいから謝礼にと、芋が美味しいから謝礼にと、芋が美味しいから謝礼にと、なんで芋ばかり持ってくるの!!!!!!ええ、美味しいわよ、芋!貴重な炭水化物よ、芋!でもこう芋じゃ飽きるのよ!三食ごはんと思いきや芋なのよ!里の人の九割が謝礼に芋なのよ!はっ、もしや阿求の陰謀かっ!「あの霊夢さ」それを百歩譲るとしようじゃない。でもね、誰一人としてお金を持ってこないの。誰もお金を持ってこないとどうなるかわかるかしら?「えーとで」そう、買い物ができないの。わかるかしらこの苦しみ!わからないわよね!貨幣制度がなりたつこの社会でお金を持たないこの苦しみ!つらい、つらいのよ!食料以外にだって生活に必要なものはいっぱいある!でもそれを買うお金がないの!日用品なら香霖堂でそろえればいいわ!だけど私も女の子なのよ!お洒落だってしたいじゃない!でも香霖堂にはない!好きで毎日毎日巫女服なわけじゃないの!物々交換、確かにそれも考えたわ!けれど考えて、生臭い魚を持って洒落た店に入るのを、芋い芋を持ってファンシーな店に入るのを!そうしたらどうなるかしら?里中から私はこう呼ばれてしまうわ、芋巫女と!芋霊夢と!!そうなったらおしまいよ、人気があの秋穣子なみになってしまうわ!「人里では人気ですよ」まさか阿求めこれが目的かっ!幻想郷縁起に芋以外のものを与えると日ごろの鬱憤がはらせると書くつもりね!そんなに甘くはないのよこの博麗の巫女は!でも本当に食料しかくれないの!レミリアは咲夜の作った泣くほど美味しい抹茶のミルフィーユをくれたし、紫は外の世界から昇天しかけるほど旨い大トロをくれたし、天子はみずみずしい、じゃなくて水っぽい桃をくれたわ。だけどっ、だけど私が欲しいのは食料じゃなくてっ」
私は何を口走っていたのだろうか。
思わず感極まって暴走してしまった。
その感情の流れは私の口から濁流のように溢れ出てしまった。
きっと早苗にも引かれたんだろう、そう思う私はみょんに冷静だった。
「霊夢さんっ!」
何だろう、早苗が叫んでいる。
「わ、私っ、今日のお夕飯、肉じゃがとポテトサラダとスイートポテトにしようと思うんです!」
夕飯の自慢だろうか、私も夕飯は肉じゃがにしようと思っていたが肉がない。
謝礼がけちられていることに気づいた。
「それで霊夢さんからお芋を買います!」
早苗は買い物帰りにここに立ち寄ったのではなかったのだろうか。
ソバとラーメンが早苗の手提げ袋から見える。
何を作るのだろうか、わからない。
「だからっ、だから、そのお金で一緒に買い物にいきましょうっ!」
「ほえっ?」
早苗が何を言っているのか理解できなかった。
頭がうまく働いていない、酸欠かしら。
「も、もう一回言ってくれる?」
「私が芋を買えば霊夢さんにお金が入ります。そうすれば一緒に買い物できますっ!」
「つまり、私を買い物に行かせてくれるってこと?」
「それをしたいというか、そうなりますっ!」
「いいの?」
「もちろんですっ!」
「芋、こんにゃく芋だよ」
「うっ、だいじょうぶです」
ああ、なんていい子なんだろう、私の夢をかなえてくれた。
というか、私の夢安い。
さりげなく芋を買うという大義名分を作ることにより私の誇りにも傷がつかない、こんな気が利くだなんて‥‥‥。
今度からお茶に大福つけてあげるね。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「はいっ!」
そう返事した声はとても明るくて、その顔はほんの少し赤みを帯び、そしてとてもうれしそうに笑っていた。
思わず笑い返し、買い物のことを考える。
いっそのこと腋が隠れる服もいいかもしれない。
思い切ってへそを出してみようか。
なら早苗とペアルックで臍巫女をしよう、そう思いつつ里へ、早苗と飛んでいった。
とてもゆっくりと。
鎖骨巫女になりました。
あと、鎖骨巫女って何?いや、言いたいことは分かるんだが、でもやっぱり鎖骨巫女って何?ww
あと霊夢のお賽銭云々のところも凄く納得しました
妖怪退治とかしてれば、確かに食料には困らないはずw
芋だったけどww
>サナレイになってどうしよう
問題無いです。私もレイマリから気づけばサナレイだったんだ
ところで鎖骨巫女に関してもう少しくわs(ry
それは飲みたい…
個人的には縁側パワーに萃香さんを追加すると二倍どころか何十倍も何百倍も萌えられますヨwww
目が痛かったですが、面白かったです。
胸で支えるタイプのああいった服ですね!?そうなんですね!?
霊夢の胸じゃずり落ちるわけですね!
作者はなんという策士!さり気なく霊夢を裸にするとは!
俺もう自分が何を言っているのか理解できない!
あととても面白かったです。
次も期待してます。
精進していきたいです。
「芋が美味しいから謝礼にと」が実はもっと多かったり、芋に似た漢字が思いつかなかった所に謝ります。
鎖骨巫女とは、そう、鎖骨が露出しているのです。鎖骨自体セクシーなのに加え、胸元を大きく開けることによってチラリズムが追加されるのです。昔の人はおっしゃいました。想像上の月は本物の月の何倍も美しいと(儚月抄より)。ぎりぎり見えないラインをとおることにより想像(妄想?)がかきたてられすばらしいものを創造できるでしょう、脳内で。なお腋巫女からも同等のことが可能。
霊夢さんと早苗さんにお詫びを