私は是から、初体験をします。
何を考えていますか。厭らしい。
私は、野球の一塁手――ようはファーストをプレイするのですよ?
……わかっている、と。そう言う解釈をしたのは貴女ではないか、と。
ふぅ、やれやれ。夢見るアリスちゃんに教えて差し上げましょう。
私、古明地さとりにはエロスがあ
「さとりー、そろそろ始まるから戻ってきてー」
「あ、はいはい、今すぐ」
――と言う訳で。
私は今、地上の霧の湖と呼ばれる場所で行われる遊び、野球に参加しています。
此処に至る経緯は、話すと長くなるので『こいしの初体験』をお読みください。
まぁ、読んで頂いても書かれていませんが。あっはっは。
こほん。
こいしに誘われた……と言うのも大きな要因だが、私にはもう一つ、参加した理由がある。
可愛い妹に大変いらん事を吹きこんだ悪戯な子猫ちゃんを見つけ出す為だ。
見つけたらにゃんにゃん鳴かせて差し上げよう。
んぅ、こほん。
遊びの題目である野球のルールは余りよく知らなかったが、適当に参加者の心を覗けば容易に掴めた。
また、引っ込み思案な人見知り――要は引きこもりがちな私であったが、参加している者に数名知り合いがいるのも心強い。
先ほど私に声をかけてきた者、夜雀のミスティア・ローレライを筆頭に、此処には暇人が集っている。
そそくさとグラウンド――凍らせた湖――から自陣に戻り、視線を左右に動かす。
私の瞳に入り込んできた者達は――。
結界の大妖怪、八雲紫。
月の天才、八意永琳。
紅い悪魔、レミリア・スカーレット。
地獄の王、四季映姫・ヤマザナドゥ。
山の神、八坂神奈子。
博麗の悪霊、魅魔。
四季のフラワーマスター、風見幽香。
そして、キャプテンの夜雀、ミスティア・ローレライ。
…………。
「メジャーリーガーの中に一人、リトルリーグの少年が混じったような違和感が……」
「喧しい! 私もそう思うけど!」
「と言うか、何ですかこの『僕が考えた幻想郷近辺最強チーム』。
貴女、好きなチームを勝たせる為に所属する選手を片っ端から切っていて、他チームから強い選手を引っ張りこんでくるタイプ
ではないですか?」
「いやいや。燻し銀ばっかり集めてきてマゾいプレイをするタイプです。パワーBぎりとかスタミナCとかばっか。
……屋台で声掛けたら、わらわら集まってきたの。レミリアと映姫は『集会』の時だけど」
控えには亡霊嬢の西行寺幽々子、土着神の洩矢諏訪子。
スコアラーに天狗の頭領、天魔。チアには魔界神の神綺が配置されていた。
……必要なのか、スコアラー。遊びなのに。
「フレ、フレ、みーんな、フレ、フレ、みーんな、おー!」
チアは必要だが。
両手にボンボンを持ちミニスカートを穿く神綺さんには、そう思わせるだけの破壊力があった。
足をあげて跳ねる度、左側に結えられた髪が、スカートが、そして、胸が揺れる。
普段の服装では解らなかったが、着やせするタイプだったか。おのれ、口惜しや。
「――んぅ。その割には、リグルさんが此方にいないんですね」
指摘すると、顎に手をあて、ぎらりとした眼で返してきた。
「リグル、まだ暖かくなってないから、動きが鈍いしね。戦力にならない」
「としても、神綺さんと同じく、チアをやってもらえば宜しいのでは?」
「……チルノに取られた―!」
初めからそう言えばいいのに。
よほど悔しかったのだろう、ミスティアさんは私の肩をぽかぽか叩きマジ鳴きしている。
マジ鳴きとは、つまりそう言う事であり、幾人かが目を背けていた。
具体的に言うと、紫さん、映姫さん、幽香さん。むっつりさんめ。
レミリアさんは「鳴くな、ミスティア」と同じく男泣きしている。
「ちん……だってぇ、リグルが、リグルがぁ」
「えぇい、何時までも女々しい! わ、私だって、私だって、泣き、ぐす、フラーン」
因みに、悪魔の妹はあちら側のベンチで周りの者と談笑していた。
「……って言うか、なんで出しているんですか! 館でお留守番させときましょうよ!?」
「え、だって、フランが友達に誘われたって……それに、コメディだしいっかなぁってはがぁ!?」
「そーゆー事は言わない! 色々あるじゃないですか! 天気が曇りだとか、保護者が一緒だからとか!」
いらん事を云う保護者をフォーオブアカインドで沈めた私も、彼女と同じく涙目だった。
「聞かなきゃいいのに。よっぽど、こいしがフランと仲良さ気に話してるのが気にくわないんだねぇ……」
「いえ、悔しさ半分嬉しさ半分と言った心境ですよ、さとりさん」
「便利だね、その鏡……。――と、なんか呼ばれてるから行ってくるよ」
あちらの方から大きな声をかけられ、何時の間にか復活していたミスティアさんがぱたぱたと飛んでいく。
――一息ついた私は、その間に件の犯人探しを行う事にした。
ヒントは『緑の髪』。幸いな事に、此方のチームにもあちらにも、該当する者はちらほら見受けられる。
割り出す方法も既に考えていた。私は古明地さとり。怨霊も恐れ怯む少女。心を読む程度の妖怪。
可能性は低いか……そう思いつつ、飛んでいく夜雀を目で追っていた者に声をかけた。
「風見幽香さん」
「……古明地さとり? 何か?」
先程の鳴き声に目を背けていた彼女が、犯人である可能性は極めて低い。
だが、それでも私は尋ねる。何故か。
是がコメディだから。
「初体験」
犯人であれば。
犯人であれば、悪戯をしかけた私にこう囁かれては、一溜まりもない。
言葉を出さなくとも、思い出せばそれで終わりだ。私は古明地さとり。心の隙を穿つ妖怪。
「……ふむ。やはり、貴女ではないようですね。失礼しました。しかし、幽香さん。彼女の初体験を思うより、ま」
「――大体だけど。貴女の立ち位置が分かったわ。散りなさい、地霊殿の主」
「言葉を重ねるのは無礼なのでやめた方が」
「いきなりそんな単語呟いてくる貴女に言われたくないわよ! フラワー、スパァァァァクっっっ!」
「ですよぅぼぁー!?」
私も、彼女の立ち位置を把握した。突っ込み役、お疲れ様です。ぶすぶす。
凄まじい妖力の渦に飲み込まれ焦げる私を一瞥し、彼女はぷんすかしながら離れていく。
此方を見たのは、私の状態を確認する為だろう。
彼女は私と同じく、その力から怖れられている妖怪。
けれど、その心の内は、微笑みを浮かべてしまうほど、
「もう一発いっとく?」
「結構です」
なんでもないです。微笑める程度の余裕はあるが、痛い事は痛い。
気を取り直して、他の被疑者に近づく。
彼女は今、そう呼ばれるだけの行為をしていた。
「スカートの下はどうなってるのかねぇ」
「やん、魅魔ったら、覗かないで」
何やってんですか、魅魔さん。あと、神綺さんはそんな破廉恥な声を出さないでください。私も覗きたくなる。
てこてこと近づき、ちょいちょいと肩を叩く。
振り向いた彼女に、私はお辞儀をして、言った。
「こんにちは、魅魔さん。初体験」
「やぁ、前の宴会以来だねぇ。――初体験。いい響きだ」
目を細め、視線を彼方に送る魅魔さん。その心は――。
「……読めない!?」
「ふふ。妙な事を尋ねてくるからね。ちょいと心を閉ざさせてもらったよ」
「私の力を見抜き、一瞬で切り替えるとは……やりますね、博麗の悪霊」
ごくりと唾をのむ。にぃと笑う彼女は、続けて言ってきた。
「相手の力量を認めるのは、そうできる事じゃない。天晴なあんたに免じ、私の初体験を教えてやろう」
そんな事は聞いていません。
「アレは、そう、私が異界に乗り込んだ時。私とあいつは一目で恋におち、その場で……」
「展開早いですね。しかも、その場ですか。で、続きは? ささ、お早く」
「あいつは、その逞しいアレで私の……ぽ」
おぉぉぉぉ、此処じゃなんなので違う場所に行きましょうか!?
「やだ、魅魔。逞しいだなんて、そんな褒められると困っちゃうわ。えいっ」
毛かよ。神綺さんですかよ。
「その愛の結晶が、魔理沙とアリスなんぐぁぁぁぁ!?」
可愛い声と振り付きで、魔界神は白く輝く光弾を放ち、博麗の悪霊は吹っ飛んだ。
なんだこれ。どつき漫才か。仲いいですね、貴女達。
私は、ただ真相を掴めなかった事を悔やんだ。
お話は、何処まで信じていいのだろうか。
アリスさんと魔理沙さんは禁断の関係なのか。
そもそも、そういうプレイはありなのかどうか。
巻き添えを喰らい、同じく吹っ飛ぶ私は、ただその事だけが気がかりだった。
「……さっきから、何を騒いでいるんですか」
焦げる私に近づいてきたのは、此方チームで最後の容疑者――四季映姫・ヤマザナドゥ。
私の手を取り、立たせ、服についた埃を払う映姫さん。
呆れた声を出しつつ気遣ってくれる彼女に、件の発言はどうかと思ったが……。
私は彼女にも、非常に徹し、声を出した。何故なら、彼女はむっつりさんだったから。
「いえいえ、どうと言う事はなく。初体験」
「貴女はそう、少し慎みがなさすぎる! 審判――」
「おぉっと、スペルカードを使うと、今しがたの行為が無駄になりますよ!?」
卑怯な! とカードを散らし、映姫さん。
私は不敵に笑った。流石に実力者の弾幕を立て続けに浴びるのは、嫌だ。
――睨み合いが続く中、私の第三の目には、彼女の心の声が飛び込んでくる。
出てきた意外な――ある意味、妥当なのか――名前に、思わず呟く。
「……小町さん?」
「な!? ……そう、でしたね。貴女は心を読む。いいでしょう。ちょっと来なさい」
「え、いや、もう貴女は容疑者から外れたので、此方に用は、あの、何をそんな顔を赤くして」
問答無用で引きづられる。
(小町がいけないんです! 私が胸を押し当てても全然気付いてくれないし、それに――!)
私でも気付かないと思う。私でも気付かれないと思う。……くっ。
それからミスティアさんが戻ってくるまで、如何に映姫さんが頑張っているのかを読む羽目になった。苦労していたんですねぇ。
「小町さんが悪いんです」
「……いきなり何さ、さとり」
「いえいえ。えーっと、それで、どうしてお呼ばれされたんです?」
結構な時間、あちらで話をしていたミスティアさん。
その訳は……は? あの、えーと、マジ?
顔を背ける彼女に、私は目を丸くする。
彼女は、大きな声でチームメートを呼び出し、その原因を語った。
「――ねぇ、皆。皆は、誰もが一騎当千の兵、万夫不当の実力者。そうだよね。
獅子は兎を狩るのにも全力を尽くす……なんて言うけど、皆は獅子じゃない。相手も兎……だけじゃない。
それに、みんなは大人だと思う。冷静沈着、才色兼備な大人。そうだよね、レミリア? うん、いい返事だ。
ならば、諸君!
我々が彼女達に全力を出すのは大人か! 否!
我々は彼女達の全力を受け、それでも余裕を持って返す! それこそが大人! だよね、レミリア!?
つまり、諸君!」
「……で、どういう条件飲んだのよ、ミスティア」
「フラワースパークは止めて!
えとね、んとね。こんな感じ。
一つ。能力の使用不可。
一つ。1アウトでチェンジ。
一つ。1ストライクで1アウト。
一つ。デッドボールも1ストライク。
一つ。ボールは無限にOK。
一つ。相手は通常ルール。
……こんな処かな? えへ」
えへ、じゃねぇ。……失礼。思わず言葉が汚くなった。
頭を抱えてるのは私だけじゃない。
さしもの実力者たちと言えど、余りに余りな条件に、沈んでいた。
いや、そりゃ確かに身体能力だけでも結構な差はあると思うんだが。
っっっぱぁぁぁん、と凄まじい音が響く。
相手側のチームの投球練習だ。
ピッチャーは、悪魔の妹。
「いい調子。普通に投げられて、気持ちいいよ」
「ん、なんとか捕れるかな。もう少しなら、力、あげても大丈夫だよ」
受けるのは、晴れて正妻の座を獲得した、閉じた恋の瞳。
……と言うか、消去法でしょうけど。相手チームでフランさんの全力を捕れるのは、こいしのみだと思う。
続けざまに数回、音が響いた。
その度に、私達は額に手を当て首を振り、恨みがましい目で夜雀を見る。
通常のルールならともかく、与えられた条件で彼女達を打ち崩すのは難易度ルナティックだ。
私達でさえそうなのだから、当のキャプテンはまず打てないのではないか。
――だと言うのに、ミスティアさんの目は、死んでいなかった。
彼女は再び、声を張り上げる。……え? いいの? それいいの!?
「ふ……。皆の意志が少しだけ落ちるのも、尤もだと思う。
だけど、ね。私が、このミスティア・ローレライが、相手の条件だけを飲んだと思う?
目を見開いてあちらを見よ! 耳をかっぽじって私の声を聞け! よいか、諸君! 私が飲んだその訳は!
勝てば、各々一つずつ、あの子達に好きな事が出来るんだぁぁぁぁぁ!」
ギンッッッ――眼を開いて、私達はあちらのベンチから出てくる対戦相手に視線を送った。
氷の妖精が投手の座を追われむくれているのを、冬の妖怪が優しく嗜めている。
式を使い守備範囲を確認している妖猫が、白狼天狗に褒められている。
毒人形は能力の使用の是非を問い、厄神様と月兎に首を振られている。
蟲の王は未だ眠そうな目をこすり、宵闇の妖怪にもたれかかっていた。
そして、相変わらず、いい音を響かせる、悪魔の妹と閉じた恋の瞳。
「やぁぁぁぁぁはぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
私達の心がいま、何にも折られない結束力で、結ばれた――。
「……一緒くたにされるのは、物凄く心外だわ」
「同意します、幽香さん。と言うか、私達は何故参加してしまったんでしょうか」
「お互い、暇だからじゃない、映姫。あと、都合ね。コメディだし、深く考えても仕方ないわ」
あと、ブレーキ役ですかね。止まる気はしませんが。止めさせてなるものですか。こいしの初体験は私の……。
あ。犯人も探さないと。
TO BE CONTINUE…… ?
ただ神綺ママのチアで全部思考がぶっ飛んだんですけれど。
魅魔×神綺最高ー!
>デッドボールも1ストライク
>デッドボールも1ストライク
……もうダメだ。
むっつりさんが大好きです。が最近嘆きが少々くどくなってきたような?
いやまぁ面白いんですが。適当な事言うなって話でスイマセン。
妄想の中を突き進む彼女達は大好きです。
ひゃっほー!!!!!!