※二次設定てんこ盛りです。
ある日の永遠亭。
その一角に割り当てられた実験室で、永琳は薬の精製にいそしんでいた。
乳鉢で材料をすり潰し、さて最も神経を使う調合作業に取り組もうとしたところで、
廊下から聞こえてきた騒がしい足音に手を止め、形の良い眉をちょっとひそめた。
「師匠!できました!できました!」
乱暴に引き戸を開けて入ってきたのは、顔を上気させ、息を切らせた愛弟子だった。
普段大人しい彼女らしからぬ狼藉に注意の一つもしようとして――その手にある物をみて息を呑む。
「ウドンゲ、それは――」
「はいっ!見てください師匠!」
優曇華が指でつまみ持っていたそれは、一見なんの変哲もない釣鐘を引き伸ばしたような形の薬剤――座薬である。
だが、熟練した剣士が相手の構えで力量を推し量れるように、八意永琳はそれがどれほどの逸品であるか一目で見抜いた。
自分ですら好条件が揃わなければ出来るかどうか。色、形、手触り、どれを取っても完璧としか評しようがない。
「……よくやったわウドンゲ。貴女を『caved!!!!三段』と認めます」
弟子の成長に喜びと一抹の寂しさを感じながら、永琳はそう宣言した。
「ええっ!?いいんですか!?」
「それに伴い、師として一ヶ月の独立を命じる。この屋敷から外に出て、幻想郷じゅうにcaved!!!!の素晴らしさを広めてきなさい」
喜びに歓声を上げかけた優曇華は一瞬不安そうな表情を作ったが、
「わかりました!師匠の名に恥じない立派な掘り師になって戻ってきます!」
すぐにきりっとした表情で師に一礼し、慌しく実験室を後にした。
「立派になったわね、ウドンゲ」
月の頭脳の頬を伝った一筋の涙は、幸い誰にも見られることはなかった。
意気揚々と永遠亭を飛び出した優曇華は、とりあえず竹林の中に居を構えることにした。
といっても屋敷のそばではなく人里に近い端である。
一昼夜でそれなりの小屋を建て、内装を整え、
翌朝「八意流caved!!!!指南所」と書いた看板を外壁に取り付けて仕事を終えた彼女は、満足そうに新居を眺め回した。
「あとはお客さんを待つだけね。なんか千客万来のいい方法ないかなぁ」
販促について考えをめぐらせていると、頭上の竹の枝に鴉が一羽。
「カー、カー」
「……そうだ」
翌日、お尻を押さえてふらふら飛ぶ天狗の姿が幻想郷中で目撃された。
「おーい霊夢ー!」
「なによ、朝っぱらから」
場面変わって博麗神社。
黒白の普通な魔法使い、霧雨魔理沙が巫女のもとを訪れていた。
「見てみろよこれ。『竹林に掘り方指南所が開店』だってさ」
「天狗の号外ね、うちにも来たわ……一面にでかでかと載せるようなことかしらねぇ、これ」
「おおかたそういう趣味があるんだろうな。それよりどうだ、行って見ようぜ。楽しそうだ」
「相変わらず物好きね。そもそも教わるようなことじゃないんじゃない?あの半獣は勝手にやってるし、独学で」
「そこを教えるってのが特別なんだろ。魔女の血がうずくぜ」
「わたしは巫女よ」
優れた宣伝網を利用したことにより、優曇華の店の知名度は急激に上がり、多くの人妖がcaved!!!!を覚えて帰っていった。
わざわざ遠方からやってくる者もいるくらいだから、もっと近場に住んでいる者の耳にはたいてい伝わっていた。
「ねー慧音、『掘り方指南』だってさ。行ってみないの?」
「ば、馬鹿な!そんな卑猥なものに興味があるわけないだろう!まったく永遠亭の奴らときたら……」
「でも輝夜は絡んでないっぽいし。私も見てこよっかなぁ」
「駄目だ駄目だ!とにかく駄目だ!」
「むー」
ともかく、優曇華は日夜掘り方の研究と指南に励み、順調にcaved!!!!文化を幻想郷に植えつけつつあった。
そんなある日、日も落ち、薄暗くなった宵の口に、ひとりの氷精が竹林の小屋を訪れた。
「次の方どうぞー、ってあれ、いつぞやの」
「ここでcaved!!!!とかいう技を教えてくれるんでしょ?もともとあたいは最強だけど、さらなる高いところに上りたくなったの」
「たしかに何とかと煙は高いところが好きって言うもんねぇ」
「でしょ!この通りお代も持ってきたから、教えてよ」
チルノは優曇華の座っている文机に凍ったままの小魚を三匹置いた。
「……まあ普及が目的だからお代はいいんだけど。とりあえず座布団に座って」
優曇華は魚をどかしてチルノを机を挟んで向かい側に座らせると、
今まで何百回と繰り返した講義を氷精的難易度に頭の中で噛み砕いてから話し始めた。
「いい?まずcaved!!!!とは何かなんだけど、普通言われてるみたいに、ただ××に何かつっこめばそれでいい、って訳じゃないの。
森羅万象と自らの波長を合わせ、渦巻く宇宙の力と一体になって始めて、caved!!!!は神業の域にまで昇華されるの。
八意流では大きく分けて八つ『七色のcaved!!!!』、『八卦のcaved!!!!』『四界のcaved!!!!』とか、まあいろいろあるんだけど、
第一回の今日は一番簡単な『四季のcaved!!!!』のなかから、『冬のcaved!!!!』をやってみるわ」
「うーん、よくわかんないけど、なんかすごそう!」
「まず目を閉じて、誰か一番親しい人を想像して。
あなたは今その人とコタツで鍋……じゃなくて氷のテーブルでジャンボアイスをつついています。外は吹雪がゴーゴー鳴っています」
「んー、レティと、氷のテーブルで、ジャンボアイスで、外は吹雪……」
「幸せいっぱいのあなたはしばらくテーブルでごろごろしてましたが、しばらくすると相手はお皿を片付けようと立ち上がりました」
「待ってよー、まだ底のほうにちょっと残ってるのにー」
「……違うわよ。その人の後姿を見てるうちに、いろいろ満たされたあなたはその人に対する愛情がむくむくと湧き上がってきました」
「うー、レティー、ぽよんぽよん……」
「そしてその情動がレベルマックスになったとき、おもむろに立ちあがって後ろからcaved!!!!します。
この時の道具はロングホーンでも座薬でもOK」
「ちょ、レティ、重っ、ちょまっ、つぶれ、ぐぎゅ」
「……あれ、おかしいなぁ。途中までうまく行ってたのに……
まあいいわ、今度はこのてるよ人形を使って、実際に座薬でやってみましょう」
人気の指南所とはいえ、満月の日、逢魔が時の竹林に近寄るものは少ない。
待合室には二つの人影しかなかった。
「はっはっは!こんなご大層な指南所を建てるからさぞかしの手練だろうと来てみれば、まったく恐るるに足らん!なあ妹紅よ!」
「デパガメかっこわるいよ慧音」
指南所備え付けの急須と茶葉で茶を淹れながら、不死人は襖の隙間から離れないハクタクをやんわりとたしなめた。
頭に二文字ついてればこんなことしないのになぁ、とため息をついたが、あいにく今日は十五夜である。
「あの薬師の弟子だというから警戒したが、なに、まだまだ尻が青い」
「あーはいはい。とりあえずコタツ入んなよ。寒いでしょ?」
二つの湯のみに八分ほど茶を注ぐと、片方を向かいの空席に押しやる。
さすがの掘り魔も妹紅の好意を無にするのは忍びなかったらしく、もぞもぞとコタツにもぐりこみ、それを手に取った。
「うわ、寒い寒い言ってたら雪降ってきた」
窓の外を見やると、薄明るい宵闇の中をはらり、はらりと羽毛のような牡丹雪が舞っていた。
くわばらくわばら、と妹紅は首まで布団にうずめた。いくら死ななくたって寒いものは寒い。
「……から、……を……メージして……てば」
「うーん……ティ……るしい」
隣の部屋から聞こえてくる限り、順番までまだだいぶ間があるようだ。
だが退屈もこんなのなら悪くないな、と妹紅は思っていた。
コタツはあるし、暖かいお茶もある、それに向かい側には気の置けない友人がいる。
満ち足りた気持ちで湯のみから一口すすると、畳にうつぶせになって寝転び、しばらくの間静寂に身を浸していた。
だが、もうひとりの方の沈黙はいささか彼女のものとは意味が違い、ぼーっとしているふりをして、
視線は妹紅の上を舐めるように移動していた。
流れるような銀髪、華奢な肩、そして布団に隠れた小ぶりな形の良い尻。
(ハアハア妹紅可愛いよ可愛いよ妹紅)
夜が更けて満月の影響を濃く受け始めたのか、獣性がさっきまでのプラトニックな雰囲気をつき抜けて増大し、
心拍数が加速度的に上昇していく。息が熱く、呼吸が荒くなる。
からん、と帽子が畳に落ちた。
「ん?慧音、どうし―――」
「ちょっとレティ、重いってば、まったまった、ギブむぎゅ」
「ああ、また駄目か。さっきから何回も説明してるのになぁ」
『わー!ちょっと慧音タンマ落ち着いて!話せばわかるって、話せ――』
『caved!!!!』
『ヒギィ』
「ほら見なさい。待合室の二人なんか、聞いてただけで出来てるじゃない」