「なぁ霊夢、最近皆おかしくないか?」
それはいつもと変わらぬ空の下。
魔理沙の何気ない一言で幕は開けたのであった。
「おかしいって、なにがよ」
いつもの縁側、いつもの出涸らしのお茶。何も変わらない日常の一コマ。
目を瞑ってずずずと茶を啜る霊夢、そんな彼女を見ながら魔理沙は安堵の息を漏らす。
よかった、霊夢だけはいつものままだ、と。
「いやな、まだまだ寒い所為か知らないが、皆暖房を効かせすぎなんだよ。いくら寒いのが苦手な私でもあれは少しばかりやりすぎだと思うんだ。それで仕方なく上着を脱ぐんだが、そうするとどうも見られてる気がするんだよ。こう……この辺りを」
そう言って自分の胸元を軽く押さえると、霊夢がジト目で睨んできた。
「魔理沙、あんた……」
「いやいや、言ってくれるな霊夢さんよ。私だって分かってるぜ、そんな事はありえない」
両手をぶんぶんと交差させて否定するも、霊夢のジト目は変わらない。
まな板同盟を結成して早数年。
早く裏切って脱退したいのは山々だったが、それも出来ぬが現状なり。
裏切ったら裏切ったで何をされるか分かったものではないが、裏切れるような状況になれば全てはこちらのもの。
何をされたところでそれは全て負け犬の遠吠えに過ぎない。
しかし悲しいかな少女魔理沙、日々の努力も未だその成果を現そうとはしていない。
考えただけで軽く凹んでしまった。
「紫や永琳ならともかく、私のなんて見て楽しいか?」
「魔理沙……」
霊夢が持っていた湯飲みをことりと置いた。
そして顔を上げると、青い空に向かってふっと溜息。
つられて魔理沙も空を見る。
烏天狗が金色の何かを噴出しながら落ちていくのが見えた。
否、見てなどいない。
私は何も見ていない。
何度も何度も首を振って今見た情景を脳内から削除する。
「魔理沙、あんたは何も分かっちゃいないわ」
「え?」
これでもかと言わんばかりに首を振っていると、空を見たまま霊夢がぽそりと呟いた。
はて霊夢にはさっきの物体Xは見えていなかったのだろうか。
いや、見えていないのだろう。
むしろ物体Xなんてものは初めからなかったんだ。
よし、幻想郷の平和は今日も守られた。
ありがとう霊夢。おめでとう魔理沙。おめでとう、おめでとう、おめでとう、おめでとう!
「よかった、私はここに居てもいいんだな!」
「皆が見ているのは――――鎖骨よ」
「え?」
あらゆる人物から祝福を受けていたところを唐突に現実に戻されて、一瞬霊夢が何を言っているのかが分からなかった。
ついでに何で祝福されていたのかも分からなかった。
というかあの髭親父は誰だ。
「すまん霊夢、聞き逃したみたいだ。もう一回言ってくれないか」
「だから――鎖骨よ」
「はぁ?」
予想だにしない答えに魔理沙が素っ頓狂な声を上げた。
鎖骨? なんだそれは。胸ならまだ分かる。分からんでもない。私だって紫のとか見てると非常に羨ましい。いやあそこまでとはいかなくとも、せめて慧音くらいは――いやいやでも何故鎖骨なんだ。そんなもの見て楽しいのか?
魔理沙の頭の中を様々な疑問が生まれては消えていく。
今までどんな難しい魔法理論だって習得してきたつもりだったが、これはそのどれよりも複雑で、何より不可解だった。
そして最後に残ったのは、分からなかったら人に聞こう。
「鎖骨なんか見て楽しいのか?」
「魔理沙!」
ふと漏れた魔理沙の疑問。
しかしそれは霊夢の怒声によって瞬く間に掻き消されてしまった。
突然の大声に思わずたじろいでしまった魔理沙に、霊夢がずずずいと詰め寄っていく。
「魔理沙、あんた大丈夫?」
「え? え?? え???」
「鎖骨よ、鎖骨。SA-KO-TU。それは女、強いては少女にのみその存在を許された最後の楽園。導き出される曲線はどこまでも神秘的で、それはもういかに紫のウエストラインといえど敵ではないわ。まだ未発達の少女の白い肌に浮かび上がる鎖骨は一見しっかりしていそうで、触れれば折れてしまいそうな程に弱く儚い。魔理沙、あんただって一度は思った事があるはずよ。あのラインをなぞる時の危うさを、なぞられた時のなんとも言えないくすぐったさ、そしてそれはいつしか――」
「れ、霊夢?」
「忘れてはいけないのが窪みの柔らかさよ。骨の固さと窪みの柔らかさ。一見相反する二つの要素が作り出すその谷は神より約束された理想郷、そう――アヴァロン。そして窪みに沈み込ませた人差し指と表側の親指で鎖骨を挟み込んだ時の……ぉぉぉぉぉぉあああぁぁぁああ!」
「れ、霊夢!? 落ち着け! 何を言ってるのかさっぱり分からんがとりあえず落ち着け!」
「ちなみに、私はそれらの全てをあんたが寝てる時に遂行したわ」
「霊夢うううううぅぅぅぅぅぅ!?」
なんだ、鎖骨ってなんだ。鎖骨とは一体なんなのだ。
どこで歯車が狂ってしまったのか。あるいは最初から何も狂ってなどいなかったのか。
頭の中はぐるぐると回り続け、何が間違っていて何が正しかったのかも分からなくなってくる。
果たして狂っていたのはどっちなのか。もしかしたら自分が間違っていたのか。
薄れ行く意識の中で、何か一つ、とても大切なものがからんと音を立てて崩れたような気がした。
東方における新たな新境地を開拓なさった氏に乾杯。
なんかもうこのシリーズはいろいろとステキすぎますw
その鎖骨に対する情熱……、言い換えれば燃料が尽き果てるまで止まる事が出来ないのだと!
私は背中の真ん中に走る、あの窪みに心惹かれます。(如何でも良い
しかし普通の魔法使い・魔理沙は普通であるが故に常に取り残されるのだ。異常な事態からは。
霊夢!
わかるかたいらっしゃいますでしょうか?
>「よかった、私はここに居てもいいんだな!」
エヴァンゲリオンネタ吹いたw
SAKOTU!SAKOTU!SAKOTU!SAKOTU!SAKOTU!SAKOTU!
…あれ?なにか、鎖骨祭り(なんだそれ)かこれは?
SAKOTU!SAKOTU!SAKOTU!SAKOTU!SAKOTU!SAKOTU!
… 同 じ 人 が 書 い て た
『鎖骨だッ!』
~洗脳完了~
とっても鎖骨でした。
鎖骨が夢に出てきそうです。
本当にあr(ry