紅魔館の館主、レミリア・スカーレットは500年ほどお嬢様をしている。
お嬢様というだけあって、その外見は幼い少女のソレと変わりがない。
今日の夜だってそうだ、いくら寝つきが悪いからって「寝つけるような何かをしなさい」とはいくらなんでもワガママだと思う。
しかしその悪魔に仕えている十六夜咲夜だって完全で瀟洒を自認するメイドだ。主の期待に答えてナンボの商売だと思っている。
というわけで……
「特別な何かが入った紅茶を用意してみました」
カラカラとティーセットの乗ったワゴンを押しながら咲夜がレミリアの部屋に入ってくる。
「特別って何が入ってるのかしらね?」
「それはもう特別な何かですよ」
主であるレミリアの質問を軽くいなしてテーブルの上に手早く用意する。
紅茶の温度はやや高め、ティーカップもしっかりお湯で温めてある。
ややキツめの匂いをごまかす為にハーブを多めにした。
ティーポットからカップに紅茶を注ぐと主に完了の旨をつげる。
「できました、どうぞ」
レミリアは待ってましたとばかりに席に着いて紅茶の香りを吸い込む。
「む、ハーブと他に何か入ってるわね、まさかまた毒花とかってオチじゃないでしょうね?」
さすがにいくら幼いからって吸血鬼、そんじょそこらの妖怪より鼻はきくらしい。
「それが特別な何かですよ」
気付かれたかな? と思いつつ咲夜は答えをはぐらかしてみる。
「何が入ってるかわからないけど……、匂いがキツイわね」
「特別な何かですよ」
「あなた答える気がないわね?」
「何かですから」
よかったバレて無いらしい、咲夜は内心でホッと一息つく。
レミリアがティーカップを持ち上げて、ゆっくりと口元に運ぶ。
紅く蠱惑的な唇が開かれ、白いカップが近づいてゆく。
レミリアの傍らに控えた咲夜はじぃっと見つめ続ける。
カップに唇が触れた瞬間――――
「あぁそうだ、咲夜も一緒に飲みなさい。これは命令よ」
「え、えぇ、はい、その、飲みますよ」
意図せずに機先を制された咲夜は慌ててテーブルの反対の席に座って、あらかじめ用意しておいたカップに紅茶を注ぐ。
飲む人が一人でもカップは二つ用意するのがメイドのたしなみ、だと咲夜は思っている。
「歯切れが悪いわねぇ、まさか……」
気付かれたっ!?
咲夜の背中を緊張感が走り抜ける。
「本当に毒花でも入れたんじゃないでしょうねぇ」
「まさかそんな、じゃあ私から飲みましょう」
内心でホッと一息ついてから咲夜はティーカップに口をつける。
猫舌の咲夜には少し熱かったが、構わずに飲み込む。ここでレミリアの信用を得ておかなければ特別な何かの意味が無い。
紅茶とハーブ、そして特別な何かの味が口の中に広がる。
しかし淹れた本人である咲夜にとって何が入ってるかはわかっているので全て予測済みである。
それどころか、自分で淹れた紅茶の味について内心で喝采を送りたく成る程になったぐらいだ。
「ほら、毒は入ってないですし、美味しいですよ」
そう言って咲夜はニッコリと笑ってレミリアを見つめる。
「うーん、咲夜がそうまで言うなら仕方ないわね」
そう言ってレミリアは一度は下げたカップを持ち上げて唇につける。
咲夜が見つめるその先で、ついにレミリアが飲む。
「ぶはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
吹いた。盛大に紅茶を吹いた。それはもう口の中に含んだ紅茶を一滴残さず吹いた。
当然レミリアの反対側に座っていた咲夜に全部ぶっかかる。
「うわ、何するんですかお嬢様!」
「咲夜ぁ! 一体何を入れたのっ!?」
たまらず咲夜は抗議の声を上げる、がレミリアはそんな事すら耳に入らない。
「えぇー、何って、寝つきがよくなるようにブランデーを少し入れてみましたけど、お口に合いませんでした?」
「あ、そう、ブランデーね……」
「意外と美味しいですよ?」
そう言われて改めてカップに残った分を飲んでみる。
確かに紅茶の味と、ブランデーの芳醇な味と匂い、そしてブランデーの強い匂いを和らげる為のハーブ。
「あらホント、意外においしいわ」
そう呟いてさらに飲みながら、こんな手法を用意した瀟洒な従者を見る。
「ぶはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
また吹いた、口の中の紅茶をまた吹いた。それもまた一滴残らず吹いた。
「うわあぁぁ!」
さすがの咲夜でもまさか二度目があるとは思わなかったのか、またしても盛大に紅茶を浴びてしまう。
「い、いえ、なんでもないわ、ごめんなさい」
慌てて取り繕ったが、レミリアの目は咲夜の胸元に吸い込まれていた。
盛大に浴びてしまった紅茶のせいで、咲夜のワイシャツが透けてしまっていたのだ。
うっすらと透けたワイシャツから覗くのはほっそりとした鎖骨。
鎖骨とは見る者を惑わす、魅惑の曲線――――。
その流れるような曲線はレミリアの目線を釘付けにする。
咲夜は始めこそ自分の服を吹いていたが、じっとこちらを見るレミリアの手元を見て気がついた。
「あぁ、お代わりですね、今ご用意します」
そう言ってティーポットを持って立ち上がり、レミリアの横に立ってカップにお代わりを注ごうと屈み込む。
そんな咲夜を見ていると、レミリアはとんでもない事に気がついてしまった。
透けたワイシャツ、屈みこんだせいでその胸元がばっちり見えてしまったのだ。
「さぁカップをこちらへ」
そんな事に咲夜は気付くはずも無く咲夜はさらに身を屈めてくる。
今や咲夜の胸元はほぼ全開状態。
魅惑の曲線の鎖骨が目の前でほっそりとカーブを描き、目の前をゆらゆらと踊る。
ふくらみかけた胸元にはライムグリーンのブラどころか際どい部分すら見えそうだ。
「う、あ、さ、さく、さこ……」
レミリアは動揺のあまりに口をぱくぱくと開いている。
「はぁ?」
いきなり片言で喋りだした主人を不思議な物でも見るような目で見る咲夜。
「さくやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ガバァ
レミみてのサブタイがそんなのにしか見えなくなった件。