「はい。じゃあ、こっちに向いて」
「……うん」
不安と、ほんの僅かの好奇とが入り混じった声。
「大丈夫よ」
笑みを含んだ調子で薬師はそう言って、デスクからおもむろに手を離す。軋んだ音とともに丸椅子が回り、金髪と紅いリボンに、少しはにかんだ視線が薬師の両の瞳を打った。
「じゃあ、上だけでいいから」
「……うん」
薬師の耳を打つのは、やはり不安と、ほんの僅かの好奇を混ぜた声。
んしょ、と力む呟きが、雑多な、しかし静謐な部屋の空気に溶ける。
小さな衣擦れの音。浅い息遣い。荒い息遣い。
荒い。
「……永琳?」
「――――、」
八意永琳は全身の毛を逆立てた。
諸手を上げ、頭上に上着を持ち上げた状態で、メディスン・メランコリーは問いかけた。
上体を反らしたその肢体は、元来生命が持つ躍動感とはどこか遠く、しかし無機質的なぎこちなさとは全くの無縁で、ほっそりとしたくびれのない腰から薄く浮き上がった肋骨にも似た内骨格から胸元にかけての無に等しい凹凸の果て、振り上げた両腕を背骨と接合するためのそのパーツの生み出す白くたおやか、そしてこの上なく僅かなくびれを十二分といわず十二無量大数分も引き立てる。
「永琳……」
「?」
よだれ。
「!?っ、ハッ――」
気がつけば、膝上、白衣の下。赤と黒のお気に入りの着衣が、満遍なく濡れてかり、その明度を落としていた。
「……ああ、ごめんなさい。少し見惚れていたわ」
「何に?」
バンザイのポーズを維持したまま、メディスンは首を傾げる。永琳は柔らかな笑みを浮かべ、
勿論、鎖骨よ
(等と言えるはずが無いッ――――!)
永遠を生きる月の頭脳は、持てる力の全てを結集してこれを抑える。
(何? 私は何を言おうとしている? 鎖骨? 何なのよそれは)
思考が奔る。
(いや、そもそも私は何故、ただこの部屋に立ち寄っただけの彼女を脱がせている? 何? 何なの? 鎖骨とは何? 何故これ程までに――――)
視線が否応無しに『そこ』に集まる。
「?」
純真な人形は視線から頬をうっすら染めては見せても、その視線を遮ることまでは意識が及ばない。
『そこ』
首筋のなだらかな線を胸の中心へと点の連続により推移させた先の、まさに指が一本収まるような窪みを基点に左右に延びる一枚きりの山脈。
「……」
少女の瞳が、少し潤む。永琳の無意識に発する、あり得ないほどの眼力の為せる業だった。
何かが、既に違っていた。
何かが、既に終わっていた。
「…………メディスン」
「ぅう?」
薬師はもはやリミットブレイクを遥か彼方に終えてきた存在。生ける理性であり、逝ける本能でもある。
「続き」
「うぅ」
「始めましょうか」
「ひぅ……」
「大丈夫よ。ほら」
その瞬間の八意永琳の動いた軌跡を誰も捉えることはできなかっただろう。
びっ、と散った黒いドレスに紅いリボン。と、白い肌。
「きゃ」と零れた儚い声に、がた、と椅子の倒れる音と、「ふ」と短く静かな声。
すり。
薬師のしなやかな指先が、人形少女の肩口を撫でた。
「うぅ」
「ふ」
何が循環しているのやら、頬を薄紅色に滲ませる小さなスイートポイズンは首を傾げて目を背け、ただただ時が過ぎていくのを耐え続ける。
二本の指先が、肩から喉元へと、流れる。レールの上を進む列車のように、一つの軸を外れず、つまみ、つ、つつつ、と指紋の溝で擦り滑らす。
「ゃあ、ん……」
「ふふ」
もはや収まることはない。床を打ち続けていた小さな靴裏も、今では弱弱しく踵を薬師の膝に擦り付けるに留まっている。
永琳は指の動きを決して一定に留めない。右から首筋へ、胸の窪みを指の腹でくすぐり、撫で付けるように左へ。
白い肌では既になく、にわかに紅い、それに何より、暖かい。
格子の付いた窓の外には、濃紺の空と紅い鳥。かに見える、紺色ブレザーと二対の紅いドレスの羽根つき人形。
メディが月の頭脳の鎖骨人形となった時、
月兎とスー様だけが、二人をみていた。
「……うん」
不安と、ほんの僅かの好奇とが入り混じった声。
「大丈夫よ」
笑みを含んだ調子で薬師はそう言って、デスクからおもむろに手を離す。軋んだ音とともに丸椅子が回り、金髪と紅いリボンに、少しはにかんだ視線が薬師の両の瞳を打った。
「じゃあ、上だけでいいから」
「……うん」
薬師の耳を打つのは、やはり不安と、ほんの僅かの好奇を混ぜた声。
んしょ、と力む呟きが、雑多な、しかし静謐な部屋の空気に溶ける。
小さな衣擦れの音。浅い息遣い。荒い息遣い。
荒い。
「……永琳?」
「――――、」
八意永琳は全身の毛を逆立てた。
諸手を上げ、頭上に上着を持ち上げた状態で、メディスン・メランコリーは問いかけた。
上体を反らしたその肢体は、元来生命が持つ躍動感とはどこか遠く、しかし無機質的なぎこちなさとは全くの無縁で、ほっそりとしたくびれのない腰から薄く浮き上がった肋骨にも似た内骨格から胸元にかけての無に等しい凹凸の果て、振り上げた両腕を背骨と接合するためのそのパーツの生み出す白くたおやか、そしてこの上なく僅かなくびれを十二分といわず十二無量大数分も引き立てる。
「永琳……」
「?」
よだれ。
「!?っ、ハッ――」
気がつけば、膝上、白衣の下。赤と黒のお気に入りの着衣が、満遍なく濡れてかり、その明度を落としていた。
「……ああ、ごめんなさい。少し見惚れていたわ」
「何に?」
バンザイのポーズを維持したまま、メディスンは首を傾げる。永琳は柔らかな笑みを浮かべ、
勿論、鎖骨よ
(等と言えるはずが無いッ――――!)
永遠を生きる月の頭脳は、持てる力の全てを結集してこれを抑える。
(何? 私は何を言おうとしている? 鎖骨? 何なのよそれは)
思考が奔る。
(いや、そもそも私は何故、ただこの部屋に立ち寄っただけの彼女を脱がせている? 何? 何なの? 鎖骨とは何? 何故これ程までに――――)
視線が否応無しに『そこ』に集まる。
「?」
純真な人形は視線から頬をうっすら染めては見せても、その視線を遮ることまでは意識が及ばない。
『そこ』
首筋のなだらかな線を胸の中心へと点の連続により推移させた先の、まさに指が一本収まるような窪みを基点に左右に延びる一枚きりの山脈。
「……」
少女の瞳が、少し潤む。永琳の無意識に発する、あり得ないほどの眼力の為せる業だった。
何かが、既に違っていた。
何かが、既に終わっていた。
「…………メディスン」
「ぅう?」
薬師はもはやリミットブレイクを遥か彼方に終えてきた存在。生ける理性であり、逝ける本能でもある。
「続き」
「うぅ」
「始めましょうか」
「ひぅ……」
「大丈夫よ。ほら」
その瞬間の八意永琳の動いた軌跡を誰も捉えることはできなかっただろう。
びっ、と散った黒いドレスに紅いリボン。と、白い肌。
「きゃ」と零れた儚い声に、がた、と椅子の倒れる音と、「ふ」と短く静かな声。
すり。
薬師のしなやかな指先が、人形少女の肩口を撫でた。
「うぅ」
「ふ」
何が循環しているのやら、頬を薄紅色に滲ませる小さなスイートポイズンは首を傾げて目を背け、ただただ時が過ぎていくのを耐え続ける。
二本の指先が、肩から喉元へと、流れる。レールの上を進む列車のように、一つの軸を外れず、つまみ、つ、つつつ、と指紋の溝で擦り滑らす。
「ゃあ、ん……」
「ふふ」
もはや収まることはない。床を打ち続けていた小さな靴裏も、今では弱弱しく踵を薬師の膝に擦り付けるに留まっている。
永琳は指の動きを決して一定に留めない。右から首筋へ、胸の窪みを指の腹でくすぐり、撫で付けるように左へ。
白い肌では既になく、にわかに紅い、それに何より、暖かい。
格子の付いた窓の外には、濃紺の空と紅い鳥。かに見える、紺色ブレザーと二対の紅いドレスの羽根つき人形。
メディが月の頭脳の鎖骨人形となった時、
月兎とスー様だけが、二人をみていた。
何も言うまい。そう、何も言うまい。
大丈夫、ボクモミテルヨ。
何故か解りませんが、タイトル、内容ともに、兎に角ツボですw