夜の木に宿る鳥は静寂を告げる羽。音を立てることは許されず、無の世界を造る事が彼女達の役目。
昼間の残骸は根こそぎ闇に侵食され、全てを洗われてしまう。この収束こそが、新しい光を呼ぶ。
「鳥は眠り~人も眠る~、働き者の闇に感謝の辞を~」
世界にいくつかある『例外』の一つであるミスティア・ローレライは珍しく木の枝に腰掛けていた。
待つことを知らない彼女は人攫いをするのにも歌いながら飛びついてくる。強姦の方がまだ大人しいかもしれない。
相も変わらず呼吸代わりに歌い続ける彼女だが、今宵は大人しく傍観していた。
久しぶりに、空を見上げた。
自由に空を駆ける者には、なかなか無い衝動だった。
星が綺麗だったからではない。上を観ることが、こうも思考を巡らせるものだとは思わなかった。
彼女は忘れっぽく、感性だけを紡ぎ出し続けている。
だが何も考えていないわけではない。思考に頭を費やしているが故の鳥頭だった。
そして今、そのわずかな思考を少しだけ上へと向けていた。
だからだろう、自分のいる木に近づいてくる人影に気が付かなかったのは。
「空の大きさは明るくなくてもわかるものなんだ」
今まさに、自分が思っていたことを言われ、ミスティアは声のするほうを振り返った。
「動きましたね、この極端な鳥目の原因はあなただ」
この人影は、何を言っているのだろう?
自分の歌で鳥目になっているなら空はおろか私が見えるわけないのに。
「誰、あなた人間でしょ?どうして私が見えるの?」
「見えていませんよ、あなたが歌をやめて私を見たのです」
確かに声をかけられたとき歌うのをやめた。だがこの人間は、私の歌を聞いたなら、
どうしてこんなに確かな足取りで自分に近づいてくるのだろう?
とりあえあず歌をやめた事を指摘されたのが悔しかったので人影を無視して歌うことにした。
「恐れぬ民は消えていき~、脅える民も鳥の餌~」
「歌う人攫いがいるとは聞いていました。あなたは違うのですか?」
「・・・うるさいなぁ、リクエストに答えてあげているんだから、とっとと森の奥にへでも行きなさいよ」
「私は迷いませんよ、詩をきちんと書き留めてますから」
「ほーたーるー♪なぜ光る?自分が見えないの~?」
「素晴らしくあなた以外に意味のない歌ですね。まぁ私の戯言も同じようなもんですが」
「落ちる葉は~地が欲しがった赤茶色~」
どうしてこんな奴にムキに歌っているんだろう?
ふと、人間の手元を見ると、本だった。本を持っているのではく、手が本だった。
手首の先に、ミスティアが普段面倒くさいと見ることのない、本が生えていた。
「あなた、妖怪?」
「いいえ」
「腕に本が生えている人間がいるの?」
瞬間、風が吹いた。自分の歌と、まるで鏡が話しているような人間の詩以外に、今宵初めて聞いた羽音だった。
「・・・そういうことになっている」
声だけがした。人影はすでに消えていた。そして人影がいた木の根元に本だけが残った。
「・・・なによ」
落ちた本を拾う。有り触れた装丁の本だった。
普通の本がどの程度の大きさかは知らなかったが、少なくともミスティアはこの大きさの本を読んだことがない。
月明かりがよく照らす所に移動して開いてみる。
首都近隣の地域にて珍しい鳥を捕獲。朱鷺と名づけられたこの希少種は・・・
その後も義務感に苛まれた様な文が延々書かれていた。すぐに読む気を失ったミスティアは本を閉じた。
「やっぱり歌っていた方がマシね」
そういえば知り合いに本の好きな奴がいた気がする。
今度会うときまで、この本とそいつの顔を覚えていたらあげよう。
「消えたら忘れる消えたこと~、よーく考えよう~、お金は持ちきれない~」
空は未だに大きい。たぶん100年先も200年先も大きい。
手元の本は自分には大きすぎるが、いつぞやの天狗の新聞なら読んでもイイかもと思った。
あれぐらいなら朗読に時間も掛からないよね。
自分は歌い続けなければ死んでしまうと思っていた。
しかしそれは、死ぬまで歌い続ける必要はない事を決定付けていた。
人間は死ぬまで勉強し、働き続けるという。
ほんの少しだけ、人間が羨ましくなった。
昼間の残骸は根こそぎ闇に侵食され、全てを洗われてしまう。この収束こそが、新しい光を呼ぶ。
「鳥は眠り~人も眠る~、働き者の闇に感謝の辞を~」
世界にいくつかある『例外』の一つであるミスティア・ローレライは珍しく木の枝に腰掛けていた。
待つことを知らない彼女は人攫いをするのにも歌いながら飛びついてくる。強姦の方がまだ大人しいかもしれない。
相も変わらず呼吸代わりに歌い続ける彼女だが、今宵は大人しく傍観していた。
久しぶりに、空を見上げた。
自由に空を駆ける者には、なかなか無い衝動だった。
星が綺麗だったからではない。上を観ることが、こうも思考を巡らせるものだとは思わなかった。
彼女は忘れっぽく、感性だけを紡ぎ出し続けている。
だが何も考えていないわけではない。思考に頭を費やしているが故の鳥頭だった。
そして今、そのわずかな思考を少しだけ上へと向けていた。
だからだろう、自分のいる木に近づいてくる人影に気が付かなかったのは。
「空の大きさは明るくなくてもわかるものなんだ」
今まさに、自分が思っていたことを言われ、ミスティアは声のするほうを振り返った。
「動きましたね、この極端な鳥目の原因はあなただ」
この人影は、何を言っているのだろう?
自分の歌で鳥目になっているなら空はおろか私が見えるわけないのに。
「誰、あなた人間でしょ?どうして私が見えるの?」
「見えていませんよ、あなたが歌をやめて私を見たのです」
確かに声をかけられたとき歌うのをやめた。だがこの人間は、私の歌を聞いたなら、
どうしてこんなに確かな足取りで自分に近づいてくるのだろう?
とりあえあず歌をやめた事を指摘されたのが悔しかったので人影を無視して歌うことにした。
「恐れぬ民は消えていき~、脅える民も鳥の餌~」
「歌う人攫いがいるとは聞いていました。あなたは違うのですか?」
「・・・うるさいなぁ、リクエストに答えてあげているんだから、とっとと森の奥にへでも行きなさいよ」
「私は迷いませんよ、詩をきちんと書き留めてますから」
「ほーたーるー♪なぜ光る?自分が見えないの~?」
「素晴らしくあなた以外に意味のない歌ですね。まぁ私の戯言も同じようなもんですが」
「落ちる葉は~地が欲しがった赤茶色~」
どうしてこんな奴にムキに歌っているんだろう?
ふと、人間の手元を見ると、本だった。本を持っているのではく、手が本だった。
手首の先に、ミスティアが普段面倒くさいと見ることのない、本が生えていた。
「あなた、妖怪?」
「いいえ」
「腕に本が生えている人間がいるの?」
瞬間、風が吹いた。自分の歌と、まるで鏡が話しているような人間の詩以外に、今宵初めて聞いた羽音だった。
「・・・そういうことになっている」
声だけがした。人影はすでに消えていた。そして人影がいた木の根元に本だけが残った。
「・・・なによ」
落ちた本を拾う。有り触れた装丁の本だった。
普通の本がどの程度の大きさかは知らなかったが、少なくともミスティアはこの大きさの本を読んだことがない。
月明かりがよく照らす所に移動して開いてみる。
首都近隣の地域にて珍しい鳥を捕獲。朱鷺と名づけられたこの希少種は・・・
その後も義務感に苛まれた様な文が延々書かれていた。すぐに読む気を失ったミスティアは本を閉じた。
「やっぱり歌っていた方がマシね」
そういえば知り合いに本の好きな奴がいた気がする。
今度会うときまで、この本とそいつの顔を覚えていたらあげよう。
「消えたら忘れる消えたこと~、よーく考えよう~、お金は持ちきれない~」
空は未だに大きい。たぶん100年先も200年先も大きい。
手元の本は自分には大きすぎるが、いつぞやの天狗の新聞なら読んでもイイかもと思った。
あれぐらいなら朗読に時間も掛からないよね。
自分は歌い続けなければ死んでしまうと思っていた。
しかしそれは、死ぬまで歌い続ける必要はない事を決定付けていた。
人間は死ぬまで勉強し、働き続けるという。
ほんの少しだけ、人間が羨ましくなった。