誰も居ない、森の中。
誰も居ない、それでも賑わっている森の中。
小鳥のさえずり。
虫の鳴き声。
木々の葉が奏でる調べ。
静かな、それでいて賑わう森の中。
一人の少女が空から降りてくる。
森の中では珍しい、赤と白の少女が降りてくる。
やがて降りてきた少女は、静かな森の中で静かに目を閉じる。
静かに、静かに目を閉じながら耳を傾ける。
森の調べ、住人達が奏でる調べを、慈しむ様に目を閉じる。
やがて、色んな少女がやってくる。
誰も居なかったはずの森の中に、色んな少女がやってくる。
箒でゆっくりと飛んできたのは、黒と白の魔法使い。
闇の中から出てきたのは、宵闇の妖怪。
木々の間を縫うように飛んできたのは、大妖精、冬の忘れ物の忘れ物を持った湖上の妖精。
木の裏から現れたのは、完全で瀟洒な従者、永遠に幼い紅い月、知識と日陰の少女、小悪魔、華人小娘、悪魔の妹。
人形を引き連れて歩いてきたのは、七色の人形遣い。
奏でる物を持って、しかしそれを奏でること無く来るのは、騒霊ヴァイオリスト、騒霊トランペッター、騒霊キーボーディストの三姉妹。
森の奥から足音無く歩いてきたのは、半分幻の庭師、華胥の亡霊。
一角に現れた隙間から音も無く出てくるのは、すきま妖怪の式の式、すきま妖怪の式、境目に潜む妖怪。
霧が寄り集まり姿を現したのは、百鬼夜行。
幹に寄りかかりながら座っているのは、日の光の妖精、月の光の妖精、星の光の妖精。
木々の枝に乗っているのは、春を運ぶ二人の妖精、闇に蠢く光の蟲。
歌う事無く現れたのは、夜雀の怪。
草を掻き分けてやって来るのは、知識と歴史の半獣、蓬莱の人の形。
その反対側から草を掻き分けてやって来るのは、幸運の素兎、狂気の月の兎、月の頭脳、永遠と須臾の罪人。
颯爽と、しかしふわりと降り立ったのは、伝統の幻想ブン屋。
傍らの小さな人形を見つめながら現れたのは、小さなスイートポイズン。
所々の花を愛でる様に見つめながら現れたのは、四季のフラワーマスター。
厳かに、しかしやはりこの場の空気を壊す事無く現れたのは、三途の水先案内人、楽園の最高裁判長。
少女達は、静かに森に身をゆだねる。
静けさの中、誰も何も言わずに、ただ森に身をゆだねる。
全てが慈しむように、森に身をゆだねる。
その光景は、まさに幻想。
静かに全てが身をゆだねるのは、まさに幻想以外の何物でも無かった。
やがて誰かが、森から立ち去る。
誰が言った訳でもないのに、立ち去っていく。
最後に残ったのは、楽園の素敵な巫女。
彼女も、すぐに立ち去っていった。
こちらへ、優しくも哀しそうな微笑を残しながら。
「……という夢を見たのよ」
「なんとも、不思議で素敵な光景ね」
果たして、少女が夢見た少女達は幻だったのか。
それとも――