あるいは日常とは硝子細工のようなものかもしれない。
最近、とみにそう思うようになった。
ちょっとつつけば壊れてしまう危うさの上に私は鎮座してお茶を啜っているというわけだ。
この”お茶を飲める時間”というのは、おそらく私にとって大切なものの上位に入る概念であり、奪おうとする揉め事が起こるなら容赦なく解決する。
主に力づくで。
もっとも、幻想郷においてはその”危ういもの”に好んでローキックをぶちかます阿呆も多いのは周知の通りだし私の友人たちがその一端を担っている事も認めよう。
止めようがないくらいに火種が多いのだ、ここには。
――――それでも。
やはりこの時間が大切だから、一時でも早く暢気に過ごせる時間を取り戻す事に尽力するのだ。
とかなんとか難しい事を考えているとお茶がまずくなる。
そもそもこんな事を考える事自体、自分で自分の時間を潰しているだけではないか。
いちいち頭を回しながらお茶を飲んでいたのではお茶に失礼だ、うん。
きっとそうだ、掃除をサボった境内のためにも、もっと暢気にお茶をすするべきなのだ。
「――ふぅ」
ため息をひとつ。
思考が沈静化すると周囲の肌寒さを感じるようになった。
今日はいい陽気だが、それでも気温は低い。しかし熱いお茶が美味さを増すのも確かである。
今日は魔理沙も来ない。
少しばかり暇を持て余しているが、悪くは無い。むしろ良い。
暇をこれでもかというくらい楽しめるのも己が己たるゆえんの一つかもしれない。
しん。
平和である。
穏やかである。
時間がそこで停滞しているかのような錯覚すら覚える。
「ぬー……ぁふ」
大きく口を開けてあくび。
心なしか目の前が眩んで見える。
まずい、寝てしまいそうだ。
一休みしたら掃除をしようとしていたのに。
まあいいか――明日やろう――
それにしても暖かい、母の懐を思い出すような――
ねんねん、ころりーよー……おこーろーりーよー……。
背中から倒れこんだ後、そんな歌を聞いた。
「……ん、ゆかり?」
「おはよう霊夢。もう夕方よ?」
「うん、膝ありがと。返す」
「はい返された♪ 顔でも洗ってきたら? 締まりのない顔がゆるんでるわよ?」
「んー」
手水舎で顔を洗い、水を飲む。柄杓を戻した時、水面に映ったものを見て――。
「紫ぃーーーーーーーーーーー!」
「あらカワイイ狸さん。どうしてそんなに怒ってるのかしら?」
「待てーーーーーーーっ!」
翌日、某天狗少女によって『新種発見!? 空飛ぶ狸顔の少女』という記事が書かれていたのはまた別の話と思ってプリーズ。
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