それは、辺りにちらちらと白い雪片の舞う小寒の候のこと。
「焼けたかな~、焼けたかな~」
何やら、気楽なことを歌のように口ずさみながら、こんもりと盛った落ち葉に火をつけて、それを火箸でかき混ぜている少女が一人。
人のいない、深閑とした静寂の境内に、一人、お気楽な歌を響かせているのは、その神社の主である。
「……まだかな~」
がさがさと、足下の落ち葉をかき混ぜつつ。
ふと、声が響いたので空を見上げてみた。
「ゆ~きやこんこん、あられやこんこん……か」
どこからか響いてくる女の歌声。
そういえば、雪女というやつは歌で吹雪やら周囲の気温やらを操る術を使いこなすと言われているが、まさにそのものがそこにいるのかもしれない。
ややしばらくして、ふわりと、足音すら立てずに地面に降り立つ影が一つ。
「ごきげんよう。今日はいい雪ね」
「寒いわね」
「寒いわね」
「寒いわねと言えば、誰かが寒いわねと答えてくれる暖かさがあるとは言うけどさ。どっちにせよ、寒いのよ」
どこか、投げやりで八つ当たり気味なそのセリフに、空から降りてきた女はくすくすと笑った。
「あなたらしいわ。
いつぞやの冬にはお世話になったものだし」
「そうね。
で? 何? また退治されにきたの?」
「空から眺めてみれば、寒そうな人が見えたから。もっと寒くしてあげようと思って来てあげただけのことよ」
恩着せがましいものの言い方だが、どこか引っかかる。
じろりとそちらをにらめば、女は相変わらず、にこにことした笑みを浮かべているだけだった。それで勢いを削がれ、彼女は肩をすくめる。
「頑張りすぎないでよね」
「あら。冬は寒いものよ」
全くその通り、と彼女は同意する。
しかし、寒いものは寒いのだ。あんまり寒いのは苦手であるし、事、女の子にとっては寒さというのは大敵でもある。だから、あったかい格好をしてそれに対抗しているのだが、やはりしんしんと雪が降り注ぐ日というのは、足下から寒さが這い上がる。じわじわと。ゆったりと。
それで肩を震わせて、思わず、暖かいものに手を伸ばしてみれば。
「まだなのよね~」
ぱちぱちと、落ち葉と枯れ枝が燃える音しか聞こえてこない。
「落ち葉でなんて。風情のあることをしているわね」
「そうね。あいにくと、燃料に関しては事欠かないもの」
神社という環境上、辺りを覆うのは、すっかり色を変えた木々だ。それらもちらほらと葉を落とし、冬支度を始めている。おかげで夏場の青々とした景色はどこへやら。どこかもの悲しい空間が形成されていて、それが心にも響いてくる。
だから、それを払拭するためにも、彼女は明々とした火をたいていた。
「暖かい?」
「暖かいわね」
「そう。よかったわね。
じゃ、もっと雪を降らしてあげる。明日は雪かきに追われるくらいにね」
「勘弁してよ」
「ふふっ」
「そうやって、大人しく季節を演出してるだけなら、私は何もしないわよ」
そうね、と答えて彼女はふわりと舞い上がった。
「今年も雪が降るわ。白くてきれいな季節がやってきた。私も頑張らないと」
「頑張りすぎると、こっちも大変だから。程々にね」
「善処致しますわ」
ぺこりと、女は一礼し、踵を返して飛び去っていく。
その女の背中を見送りながら、今年も冬がやってきたか、と彼女は感じたのだった。
「ところで霊夢さんよ。
いもの入ってない焼き芋ってのは、焼き芋って言わないんじゃないのかい?」
「金のない時は言うのよ」
注:言いません。
「焼けたかな~、焼けたかな~」
何やら、気楽なことを歌のように口ずさみながら、こんもりと盛った落ち葉に火をつけて、それを火箸でかき混ぜている少女が一人。
人のいない、深閑とした静寂の境内に、一人、お気楽な歌を響かせているのは、その神社の主である。
「……まだかな~」
がさがさと、足下の落ち葉をかき混ぜつつ。
ふと、声が響いたので空を見上げてみた。
「ゆ~きやこんこん、あられやこんこん……か」
どこからか響いてくる女の歌声。
そういえば、雪女というやつは歌で吹雪やら周囲の気温やらを操る術を使いこなすと言われているが、まさにそのものがそこにいるのかもしれない。
ややしばらくして、ふわりと、足音すら立てずに地面に降り立つ影が一つ。
「ごきげんよう。今日はいい雪ね」
「寒いわね」
「寒いわね」
「寒いわねと言えば、誰かが寒いわねと答えてくれる暖かさがあるとは言うけどさ。どっちにせよ、寒いのよ」
どこか、投げやりで八つ当たり気味なそのセリフに、空から降りてきた女はくすくすと笑った。
「あなたらしいわ。
いつぞやの冬にはお世話になったものだし」
「そうね。
で? 何? また退治されにきたの?」
「空から眺めてみれば、寒そうな人が見えたから。もっと寒くしてあげようと思って来てあげただけのことよ」
恩着せがましいものの言い方だが、どこか引っかかる。
じろりとそちらをにらめば、女は相変わらず、にこにことした笑みを浮かべているだけだった。それで勢いを削がれ、彼女は肩をすくめる。
「頑張りすぎないでよね」
「あら。冬は寒いものよ」
全くその通り、と彼女は同意する。
しかし、寒いものは寒いのだ。あんまり寒いのは苦手であるし、事、女の子にとっては寒さというのは大敵でもある。だから、あったかい格好をしてそれに対抗しているのだが、やはりしんしんと雪が降り注ぐ日というのは、足下から寒さが這い上がる。じわじわと。ゆったりと。
それで肩を震わせて、思わず、暖かいものに手を伸ばしてみれば。
「まだなのよね~」
ぱちぱちと、落ち葉と枯れ枝が燃える音しか聞こえてこない。
「落ち葉でなんて。風情のあることをしているわね」
「そうね。あいにくと、燃料に関しては事欠かないもの」
神社という環境上、辺りを覆うのは、すっかり色を変えた木々だ。それらもちらほらと葉を落とし、冬支度を始めている。おかげで夏場の青々とした景色はどこへやら。どこかもの悲しい空間が形成されていて、それが心にも響いてくる。
だから、それを払拭するためにも、彼女は明々とした火をたいていた。
「暖かい?」
「暖かいわね」
「そう。よかったわね。
じゃ、もっと雪を降らしてあげる。明日は雪かきに追われるくらいにね」
「勘弁してよ」
「ふふっ」
「そうやって、大人しく季節を演出してるだけなら、私は何もしないわよ」
そうね、と答えて彼女はふわりと舞い上がった。
「今年も雪が降るわ。白くてきれいな季節がやってきた。私も頑張らないと」
「頑張りすぎると、こっちも大変だから。程々にね」
「善処致しますわ」
ぺこりと、女は一礼し、踵を返して飛び去っていく。
その女の背中を見送りながら、今年も冬がやってきたか、と彼女は感じたのだった。
「ところで霊夢さんよ。
いもの入ってない焼き芋ってのは、焼き芋って言わないんじゃないのかい?」
「金のない時は言うのよ」
注:言いません。
こんこ=来んこ=来い来い の意味だったと思います。
とはいえ、静かな冬は遠く遠く空が高くて。
寒いけれど、きっと暖かいと、私は思いますね。
それからきっと、幻想郷では局地的に童謡の歌詞が変わっているかもしれません。
♪雪やこんこん あられやこんこん♪……黒猫がほら、お狐様を呼んでるみたいです。
>「……まだかな~」
やっべぇ、この霊夢は激しく可愛いッ!!
あ、いや、お話も静かで綺麗で素敵でしたよ。
ただ霊夢が可愛過ぎただけですヨ。ああもう。ああもう。