友人が死んだ。
享年22歳―。
そいつは高校時代から付き合ってた仲間内のひとりだった。
たぶん親友だったんだと思う。
あいつが死んでから半年、俺はひと月に何度も墓参りに訪れた。
水をかけ、枯れた花を取替え、お供え物と線香をあげる。
それが終わると俺は両手を合わせ目を瞑った。
「早すぎだよ・・・お前・・・。」
一言だけ、本音がこぼれた。
「早すぎるよ・・・。」
もう一度言葉にして俺は涙を拭った。
「そこなお兄さん今日も来たのか」
ふいに声を掛けられ、思わず反射的に振り返る。
「随分未練があるようじゃないか、そんなんじゃ霊も困ってなかなか彼岸に逝けないだろう?」
「え、君は・・・?」
「あたいは小町、小野塚小町。お兄さんがいっつもお墓の前に居るからさ、気になって話しかけたんだよ。」
そう言って笑顔をつくる小町と名乗る少女。
その笑顔が今の俺にはとても眩しい。
だからなのだろうか、俺はこの少女に対して自然と言葉を紡いだ。
「気になるほど俺は酷い顔してたのかな。」
「そりゃもう、今にも自殺しそうなツラしてるよ。」
「マジか、そりゃ酷いなぁ」
やれやれって感じのジェスチャーをしながらそんなことを言う小町に思わず俺も笑う。
久しぶりの笑顔だった。
「だろう?そんなお兄さんにひとつ良いことを教えてあげよう」
片目を瞑りながら人差し指を立てる小町。
「死んだ人間ってのは残していく人間のことをえらく気にするんだ。
だからさっきも言ったようになかなか彼岸に逝けない霊も結構居るんだよ。」
「お兄さんみたいな死者に未練のある人間が居ると特にね。」
「お参りってのは本来、自分は大丈夫だから安心して彼岸に逝きなよって想いを伝えるためのものなんだ。」
「だからお兄さん、アンタはここで立ち止まってちゃダメだ。」
「死んだ親友の分まで生きること、それが今のお兄さんに出来る善行だよ。」
小町はそのまま踵を返す。
「ま、待ってくれッ!君は、一体何者なんだ・・・?」
気がつけば声をあげていた。
自分でもよくわからない。
ただ、その少女のことがひどく気になった。
小町の足が止まる
「私は・・・死神、魂の運び手さ。」
顔だけ振り向いて、小町はそう言った。
再び動き出した足は、もう止まることはなかった。
「アイツの分まで、生きろ・・・か。」
小町が見えなくなったあと俺は墓石を前に、さっき言われたことを反芻していた。
「生きていくよ、俺・・・。立ち直るには時間かかるかもしれないけど、一生懸命に生きていくから・・・。」
「だから、心配するなよ。俺はきっと大丈夫だから・・・。」
「でも、最後に、一度だけ・・・」
そこから先は言葉にならなかった。
溢れる涙が止まらなくて、俺は嗚咽を漏らして泣いた。
「もし、あの小町って娘に逢ったら、伝えて欲しいんだ・・・。有難うって・・・。」
もしかしたらもう二度と彼女と逢えないかもしれないから。
だから青年は目には見えない親友にそう言った。
「さて、じゃあ俺は行くな。お前も早く逝けよ?」
ひとり笑うと走り出す。
そんな青年を私は見送った。
「あぁ言ってることだし、私たちも行きますか、お客さん」
「・・・・・・。」
「俺からも有難うって?何言ってんだい、あのお兄さんが立ち直れたのはあたいじゃなくてお客さんのお蔭さ。
私は背中を押しただけ、いずれは自力でも立ち直ってただろうさ。」
「・・・・・・?」
「じゃあなんでって?う~ん、そうだなぁ。
あのお兄さんがお客さんに対して未練があったように、お客さんもあのお兄さんに対して未練を持っていたからかな。」
「ま、でもこれでスッキリしたろう?きっとあのお兄さん良い判決が下りるよ、もちろんお客さんもね。」
「・・・・・・。」
「あっはっはー、どうしてってそれはお客さんたちが良い人だからに決まってるじゃないか。」
こう見えて仕事柄人を見る目があるんでねと小町は言うと、愛用の大きな鎌を担ぎなおす。
「さて、じゃあそろそろ本当に行こうか。お客さんのことはあたいがキッチリと彼岸まで送り届けてやるよ。」
そうしてまたひとりの魂が彼岸へと運ばれていく。
小町の仕事は相変わらずゆっくりである。
だが彼女はそんなこと気にもしない。
きっと今日もどこかで小町は油を売っているのだろう。
それが善行だと信じて。
だからこれは小野塚小町という少女の、別段珍しくも無い
何気ない日常の出来事なのである―。
享年22歳―。
そいつは高校時代から付き合ってた仲間内のひとりだった。
たぶん親友だったんだと思う。
あいつが死んでから半年、俺はひと月に何度も墓参りに訪れた。
水をかけ、枯れた花を取替え、お供え物と線香をあげる。
それが終わると俺は両手を合わせ目を瞑った。
「早すぎだよ・・・お前・・・。」
一言だけ、本音がこぼれた。
「早すぎるよ・・・。」
もう一度言葉にして俺は涙を拭った。
「そこなお兄さん今日も来たのか」
ふいに声を掛けられ、思わず反射的に振り返る。
「随分未練があるようじゃないか、そんなんじゃ霊も困ってなかなか彼岸に逝けないだろう?」
「え、君は・・・?」
「あたいは小町、小野塚小町。お兄さんがいっつもお墓の前に居るからさ、気になって話しかけたんだよ。」
そう言って笑顔をつくる小町と名乗る少女。
その笑顔が今の俺にはとても眩しい。
だからなのだろうか、俺はこの少女に対して自然と言葉を紡いだ。
「気になるほど俺は酷い顔してたのかな。」
「そりゃもう、今にも自殺しそうなツラしてるよ。」
「マジか、そりゃ酷いなぁ」
やれやれって感じのジェスチャーをしながらそんなことを言う小町に思わず俺も笑う。
久しぶりの笑顔だった。
「だろう?そんなお兄さんにひとつ良いことを教えてあげよう」
片目を瞑りながら人差し指を立てる小町。
「死んだ人間ってのは残していく人間のことをえらく気にするんだ。
だからさっきも言ったようになかなか彼岸に逝けない霊も結構居るんだよ。」
「お兄さんみたいな死者に未練のある人間が居ると特にね。」
「お参りってのは本来、自分は大丈夫だから安心して彼岸に逝きなよって想いを伝えるためのものなんだ。」
「だからお兄さん、アンタはここで立ち止まってちゃダメだ。」
「死んだ親友の分まで生きること、それが今のお兄さんに出来る善行だよ。」
小町はそのまま踵を返す。
「ま、待ってくれッ!君は、一体何者なんだ・・・?」
気がつけば声をあげていた。
自分でもよくわからない。
ただ、その少女のことがひどく気になった。
小町の足が止まる
「私は・・・死神、魂の運び手さ。」
顔だけ振り向いて、小町はそう言った。
再び動き出した足は、もう止まることはなかった。
「アイツの分まで、生きろ・・・か。」
小町が見えなくなったあと俺は墓石を前に、さっき言われたことを反芻していた。
「生きていくよ、俺・・・。立ち直るには時間かかるかもしれないけど、一生懸命に生きていくから・・・。」
「だから、心配するなよ。俺はきっと大丈夫だから・・・。」
「でも、最後に、一度だけ・・・」
そこから先は言葉にならなかった。
溢れる涙が止まらなくて、俺は嗚咽を漏らして泣いた。
「もし、あの小町って娘に逢ったら、伝えて欲しいんだ・・・。有難うって・・・。」
もしかしたらもう二度と彼女と逢えないかもしれないから。
だから青年は目には見えない親友にそう言った。
「さて、じゃあ俺は行くな。お前も早く逝けよ?」
ひとり笑うと走り出す。
そんな青年を私は見送った。
「あぁ言ってることだし、私たちも行きますか、お客さん」
「・・・・・・。」
「俺からも有難うって?何言ってんだい、あのお兄さんが立ち直れたのはあたいじゃなくてお客さんのお蔭さ。
私は背中を押しただけ、いずれは自力でも立ち直ってただろうさ。」
「・・・・・・?」
「じゃあなんでって?う~ん、そうだなぁ。
あのお兄さんがお客さんに対して未練があったように、お客さんもあのお兄さんに対して未練を持っていたからかな。」
「ま、でもこれでスッキリしたろう?きっとあのお兄さん良い判決が下りるよ、もちろんお客さんもね。」
「・・・・・・。」
「あっはっはー、どうしてってそれはお客さんたちが良い人だからに決まってるじゃないか。」
こう見えて仕事柄人を見る目があるんでねと小町は言うと、愛用の大きな鎌を担ぎなおす。
「さて、じゃあそろそろ本当に行こうか。お客さんのことはあたいがキッチリと彼岸まで送り届けてやるよ。」
そうしてまたひとりの魂が彼岸へと運ばれていく。
小町の仕事は相変わらずゆっくりである。
だが彼女はそんなこと気にもしない。
きっと今日もどこかで小町は油を売っているのだろう。
それが善行だと信じて。
だからこれは小野塚小町という少女の、別段珍しくも無い
何気ない日常の出来事なのである―。