街はずれの小高い丘の上にある朽ちた神社、誰もいないその神社を目指して、私マエリベリー・ハーンは階段を独りで上っていた。
手にはコンビニのビニール袋、もう片手には蚊取り線香の入ったケースと懐中電灯。どう贔屓目に見ても、女子大生が夏の深夜に出歩く格好ではないのだが……
「それもこれも、ぜ~んぶ蓮子が悪いのよ!」
そう、秘封倶楽部の相方であり親友の宇佐見 蓮子がいないのだ。
「ふう、やっと着いたわね」
長い階段を登り終えた私は、そのままボロボロになった社の前まで歩いていった。そして、置きっぱなしの賽銭箱の隣に腰掛ける。
そういえば、この賽銭箱は神社が朽ちているのにもかかわらず全く変化していないらしい。あと、入れた賽銭や、置いていったお供え物が消えるらしい。
間違いなく何かあるわよねぇ、今度は蓮子といっしょに……
「って、蓮子はいないのよ!」
怒りが再び湧いてきた私は、その勢いのまま袋から缶ビールを取り出し、一気にあおった。
「っぷはーっ、おいしー」
見上げたそらには一面の星空、周りには明かりが無いから星の輝きが良く見える。
夏の夜空は星が見にくいっていうけど、全然そんなことはない。まあ、さすがにずっと見つめていても位置や時間はわからないけどね。
すると、ぼんやりと夜空が滲んでいく。おっと、いけないいけない……
とっさに、手で目をこすりながら、二本目を取り出し口をつける。
「まったく、私に何も言わずにいなくなるなんてひどいなぁ。今年の海開きは一緒に行こうって約束したから、実家の用事も早めてもらったのに……」
蓮子はいない。私に何も告げずにいなくなった。帰ってきた私を待っていたのは蓮子の笑顔ではなく、孤独だった。
あ~、ちくしょう……絶対泣かないって決めたのに。
「グスッ……蓮子の~ばぁか~」
気付いたら涙が溢れていた。
「うう~、蓮子~、蓮子~…………」
いつの間にか持ってきたお酒も残り少なくなり、周りには空き缶が散乱していた。
「飲み過ぎよ、それに、そろそろ帰った方がいいわよ」
「ほえ?」
突然の声に目を向けると、変な格好をした私がいた。
「あはは~、確かに酔っぱらってるわね~。変な格好の私がもう一人いる~しかも私より胸が大きいぞー!」
なんとなく、ムッときた私はもう一人の私の胸を揉んでやった。おお~幻覚なのに柔らかいぞ~。
「コラ、やめなさいってば。ここは私が片付けておくから、あなたは帰りなさい」
幻覚にせかされて私は神社を後にしようとして足を止めた。ここに来た目的を忘れてた。
「ほら私、一緒に叫ぶわよ」
「ええっ!?」
戸惑う幻覚と肩を組むと空を見上げる。
「蓮子のバカヤロー! 私に黙ってハワイに行くなーーー! 私も行きたかったのにーーーーーーー!!」
そう、蓮子は私が実家の用事で帰っている間に学校の先輩と買い物に行き、福引でハワイ3泊4日のペアチケットを当てて半分ずつにしたのだ。
そして、一人さっさと旅行に行ってしまった。今頃、南国リゾートを楽しんでいるに違いない。
「あはははははっ、叫んだらなんかまたむかついてきた~。帰って飲み直すぞー!」
私は鼻歌交じりに神社を後にした。
「ハァイ、メリー、しばらくぶり」
帰ってきた蓮子は綺麗に日焼けしていた。
ちくしょう、こうなったら今度の海に行った時に、全身を真っ黒に日焼けさせてやる。
ところで、船と言えば教授復活を懲りずに願うのは僕だけですね、そうですね。