春は夕暮れ博麗神社。
縁側に腰掛け、隣り合って茶を啜るお馴染みの顔が二つ。
博麗霊夢と霧雨魔理沙。
ピョイン
唐突に魔理沙が地面に降り立つ。
「霊夢ー、ホラホラ」
ポイッ
魔理沙の手から放たれ、空に弧を描くのは真っ白な玉。
神社の屋根を飛び越し、眼下に広がる幻想郷の大自然を一瞥する。
程なくして重力に引かれ自由落下へ突入した。
一方の魔理沙は身体を空に向かって仰け反らせて、右へフラフラ左へフラフラ。
しかしやがて立ち位置を見定めると、腰に両手を置きドッシリと構える。
あーんと小さな口を目一杯広げるとそこ目掛けて玉が飛び込んでくる。
パクッ
見事なキャッチだ。
「モゴモゴ、どうりゃ見たか!!」
「それ私のお団子」
ベチン
自慢気に霊夢の元へ戻ってきた魔理沙だったが、霊夢にはたかれてしまった。
「痛いぜ」
しかし反省をする素振りも見せない魔理沙。
盗賊稼業でならした音速の腕をふるう。
「あっ」
霊夢の脇に置かれていた団子入りの器だったが、それは一瞬にして消え失せ、今は魔理沙の腕の中。
「よし、次は霊夢の番な」
「ちょ、勝手に…」
「ていっ」
ポイッ
魔理沙の後ろ手でのスローイング。
まるで書き損じの便箋を、丸めて背後の屑籠に投げ捨てるような容赦のなさだ。
明後日の方へかっ飛んでいくお団子。
先の一投とは変わってあんまり角度がない。
「ああもうっ!」
履き物を履く間もない。
霊夢は縁側から弾丸スタートを切った。
一気に加速すると、直ぐさま団子の射線上へ向けて地面を踏み切り飛び込んだ。
パクッ
地面スレスレでのダイビングキャッチ。
そのまま頭から地面に突っ込むかと思いきや―
クルン
スタン
膝を抱えて宙返り。
体勢を立て直し難なく爪先から着地した。
モグモグ
ゴックン
真剣な眼差しからは一転、立ち止まり暫し幸せそうに団子を味わい飲下する。
「おおおーっ!お見事!」
「馬鹿魔理沙!」
ふっと霊夢の姿が消え失せると、次の瞬間には魔理沙を羽交い締めにしている。
「のわっ、そういやこの巫女瞬間移動するんだった!!
反則だぜ、私の感動を返せ!」
「見てなかったの、さっきのは瞬間移動無しの正真正銘なプァーフェクトキャッチだったでしょが!!
ていうか、んな事どうでもいいのよ、ほらっ!返しなさいよ私のお団子」
「やだやだ、もっと霊夢さんのアクロバティックキャッチ、見せてほしいんだぜ!」
霊夢は片腕で魔理沙の腰をガッチリ捕まえ、空いた手で必死に団子の器を取り返そうとする。
対する魔理沙は自慢のお尻でグイグイと霊夢を押し退けつつ、両腕は団子の器をしっかりガード。
霊夢は真剣、ちょっと怖いぐらい真剣な表情だが、魔理沙はキャッキャッと楽しそうだ。
「あっ!霊夢後ろ後ろ!危ないぜ!」
「そんな見え透いた手、くわな―」
ピューン
グサーーーッ!!!!
「ーーーッ!!!!」
声なき絶叫をあげる霊夢。
その尻からは―――
立派な箒が生えていた。
「だから危ないって、言ったんだぜ?」
「ふぉっふぉっふぉぉぉ…」
意味不明な声を発しつつ崩れ落ちていく霊夢。
しかし箒の先はしっかり突き刺さったまま抜ける様子がない。
どんだけー。
「おいおい、余程気に入ったらしいが、返して貰うぜ私の箒」
ぐいっ
「あひぃん」
スポーン!!
やたら景気の良い音を境内に響かせて、霊夢から箒が抜ける。
何となく天に向かって箒を突き上げてみる魔理沙だが、
無論切っ先が光ったりとか、カッコいいSEが鳴り響いたりはしない。
クンクン
「霊夢の匂いがするぜ…」
うっとり…
「かっ、嗅ぐなっ、悦に浸るな」
「お早いお帰りで」
「何処へもイッてないわ!」
「何故かしらん、その台詞自尊心が傷つくぜ」
「お団子ー!!」
霊夢が必死の形相で魔理沙に這い寄ってくる。
「怖っ!!そんなに欲しいならな…」
「ああっ!?」
「くれてやるぜっ!!」
魔理沙がそう言い放ちつつ、真上に思い切り団子の器を放り投げる。
器は暫し空中を舞い―
ピカーッ
いきなり七色の閃光を発したかとおもうと、その中からやはり色とりどりな光を纏ったお団子(?)達がビュンビュンと四方八方に躍り出た。
「おっお団子ーっ!!」
最早巫女の目にはお団子しか映らないのか。
ていうかそれ本当にお団子なのかな?
霊夢はお尻の鈍痛も忘れて宙に躍り出て行く。
弾幕と化したかつて団子だったものたちを追いかける。
いつもは避けるものである弾幕だが、今日はそれを文字通り喰らいにいく。
「ふふふ、鈍足のお前に私のお団子たちを食べきれるかな?」
いつの間にか魔理沙のものになってしまったお団子たち。
勿論そこにツッコミをいれてる余裕など霊夢にはない。
右へ左へ縦横無尽に宙を駆け巡るお団子たち。
それを小さな口をおっ拡げてしゃにむに追いかける霊夢。
…別に口を常に開けておく必要はないのだが。
「ははは、鈍い鈍いぞ紅白…、って、アレ!?」
魔理沙は思わず眼を見開いた。
霊夢のスピードが普段見ているものより数段速い。
魔理沙の全速力にも匹敵するのではないか。
「なにーっ!?」
アーン
パクッ
モグモグ
あっという間に1つ目のお団子(?)後方に張り付いた霊夢。
彼女はいまや団子とは呼べない位カラフルなそれを、躊躇いなく口に入れてしまった。
やはり真剣な面持ちからは一転、暫し表情を緩めて幸せそうに団子(?)を方張る。
飲下し終えると再び次の目標へ向かう。
これに味をしめて、今後普通の弾まで口に入れたりしなければいいが。
ちなみに大地を蹴ってから、ここまで10秒弱。
早すぎる。
「まっ、まさか!?」
何故あの鈍亀霊夢がここまでのスピードを発揮出来るのか。
魔理沙の思考は一つの結論に至った。
「尻を通して箒に込めた私の魔力を、スピードを吸収したのか!?」
しかし加速は尻から得る。
「そうか、霊夢と私は尻を通して繋がっているのか…」
ぽっ
魔理沙の頬が朱に染まる。
「私たち、結ばれたんだな…」
コイツに性教育した奴はどこのどいつだ。
魔理沙が一人そんな寸劇を繰り広げている合間に霊夢は最後の一つを平らげてしまっていた。
怒りに歪められた霊夢の顔が下で見上げる魔理沙に向けられる。
「魔理沙ぁっ!!そこを動くんじゃないわよっ!!」
「ハッ!マズイ!!」
霊夢の怒声を浴びて我にかえり、慌てて逃げ出す魔理沙。
調子に乗って怒らせ過ぎた。
今捕まるのは流石にヤバい。
「くうぅっ、どうする!?…そっそうだ!」
「むっ!?」
全力ダッシュで神社の裏手へ周り、縁側を飛び越えて土足のまま居間へ上がり込む。
「あんにゃろ~!!」
それを追う霊夢。
しかし、居間に突入しょうと庇をくぐったところで
ビュンビュン
居間の奥から弾幕が飛び出し頬を掠めていった。
「ふんっ、やる気のようね。
いいわ徹底的に叩きのめしてあげるわよ。
おもにお尻を中心に」
弾幕勝負なら臨むところだ。
お札を取り出そうと懐へ手を伸ばす。
が、
「馬鹿霊夢ぅ~、今さっきの弾を見なかったのか?」
「はあっ!?」
何だというんだ。
慌てて振り向く霊夢。
そこにはやはりピカピカと発光しながら空を泳ぐ―――
アマゴの干物がいた。
「私の今夜のお夕飯ー!!」
再び空へ向けて急上昇する霊夢。
「ははははーっ!!どんどんいくぜーっ!!」
「行くなーっ!!」
魔理沙はもう引き際が分からない。
どうせ怒られるなら食材を全部飛ばしてやる。
なーんて妙なスイッチが入ってしまっていた。
食欲を誘ういいかおりを撒き散らせ空を回遊する干しアマゴ。
実に気持ち良さそうである。
幻想郷の大結界は川魚にも例外なく効力を発揮する。
大海を目指して川を下るも、結界に阻まれ、狭い狭い清流に閉じ込められてしまう。
遂には、釣り上げられ、腹を開かれ、干されてしまった。
だがしかし姿形は変わり果ててしまったが、彼は遂に夢にまでみた空という大海へ泳ぎ出したのだ。
ピカピカ
夕陽も殆ど沈みきり深みを増した闇夜に七色の光がよく映える。
そこへ迫り来る人影。
霊夢だ。
やっぱりあんぐりと大口を開きアマゴに迫ってくる。
さながら小魚に群がる腹を空かせたサメである。
しかし霊夢はアマゴの後ろはとれるものの、なかなか捕まえる事が出来ない。
コイツ、さっきの団子よりも幾分動きが良い。
かなりいいところまで近づくが、振りきられてしまった。
「ちぃ~っ!!絶対逃がさないんだから!!」
魔理沙が"どんどんいく"つもりなら、私も"どんどん食って"やる。
そうさ、食材が打ち上げられてくるなら空中で全部平らげてやればいい!!
いずれは腹に収まるものだ。
たまにはこういう趣向を凝らした夕食もあっていいじゃないか。
今回限りにしたいものだが。
霊夢が決意も新たに再びアマゴに肉薄した瞬間。
パクッ
思わぬ伏兵がいた。
前方に突然現れた黒い影が、横からアマゴをかっさらったのだ。
アマゴ君は調子に乗ってそこら中にいい匂いを振り撒きすぎた。
カラフルな発光も目を惹き過ぎた。
ニャ~ン♪
「ムシャムシャリ。
ん~、こりゃあ美味しいねぇ、お姉さん」
「お燐…!!」
地獄の火車猫、通称お燐。
「モゴモゴ、こんなに生きの良い魚の開きは初めてだよ」
「くぅ~!!それ私のよ!!返しなさい!!」
パクン
お燐は残りの干しアマゴを頭から丸ごと口に入れてしまった。
「このっ!!吐けっ、吐きなさい!!」
お燐に掴みかかる霊夢。
ゲシゲシゲシ
「ちょっ、吐けって…」
吐いたらそれをどうするのだろうか。
食うのか。
食っちゃうんだろうなあ。
「お、お姉さん!!下、下っ!!」
「ちっ」
箒の一件がある。
警告を無視してこれ以上お尻をゴニョゴニョされては敵わない。
既に次のトイレタイムが恐ろしい位にアレなのだから。
素直に指示された方向を見やる霊夢。
また魔理沙が食料を弾幕化させ射出したらしい。
ポイッポイッポーイッ
光の尾を引いて、霊夢ん家から宙へ踊り出て来たのは―
カブ、胡瓜、茄子、白菜、青菜、トマト…
いずれもよく漬け上がっている。
門外不出、一子相伝。
その旨さたるや一口かじれば夢心地、二口かじれば落ちた頬っぺたが二度と帰らない程。
博麗の巫女秘伝のお漬け物、"博麗漬け"の面々であった。
なーんて巷では密かに噂されているようだが、実際はごく普通に漬けられた糠付けである。
確かに、博麗霊夢の作ったお漬物 →略して→ 博麗漬け には違いないのだけれど。
「ギャー!!私のトッテオキがぁ!!」
「お姉さんが漬けたとっておき?美味しそう~」
今回放たれた食材たちはみな種類が違う。
どれから回収するべきか。
霊夢は思い出す。先日ちょっとした用事で秋姉妹の所に顔を出した。
その際、”オフシーズンは暇だからはうすさいばいを始めた。試作品が出来たから持っていけ。”
そういって二人が採れたての新鮮な野菜を譲ってくれたのだ。
豊穣の神二柱の手作り野菜たち。
さらにそこへ霊夢自身の愛情をたっぷり注ぎこんで漬け込まれている。
美味しくないわけが無い。
茄子は譲れない。
でもでも今回糠付け初トライしたトマトも惜しい。
しかしついつい思索してしまったのが命取りだった。
「人符『現世斬』!!」
突然のスペルカード宣言。
サクサクサクサクーッ
庭師がお新香を綺麗に切り分け―――
パクパクパクパクーん
亡霊嬢が全部喰う。
喰う?飲む?
飲む。
「博麗漬けのお味はいかがですか、幽々子さま?」
「これが、これが伝説の博麗漬け…!美味しいわ、美味しいわ妖夢!!」
「あ、ああ、私の…」
「ゴメンね霊夢。私には食欲に駆られた幽々子さまは止められない…
許してよ。後でうちに来れば、ちゃんと埋め合わせはするから。」
「ヘイヘイヘーイ!!ピッチャー白黒ビビってるー!?
球が来ないわよー
ばっちこーい!!ばっちこーい!!」
「幽々子さまは自重してよぉっ!!」
カサカサカサカサ…
黒いのが霊夢ん家の土間を物色し続ける。
「何だぁ、なかなか賑やかになってきたじゃないか、燃えるぜ」
口癖のように金が無い、飯が無いという割には探せば案外食材が出てくる。出てくる。
なんだよ、霊夢も存外狸だなぁと呟く魔理沙。
基本食事は他人にたかる。
たかりに失敗したら、家の周りに生えた大量のキノコを適当に胃袋に放り込めばいい。
そんなスタンスな彼女の辞書に買い置きとか、備蓄とか、計画性なんてものは載っていない。
エンゲル係数99㌫な神社の台所事情なんて知ったこっちゃ無い。
「幽々子が来ちゃったんならそろそろ潮時かもな」
手元にかき集めた食材や、食材っぽい何か達に次々と魔力を込めていく。
魔理沙は遊びに妥協しない。
体中からありったけの魔力を搾り出す。
やがて食材たちは眩しいばかりに発光を始め、今か今かとその時を待ちわびる。
「よしっ、大フィナーレだぜっ」
まずは景気付けに星型の通常弾幕をと打ちまくる。
そして、手近な食材弾をむんずと掴み、力いっぱい障子の向こうの夜空に投げ飛ばした。
「来たわっ!!どれだけ待たせるのよもうっ、魔理沙ったらもったいぶっちゃって!!」
ぐ~
「違うのよ、これはお腹が武者震いしただけなんだからね、勘違いしないでよねっ!!」
冗談だろう?さっきあんだけ食べたのに…。
霊夢の背筋に嫌な汗がにじみ出る。
本気で行かないと冗談抜きで全部幽々子に食べられてしまう。
ぱちんと両手で自らの頬を張り気合をいれた。
しかし霊夢は気付くべきだった。
神社に半分住み着いているお燐は除くとしても、遠く離れた冥界の主従がここまで出張ってきているという事実に。
ちょいちょい
「あによっ!?」
「お姉さん、餓死は駄目だよ? 餓死した魂は生きが良くないから、アタイ嫌いなんだ」
「五月蝿いっ!あんたはもう邪魔しないで!!」
ポイッ
「きたわ妖夢っ!!」
「はいっ!!」
さっきの御新香の時と同じ作戦で行くつもりらしい。
妖夢が俊足を生かして弾幕に突っ込んでいく。
「させるかぁ!!」
お尻のロケットエンジンを唸らせ、負けじと霊夢もそれに続く。
今ならスピードに差は無い筈!
妖夢の太刀が
霊夢の大口が
もはや眼が眩むほど輝き、中身が何なんだか、食えるものなのかわからないそれにぶち当たっ―――
「味噌ーなのかー、…しょっぱいよー」
パクッ
らなかった。
闇から躍り出た謎の黒い影が食材弾幕を奪ってしまう。
「ああっ」
「いっ一体何者だっ!?」
謎の影はそのまま闇夜にとけていく。
「何やってるの妖夢っ!?次が来るわよ」
「すっすいません」
「お姉さんがんばれー」
「くっそーっ」
ガンガンと宙に放たれる食材(?)弾幕。
そして周囲から迫り来る謎の影たち。
ポイッ
「うーん、鮮度が悪いなあ、しかして胡瓜に貴賓無し」
パクッ
ポイッ
「うにゅ温泉卵だ♪ほんっとコレならいくらでも食べられるよー。ところで最近同属たちからの視線がきついんだなんでだろう?まあいっか。 …あれ、なにしようとしてたんだっけ。あっ、うにゅ温泉卵だ♪」
パクッ
ポイッ
「氷ね。…雪女だからって普通そのまんま氷を食べたりはしないわよ。…霊夢。まあ頑張ってね」
パクッ
ポイッ
「これはっ!なんて質の悪い油で揚げたお揚げだ!え?いやいや、誰も食べないとは言っていないぞ!!」
モフッ
ポイッ
「らんしゃま待ってー」
モフモフッ
ポイッ
「ゆっ、ゆどうふじゃない!!とけっ、いやとけないわよ!!アタイったらさいきょう―――」
ぴちゅーん
ポイッ
「いや、わたしは嬉しいんだが、骨って。鶏がらスープかなんか作ったのか?にしては妙に唾液臭いんだけど…」
わふんっ
ポイッ
「チョコですって?まさか、いやいやきっと例の日に食べきれない程貰って、その余りとかなんだわ!絶対そうに違いないっ、妬ましい、妬ましいわ」
パルッ
ポイッ
「人参かー、巫女ん家の人参なんて食べたくないし鈴仙あげるよ、主に尻に」
ポイッ
ポイッ
「人参ね、ほらイナバ食べなさい。主に尻から」
ポイッ
ポイッ
「人参だわ。こんな手頃な太さの人参ばかり。あの娘一体何に使っていたのかしらね。そういう訳で、はいウドンゲ。尻よ、尻」
ポイッ
ポイッ
「ら、らめぇぇぇぇえっ」
パクッ
ポイッ
「ちょっ、餃子の皮だけってw しかも硬くなってますよぉ~、いやいや本当は食べたくないんですよ、でももったいないししょうがないじゃないですかぁw いやいや決して食事抜かれすぎてお腹が空いているとかそんなんじゃな―――
「じゃあ食うな」
グサグサグサッ
ポイッ
「薬い」
パクッ
ポイッ
「お酢っ!?服にかかった、ヒャンらめー透けちゃう、臭い臭いーーっ!!でもそこがイイーー!!」
イクッ
ポイッ
「呼びましたか?ってコレ総領娘様の桃じゃあありませんか。あ、この桃お酢臭い。そしてどういうわけか肌色ですね。あれあれ、何故か無性にこの桃の窪みをドリルで堀たくなって来ましたよ」
イクッイクッ
ポイッ
「なによ汚い花火ね。私がもっと綺麗なお花を咲かせてあげるわ。そおら」
イクーーーーーーッ
ポイッ
「牛乳ですか?これ以上サラシがきつくなったら嫌ですけど、霊夢さんのなら…」
パクッ
ポイッ
「私にバターとか嫌がらせか?妹紅にやるか。ん?違う違う”やる”ってそういう意味じゃないぞ、すごく健全な意味でやるんだ”食べさせてやる”ってことで、ああ違う!!日本語は難しいな」
「おい慧音なにテンパって―――」
「いただきます」
パクッ
ポイッ
「チーズ。また乳製品なのね…。乳製品。結局都市伝説なのよ霊夢。結局これの恩恵に与れるのは元々持っている奴らのみなのよ!!でもあなたの気持ち。よく分かるわ霊夢。ええっ分かりますとも!!」
パクッ
ポイッ
「ふふふ、麓の巫女もなかなかどうして良い縄を持っているじゃない。ふむ、この長さ、このくたびれ具合。随分と大き目のものを複雑に縛り上げていたみたいね… ごくり。早苗ー、ちょっと早苗ー」
パクッ
ポイッ
「シリアル?ああ、外界にいるとき早苗が良く朝食はこれだけで済ませてたっけ。で、結局昼前にお腹が空いちゃって間食スイーツ(笑)っと」
ケロッグッ
ポイッ
「うん。私が来たってことは、そういうことなんだ。巫女も可愛い顔して私の仲間たちをむさぼり食ってるってこと。まあ、普通の若い女子は私たちを食べるのにはすごい抵抗があると思うから、その点だけは評価してあげるよ。料理されちゃった以上は食べてもらわないと悲しいからね」
バグッ
ポイッ
「花粉の時期は~鼻紙何枚あっても足りないね~♪」
ちんち~ん
ポイッ
「これは… Aカップ…? そう、あなたは少々大きすぎる。―――有罪」
ザナッ
ポイッ
「霊夢こんなイイ酒何処に隠してたのさー!隠れてちびちび飲むなんてズル… ん…? この瓶の口、霊夢の唇の匂いが」
パクッ
ポイッ
「霊夢の寝巻き!? ウー、馬鹿にしてるのっ!?なんで下着じゃないのよっ!!」
パクッ
ポイッ
「霊夢の歯ブラシですって?是非もなし」
パクッ
ポイッ
「あやややや霊夢さんのドロワーキタコレ」
パクッ
宙を彩った食の弾幕が止み、やっと幻想郷にいつも通りの静かな夜が訪れた。
そして。
ひゅーん
ふわふわり
シュタ
「魔理沙」
「あれっ霊夢?もう投げる食材が無いぜ」
「…我が家の食料は、アンタが最後に撒いた重曹でキレイサッパリスッカラカンよ」
「ありゃー、じゃあ勝負はここまでだな」
「…そうね」
「判定っ!!博麗選手は後半キャッチミス連発!!無駄に動き回っては腋チラばかり!!
キャッチが不可能と踏んで色仕掛けで不正に得点を稼ごうなんて不届き千万!!
対して霧雨選手の美しく可愛く可憐なスローイング!!感動した!!
優勝は霧雨選手!!パチパチパチ~」
「そうなの、ふ~ん、おめでとう」
「ありがとう!じゃあ運動してお腹も空いたし私は帰るぜ
ここにいても晩御飯は期待できないだろうからな」
「そうね、食料がないしね
作りたくても作れないよね」
「だなっ!!じゃっ!!」
ガシッ
ムンズ
「あれれ、霊夢ー、なぜか知らんがお空が近いぜ?」
「そりゃそうでしょうね、私が魔理沙をリフトアップしているからね」
「なぜリフトアップするのぜ?」
「食料がないなら魔理沙を投げればいいじゃない」
ポイッ
「「ウホッ良い魔理沙」」
パクッ
「ら、らめぇーーーっ!!!!」
アーッ
「優勝トロフィーは霧雨選手をキャッチしたマーガトロイド、及びノーレッジ両選手に贈られます」
縁側に腰掛け、隣り合って茶を啜るお馴染みの顔が二つ。
博麗霊夢と霧雨魔理沙。
ピョイン
唐突に魔理沙が地面に降り立つ。
「霊夢ー、ホラホラ」
ポイッ
魔理沙の手から放たれ、空に弧を描くのは真っ白な玉。
神社の屋根を飛び越し、眼下に広がる幻想郷の大自然を一瞥する。
程なくして重力に引かれ自由落下へ突入した。
一方の魔理沙は身体を空に向かって仰け反らせて、右へフラフラ左へフラフラ。
しかしやがて立ち位置を見定めると、腰に両手を置きドッシリと構える。
あーんと小さな口を目一杯広げるとそこ目掛けて玉が飛び込んでくる。
パクッ
見事なキャッチだ。
「モゴモゴ、どうりゃ見たか!!」
「それ私のお団子」
ベチン
自慢気に霊夢の元へ戻ってきた魔理沙だったが、霊夢にはたかれてしまった。
「痛いぜ」
しかし反省をする素振りも見せない魔理沙。
盗賊稼業でならした音速の腕をふるう。
「あっ」
霊夢の脇に置かれていた団子入りの器だったが、それは一瞬にして消え失せ、今は魔理沙の腕の中。
「よし、次は霊夢の番な」
「ちょ、勝手に…」
「ていっ」
ポイッ
魔理沙の後ろ手でのスローイング。
まるで書き損じの便箋を、丸めて背後の屑籠に投げ捨てるような容赦のなさだ。
明後日の方へかっ飛んでいくお団子。
先の一投とは変わってあんまり角度がない。
「ああもうっ!」
履き物を履く間もない。
霊夢は縁側から弾丸スタートを切った。
一気に加速すると、直ぐさま団子の射線上へ向けて地面を踏み切り飛び込んだ。
パクッ
地面スレスレでのダイビングキャッチ。
そのまま頭から地面に突っ込むかと思いきや―
クルン
スタン
膝を抱えて宙返り。
体勢を立て直し難なく爪先から着地した。
モグモグ
ゴックン
真剣な眼差しからは一転、立ち止まり暫し幸せそうに団子を味わい飲下する。
「おおおーっ!お見事!」
「馬鹿魔理沙!」
ふっと霊夢の姿が消え失せると、次の瞬間には魔理沙を羽交い締めにしている。
「のわっ、そういやこの巫女瞬間移動するんだった!!
反則だぜ、私の感動を返せ!」
「見てなかったの、さっきのは瞬間移動無しの正真正銘なプァーフェクトキャッチだったでしょが!!
ていうか、んな事どうでもいいのよ、ほらっ!返しなさいよ私のお団子」
「やだやだ、もっと霊夢さんのアクロバティックキャッチ、見せてほしいんだぜ!」
霊夢は片腕で魔理沙の腰をガッチリ捕まえ、空いた手で必死に団子の器を取り返そうとする。
対する魔理沙は自慢のお尻でグイグイと霊夢を押し退けつつ、両腕は団子の器をしっかりガード。
霊夢は真剣、ちょっと怖いぐらい真剣な表情だが、魔理沙はキャッキャッと楽しそうだ。
「あっ!霊夢後ろ後ろ!危ないぜ!」
「そんな見え透いた手、くわな―」
ピューン
グサーーーッ!!!!
「ーーーッ!!!!」
声なき絶叫をあげる霊夢。
その尻からは―――
立派な箒が生えていた。
「だから危ないって、言ったんだぜ?」
「ふぉっふぉっふぉぉぉ…」
意味不明な声を発しつつ崩れ落ちていく霊夢。
しかし箒の先はしっかり突き刺さったまま抜ける様子がない。
どんだけー。
「おいおい、余程気に入ったらしいが、返して貰うぜ私の箒」
ぐいっ
「あひぃん」
スポーン!!
やたら景気の良い音を境内に響かせて、霊夢から箒が抜ける。
何となく天に向かって箒を突き上げてみる魔理沙だが、
無論切っ先が光ったりとか、カッコいいSEが鳴り響いたりはしない。
クンクン
「霊夢の匂いがするぜ…」
うっとり…
「かっ、嗅ぐなっ、悦に浸るな」
「お早いお帰りで」
「何処へもイッてないわ!」
「何故かしらん、その台詞自尊心が傷つくぜ」
「お団子ー!!」
霊夢が必死の形相で魔理沙に這い寄ってくる。
「怖っ!!そんなに欲しいならな…」
「ああっ!?」
「くれてやるぜっ!!」
魔理沙がそう言い放ちつつ、真上に思い切り団子の器を放り投げる。
器は暫し空中を舞い―
ピカーッ
いきなり七色の閃光を発したかとおもうと、その中からやはり色とりどりな光を纏ったお団子(?)達がビュンビュンと四方八方に躍り出た。
「おっお団子ーっ!!」
最早巫女の目にはお団子しか映らないのか。
ていうかそれ本当にお団子なのかな?
霊夢はお尻の鈍痛も忘れて宙に躍り出て行く。
弾幕と化したかつて団子だったものたちを追いかける。
いつもは避けるものである弾幕だが、今日はそれを文字通り喰らいにいく。
「ふふふ、鈍足のお前に私のお団子たちを食べきれるかな?」
いつの間にか魔理沙のものになってしまったお団子たち。
勿論そこにツッコミをいれてる余裕など霊夢にはない。
右へ左へ縦横無尽に宙を駆け巡るお団子たち。
それを小さな口をおっ拡げてしゃにむに追いかける霊夢。
…別に口を常に開けておく必要はないのだが。
「ははは、鈍い鈍いぞ紅白…、って、アレ!?」
魔理沙は思わず眼を見開いた。
霊夢のスピードが普段見ているものより数段速い。
魔理沙の全速力にも匹敵するのではないか。
「なにーっ!?」
アーン
パクッ
モグモグ
あっという間に1つ目のお団子(?)後方に張り付いた霊夢。
彼女はいまや団子とは呼べない位カラフルなそれを、躊躇いなく口に入れてしまった。
やはり真剣な面持ちからは一転、暫し表情を緩めて幸せそうに団子(?)を方張る。
飲下し終えると再び次の目標へ向かう。
これに味をしめて、今後普通の弾まで口に入れたりしなければいいが。
ちなみに大地を蹴ってから、ここまで10秒弱。
早すぎる。
「まっ、まさか!?」
何故あの鈍亀霊夢がここまでのスピードを発揮出来るのか。
魔理沙の思考は一つの結論に至った。
「尻を通して箒に込めた私の魔力を、スピードを吸収したのか!?」
しかし加速は尻から得る。
「そうか、霊夢と私は尻を通して繋がっているのか…」
ぽっ
魔理沙の頬が朱に染まる。
「私たち、結ばれたんだな…」
コイツに性教育した奴はどこのどいつだ。
魔理沙が一人そんな寸劇を繰り広げている合間に霊夢は最後の一つを平らげてしまっていた。
怒りに歪められた霊夢の顔が下で見上げる魔理沙に向けられる。
「魔理沙ぁっ!!そこを動くんじゃないわよっ!!」
「ハッ!マズイ!!」
霊夢の怒声を浴びて我にかえり、慌てて逃げ出す魔理沙。
調子に乗って怒らせ過ぎた。
今捕まるのは流石にヤバい。
「くうぅっ、どうする!?…そっそうだ!」
「むっ!?」
全力ダッシュで神社の裏手へ周り、縁側を飛び越えて土足のまま居間へ上がり込む。
「あんにゃろ~!!」
それを追う霊夢。
しかし、居間に突入しょうと庇をくぐったところで
ビュンビュン
居間の奥から弾幕が飛び出し頬を掠めていった。
「ふんっ、やる気のようね。
いいわ徹底的に叩きのめしてあげるわよ。
おもにお尻を中心に」
弾幕勝負なら臨むところだ。
お札を取り出そうと懐へ手を伸ばす。
が、
「馬鹿霊夢ぅ~、今さっきの弾を見なかったのか?」
「はあっ!?」
何だというんだ。
慌てて振り向く霊夢。
そこにはやはりピカピカと発光しながら空を泳ぐ―――
アマゴの干物がいた。
「私の今夜のお夕飯ー!!」
再び空へ向けて急上昇する霊夢。
「ははははーっ!!どんどんいくぜーっ!!」
「行くなーっ!!」
魔理沙はもう引き際が分からない。
どうせ怒られるなら食材を全部飛ばしてやる。
なーんて妙なスイッチが入ってしまっていた。
食欲を誘ういいかおりを撒き散らせ空を回遊する干しアマゴ。
実に気持ち良さそうである。
幻想郷の大結界は川魚にも例外なく効力を発揮する。
大海を目指して川を下るも、結界に阻まれ、狭い狭い清流に閉じ込められてしまう。
遂には、釣り上げられ、腹を開かれ、干されてしまった。
だがしかし姿形は変わり果ててしまったが、彼は遂に夢にまでみた空という大海へ泳ぎ出したのだ。
ピカピカ
夕陽も殆ど沈みきり深みを増した闇夜に七色の光がよく映える。
そこへ迫り来る人影。
霊夢だ。
やっぱりあんぐりと大口を開きアマゴに迫ってくる。
さながら小魚に群がる腹を空かせたサメである。
しかし霊夢はアマゴの後ろはとれるものの、なかなか捕まえる事が出来ない。
コイツ、さっきの団子よりも幾分動きが良い。
かなりいいところまで近づくが、振りきられてしまった。
「ちぃ~っ!!絶対逃がさないんだから!!」
魔理沙が"どんどんいく"つもりなら、私も"どんどん食って"やる。
そうさ、食材が打ち上げられてくるなら空中で全部平らげてやればいい!!
いずれは腹に収まるものだ。
たまにはこういう趣向を凝らした夕食もあっていいじゃないか。
今回限りにしたいものだが。
霊夢が決意も新たに再びアマゴに肉薄した瞬間。
パクッ
思わぬ伏兵がいた。
前方に突然現れた黒い影が、横からアマゴをかっさらったのだ。
アマゴ君は調子に乗ってそこら中にいい匂いを振り撒きすぎた。
カラフルな発光も目を惹き過ぎた。
ニャ~ン♪
「ムシャムシャリ。
ん~、こりゃあ美味しいねぇ、お姉さん」
「お燐…!!」
地獄の火車猫、通称お燐。
「モゴモゴ、こんなに生きの良い魚の開きは初めてだよ」
「くぅ~!!それ私のよ!!返しなさい!!」
パクン
お燐は残りの干しアマゴを頭から丸ごと口に入れてしまった。
「このっ!!吐けっ、吐きなさい!!」
お燐に掴みかかる霊夢。
ゲシゲシゲシ
「ちょっ、吐けって…」
吐いたらそれをどうするのだろうか。
食うのか。
食っちゃうんだろうなあ。
「お、お姉さん!!下、下っ!!」
「ちっ」
箒の一件がある。
警告を無視してこれ以上お尻をゴニョゴニョされては敵わない。
既に次のトイレタイムが恐ろしい位にアレなのだから。
素直に指示された方向を見やる霊夢。
また魔理沙が食料を弾幕化させ射出したらしい。
ポイッポイッポーイッ
光の尾を引いて、霊夢ん家から宙へ踊り出て来たのは―
カブ、胡瓜、茄子、白菜、青菜、トマト…
いずれもよく漬け上がっている。
門外不出、一子相伝。
その旨さたるや一口かじれば夢心地、二口かじれば落ちた頬っぺたが二度と帰らない程。
博麗の巫女秘伝のお漬け物、"博麗漬け"の面々であった。
なーんて巷では密かに噂されているようだが、実際はごく普通に漬けられた糠付けである。
確かに、博麗霊夢の作ったお漬物 →略して→ 博麗漬け には違いないのだけれど。
「ギャー!!私のトッテオキがぁ!!」
「お姉さんが漬けたとっておき?美味しそう~」
今回放たれた食材たちはみな種類が違う。
どれから回収するべきか。
霊夢は思い出す。先日ちょっとした用事で秋姉妹の所に顔を出した。
その際、”オフシーズンは暇だからはうすさいばいを始めた。試作品が出来たから持っていけ。”
そういって二人が採れたての新鮮な野菜を譲ってくれたのだ。
豊穣の神二柱の手作り野菜たち。
さらにそこへ霊夢自身の愛情をたっぷり注ぎこんで漬け込まれている。
美味しくないわけが無い。
茄子は譲れない。
でもでも今回糠付け初トライしたトマトも惜しい。
しかしついつい思索してしまったのが命取りだった。
「人符『現世斬』!!」
突然のスペルカード宣言。
サクサクサクサクーッ
庭師がお新香を綺麗に切り分け―――
パクパクパクパクーん
亡霊嬢が全部喰う。
喰う?飲む?
飲む。
「博麗漬けのお味はいかがですか、幽々子さま?」
「これが、これが伝説の博麗漬け…!美味しいわ、美味しいわ妖夢!!」
「あ、ああ、私の…」
「ゴメンね霊夢。私には食欲に駆られた幽々子さまは止められない…
許してよ。後でうちに来れば、ちゃんと埋め合わせはするから。」
「ヘイヘイヘーイ!!ピッチャー白黒ビビってるー!?
球が来ないわよー
ばっちこーい!!ばっちこーい!!」
「幽々子さまは自重してよぉっ!!」
カサカサカサカサ…
黒いのが霊夢ん家の土間を物色し続ける。
「何だぁ、なかなか賑やかになってきたじゃないか、燃えるぜ」
口癖のように金が無い、飯が無いという割には探せば案外食材が出てくる。出てくる。
なんだよ、霊夢も存外狸だなぁと呟く魔理沙。
基本食事は他人にたかる。
たかりに失敗したら、家の周りに生えた大量のキノコを適当に胃袋に放り込めばいい。
そんなスタンスな彼女の辞書に買い置きとか、備蓄とか、計画性なんてものは載っていない。
エンゲル係数99㌫な神社の台所事情なんて知ったこっちゃ無い。
「幽々子が来ちゃったんならそろそろ潮時かもな」
手元にかき集めた食材や、食材っぽい何か達に次々と魔力を込めていく。
魔理沙は遊びに妥協しない。
体中からありったけの魔力を搾り出す。
やがて食材たちは眩しいばかりに発光を始め、今か今かとその時を待ちわびる。
「よしっ、大フィナーレだぜっ」
まずは景気付けに星型の通常弾幕をと打ちまくる。
そして、手近な食材弾をむんずと掴み、力いっぱい障子の向こうの夜空に投げ飛ばした。
「来たわっ!!どれだけ待たせるのよもうっ、魔理沙ったらもったいぶっちゃって!!」
ぐ~
「違うのよ、これはお腹が武者震いしただけなんだからね、勘違いしないでよねっ!!」
冗談だろう?さっきあんだけ食べたのに…。
霊夢の背筋に嫌な汗がにじみ出る。
本気で行かないと冗談抜きで全部幽々子に食べられてしまう。
ぱちんと両手で自らの頬を張り気合をいれた。
しかし霊夢は気付くべきだった。
神社に半分住み着いているお燐は除くとしても、遠く離れた冥界の主従がここまで出張ってきているという事実に。
ちょいちょい
「あによっ!?」
「お姉さん、餓死は駄目だよ? 餓死した魂は生きが良くないから、アタイ嫌いなんだ」
「五月蝿いっ!あんたはもう邪魔しないで!!」
ポイッ
「きたわ妖夢っ!!」
「はいっ!!」
さっきの御新香の時と同じ作戦で行くつもりらしい。
妖夢が俊足を生かして弾幕に突っ込んでいく。
「させるかぁ!!」
お尻のロケットエンジンを唸らせ、負けじと霊夢もそれに続く。
今ならスピードに差は無い筈!
妖夢の太刀が
霊夢の大口が
もはや眼が眩むほど輝き、中身が何なんだか、食えるものなのかわからないそれにぶち当たっ―――
「味噌ーなのかー、…しょっぱいよー」
パクッ
らなかった。
闇から躍り出た謎の黒い影が食材弾幕を奪ってしまう。
「ああっ」
「いっ一体何者だっ!?」
謎の影はそのまま闇夜にとけていく。
「何やってるの妖夢っ!?次が来るわよ」
「すっすいません」
「お姉さんがんばれー」
「くっそーっ」
ガンガンと宙に放たれる食材(?)弾幕。
そして周囲から迫り来る謎の影たち。
ポイッ
「うーん、鮮度が悪いなあ、しかして胡瓜に貴賓無し」
パクッ
ポイッ
「うにゅ温泉卵だ♪ほんっとコレならいくらでも食べられるよー。ところで最近同属たちからの視線がきついんだなんでだろう?まあいっか。 …あれ、なにしようとしてたんだっけ。あっ、うにゅ温泉卵だ♪」
パクッ
ポイッ
「氷ね。…雪女だからって普通そのまんま氷を食べたりはしないわよ。…霊夢。まあ頑張ってね」
パクッ
ポイッ
「これはっ!なんて質の悪い油で揚げたお揚げだ!え?いやいや、誰も食べないとは言っていないぞ!!」
モフッ
ポイッ
「らんしゃま待ってー」
モフモフッ
ポイッ
「ゆっ、ゆどうふじゃない!!とけっ、いやとけないわよ!!アタイったらさいきょう―――」
ぴちゅーん
ポイッ
「いや、わたしは嬉しいんだが、骨って。鶏がらスープかなんか作ったのか?にしては妙に唾液臭いんだけど…」
わふんっ
ポイッ
「チョコですって?まさか、いやいやきっと例の日に食べきれない程貰って、その余りとかなんだわ!絶対そうに違いないっ、妬ましい、妬ましいわ」
パルッ
ポイッ
「人参かー、巫女ん家の人参なんて食べたくないし鈴仙あげるよ、主に尻に」
ポイッ
ポイッ
「人参ね、ほらイナバ食べなさい。主に尻から」
ポイッ
ポイッ
「人参だわ。こんな手頃な太さの人参ばかり。あの娘一体何に使っていたのかしらね。そういう訳で、はいウドンゲ。尻よ、尻」
ポイッ
ポイッ
「ら、らめぇぇぇぇえっ」
パクッ
ポイッ
「ちょっ、餃子の皮だけってw しかも硬くなってますよぉ~、いやいや本当は食べたくないんですよ、でももったいないししょうがないじゃないですかぁw いやいや決して食事抜かれすぎてお腹が空いているとかそんなんじゃな―――
「じゃあ食うな」
グサグサグサッ
ポイッ
「薬い」
パクッ
ポイッ
「お酢っ!?服にかかった、ヒャンらめー透けちゃう、臭い臭いーーっ!!でもそこがイイーー!!」
イクッ
ポイッ
「呼びましたか?ってコレ総領娘様の桃じゃあありませんか。あ、この桃お酢臭い。そしてどういうわけか肌色ですね。あれあれ、何故か無性にこの桃の窪みをドリルで堀たくなって来ましたよ」
イクッイクッ
ポイッ
「なによ汚い花火ね。私がもっと綺麗なお花を咲かせてあげるわ。そおら」
イクーーーーーーッ
ポイッ
「牛乳ですか?これ以上サラシがきつくなったら嫌ですけど、霊夢さんのなら…」
パクッ
ポイッ
「私にバターとか嫌がらせか?妹紅にやるか。ん?違う違う”やる”ってそういう意味じゃないぞ、すごく健全な意味でやるんだ”食べさせてやる”ってことで、ああ違う!!日本語は難しいな」
「おい慧音なにテンパって―――」
「いただきます」
パクッ
ポイッ
「チーズ。また乳製品なのね…。乳製品。結局都市伝説なのよ霊夢。結局これの恩恵に与れるのは元々持っている奴らのみなのよ!!でもあなたの気持ち。よく分かるわ霊夢。ええっ分かりますとも!!」
パクッ
ポイッ
「ふふふ、麓の巫女もなかなかどうして良い縄を持っているじゃない。ふむ、この長さ、このくたびれ具合。随分と大き目のものを複雑に縛り上げていたみたいね… ごくり。早苗ー、ちょっと早苗ー」
パクッ
ポイッ
「シリアル?ああ、外界にいるとき早苗が良く朝食はこれだけで済ませてたっけ。で、結局昼前にお腹が空いちゃって間食スイーツ(笑)っと」
ケロッグッ
ポイッ
「うん。私が来たってことは、そういうことなんだ。巫女も可愛い顔して私の仲間たちをむさぼり食ってるってこと。まあ、普通の若い女子は私たちを食べるのにはすごい抵抗があると思うから、その点だけは評価してあげるよ。料理されちゃった以上は食べてもらわないと悲しいからね」
バグッ
ポイッ
「花粉の時期は~鼻紙何枚あっても足りないね~♪」
ちんち~ん
ポイッ
「これは… Aカップ…? そう、あなたは少々大きすぎる。―――有罪」
ザナッ
ポイッ
「霊夢こんなイイ酒何処に隠してたのさー!隠れてちびちび飲むなんてズル… ん…? この瓶の口、霊夢の唇の匂いが」
パクッ
ポイッ
「霊夢の寝巻き!? ウー、馬鹿にしてるのっ!?なんで下着じゃないのよっ!!」
パクッ
ポイッ
「霊夢の歯ブラシですって?是非もなし」
パクッ
ポイッ
「あやややや霊夢さんのドロワーキタコレ」
パクッ
宙を彩った食の弾幕が止み、やっと幻想郷にいつも通りの静かな夜が訪れた。
そして。
ひゅーん
ふわふわり
シュタ
「魔理沙」
「あれっ霊夢?もう投げる食材が無いぜ」
「…我が家の食料は、アンタが最後に撒いた重曹でキレイサッパリスッカラカンよ」
「ありゃー、じゃあ勝負はここまでだな」
「…そうね」
「判定っ!!博麗選手は後半キャッチミス連発!!無駄に動き回っては腋チラばかり!!
キャッチが不可能と踏んで色仕掛けで不正に得点を稼ごうなんて不届き千万!!
対して霧雨選手の美しく可愛く可憐なスローイング!!感動した!!
優勝は霧雨選手!!パチパチパチ~」
「そうなの、ふ~ん、おめでとう」
「ありがとう!じゃあ運動してお腹も空いたし私は帰るぜ
ここにいても晩御飯は期待できないだろうからな」
「そうね、食料がないしね
作りたくても作れないよね」
「だなっ!!じゃっ!!」
ガシッ
ムンズ
「あれれ、霊夢ー、なぜか知らんがお空が近いぜ?」
「そりゃそうでしょうね、私が魔理沙をリフトアップしているからね」
「なぜリフトアップするのぜ?」
「食料がないなら魔理沙を投げればいいじゃない」
ポイッ
「「ウホッ良い魔理沙」」
パクッ
「ら、らめぇーーーっ!!!!」
アーッ
「優勝トロフィーは霧雨選手をキャッチしたマーガトロイド、及びノーレッジ両選手に贈られます」