「キスメって恥ずかしがり屋で口下手の割には妙に積極的だよね」
そう評するのは同じ地底妖怪のヤマメである。
確かに、彼女は普段から桶に半身、いや目から下の部分の大半を隠しているような状態である。
そのようなスタイルと本人の性格もあってか、他者とは常々上目遣いで接するような形になる。
それが結果的に様々な妖怪の寵愛を受けることになっているのだが、余談であるので置いておく。
いや、あながち無関係と言うわけでもないのだが。
ともかく、基本的に内気で引っ込み思案な彼女だが、妖怪たちの間では彼女の事を次のように呼んでいるらしい。
「誘い受けの女王」と。
誘い受け。
すなわち基本的に受身の姿勢であり本人から積極的に行動しているとは言えない評である。
そういう意味ではヤマメの認識は正しいとは言いがたい。
だがそれに繋がる引金を彼女が引いているという事に関しては間違いないようだ。
事実、彼女に誘われたと主張する妖怪たちはほぼ例外なく次のような事を漏らすと言う。
「上目遣いであんな必死な表情で言われたら、発情期でも無いのに催してくるってモノだね」
「本人がまるでそんな気が無さそうなのに抗えない魔力……。妬ましいわ」
はてさて、妖怪の中では決して強いとはいえぬ彼女が強さを問わず様々な妖怪を堕とすその力とは何であろうか。
証言から察するに彼女から発せられる言葉が引金となっているようであるが。
そもそもキスメは妖怪たちを堕とそうとしているのだろうか。
この謎を解くためには、妖怪のあり方、そして言葉の持つ影響を考えていく事が最善であろう。
そも、妖怪とは精神に重きを置く存在である。
妖怪にとって言葉は、文字通り体を引き裂く刃とも、癒し包み込む光ともなりうる。
とりわけ名前に関しては、個の識別のみならず、存在そのものの根幹にも影響を与えるほどの力を持つ。
地上にはその名前の持つ力を奪われ、本来のあり方を歪められてしまった者もいると言う。
考えてもみるがいい。
本来「太郎」と言う名を持つものが、ある日突然周囲のものから「花子」と呼ばれだしたらどうなるか。
いくら太郎が「太郎」であると主張しても、周囲が受け入れなければ「太郎」として存在する事は極めて難しい。
反発すれば、周囲との認識の差異に苦しみ続ける事になる。
受け入れてしまえばそれは「太郎」としての人生の否定にすら繋がりかねない。
どちらも精神を磨耗させ、場合によっては人格崩壊などもありうるだろう。
人間ですらそのような可能性がある。
まして精神が主である妖怪にとっては、名前の重要性、その力を奪われた影響は計り知れない。
ゆえに、妖怪は名前を重要視する。
仕合の際に大きく名乗りを上げることも、単に存在を誇示するだけにとどまらない。
自らを再定義し、力の根源を確固たるものにすると言う重要な意味を持つわけだ。
一妖怪であるキスメも当然の事ながら名前を重要視している。
精神依存が大きい妖怪にとって、恥ずかしがり屋、気弱などと言う性格は、人間で言えば体力、筋力に劣ると言う事に等しい。
彼女にとって自身の名前とは自らの力と存在を定義する唯一の方法であるとも言えるだろう。
仮に名前の持つ力が奪われた場合、彼女にとっては消滅の危険性すらある。
名前が文字通りの生命線となっているわけだ。
結論を言おう。
彼女は誘い受けなどをしているつもりは毛頭無い。
力の弱い彼女は他者に自分の存在を認識してもらう事に必死にならざるを得ない。
ただ、口下手で会話を行う事が苦手である彼女は、相手に対して自らの名前を発する事が精一杯なだけである。
そこにはそれ以上の意図があるわけではない。
それが相手に対して抗いがたい誘惑となっていても、だ。
結果的に数多の妖怪の庇護を受ける事に結びついているのは彼女にとって僥倖である。
しかし、そのような事がなくても、自らの存在を守るために言葉を発するしかない。
ゆえに彼女は今日も自らの名前を主張し続ける
「Kiss me!」
そう評するのは同じ地底妖怪のヤマメである。
確かに、彼女は普段から桶に半身、いや目から下の部分の大半を隠しているような状態である。
そのようなスタイルと本人の性格もあってか、他者とは常々上目遣いで接するような形になる。
それが結果的に様々な妖怪の寵愛を受けることになっているのだが、余談であるので置いておく。
いや、あながち無関係と言うわけでもないのだが。
ともかく、基本的に内気で引っ込み思案な彼女だが、妖怪たちの間では彼女の事を次のように呼んでいるらしい。
「誘い受けの女王」と。
誘い受け。
すなわち基本的に受身の姿勢であり本人から積極的に行動しているとは言えない評である。
そういう意味ではヤマメの認識は正しいとは言いがたい。
だがそれに繋がる引金を彼女が引いているという事に関しては間違いないようだ。
事実、彼女に誘われたと主張する妖怪たちはほぼ例外なく次のような事を漏らすと言う。
「上目遣いであんな必死な表情で言われたら、発情期でも無いのに催してくるってモノだね」
「本人がまるでそんな気が無さそうなのに抗えない魔力……。妬ましいわ」
はてさて、妖怪の中では決して強いとはいえぬ彼女が強さを問わず様々な妖怪を堕とすその力とは何であろうか。
証言から察するに彼女から発せられる言葉が引金となっているようであるが。
そもそもキスメは妖怪たちを堕とそうとしているのだろうか。
この謎を解くためには、妖怪のあり方、そして言葉の持つ影響を考えていく事が最善であろう。
そも、妖怪とは精神に重きを置く存在である。
妖怪にとって言葉は、文字通り体を引き裂く刃とも、癒し包み込む光ともなりうる。
とりわけ名前に関しては、個の識別のみならず、存在そのものの根幹にも影響を与えるほどの力を持つ。
地上にはその名前の持つ力を奪われ、本来のあり方を歪められてしまった者もいると言う。
考えてもみるがいい。
本来「太郎」と言う名を持つものが、ある日突然周囲のものから「花子」と呼ばれだしたらどうなるか。
いくら太郎が「太郎」であると主張しても、周囲が受け入れなければ「太郎」として存在する事は極めて難しい。
反発すれば、周囲との認識の差異に苦しみ続ける事になる。
受け入れてしまえばそれは「太郎」としての人生の否定にすら繋がりかねない。
どちらも精神を磨耗させ、場合によっては人格崩壊などもありうるだろう。
人間ですらそのような可能性がある。
まして精神が主である妖怪にとっては、名前の重要性、その力を奪われた影響は計り知れない。
ゆえに、妖怪は名前を重要視する。
仕合の際に大きく名乗りを上げることも、単に存在を誇示するだけにとどまらない。
自らを再定義し、力の根源を確固たるものにすると言う重要な意味を持つわけだ。
一妖怪であるキスメも当然の事ながら名前を重要視している。
精神依存が大きい妖怪にとって、恥ずかしがり屋、気弱などと言う性格は、人間で言えば体力、筋力に劣ると言う事に等しい。
彼女にとって自身の名前とは自らの力と存在を定義する唯一の方法であるとも言えるだろう。
仮に名前の持つ力が奪われた場合、彼女にとっては消滅の危険性すらある。
名前が文字通りの生命線となっているわけだ。
結論を言おう。
彼女は誘い受けなどをしているつもりは毛頭無い。
力の弱い彼女は他者に自分の存在を認識してもらう事に必死にならざるを得ない。
ただ、口下手で会話を行う事が苦手である彼女は、相手に対して自らの名前を発する事が精一杯なだけである。
そこにはそれ以上の意図があるわけではない。
それが相手に対して抗いがたい誘惑となっていても、だ。
結果的に数多の妖怪の庇護を受ける事に結びついているのは彼女にとって僥倖である。
しかし、そのような事がなくても、自らの存在を守るために言葉を発するしかない。
ゆえに彼女は今日も自らの名前を主張し続ける
「Kiss me!」
御見事な釣瓶落としでした。
さて、俺も行くか……
貴方の神が懸ったセンスに脱帽です。
ちょっと地底行ってくる
へんじがない、おんばしらにつぶされたもののまつろのようだ