Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

人形使いさんのお話

2009/02/22 20:44:16
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ここは人間の里。最近よく妖怪の姿も確認されるれど、それでも人間の里。
最近この人間の里でとある噂がされていた。人呼んで「不思議の国の人形師いさん」。
ふらりと子供たちが遊んでいる所に現われては、数々の人形芸を見せて行き、人が集まり始めるとふらりといつの間にか去っていく謎の人物である。
ただの人形劇程度ならよくいるただの大道芸人的な扱いですんだだろう。噂になるにはなるなりの衝撃がある。
例えば、多くの人形が一斉に光線を放ったり、一斉に爆発したという目撃情報もある。
どこまでが噂なのか確証はなかったが、その神業的な技術もあいなって「子供たちの生き血を狙った吸血鬼の刺客だ」とか「神隠しの主犯」だと言われたい放題ではあるが、今のところ実害もないので子供たちの間だけのひそかな娯楽であった。

――そして、彼女は今日もやってきた。





「おい、あの人が来たぞっ!」

彼女の姿を確認した第一号の少年が速やかに周りに報告を行う。
役割分担どおりに各々が活動を開始する。
目標の修正を踏まえた綿密な作戦が練られていた。
主な作戦活動は火急速やかに里のグループに所属する子供たちに目標の到来を告げること。
最重要課題、大人達に怪しまれないようにすること。
これは目標が大人達の姿を見かけるとそそくさと去ってしまうからである。
集める人数が多くても大人達は怪しむため、グループ所属する人数も必要最小限である。
情報を回した班に与えられる報償は特等席(最前列)での見学が許可される。
己の利益のみを追従したものには罰則規定あり(初犯ならば当分最後尾でしか見れず、複数回繰り返すならばグループから追い出される)。

そんな組織だった動きをしてでも見に来る程度には、その金髪の女性の人形芸は面白いのである。
同じ芸ばかりではなく、毎回趣向を凝らした芸であるというのも人気の秘密だった。
それは人形主演の演劇だったり、人形たちの演奏会だったりした。
それを一人の女性がやっているのだから、子供たちにとっては英雄さながらの扱いである。
子供たちの好奇の視線の中、人形芸は始められた。

「本日もお集まりいただきありがとうございます」

女性による一礼に続いて、他の人形たちも一斉に一礼する。
ぱちぱちぱち、と惜しみない拍手が送られる。

今日の人形芸は人形たちによる大道芸であった。
綱を高いところに張ってバランスのために長い棒を持ってわたっていたり、
ブランコからブランコへ飛び移ったり、入り乱れたりして飛んだり、
大きな球に乗って、バランスを保つながら他の人形達を上に乗せていったりと、生の人間でも出来そうにないことを次々とやってのけている。
成功ばかりでなく、時折わざとらしく失敗しているのもご愛嬌。
それを見ている子供たちの表情も息を呑んだり、笑顔になったりと目まぐるしく変わっている。
その変化を見ている女性の表情も心なしか嬉しそうに見える。
短い時間ではないけど、あっという間に時間は過ぎ去ってしまう。

「長い時間お付き合いいただきありがとうございました」

最後の最後に最初と同じく、女性による一礼に続いて、他の人形たちも一斉に一礼する。そして、惜しみない拍手。
今日は最後まで人形芸をすることができたようだった。子供たちの組織力の賜物であろう。
片付けを始める女性にわらわらと子供たちが集まってくる。
文字通り質問攻めになるが、女性は簡単な受け答え程度しかしない。これもまたいつも通りの風景だった。
「次はいつ来るのかなー」等と話しながら子供たちも解散し始める。





そして、他の皆が解散していく中じっと人形を見つめていた少女がその女性の視界の中に入った。
少女はただ無心にその古い人形見つめていた。

「気に入ったの?」

女性の問いに少女は首を縦に振ってこたえる。
少女は視線は人形に向けたまま話しかけてくる。

「ねぇ、この人形さんは生きているの?」
「いいえ、生きてはないわよ。人形が生きていたらおかしいでしょう?」

夢の欠片もない返答だった。

「種も仕掛けもこの通り」

女性が手の指を不規則に動かす。
すると、動きを止めていた人形が命を吹き込まれていたように動き出す。

「そっか…」

少女は少し残念そうに嘆息する。

「今度はこちらから一つ聞いていいかしら?」
「なに?」
「どうしてこの人形が生きていると思ったの?」

本の中のような世界に憧れて的な回答だ他ならそれはそれで構わなかった。
よくある子供的な発想だ。

「うごいてないときのこの子が寂しそうに見えたから。うごいてる時のこの子は嬉しそうだったよ」
「…そう」

どこか確信に満ちたような少女の言葉。
嘘や思いつきでいってる言葉ではないというのは女性はすぐに理解する。

「さっきの話だけどね。生きてないというのは本当よ。けれどね、あなたの感じたものが間違っていると断言出来るわけではないのよ」
「…どういうこと?」

少女が女性に興味を示して見つめてくる。
知的な好奇心を満たしたいという欲望を持ったものが持つ独特の目の輝き。

「人形はもともと人の魂の依り代として用意されたものなのよ。だから人の魂的な存在を受け入れるのならこれ以上に適したものはないの」
「…ならこの子にもたましいがやどってるの?」
「長く使ってるならそういうこともあるかも知れないということよ。この子との付き合いも長いから」
「じゃあ、やっぱりこの子は生きてるんだね」

心底うれしそうな少女を見て、僅かだが女性も微笑む。

「…この人形あなたにあげましょうか?」
「え?」

まさかそんなことを言われると思ってなかったのだろう、少女は心底驚いた表情になる。

「もし良かったらだけれどね」
「…でも、良いの?お姉さんこの人形大切にしているんでしょう?」
「そうね、大切なものだけど」

青色の綺麗な瞳が少女を見つめる。
そして、人形を持ち上げて優しく少女に手渡す。

「きっとあなたの方がもっと大切にしてくれると思うから。…大切にしてあげてね?」
「う、うんっ。ありがとうっ」

宝物を持つように少女は人形を抱きしめる。

「お姉さん、ありがとうっ。絶対に大切にするから!!」

もう一度大きくお礼を言うと、少女は走って去って行く。
その後ろ姿が見えなくなるまで女性は誰にも聞こえない程度の声の大きさでこうつぶやくのだった。


「ずいぶんな掘り出し者だったかも、ね」










そう遠くない未来、後世にまで名を残す偉大な人形師が歴史に姿を現すが、それと今回の話が関係あるのかは当事者以外に誰も知らない。
「あれ?お気に入りだって言ってた人形どこやったんだ?肌身離さず持ってたくせに」
「あの子なら里の子供にあげたわ」
「あげた?ケチなお前にしても珍しいこともあるもんだ」
「…ケチとは言うじゃない。投資する対象が見つかれば惜しまないわよ」
「投資だ?」
「そ、投資よ。先行投資」
「…意味が分からん」
「それだからあんたはいつまでも田舎魔法使いなのよ」
「へいへい、さすがに都会派魔法使いさんは違いますね」




おかしいな。少女と人形使いさんのハートフルストーリーのはずなのによく分からない空気になってしまった
ゆな
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
先行投資・・・だと・・・?
大事にされることによる付喪神になることに対するものだといいなぁ
もしも女の子の魂の依り代にするつもりだったとしたら・・・
2.名前が無い程度の能力削除
さすが。
過去の名だたる芸術家がそうであったように、天才は天才を見抜くということですね。
3.名前が無い程度の能力削除
分類:人形使い、かぁ。なるほど。
彼女も昔どこかのだれかにお人形を貰っていたのかもしれないですね。