「春~春~春~。春がきますよ~」
山で春到来の兆しをみつけたリリー・ホワイトが上機嫌に空を飛んでいる。
自作の歌を誰に聞かせるまでもなく口ずさむ。春到来の嬉しさのあまり、知らず知らずのうちに漏れ出たものか。
彼女の通ったあとには、ふわりと温かな風が新芽を膨らませる枝を揺らし、地に残る雪を溶かす。溶けた雪の中からは新芽が顔をのぞかせる。
地上で彼女が飛ぶ姿を確認した妖怪や人間は、もうすぐ春かと冬の寒さでこわばった顔を緩ませた。
リリーはときどき地上に下りて花の成長を促しながら、幻想郷中に春を知らせ飛ぶ。
陽気にふわりふわりと風に舞い、春がくると口ずさむ。
「春ですよ~春でっ!?
……痛い」
楽しげに飛ぶリリーの頭に氷の玉が当たった。
目じりにうっすらと涙を溜めて、頭をさすり、氷が飛んできた方向を見る。
少し離れたところにチルノが浮かんでいた。
険しい表情でリリーを睨んでいる。
「なんですかもう~」
「山に帰れ!」
「あわわわわっ!?」
いくつもの氷をリリーへと飛ばす。
リリーはちょこちょこと動き、なんとか避ける。
いつまでたっても追い払えないことに業を煮やしたチルノは攻撃の規模を大きくしていく。
最初は通常弾だったのが、いまではスペルカードを使っている。
しかも細かいことを考えずに使っているのが功を奏しているのか、いつもよりも複雑化された弾幕となっている。
「早く帰れ! ずっとこっちくるな!」
「どうしてそんなこというんですか~。痛いっ痛いっ」
激しい弾幕を受けても痛いだけですんでいるのは、愛らしくともさすが妖怪だ。
「春がきたって告げてるだけなのに~」
「春なんかこなくていいんだ!」
「皆さん喜んでますよ~。やっとすごしやすくなるって」
「レティは喜んでない! ずっと一緒にいたいのに、春になったらいつも寝ちゃうんだ!
だから春なんかいらない!」
リリーは季節に属する妖精だ。妖精と妖怪だという違いはあるものの、同じく季節に属するレティのことはよく知っていた。
これでなぜ自分が襲われているのか理解した。チルノが勘違いしているということも理解した。
ならばやるべきことは話しを聞いてもらうこと。チルノのためにもだ。
「話しを聞いて」
「うるさい! 帰れ!」
リリーに会話する意思があっても、チルノには追い払う意思しかなく、話しをするどころではない。
いくら体が頑丈だといってもこれ以上のダメージはさすがに辛いものがあり、避けることに集中せざるを得ない。反撃する暇もない。
しばらくその場で追いかけっこが続く。
山へと追いやる様子がない。チルノの目的が、山へと追い払うということから、叩きのめすということにすり替わっているかもしれない。
「チルノ、やめなさいっ」
第三者の声が響く。
同時に弾幕もピタリと止んだ。
「レティ! どうしてとめるのさ!? もうちょっとで倒せたのに!
そしたら春がこなくなるのに!」
「誤解なんですよぉ」
レティは視線でリリーに謝意を送り、チルノに近づいていく。
「チルノ、そんなことしても春はくるのよ」
「でも、あいつが春を呼ぶってレティも言ってたじゃないか」
「あれはたとえよ。あなたたち妖精は自然そのものといってもいいけど、四季っていう大きなものを動かせるほどの力はないでしょう?
あの子も小さな春の兆しをみつけて、知らせて回っているだけなの。
だから倒したところで春がこなくなるというわけではないのよ」
「じゃあどうしたら春をこなくさせることができるの?」
「そんなことは誰にも無理でしょうね。必ず春はくるの」
「じゃあレティはまた眠る?」
「春がくればね」
思いっきり嫌だという顔をしているチルノ。
「あのー」
「なんだっ!」
呼ばれたチルノは、う゛~っと唸りリリーを睨みつける。
「あのですね。私の役割はレティさんが言ったとおりです。
私のやってることが、あなたにとって嫌なことだともわかりました。
だからってやめるつもりはないんですけど」
睨みの視線がさらに強くなる。
「私が言いたいのは、私を相手するよりも残り少ない時間をレティさんと過ごすべきなんじゃないかと。
そのほうがレティさんも嬉しいと思いますよ?」
「あっ!?」
チルノが慌ててレティを見る。
レティはふわりと笑い頷く。
「こんなところにいないで別のところに行こ!」
「はいはい」
笑みの種類を、仕方ないわねぇという苦笑めいたものに変え、チルノに引っ張られるままレティはその場から離れていく。
顔だけリリーへと向けたレティは、もう一度ごめんなさいと視線で謝った。
それにリリーは気にしていないと笑みで返した。
すぐにリリーもその場から山へと帰っていく。
その年の春は例年に比べて少しだけ到来が遅かった。
リリーがあちこちで真剣な顔して動いていた姿を見たという人がいるが、それがこのこととなにか関係するのかはわからない。
リリーは黙して語らず、春がきたとだけ告げてまわるだけだ。
そして夏がきてリリーも姿を消す。
やがて秋がきて、冬がきてレティがチルノと再会し、春がきてリリーが現れ、春到来を告げる。
山で春到来の兆しをみつけたリリー・ホワイトが上機嫌に空を飛んでいる。
自作の歌を誰に聞かせるまでもなく口ずさむ。春到来の嬉しさのあまり、知らず知らずのうちに漏れ出たものか。
彼女の通ったあとには、ふわりと温かな風が新芽を膨らませる枝を揺らし、地に残る雪を溶かす。溶けた雪の中からは新芽が顔をのぞかせる。
地上で彼女が飛ぶ姿を確認した妖怪や人間は、もうすぐ春かと冬の寒さでこわばった顔を緩ませた。
リリーはときどき地上に下りて花の成長を促しながら、幻想郷中に春を知らせ飛ぶ。
陽気にふわりふわりと風に舞い、春がくると口ずさむ。
「春ですよ~春でっ!?
……痛い」
楽しげに飛ぶリリーの頭に氷の玉が当たった。
目じりにうっすらと涙を溜めて、頭をさすり、氷が飛んできた方向を見る。
少し離れたところにチルノが浮かんでいた。
険しい表情でリリーを睨んでいる。
「なんですかもう~」
「山に帰れ!」
「あわわわわっ!?」
いくつもの氷をリリーへと飛ばす。
リリーはちょこちょこと動き、なんとか避ける。
いつまでたっても追い払えないことに業を煮やしたチルノは攻撃の規模を大きくしていく。
最初は通常弾だったのが、いまではスペルカードを使っている。
しかも細かいことを考えずに使っているのが功を奏しているのか、いつもよりも複雑化された弾幕となっている。
「早く帰れ! ずっとこっちくるな!」
「どうしてそんなこというんですか~。痛いっ痛いっ」
激しい弾幕を受けても痛いだけですんでいるのは、愛らしくともさすが妖怪だ。
「春がきたって告げてるだけなのに~」
「春なんかこなくていいんだ!」
「皆さん喜んでますよ~。やっとすごしやすくなるって」
「レティは喜んでない! ずっと一緒にいたいのに、春になったらいつも寝ちゃうんだ!
だから春なんかいらない!」
リリーは季節に属する妖精だ。妖精と妖怪だという違いはあるものの、同じく季節に属するレティのことはよく知っていた。
これでなぜ自分が襲われているのか理解した。チルノが勘違いしているということも理解した。
ならばやるべきことは話しを聞いてもらうこと。チルノのためにもだ。
「話しを聞いて」
「うるさい! 帰れ!」
リリーに会話する意思があっても、チルノには追い払う意思しかなく、話しをするどころではない。
いくら体が頑丈だといってもこれ以上のダメージはさすがに辛いものがあり、避けることに集中せざるを得ない。反撃する暇もない。
しばらくその場で追いかけっこが続く。
山へと追いやる様子がない。チルノの目的が、山へと追い払うということから、叩きのめすということにすり替わっているかもしれない。
「チルノ、やめなさいっ」
第三者の声が響く。
同時に弾幕もピタリと止んだ。
「レティ! どうしてとめるのさ!? もうちょっとで倒せたのに!
そしたら春がこなくなるのに!」
「誤解なんですよぉ」
レティは視線でリリーに謝意を送り、チルノに近づいていく。
「チルノ、そんなことしても春はくるのよ」
「でも、あいつが春を呼ぶってレティも言ってたじゃないか」
「あれはたとえよ。あなたたち妖精は自然そのものといってもいいけど、四季っていう大きなものを動かせるほどの力はないでしょう?
あの子も小さな春の兆しをみつけて、知らせて回っているだけなの。
だから倒したところで春がこなくなるというわけではないのよ」
「じゃあどうしたら春をこなくさせることができるの?」
「そんなことは誰にも無理でしょうね。必ず春はくるの」
「じゃあレティはまた眠る?」
「春がくればね」
思いっきり嫌だという顔をしているチルノ。
「あのー」
「なんだっ!」
呼ばれたチルノは、う゛~っと唸りリリーを睨みつける。
「あのですね。私の役割はレティさんが言ったとおりです。
私のやってることが、あなたにとって嫌なことだともわかりました。
だからってやめるつもりはないんですけど」
睨みの視線がさらに強くなる。
「私が言いたいのは、私を相手するよりも残り少ない時間をレティさんと過ごすべきなんじゃないかと。
そのほうがレティさんも嬉しいと思いますよ?」
「あっ!?」
チルノが慌ててレティを見る。
レティはふわりと笑い頷く。
「こんなところにいないで別のところに行こ!」
「はいはい」
笑みの種類を、仕方ないわねぇという苦笑めいたものに変え、チルノに引っ張られるままレティはその場から離れていく。
顔だけリリーへと向けたレティは、もう一度ごめんなさいと視線で謝った。
それにリリーは気にしていないと笑みで返した。
すぐにリリーもその場から山へと帰っていく。
その年の春は例年に比べて少しだけ到来が遅かった。
リリーがあちこちで真剣な顔して動いていた姿を見たという人がいるが、それがこのこととなにか関係するのかはわからない。
リリーは黙して語らず、春がきたとだけ告げてまわるだけだ。
そして夏がきてリリーも姿を消す。
やがて秋がきて、冬がきてレティがチルノと再会し、春がきてリリーが現れ、春到来を告げる。
でも、チルノの気持ちが逆に読み取りやすくてよかったです。
それはそれで春が来るときの風物詩的なものかと良かったなぁと。
リリーが可愛かったです。