Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

反作用

2009/02/16 23:26:09
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 こん、こん。
 玄関のドアを叩く。
「魔理沙、いる?」
 ノックの音も声も、だいたい部屋のどこにいても聞こえる程度の、しかしうるさくはない音量で。アリスは心得た要領で魔理沙を呼んだ。
『……あ? アリスか?』
 返事はすぐに返ってきた。
「ええ。お邪魔していいかしら」
『今はちょっと相手はできないが……なんか必要なものがあるなら勝手に持ってってくれ』
「あら」
 声を確認して、アリスは遠慮なくドアを開ける。
 勝手知ったる他人の家。靴を脱いで上がると、迷わずすぐ右側の扉を開けて中を覗き込んだ。部屋の中心にテーブル、その隣に二人がけのソファのある居間。そのソファに魔理沙は腰掛けていた。というより、もたれかかってくつろいでいるように見えた。本がテーブルに置かれてはいたが、それを読んでいる様子もない。
「……なにか忙しいのかと思ったら、全然そんなふうには見えないわね」
「見えるものだけが真実とは限らないんだぜ」
「ああそう。緩衝液少し借りたいんだけど、いい?」
「また珍しいものを欲しがるんだな。倉庫のどっかにあるから適当に持ってってくれ」
「うん。ありがと」
 倉庫の場所は聞かなくてもわかる。お互いの家の構造はお互いによく知っている。アリスの家に、魔理沙も知らない地下室があるのと同様に、魔理沙の家にもアリスが知らない部屋はあるかもしれないが、わざわざそこまで探ろうとは思わない。
 倉庫部屋に入って適当に探る。よく使うものだと探すまでもなく場所を把握しているものだが、今回のように珍しいものだとさすがにわからない。というか、魔理沙もわかっていなさそうだった。

 適当に色々なところを探してみたが、目当てのものは見つからなかった。
 液体が入っていると思われる、内容不明の瓶がいくつかあったが、これはさすがに見た目では判断ができない。
「魔理沙ー。ちょっと見てほしいんだけどー」
「……適当に探してくれ。わからんなら持ってきてくれれば判断する」
「ん? うん」
 とりあえず両手に一つずつ二つの瓶を手にとって、また居間に戻る。
 魔理沙は相変わらずソファに深く腰かけたままだった。
「どれ、見せてみろ」
「……魔理沙、調子悪いの?」
「そう見えるか?」
「何もしないでじっとしてるなんて珍しいもの」
「……まあな。まあ、ちょっとした反作用だ。別に病気なわけじゃない」
「反作用?」
「あー。いや、たいしたことじゃないんだ。ちょっと強化っていうか一時的に体の耐久性を上げる薬を作ってみたんだけどな。効果は悪くなかったけど、案の定というか、後からきたな」
「……なんだか麻薬みたいね、それ」
「似たようなものかもな」
「ダメよ、そんなの。体はちゃんと大事にしないと」
 二つの瓶を魔理沙に見せることなく、テーブルに置く。
 ソファに座っている魔理沙の目の前に立って、しっかりと顔を覗きこむ。
「……う」
「症状はどんな感じなの?」
「いや、別に。……とりあえず、近い。別に大丈夫だから」
「ごまかさないの。ちょっと手借りるわね」
 アリスが手を伸ばすと、魔理沙はそれを避けるように動いた。
 が、立っているアリスと座っている魔理沙。自由度の違いはどうしようもなく、アリスは簡単に魔理沙の腕を捕まえた。
「……っ」
「……痛いの?」
「い、いや……何でも」
「むー……?」
 ずい。アリスがさらに顔を近づけると、魔理沙はさっと目を逸らす。
 追いかける。
 今度は魔理沙は顔を伏せる。
「……ちょっと魔理沙、顔赤いじゃない。熱、あるんじゃないの?」
「いいから、大丈夫だって」
「そうは見えないの」
「いいんだって! と、とりあえず……離れろって。近いんだ」
「近いって……」
 掴んでいる手首から、先程までは感じなかった、強い速い脈動を感じる。
 どく、どく、どくと高速に脈打つ強さは、とても安静にしている状態には思えない。
 魔理沙の顔はますます赤くなっていく。
「ちょっと――」
 ぴと。
「ひゃうんッ!?」
「!?」
 アリスが魔理沙の頬に触れると、魔理沙は聞いたこともないような悲鳴をあげた。
 アリスはその声と熱さに驚いてすぐに手を離す。
「あ……」
 魔理沙は一瞬アリスの顔を見上げるが、またすぐに俯いてしまった。
「ちょっと、すごく熱――」
「……から」
「え?」
「お、おまえがさわってるから……だ。頼む、離してくれ……」
「……え? う、うん」
 弱々しい声に驚きながら、アリスはとりあえず魔理沙の手を離した。
 離れる瞬間にも魔理沙はぴく、と少し反応を見せた。その後、魔理沙は胸元に手を持っていき、ゆっくりと呼吸を繰り返す。
 しばらくすると、真っ赤になっていた顔は、少しずつ落ち着きを見せていった。完全には戻らないにしても。
「……ふう」
「えーっと……私、悪いことした……?」
「……いや。反作用ってな、よくわかってないんだが、色々と耐性が弱くなるみたいだ。ちょっと動いたら疲れるし、ちょっと手足を打ったらいつもの倍痛い」
「ふうん……?」
 アリスは首を傾げる。
 大変そうだ、とは思いつつも、いまひとつピンとこないところがあった。
「……え、あ、もしかしてやっぱりさっきの、痛かったの? ごめんなさい――」
「いや……」
 相変わらず目を逸らしたまま、微妙な声色で、魔理沙は否定した。
「いや、うん。いいんだ。とにかく、たいしたことじゃない」
「そう? それならいいんだけど――」
 無意識に、またアリスは手を伸ばしかける。
 魔理沙は敏感に反応して、逃げる仕草を見せた。
「だっからっ、触るなってっ」
「あ、ごめんなさい。……なんだか、心配で」
「いいんだ」
「大丈夫なの? ひょっとして自力で立てなかったりする? ベッドまで運ぶわよ?」
「……まったく、どこまで世話焼きなんだ」
 呆れたようにため息をついて。
 魔理沙は、ほら、といって、ゆっくりした仕草ではあるが、確かに自力で立ち上がった。
「な?」
「うん。じゃ、大人しくもう寝ていましょ?」
「わかったわかった。あとで準備したら寝に行くから、とりあえずもう放っておいてくれ」
「本当、体に直接作用するような実験はやめましょうね? 魔理沙の体は一つなんだから」
「わかったって」
「また調子悪そうだったら見に来るから、とにかく大人しく――」
「わかってるから!」
 魔理沙が強い口調で叫ぶ。
「……お」
 ふらり、とその体が揺れた。
 後方に、ゆっくりと、倒れていく。
「ちょ……」
 アリスは慌てて手を伸ばして、その体を支える。
「っ……」
 びく、と魔理沙の全身が震えた。
 ぎゅっと目を閉じる。ぅ、という小さな声とともに、また、みるみる間に顔が真っ赤になっていく。
「大丈夫じゃないじゃないの!」
「ち、違う、ちょっと疲れが……」
「でもこんなに」
「だからこれは、アリスが……その……アリスが、触ってるから……」
 魔理沙の体からすっかり力が抜けてしまう。
 声の力も、だんだん弱くなっていく。
「……その」
「と、とにかく、ベッドまで運ぶわよ、いい?」
「……よくない」
「もう、こんなになってどうしてわがまま言うの」
「違う……アリス、その……その。アリス」
「……魔理沙?」
「ごめん……今はちょっと、何も聞き返さないで、聞いてくれ……」
「……うん」
「もうちょっと……今は、このままで、いたい……」
「う、うん……え!?」
 今度はアリスが変な声を出してしまう番だった。
 魔理沙の言葉が、脳内で何度もリピートされる。今、なんと言った? 聞き間違えか? リピートされるたびに間違えのような気がしてくる。
「ちょ、ど、どういう」
「聞き返すなって……」
「う……」
 魔理沙はアリスの腕の中に抱かれて、俯いたまま決して顔を上げようとしない。
 ばくばくと心臓が跳ねる音が聞こえる――どちらのものか、アリスにももうわからない。
 抱きしめるというには中途半端な力だったが、さりとてぎゅっと力を入れるわけにもいかず、とはいえ離すわけにもいかず、腕の力の行き場に困る。
 魔理沙はすっかりアリスに体を預けていた。アリスが支えていないとすぐに崩れ落ちる状態になっている。
 半ばパニックになりながら、ただ言われたまま、何も言わず、じっとこの体勢で、耐えた。
 どれくらいの時間そうしていたかよくわからない。そのうち、魔理沙の鼓動が落ち着き始めていることに気付いた。相変わらずドキドキと強く脈打っているのは、アリスのほうだった。
「魔理沙?」
「……」
 呼びかけても返答はない。
 ……微かに、すぅ、という寝息が聞こえてきた。
「……あらー」
 少し遅れたが、結局予定通りベッドに運ぶことになった。
 久しぶりに持ち上げた魔理沙の体は、やはり、驚くほど軽かった。


「……んぅ」
「……ん?」
 一晩あけて。魔理沙の声が聞こえた気がして、椅子に座って眠っていたアリスは目を覚ました。
 寝顔を覗き込む。寝返りを少しうったのを見て、寝言かな、と思っていると、魔理沙はうっすらと目を開けていく。
「……おはよう」
「ん……」
 魔理沙の目はすぐ閉じそうになって。
 一瞬閉じて、すぐに少し開いて。
 ばっと、大きく見開いた。
「……アリス!?」
「アリスよ。今朝の調子はどうかしら?」
「う……あ。……朝って。……昨日のあれから、ずっとここにいたのか……」
「だって心配じゃない。昨日の魔理沙、明らかにおかしかったもの」
「ああそうだ。昨日はおかしかった。それでいい。まったく、おかしかった。……悪かった」
「え、ううん、別に、何も私は」
「昨日のことは、気にしないでくれ。忘れてくれ……ってのは、無理かもしれないが、あんな状態だったことは、人には言うな……頼む」
「もちろんよ。そんな言いふらす趣味なんてないわ」
「ありがとう。アリスでよかった」
「……へ」
「あ……あ、いや」
 今朝一番、魔理沙の頬が朱に染まっていく。
 その色は、昨日のような明らかに異常な熱ではなかった。
 アリスも同じように恥ずかしくなってきて、お互いに目を逸らす。
「あれだ」
 こほん、と咳払いをして。
 魔理沙は、にか、と歯を出して笑った。
「アリスは、信用できる」
「そ、そう。あ、でも、私も、一つだけ、今のうちに言及しておかないといけないことがあるわ」
「ん?」
「昨日の魔理沙は、本当、おかしかったわ。おかしいくらい……可愛かった」
「……んぉ!? な、な、なにいってっ」
「なんてね、嘘」
「おい」
「魔理沙はいつでも可愛いわよ。これは本当」
「……!」
 ふふ、とアリスは優しく微笑んだ。
「そういうところがね」
「……こ……こら! おまえは……えーと……病み上がりの人間にもうすこし優しくてもいいと……思う」
「そう。今日も優しく一日尽くしてあげようかしら?」
「結構だ!」
 魔理沙は布団を頭から被ってしまう。
「昨日みたいなのならいつでも大丈夫よ」
「やっぱり、アリスは信用できない」
「あら、悲しい。朝ごはんくらいは作ってあげようと思ったのに」
「……」
 がば。魔理沙は目までだけ、布団から出した。
「……和食で頼む」
「はいはい」
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
ああ甘いなぁ甘いなぁ!
介抱しようとするのが裏目に出るアリスに反応する魔理沙可愛いなぁ!
2.名前が無い程度の能力削除
緩衝液は今俺からとれた鼻血で(ryつまりこれは良いマリアリw
3.喉飴削除
これは最高すぎでしょう。あまりの甘さに悶えました。
良いマリアリをありがとうございます。
4.名前が無い程度の能力削除
薬なら副作用だと思う……
5.名前が無い程度の能力削除
アリスの鈍さが愛しい
6.名前が無い程度の能力削除
過保護アリス可愛いよ!
魔法の森で迷子になったら迷わず押しかけます。
7.名前が無い程度の能力削除
俺ちょっと魔法の森で迷子になってくる
8.名前が無い程度の能力削除
アリス可愛いなぁw
これはたまらぬ。
9.名前が無い程度の能力削除
2828がとまらないよ?
10.名前が無い程度の能力削除
だめだ、頬が緩むw
11.うり坊削除
いいマリアリだ