※東風谷早苗がアルゼンチンバックブリーカーで博麗神社を破壊するSSです。
輝夜と妹紅は大の仲良し。いつも二人で仲良く殺し合いをしているけれど、それだけしているのも華がない。
せっかく女の子同士で争いをしているのだから時には瀟洒に可憐に雌雄を決したいところ。二人とも女の子だけどね。
「そんなわけで妹紅、今日は囲碁をしましょう」
「お前ルールしってるのか?」
「知ってるに決まってるじゃない。毎日永琳と打ってたこともあるのよ」
「何勝何敗?」
「一杯茶が美味い」
「勝てたことがないんだな。まぁ仕方ないと思うけどな?」
「ふーんだ、でもあんたなんかには絶対負けないから」
「まー久しぶりだからなぁ」
なんだかんだで仲の良い二人は、こうして永遠亭の一室で囲碁を打つこととなった。
出された座布団で胡坐をかいている妹紅と、嬉しそうに碁盤を持ってくる輝夜。
何百年も、それこそ暇があればパチパチと打ち続けていた輝夜は、妹紅には問題なく勝てるであろうと踏んでいた。
永琳には一度も勝てたことがなかったけれど、それは相手が月の頭脳と言われている才媛であるから。
毎回ギリギリまで追い込むことができる自らの棋力はそうとうなものだと自負していた。
「で、どうするんだ輝夜」
「むむむむ……」
のはずなのに、目の前の碁石は妹紅の黒色で染まっている。
おかしい、こんなはずじゃなかったのにと輝夜は項垂れた。
もしかすると目の前で余裕綽々におやつを食べている妹紅は永琳の変装か。それか、いままで気づかなかったけれど地上の中でも屈指の天才なのか。
いずれにせよ、このままでは圧倒的敗北を喫してしまうのは間違いない。そしてしばらく、これをネタに妹紅にからかわれるのは明らかだった。
「はっは。勝ち目が見えないならギブアップでもいいんだよ? ほーら負けを認めちまいな」
「そいや!」
「おまっ!」
追い詰められた輝夜の取った行動は、月をも越えて太陽系から飛び出すほどに常軌を逸していた。
自分の碁石で妹紅の碁石を挟み、間の石を自分の石へと置き換えていく。
「おいばかやめろ。囲碁はオセロじゃないんだぞ!」
「う、最終的にたくさん石が置かれてたらいいのよ! そうよそうよ!」
「はん、屁理屈こねやがって。お前の負けず嫌いもそこまで来ると感心するな。
いいよわかった、どうせこのままじゃ私の勝ちは見えてたんだ。乗ってやるよ」
「てゐちゃんかーわいいー」
妹紅と輝夜の両名が睨み合いをしている外で、てゐは部下の兎にサインを渡していた。
それだけ永遠亭の中でのてゐ人気は凄まじいのだ。対照的に優曇華は、怒ると目からビームを出すので不人気である。
「うぎぎ……」
「お前、絶望的なまでに弱いな……」
オセロルールを取り入れたはずの輝夜は、それでも妹紅に負けていた。
ここまで来ると妹紅にも、憐憫の情が沸いてくる。
「もう別に、引き分けでもいいよ? ほら、輝夜だってがんばったんだしさ」
「ま、まだ負けてないし……」
「ほ、ほら、輝夜は花を生けるのとかは得意だろ? 別に、囲碁が弱いからってどうにもなるもんじゃないしさ」
「うー……」
碁盤の上は先程よりもマシとはいえ、もう逆転の目は見えそうにはなかった。残念なことに。
チラっと、妹紅の目を盗み見る輝夜。心から馬鹿にしてくるのなら、それに突っかかることもできるのだけど、生憎と妹紅はそうではなかった。
むしろ、この状況でも尚、囲碁を楽しもうとしているのがわかってしまうのが、輝夜にとっては不幸だった。
(むー……)
結構な付き合いである。妹紅の心根が優しいものであることは、輝夜も重々承知していた。
しかし、人というのは付き合いが長くなればなるほど、相手が優しければ優しいほど、それにしな垂れかかってしまうもの。
「そいやー!」
輝夜は勢いよく碁盤をひっくり返し、呆気に取られている妹紅に馬乗りになった。
「もうめんどくさいから、あなたの鼻に碁石詰めるわ! これぞ本当の詰碁って奴ね!」
「むちゃくちゃなことを言うな! 燃やすぞ! ああダメだ、永遠亭まで燃えちまう!」
「ふふかかったわね妹紅。今日あなたを連れ込んだ理由は、鼻に碁石を詰めて窒息死させるためなのよ」
当然、口からでまかせである。それを勢いで誤魔化そうと、輝夜は黒い碁石を妹紅の鼻へと詰めようとした。
「入らない!?」
「当たり前だ! んなでかいの入るか!」
ぽっと頬を紅く染める輝夜。明らかに間違ったことを考えているが、その隙に妹紅は体位を反転させた。
「きゃ、な、何よ妹紅」
「へへ、覚悟しろよ輝夜。今日こそお前のわがままを矯正してやるからな」
わきわきと手を動かす妹紅。にやけた顔が、輝夜には悪魔の笑みにも見えた。
「お茶が入りましたよ……。ごゆっくり」
襖を開けた永琳は、一瞬大きく目を見開き、そのまま襖を閉めて去っていった。
「ちょ、助けてよ永琳!」
「残念だったな、ここでお前は死ぬのだー」
「や、優しくしてね……?」
「おりゃ!」
輝夜の上着をめくり、露出させたわき腹をくすぐる妹紅。
初めは我慢していた輝夜だったが、すぐに我慢しきれずに笑い出す。
「こうさん! こうさんだってひゃひゃっ!」
「だめだめ、すぐ勝負を投げ出すような奴は、一回懲らしめてやらないとな」
容赦ないくすぐりに、息が出来ず顔を紅潮させる輝夜。それでも妹紅は延々とくすぐり続けた。
それこそ、死ぬまで。
「お、おい! 輝夜起きろ! すまんやりすぎた!」
ぺちぺちと頬を叩いても、輝夜はぐったりとしたまま何の反応も示さない。
蓬莱人である輝夜は、放っておいても生き返るには生き返る。
だからといって、死なせて良いものでもないだろう。
紅かったはずの顔を真っ青にしている輝夜を前に、こんなときだから落ち着かなければならないと、妹紅は深呼吸をした。
(やっぱ、人工呼吸しかないよな……)
人工呼吸をするのなら、唇を重ね合わせなければならない。女同士と言えども、それをするのには若干の勇気を必要とした。
眠っているようにも見える輝夜は、日本人形のように造詣が整っている上に艶かしい。
その瑞々しい唇に、自分の唇を重ね合わせることを考えると、途端に動悸が激しくなる。
(ええい、迷っている暇はない。人命が大事だ!)
「いただきます」
覚悟の言葉を呟いて、妹紅は輝夜へと顔を近づける。何もやましい気持ちなどない。
これは命を救うためにする行為であり、他意は一切存在しないのだ。
そして妹紅の唇が今まさに触れんとしたとき。
「ぎゃおー。引っかかったー!」
輝夜は目を開け、体を起こした。
それが、いけなかった。
勢いよくぶつかる、お互いの歯と唇。
およそキスなどという甘酸っぱいものではなく、ガチン! という痛々しい音が、二人にはやけに大きく聞こえた。
「いっだぁ! 何すんだよ輝夜。ていうか騙したなてめぇ!」
「び、びっくりしたぁ……。顔近すぎるのよ! ばーか!」
「あぁ!? 人がせっかく心配してやったのになんだよそれ! ばーかばーか!」
「ば、馬鹿って言ったほうが馬鹿って言葉しらないの!?」
「それだと先に言ったお前が馬鹿ってことになるぞ」
「うぐっ!」
冷静かつ的確な突っ込みに、輝夜は口篭った。妹紅は変に口達者なところがあるから面倒だ。
「まぁでも、妹紅のファーストキス頂いちゃったし?」
「あー……。別に初めてじゃないんだがな」
「嘘! わ、私だって初めてじゃないし!」
「まぁこんだけ生きてりゃな」
ひらひらと手を振る妹紅と、明らかに狼狽している輝夜。
真偽はどうあれ、サバイバルな生活を長く続けてきた妹紅と、箱入りで過ごしてきた輝夜では生きてきた環境が雲泥の差。
だからこそ二人は、反発しつつも惹かれあっているのかもしれないが。
「もし、ちょっとよろしいですか?」
襖の向こうから呼びかける者がいる。永琳だ。
「何? どうしたの永琳」
「上白沢さんがね、藤原さんを迎えにきたって」
「あぁそうなの」
「慧音が? あっ! そうだ、今日の夜は里にお呼ばれしてたんだった……」
「あらそうなの……じゃあ、帰らないといけないわね」
「まぁ、慧音も来てるしな」
頭を掻き、髪をくしゃくしゃにする妹紅。感情の表現がいちいち大袈裟なのだ。
輝夜はその様子を、口を尖らせて見ていた。気が張っているときはいくらでもポーカーフェイスを作れるくせに、気が抜けているとまるで子供だ。
「それじゃあ、私は帰るから。またな」
「玄関までは、送るわよ」
「そっか、悪いな」
「別に? 一応お客さんだし」
機嫌は悪くないよ、全然。と輝夜は態度で示して見せた。そうしなければいけないところがもう、機嫌が悪い証拠だというのに。
本心をわざと見抜かせ、興味関心を引くなんて、不器用な私にゃできない。妹紅は輝夜の巧みな仕草に苦笑した。
廊下を歩いているときも、輝夜はずっと無言だった。ずっとそっぽを向いて、時々頬を膨らませてる。
妹紅が話を振ってもナシの礫で、軽い相槌だけを返すのみ。のくせに機嫌を損ねていないと言い張るのだ。
玄関では、永琳と慧音が世間話に興じていた。二人の姿を確認すると、二人は穏やかに笑って見せた。
「さ、妹紅帰るぞ。世話になったな」
「いえいえこちらこそ。姫の遊び相手になっていただいて」
「妹紅の遊び相手の間違いでしょ」
「はん、自分の立場がわかってないらしいや」
「なによ!」
「なんだよ!」
「喧嘩するな妹紅。見苦しいぞ」
「姫、お客さんの前で恥ずかしいですよ」
「う、ごめん慧音」
「むぅ……」
妹紅の手を引きつつ頭を下げる慧音。微笑みながら永琳は小さく手を振り、輝夜も頬を膨らましそっぽを向きつつ、手を振って見送った。
「輝夜、今日は湯豆腐にしましょう。優曇華が買ってきてくれたの」
「本当? 他には?」
「さあ、ふきのとうの天ぷらでも作りましょうか」
「わぁい、楽しみ」
機嫌を損ねても、好物を持ち出せばコロっと直る輝夜。そのどこまでが素で、どこまでが演技なのか。
ずっと傍で仕えてきたはずの永琳にも、いまだそれははかりかねているものだった。
(ま、そこも姫の魅力なんですけどね)
輝夜は機嫌よさげにくるくると回りつつ、廊下を駆けていった。
永琳は今夜の食事の支度のために、台所へと向かうのだった。
妹紅と慧音の二人は、鴉がカァカァと鳴きながら山へと飛ぶ中を、のんびりと歩いていた。
「なぁ妹紅」
「んぁ?」
「平和っていいな」
「ん」
言葉は少なかったけれど、二人の間ではそれだけで伝わった。
長く付き合えば付き合うほどに、お互いの表情や仕草だけで相手の心は読めるようになっていく。
妹紅の機嫌が良いことも。慧音の機嫌も同じぐらい良いことも。
お互いに口に出すまでもなく、伝わっていた。
「なんか美味しいもの食べにいこっか、慧音」
「私の手作りじゃ不満か?」
「んじゃ、それを食べにいくことにした」
屈託なく笑う妹紅と、緩く微笑む慧音。
こうして幻想郷のとある昼間は過ぎていくのだった。
べたべたになりそうでならない二人もいいなぁ
てゐちゃん逃げてー!!
永遠にトムとジェリーのような2人がほほえましいですなあ。末永くこんな風に楽しく過ごしてればいいと思いました。
妹紅が藤原某の末娘で確定なら、結婚の形跡もあるようなので
まあファーストなアレでないのも納得。
この続きは
スタッフは霊夢から夢想封印を受けました
になるだろうな(笑)
と、冗談はさておき、また豆腐が出てきてるのが、気になってしょうがないw
( ゚Д゚) ※博(ry
( ゚Д゚ )
読み終わり間近の俺「ぬぅ、よもやこれはウソバレなのか」
後書きの俺「なんやて!?」
見事にやられた
輝夜が盤面の黒石を見てじっと考え込んでるってことでいいのかな?
最近永夜組が仲良くしてるのを見ると問答無用で目から汗が出るようになっちまったんだぜ……。
これが親心というやつか。