Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

チョコレートキラー早苗

2009/02/14 20:26:46
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「早苗さん、私にチョコレートの作り方を教えてください!」

 神社にやってくるなり開口一番、土下座と共に彼女は私にそう言った。

「は、はぁ。いいですよ……」

 その勢いに圧され、思わず了承してしまったのが二日前。
 よく理由も聞きもせず、材料を集めて回ったのが昨日の事。
 そして今私は、朝からチョコレート作りの教授を懇願してきた張本人である犬走椛と
一緒に台所に立っていた。
 チョコレート作りは端的に言ってしまえば、湯せんで溶かして型に流して固めるだけ
だ。そう難しいことでもない。――はずなんだけれど。

「……材料は間違っていないはずなのに、なんでこんなものが出来るんでしょうね……」

 だが、私の前に所狭しと並べられたそれは、およそチョコレートとは呼べないそもそ
も食べ物であるのかすら疑わしい物体。ボコボコと泡立ち、時々奇声を発するのが恐ろ
しい。
 手を伸ばそうとすると襲ってくるんですよ。
 目は無いのにじっと見ていると視線が合っているような気にさえなってくる。これ以
上は精神衛生上よろしくなさそうなので、私はその謎の物体からそっと視線を外す。

「さすが幻想郷。まだまだ私程度の常識では推し量ることは出来ないのですね……」

 そのまま少しだけ遠い眼をして外を見る。
 そして私の足元では、打ちひしがれた様に両膝をつきガックリとうな垂れる椛ちゃん。

「ちょっと休憩しましょうか……」
「はい……」

 椛ちゃんはそのままの姿勢で小さく頷いた。





「はい、椛ちゃん」
「ありがとうございます」

 縁側に腰掛ける椛ちゃんにお茶を差し出す。
 椛ちゃんはそれを受け取る。
 二人でお茶を飲み、ほっと一息吐く。

「ひとつ聞いていい、椛ちゃん?」
「はい、何ですか早苗さん」
「明日は作ったチョコを椛ちゃんは誰に渡すつもりなのかなって」

 それに一瞬だけ椛ちゃんの動きがピタリと止まる。それからその顔がみるみる赤くな
る。
 その姿を見るだけで、この子はよほどその人のことが好きなんだなと解ってしまう。

「えっと……その、文さん……です……」
「文さん? ――あぁ、射命丸さんのことか。へえ、彼女にかぁ」
「うぅ……」
「あ、射命丸さん」
「ひぇう!?」
「ごめんなさい、冗談よ。でも可愛いわね、椛ちゃん」
「むー、酷いです早苗さん!」

 過剰な反応で辺りを見回す彼女に私はつい笑ってしまう。
 それに頬を膨らませ、怒ってみせる椛ちゃん。

「でも、本当に射命丸さんのことが好きなのね」
「はい、強くて格好良くって、私の憧れです。そして、わたしはそんなあの人の一番に
なりたいんです!」

 自分で言って恥ずかしくなったのか、椛ちゃんは真っ赤な顔でうつむく。
 そんな彼女の様子に私は小さく笑みを溢す。

「そしたら、射命丸さんに喜んでもらえるように綺麗なのを作らないとね」
「はい!」

 はっきりとした返事をして、花が咲くような笑顔はこういう笑顔のことを言うんだろ
うなと思うような綺麗な顔で笑って見せた。
 その笑顔が私はとても眩しく見えた。

「それじゃ、チョコレート作り再開しましょうか」

 言って私は立ち上がる。
 椛ちゃんもそれに続く。

「椛ちゃんは先に行って準備をしていて。私はお茶を片付けてから行くから」
「分かりました」

 先に台所に向う椛ちゃん。
 私は脇に置かれた湯飲みに手を伸ばし持ち上げる。
 中に少しだけ残ったお茶を一息に飲み干す。
 それから台所に向おうとそちらに足を向ける。
 と、そこで私はふと足を止めた。

「……椛ちゃんからあんなに想われていて、良かったですね」

 誰もいない境内に向って声を掛けてみる。
 ガチャガチャッという瓦を踏むような音が屋根から聴こえ、続いてバサリと焦る様に
羽ばたく羽音が響き、直ぐに静かになった。

「いるかなと思って声を掛けてみただけだったんですけど、なんだか予想以上の効果が
あったみたいですね……」

 飛び去っていく影を見つめ、私は今度こそ台所へと向った。





 その後、諏訪子様が謎の物体に手を出してしまい何か触手っぽいものを吐き出したチョ
コレートに襲われたり、チョコレートを固めるために湖から氷精を棒付きキャンディー
で勧誘してみたりといろいろあったが、半日以上を掛けてやっと綺麗なハート型に完成
したチョコレートを包装紙に包み、準備が整った。そして、椛ちゃんの意見で、射命丸
さんを守矢神社の境内まで呼び出した椛ちゃんを私は影から見守ることになった。

「うぅ、緊張します……」
「大丈夫、勇気を出して。私も近くの木の陰でちゃんと見守っているから」
「お願いします……来ました!」
「それじゃ、私は隠れるけどしっかりね椛ちゃん」
「は、はい」

 私が身を隠すと同時に射命丸さんが境内に降り立つ。

「あやややや、約束の時間より少し早くてしまいましたが、椛の方が先に来ていたみた
いですね。待たせてしまいましたか」
「い、いえそんなことありません!」

 緊張のあまりか椛ちゃんの声は若干裏返っていた。

「そうですか……。それで椛、私に何の用だったのですか?」
「えと、今日は文さんに渡したいものがあって……」
「へえ、渡したいものですか。いったいなんでしょう楽しみですね」

 昨日あの場にいたのだから知らないはずもないだろう。だけど、そのことはおくびに
も出さず射命丸さんは小首を傾げてみせる。

「きょ、今日はバレンタインですから、日ごろお世話になっている文さんにチョコレー
トを作ったんです!」

 真っ赤な顔で椛ちゃんは、どうぞっとピンクの包装紙に包まれた小さな箱を差し出し
た。それに私は思わずよし、と小さくガッツポーズをする。

「チョコレートですか。でも、バレンタインに渡すチョコレートは意中の相手に渡すも
のなんですよね。そんな大事なものを渡す相手が『お世話になっている』程度の私で良
いんですか?」
「あ、あう……」

 その意味も分かっているはずなのに意地悪く笑う射命丸さんと真っ赤なままうつむく
椛ちゃん。
 私はがんばれーと声には出さずに椛ちゃんを応援する。
 と、そこで椛ちゃんは意を決したように顔を上げる。

「わ、私は文さんじゃないと嫌なんです! 文さんは私にとって一番大切な人なんです!」

 椛ちゃんの告白におぉ、と声に出そうになるのを押さえながら身を少しだけ乗り出す。

「それだったら、私が貰わないわけにはいきませんね」

 柔らかく笑い、それを受け取る射命丸さん。
 それからチラリと視線を私のほうへと向けた。

――どうやら私のことはばれているようですね。

「私も、椛のこと好きですよ」

 あっさりと本当にあっさりと射命丸さんは言ってのけた。

「ふぇ? あ、あのそれって……」
「言葉の通りですよ」

 その言葉に椛ちゃんは思考が追いつかないのか、ピタリと動きを停止させた。
 それからたっぷり5秒ほど掛け、その顔に理解の色が浮かぶ。
 そして今度は、その瞳に大粒の涙を浮かべて泣き出してしまった。
 泣きじゃくる椛ちゃんを、射命丸さんは言葉も無く抱きしめる。
 私も我知らずヒートアップしていたようで、気が付くと顔が半分茂みから出ている状
態だった。
 そんな私に射命丸さんは椛さんに気付かれないように自分の口元に人差し指を立てた。
 どうやらこれ以上は私はお邪魔のようなので、静かにその場を離れることにした。

「……私も八坂様にチョコレートでも渡してみようかなぁ」

 小さく呟いて、私は椛ちゃんと一緒になって作っておいた小さな包み紙を取り出す。

「八坂様喜んでくれるかな」

 未だ泣き続ける椛ちゃんの声を背後に聞きながら、私は包み紙を手にその場を後にした。
「ようやくいなくなりましたね……」
「……文さん?」

 小さく呟く私に椛がしゃくりあげながら私を見る。

「まったく、椛。私がどれだけその言葉を待っていたか分かりますか?」
「え、え?」
「この場で言ってしまいますが、本当は椛の好意は私は知ってたんですよ」
「そ、そうだったんですか!?」

 私の言葉に心底驚愕したように椛は声を上げる。

「私はあれで気付いていないと思う方が不思議ですけどね」
「うぅ……」
「それじゃあ椛も泣き止んだことですしせっかくですので椛の作ってくれたこのチョコ
レートをこの場で食べてみましょうか」
「え、えー! せめて帰ってか食べてくださいよ! は、恥ずかしいです」
「作った本人がその場にいるほうが感想が直ぐに言えるじゃないですか。 ――と、忘
れていました。実は私からも椛にプレゼントがあるんですよ。そっちは帰ってからあな
たに渡すことにします」

 言って私は翼を大きく広げると椛を抱えてふわりと宙に浮く。

「それじゃ、行きましょうか椛」
「え、行くって何処にですか文さん!?」
「これから朝の取材に行くんですよ。椛も来ますよね?」
「……はい!」

 椛が頷くのを確認すると、私はその場を飛び立った。


~あとがき~
 
 その後帰ってから文は椛に何をプレゼントしたのかは皆様のご想像にお任せいたします。
 今日はバレンタイン! というわけで地味にクリスマスバージョンから続いている文椛バレンタインバージョンでお届けいたしました。このくらいなら微糖コーヒーでも余裕で耐え切れると信じて疑わない私です。
 如何でしたでしょうか?
 タイトル適当すぎましたorz


 お前はメイド美鈴と小咲夜放っておいて何やってるんだ! という突っ込みはご勘弁をorz
 そちらも少しづつ進行中ですのでお待ちしている方は申し訳ありません、もうしばらくお待ちください。


 最後に、ここまで読んでくださった方々に多大なる感謝を。
青水晶
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
触手チョコ、即ちネチョコレートですね分かります。
2.名前が無い程度の能力削除
アヤモミいいなアヤモミ。
椛可愛すぎ。
私がプレゼントですねわかります。