蓬莱山輝夜の朝は早い。
「う~ん」
マンダム。
ではなく、上半身だけを褥から起こして大きく伸びをする。わずかな寝ぐせもついていない黒髪が、すとんと垂れて肩口を撫ぜた。
目にかかった髪を払いながら、顔を外に向ける。障子越しの朝日が心なしか強めにまなこを刺した。気だるい寝室の空気も、例日より生ぬるい。
さわやかな初夏の気配を感じながら、輝夜は枕元の水差しを手にとって口をつけた。七月に入ったばかりだが、今日は一段と”らしい”天気になりそうだ。
そして悠然と立ち上がり、颯爽(エレガント)な挙動で障子を開け放ち、
「チュピピーン!」
たった今飲んだばかりの水を思いきり噴き出した。
霧となった水がそよ風にあおられて白無垢の寝巻きと足元に降りかかり、なんとも和風情緒溢れる艶やかな光景を生み出す。
「けほっ……なっ、何よこのわひゅ!?」
濡れた廊下が、むせてよろけた輝夜の足を滑らせた。きめ細やかなおみ足を振り上げて虚空に舞うその姿は儚くも美しい三日月を思わせる。
万が一に備えて永琳が床に仕込んでおいた四季映姫型トランポリン風ショックアブソーバー”ボヨヨンえん魔ちゃん”のおかげで転倒は回避できたが、その代わりに勢いあまって吹っ飛ばされて尻から押入れに突っ込んだ。
「タナカクンジャナイカァァァァァァァァァァァァ!」
襖がへし折れ、あふれ出した寝具の雪崩が輝夜を飲み込んでいく。飛翔のエネルギーにより辛うじて雪崩を突き抜けた尻だけを残して、輝夜は布団の山に埋もれた。その光景はまさしく標高が高いからいつでも頂上だけは白いフジヤマのヴォルケイノ。仮にも元ムーンライトのプリンセスには似つかわしくない痴態だが、しかしそれも無理はない。
なんと昨日の夜までは格子のようにざくざくと並び立っていたはずの竹が、跡形もなく消え去っていたのである。
「惑星規模の円形脱毛症にでもかかったのかしら……?」
輝夜は布団から這い出して、障子に寄りかかりながら外を見渡す。まだだいぶ低い太陽と、朝日に煙る稜線と、視界の端にちょこんと立っている妹紅の家まで清々しいほどよく見えた。なぜかパンダが二匹いて、他に視界を遮るものは何一つとして存在しない。
竹藪とハゲ山をくみあわせたまったく新しい慣用句、ハゲ藪の一夜誕生の瞬間である。それとも竹山の一夜の方が自然か。でも竹山一夜ってなんだか妖怪の名前みたい。一夜にして散ってしまうという儚いタケノコの無念が妖怪となったもの。全然怖くない。
と、輝夜がそんなとりとめのないことを考えていると、騒ぎを聞きつけたらしい永琳が長い廊下のはるか果てから匍匐前進でやってきた。
「どうしたの輝夜、朝っぱらから大騒ぎして」
「ちょうどいいところに来てくれたわ。ここに生えてた竹見なかった?」
「ああ、それだったらさっき……」
「かっ、神奈子様? どうしたんですかその大荷物」
「いやほら、もうすぐ七夕だから」
「だから?」
「竹みな刈った」
そして、永琳はなぜに匍匐前進。
とにかく笑わせてもらいました。
ようこそ、女の世界へ。
…素晴らし過ぎる!今月になって見た言葉の魔法の最高傑作だ!
でも七夕にそんなにも竹いらないだろwww
……環境破壊ですか、そうですか。
やる前から失敗フラグが立ちすぎてるw
しかし竹見なかった?からの見事なコンボ。素晴らしいでゴワス。
神奈子さまはやはりやることが違いますな。
竹みな刈った
建御名方(多分、神奈子様の事)
なる程。
博麗君、座布団2枚あげて