※魔理沙とアリスです
※捨食の魔法についての二次設定が含まれています
↓
私は矛盾を口にする。
* * *
「・・・意外だ。
おまえ、料理下手だな」
「否定はしないわ」
「見た目と匂いからしてすごく美味そうだったから期待してたのに・・・
そのことが余計にしょんぼり感を増幅させるぜ」
「冷静な分析ありがとう、魔理沙。
・・・もう下げるわよ?」
「いやいやアリス。
折角私の分を用意してくれた以上、感謝の気持ちを込めて残さず食べるぜ」
「いい心掛けだわ。
でもそれって、苦手な野菜を我慢して食べようとする健気な子供の台詞みたいにも聞こえるんだけど?」
「それは気のせいだぜ?
だがしかし、『もう少しがんばりましょう』と言わざるをえない」
「なんで疑問形なのよ。
それに頑張るつもりなんてないわ。
そもそも私には、そんな必要無いもの」
「なんだそりゃ。
都会派らしく、いつも外食で済ませてるとでも言うのか?」
「そういう訳じゃないけど。
・・・第一、あんたはどうなのよ?」
「私か?
和食ならだいたい作れるぜ。
味にはそれなりに自信がある」
「それこそ意外よ。
まさかあんたが料理できるなんて。
包丁で指を切ったり、鍋を焦がしたり、砂糖と塩を間違えたりするイメージが真っ先に思い浮かぶわ」
「それこそ心外だぜ。
なんなら今度、事実を確かめに家に飯でも食べに来るか?」
「・・・そうね、考えておくわ」
* * *
食事とは生物に備わったエネルギー摂取の手段であり、それは生命活動において欠かすことの出来ない要因である。
その中でも人間は本能的に、有害である可能性の高い苦味と渋味、酸味を苦手とし、エネルギー源となる糖分を好む。
そもそも味覚とは、食事の際に有害な物質を口にしないようにと備わった安全装置のようなものなのだ。
けれど、捨食の魔法を習得した魔法使いにとって、食事とは生きる上において不要なものであり、そしてそれは娯楽としてすら成り立たない。
何故なら、食事をする必要が無いと言うことは、わざわざ安全性を判断する必要が無いということだからだ。
食事が不要なのであれば、味覚もまた不要となる。
それ故に魔法使いは、味覚を持たない。
そして捨食の魔法を用いて人間から魔法使いとなった私もまた、その例外ではない。
五感である視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚、そして第六感。
魔法使いはその中でも然程重要では無い味覚を捨てることにより、魔法を扱う為に必要な他の感覚を高め、特に食事と発声という二つの機能を持つ口を発声――つまりスペルの詠唱に専念させることで効率化を図った。
更には、食事によって得る筈の各種の栄養成分の代わりに自らの魔力を基に肉体の構成そのものを作り替えていくことによって、魔法使いはより魔法に適した存在となるのだ。
進化と退化は対義でありながらも同義であり、そして適応と同義である。
例えば、蝙蝠は暗闇の中に潜むが故に、蝙蝠はその環境において役に立たない視覚を退化させた代わりに、狭い空間で反響する音を聞き分けられる程に聴覚が発達した。
古い剣士が習得したという心眼とやらも、五感の内のいずれか一つが欠けることで他の感覚が鋭くなるという考察において、あながち間違いではないだろう。
もっとも、外界からの情報の大部分を占める視覚を自ら捨てるというのは浅はかすぎるとは思うが。
* * *
私は矛盾を口にする。
必要の無い行為を繰り返す。
かつて人間だった頃と同じように。
* * *
焼きたてのトーストをかじる。
カリカリの外側は口の中に堂々と居座り、モチモチの内側は柔軟に形を変えながら、しぶとく残り続ける。
このパンは食感を楽しむものらしいが、ちっとも楽しめない。
食感なんてものは、味覚があって初めて楽しめるものだ。
元から美味しくも何ともないものが、それだけで美味しくなるわけではないのだから。
楽などころかむしろ辛い、精神的苦痛すら感じてしまうような何の変化も刺激もない単純作業を淡々とこなせるようになったのは、地道な作業を繰り返してきた習慣のおかげなのだろう。
その苦痛に耐えてまで、何故、私は食事を摂り続けるのだろうか。
人間だった頃の習慣を繰り返しているだけなのか、それとも何か理由があったのか。
不要な行為には、何らかの意味が込められていたのだろうか?
そんな意味も答えも無い考え事をしている内に、私はトーストを食べ終えた。
薫りは嗅覚を楽しませ、水分は乾きを癒す潤いとして私を満たす。
文字通りに味気無い食事の後、いつも通りに食後の紅茶を楽しみながら、私はぼんやりと、魔理沙の言葉を思い出していた。
『和食ならだいたい作れるぜ。
味にはそれなりに自信がある』
皮肉にも程がある。
どんなに自信があろうと、そもそも論点がずれているのだ。
私が食べても、美味しいか美味しくないかなんて判断できないのだから。
それを知らない彼女が滑稽で、そんなことに答えられない自分が情けなくて、こんなつまらないことを考えてしまうこと自体が可笑しく思えて、泣きそうになった。
・・・けれど、もしかしたら私にも、彼女の料理を美味しいと思うことは出来るのだろうか?
『なんなら今度、事実を確かめに家に飯でも食べに来るか?』
・・・確かめる勇気は、無い。
※捨食の魔法についての二次設定が含まれています
↓
私は矛盾を口にする。
* * *
「・・・意外だ。
おまえ、料理下手だな」
「否定はしないわ」
「見た目と匂いからしてすごく美味そうだったから期待してたのに・・・
そのことが余計にしょんぼり感を増幅させるぜ」
「冷静な分析ありがとう、魔理沙。
・・・もう下げるわよ?」
「いやいやアリス。
折角私の分を用意してくれた以上、感謝の気持ちを込めて残さず食べるぜ」
「いい心掛けだわ。
でもそれって、苦手な野菜を我慢して食べようとする健気な子供の台詞みたいにも聞こえるんだけど?」
「それは気のせいだぜ?
だがしかし、『もう少しがんばりましょう』と言わざるをえない」
「なんで疑問形なのよ。
それに頑張るつもりなんてないわ。
そもそも私には、そんな必要無いもの」
「なんだそりゃ。
都会派らしく、いつも外食で済ませてるとでも言うのか?」
「そういう訳じゃないけど。
・・・第一、あんたはどうなのよ?」
「私か?
和食ならだいたい作れるぜ。
味にはそれなりに自信がある」
「それこそ意外よ。
まさかあんたが料理できるなんて。
包丁で指を切ったり、鍋を焦がしたり、砂糖と塩を間違えたりするイメージが真っ先に思い浮かぶわ」
「それこそ心外だぜ。
なんなら今度、事実を確かめに家に飯でも食べに来るか?」
「・・・そうね、考えておくわ」
* * *
食事とは生物に備わったエネルギー摂取の手段であり、それは生命活動において欠かすことの出来ない要因である。
その中でも人間は本能的に、有害である可能性の高い苦味と渋味、酸味を苦手とし、エネルギー源となる糖分を好む。
そもそも味覚とは、食事の際に有害な物質を口にしないようにと備わった安全装置のようなものなのだ。
けれど、捨食の魔法を習得した魔法使いにとって、食事とは生きる上において不要なものであり、そしてそれは娯楽としてすら成り立たない。
何故なら、食事をする必要が無いと言うことは、わざわざ安全性を判断する必要が無いということだからだ。
食事が不要なのであれば、味覚もまた不要となる。
それ故に魔法使いは、味覚を持たない。
そして捨食の魔法を用いて人間から魔法使いとなった私もまた、その例外ではない。
五感である視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚、そして第六感。
魔法使いはその中でも然程重要では無い味覚を捨てることにより、魔法を扱う為に必要な他の感覚を高め、特に食事と発声という二つの機能を持つ口を発声――つまりスペルの詠唱に専念させることで効率化を図った。
更には、食事によって得る筈の各種の栄養成分の代わりに自らの魔力を基に肉体の構成そのものを作り替えていくことによって、魔法使いはより魔法に適した存在となるのだ。
進化と退化は対義でありながらも同義であり、そして適応と同義である。
例えば、蝙蝠は暗闇の中に潜むが故に、蝙蝠はその環境において役に立たない視覚を退化させた代わりに、狭い空間で反響する音を聞き分けられる程に聴覚が発達した。
古い剣士が習得したという心眼とやらも、五感の内のいずれか一つが欠けることで他の感覚が鋭くなるという考察において、あながち間違いではないだろう。
もっとも、外界からの情報の大部分を占める視覚を自ら捨てるというのは浅はかすぎるとは思うが。
* * *
私は矛盾を口にする。
必要の無い行為を繰り返す。
かつて人間だった頃と同じように。
* * *
焼きたてのトーストをかじる。
カリカリの外側は口の中に堂々と居座り、モチモチの内側は柔軟に形を変えながら、しぶとく残り続ける。
このパンは食感を楽しむものらしいが、ちっとも楽しめない。
食感なんてものは、味覚があって初めて楽しめるものだ。
元から美味しくも何ともないものが、それだけで美味しくなるわけではないのだから。
楽などころかむしろ辛い、精神的苦痛すら感じてしまうような何の変化も刺激もない単純作業を淡々とこなせるようになったのは、地道な作業を繰り返してきた習慣のおかげなのだろう。
その苦痛に耐えてまで、何故、私は食事を摂り続けるのだろうか。
人間だった頃の習慣を繰り返しているだけなのか、それとも何か理由があったのか。
不要な行為には、何らかの意味が込められていたのだろうか?
そんな意味も答えも無い考え事をしている内に、私はトーストを食べ終えた。
薫りは嗅覚を楽しませ、水分は乾きを癒す潤いとして私を満たす。
文字通りに味気無い食事の後、いつも通りに食後の紅茶を楽しみながら、私はぼんやりと、魔理沙の言葉を思い出していた。
『和食ならだいたい作れるぜ。
味にはそれなりに自信がある』
皮肉にも程がある。
どんなに自信があろうと、そもそも論点がずれているのだ。
私が食べても、美味しいか美味しくないかなんて判断できないのだから。
それを知らない彼女が滑稽で、そんなことに答えられない自分が情けなくて、こんなつまらないことを考えてしまうこと自体が可笑しく思えて、泣きそうになった。
・・・けれど、もしかしたら私にも、彼女の料理を美味しいと思うことは出来るのだろうか?
『なんなら今度、事実を確かめに家に飯でも食べに来るか?』
・・・確かめる勇気は、無い。
…アリスが味に関して「美味しい」とか「不味い」とか言ってる場面てありませんでしたよね?
断言できないのが不安ですが。
確かにアリスは食事を摂るとありますが、味を楽しんでいるのかどうか。
単に習慣から続けているというのも面白いです。
これだと宴会に参加しているのも酒の味ではなく、雰囲気を楽しんでいるのだと解釈もできますね。
ただ欲を言えば、少し短すぎるかなぁと。
折角の面白い解釈ですし、もう少し膨らませて…というより話を広げてみても良いかも知れません。