Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

おとぎこいし

2009/02/02 15:48:10
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 地上へと遊びに行っていた妹が、久しぶりに帰ってきた。



 こいしは背に白い袋を担いでいて、少し奇異に映る。
 だが、それを指摘するよりも前に、姉として注意しなければいけない事があった。
 愛する彼女に苦言を向けるのは痛みを伴うが、仕方ない。

 是も姉の務めだと心の内で嘆息し、私は毅然とした態度で言った。

「こいし。私は貴女を束縛するつもりはないけれど、出かける前位は一声かけなさい」
「どうして、お姉ちゃん?」
「ハンカチは持ったのかお財布に紐を付けているかドロワーズを穿き忘れてないかとか色々あるじゃない!?」
「……お空じゃあるまいし、流石に最後のはどうかと」

 大事だとは思う。

 叫びにも似た声に応えたのは、こいしではなく、傍にいたペットのお燐だった。
 因みに、その更に傍にいるお空が大抗議をしている。
 そりゃまぁねぇ……。

「ただいま、お燐、お空。あら、お空は穿き忘れるの?」
「お帰りなさいです、こいし様。あ、いえ、今のはものの例えで……」
「そうですよ、お燐ってば酷い!」

 ぷくぅと頬を膨らませるお空に、たじたじとするお燐。

 ……ふむ?

「なるほど。確かにお燐の言う通りなようね。お空、時々お燐に注意され、え、何その桃色ハプニング?」
「にゃぁぁぁ、さとり様、思い出させないでくださいぃぃぃ!」
「一度ならず二度三度!? いけない、いけないわ、お燐」

 次々と浮かんでは消えるピンクバブルに、私も思わず拳を握る。じゃなくて。

「……こほん。お空、もう少し、身嗜みにお気をつけなさい」
「はい、わかりました、さとり様!」
「返事ばっかりいいんだからぁ……」

 素直に応えるお空を、顔を真っ赤にして睨むお燐。二匹とも可愛いわ。

「お燐、注意もいいけど、まずは鼻血を吹きなさいな。此処を血霊殿にするつもり?」
「にゃ!? も、申し訳ありません――って、鼻血なんて出してませんよ!?」
「おほほほほ」

 口に手を当て笑う私に、愛する妹も烏もつられて笑う。

(あぅぅ、良識あるアタイばっかり頭が痛いぃぃぃ)

 壁に頭をつけ黄昏る猫もまた、いとかなし。……あれ、私も良識派だった筈なんだけど。





 居間に着くと、こいしはまず背に負っていた袋を畳へと下ろした。
 音から判断するに、ほどほどの重量の物が入っていると考えられる。
 そして、いそいそと中を探る様を見るに、余程気に入っている物だと推測できた。

「見て見て、お姉ちゃん!」

 取り出された物は、薄い、けれど、何冊もある――「絵本?」

「……って、何、お燐?」
「人間の子供向けの書籍、であってたと思う。……そうですよね、さとり様?」
「ええ。……尤も、時代の変遷と共に在り方も解釈も変わってきますが」

 故に、一概に子供向けとは侮れない。其処が面白いところでもある。

「貴女達にも読み聞かせた事がありますよ。そちらはお伽噺ですけどね」
「あ、私、アレ好きです! えっと、確か民明書房から出てるの!」
「それ、違う気がする。……ん、あれ、じゃあ、こいし様が持っているのは違うんですか?」

 含みのある言い方に気付き、お燐がひょいとこいしの手元を覗き込む。

 瞳に映り、意識に上がるのは――。
 ドレスを着た少女が白いタキシードの男性に手を引かれるもの。
 紅い頭巾を被った少女がベッドで寝ている狼に近づいているもの。
 白馬に乗った人間の僧侶が擬人化された猿と豚と河童を引き連れ、旅をしているもの――。

「……なんか、最後の。是だけ毛色が違う気がします」
「同意するわ、お燐。――ともかく、大方は西洋の物ではないかしら?」
「うん、そうなの! えとね、お友達と一緒に人形劇を見せて貰ってね!」

 こいしは、嬉々として語り出す。

 『友達』と人形劇を見た事。
 それがとても面白く、愉しかった事。
 そして、劇の原作を『友達』の住む館の図書館から借りた事。

「でね、でね、私も演じてみたく――お姉ちゃん?」

 言葉を切ったこいしから唐突に呼ばれ、私は驚きながらも冷静に言葉を返す。

「ななななにかしら、こいし。は、話をお続けなさい!?」

 不自然に揺れているのは気のせいだろう。

「滅茶苦茶動揺しているじゃないですか」
「だって! 友達、友達って! えぇい、何処の馬の骨とも知れぬ輩に!」
「『お嬢様』って呼ばれてる子の妹だから、やっぱり『お嬢様』なんじゃないかしら。可愛いの」
「目標紅魔館! 全ペット動員! お空、制御棒を鳴らしなさい! お燐、ご挨拶に向かうわよ!」
「青筋立てながら大真面目に言わないでください! こら、お空も家の中で制御棒取り出すなー!?」



 轟音が鳴り響き、部屋に居た私達は揃って転がった。耳が。耳が。





 こいしは人形劇と同じ事を演じる為に、台本となる絵本を借りてきたようだ。

 幼すぎるその遊びに、けれど、私はのった。

 彼女が望むなら、どのような事でも叶えよう。

 ――甘く愚かな自分に、微苦笑を零した。



「お燐、お空、ドレスへと着替えましたか?」
「はい、さとりお母様。パーティ用の特注品です」
「私もです、さとり――ママ! 制御棒をぴっかぴかにしました!」
「あら、本当ね。でも、着替え直してきなさいね。
 ――こいしれら、貴女は私達が帰ってくるまでに家を掃除しておくのですよ」
「あぁ、さとりお母様、私は王子様と出会えるパーティに連れて行ってくれないのでしょうか」
「……行きません。行くものですか。行かせてなるものですか!
 お燐やお空のみならず、こいしにまで手を出そうとするなんて……!」
「じゃあ、お燐もお空も連れて行かなければいいんじゃないかしら?」
「こいしってば天才ね! さぁ、貴女も着替えてきなさい、今日は家でパーティよ!」
「……あれ?」

「ねぇね、王子様役もさとり様じゃなかったっけ?」
「断固として譲らなかったわよね。……これも自己嫌悪って言うのかなぁ」



「お婆さん、お婆さん。どうして顔を背けているのかしら?」
「それはね、お前に風邪をうつさないためよ。本当は穴があくほど見ていたいのよ」
「お婆さん、お婆さん。どうして腕に毛が生えているのかしら?」
「それはね、お前と違って大人だからよ。あ、腕ね。腕の話ね」
「お婆さん、お婆さん。どうしてそんなにお口が大きいのかしら?」
「それはね、こいし、お前を食べる為よっはぁぁぁ!?」

「あぁもぉ、そんな所だけ忠実に再現しようとしないでください!」
「私は既にさとり様に食べられちゃいました。えへへ」
「言葉通りだから! 嬉しそうにしない!?」



「こいしのドロワおくれーーー!?」

「それ違います、って何叫んでるんですかぁぁぁ!?」
「お姉ちゃんって猪八戒の役だっけ?」
「三蔵法師です」
「あ、じゃあ、お燐、私とフュージョンしましょ。地底で一番強い奴!」
「だぁぁぁもぉぉぉ、じゃあって何よ、あんたも乗るな、お空! フュージョンに関しては又後日相談しましょう。必ず」



 結局、全てのお芝居でこんな感じだった。

「ごめんなさい、ごめんなさい、こいし……。私には貴女の可愛い願いを叶える事さえできない……!」

 拳を握り地に伏す私に、こいしとお空が駆け寄り、鼓舞する言葉を投げかけてくる。

「そんな事ないわ、お姉ちゃん! ただちょっとずつずれてるだけよ!」
「そうですよ、さとり様! 諦めずまた頑張りましょう!」
「あぁ、こいし、お空!」

 二名を抱きよせる。

 と。

 冷めた言葉が私を貫いた。

「と言うか、さとり様が暴走し過ぎなんです」
「お燐! 貴女さえいなければ最後までイけたモノを!」
「微妙に語感が拙いですって! あたいがいなけりゃ大変な事になってましたよ!?」

 ですよねー。

「違うんです違うんです。慣れないお話だからついいきり立ってしまって」
「言ってる傍からなんて言葉を使うんですか!?」
「ふふ、意義的には『興奮して』と変わらないんですよ。何を考えているんですか?」

 口を詰まらせるお燐。偶には主人の威厳を見せないと。

「でも、普段使わないよね?」
「そうですね。んーと、こんな感じでしょうか。『強敵に遭遇して私の制御』もが!?」
「すとーっぷ!!」

 私とお燐が手を出し、同時にお空の口を塞いだ。それは流石にそのまま過ぎる。

 危うい騒動は納まったが、だからと言って事態が好転した訳ではない。
 冗談めかして言ったが、見なれない話に浮足立ってしまったのもまた事実。
 こいしの願いを叶えるのには、少しの時間が必要そうだ。

 ――そう意気消沈する私に、当の彼女が手を打ち話を切り出した。



「だったら、ねぇ、お姉ちゃん。お姉ちゃんが昔話してくれたものでお芝居しましょ」



 妥協した安易な解決策である。



「さとり様があとジュウニンいたら地上組は敗北していただろう!」



 けれど、それでもこいしの願いであった。



「だから、違うって。……あたいも、ちょいと突っ込みの手を抑えますね」



 ならば、私は応えよう。――笑みを浮かべる三名に、私も微笑みを返した。





「やぁやぁ、お燐。私のお供になってはくれないかしら?」
「あたい、犬役ですか。いやいや、……お腰につけたきび団子、頂けるのならなりましょう」

「やぁやぁ、お空。私のお供になってはくれないかしら?」
「さとり様はトリなので最後に回って頂きました。私も鳥ですが。
 お胸に付けたアクセサリー、頂けるのならなりましょう」

「やぁやぁ、お姉ちゃん。私のお供になってはくれないかしら?」
「と言う事は私が猿ですか。確かにそう言う解釈もありますが。
 お腰につけたきび団子……あれ、なくないですか? もうお燐たら!
 胸のアクセサリーもお空にあげたんですね。って、アレ、外せるものなのですか。
 仕方ありません、では、お股に穿いたドロワーズ、一つ私にくださなぁぁぁ熱いぃぃぃ!?」

「あぁぁぁもぉぉぉ、突っ込みを抑えさせて下さいよ! なんでドロワになるんですか!?」
「ごめんなさい、お燐。浮足立つとかそんなの関係なかったわ。私はこいしのドロワが欲しい」
「大真面目に言わないでください! お空も! 脱ごうとするな! あたいだって欲し――じゃなぁぁい!」

 お燐が絶好調だ。頭の中もピンクバブルで溢れている。

 こいしがその様をくすくす笑いつつ、すっと両手をスカートの中に入れた。

 …………え?

「本当にくれるんですか、冗談ですよこいし、言ってみるもんですね!」
「本音だだ漏れですよさとり様! こいし様も……にゃ?」
「さとり様、私のも貰ってくださ……にゅ?」

「あれ? ごめんなさい、お姉ちゃん――」

 きょとんとした表情を浮かべ、
 渡す筈の物があるべき箇所を曝け出し、
 照れ笑いを浮かべ、申し訳なさそうに、言った――。





「私、ドロワーズ穿き忘れちゃってたみたい」





 ――スカート戻してください、こいし様!
 ――お空も負けじと捲り――だすなぁ! うわ丸見え!?
 ――さとり様も止めて、って、さとり様!? 鼻血を、鼻血を止めてくださいぃぃぃ!



 我が館を朱に染め倒れる私に、ただただお燐の絶叫だけが、届いていた。
 是がほんとの血霊殿。あっはっは。
 ……がくり。





 ――にゃぁぁぁぁ、終わり、是で終わり! 《幕》!!
地上や魔界で実力者たちがアップを始めました。

頭の中で。
こいしがだんだん幼くなる。
さとり様がどんどん駄目になっていく。

09/02/02 誤字訂正。ご報告ありがとうございます。
道標
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
道端の雑草役になればこいしとお空を覗き放題って事ですね。

ええ、喜んで雑草役になりましょう!
2.名前が無い程度の能力削除
>ベッドで寝ている狼につかづいているもの
誤字でしょうか?
だめだめなさとりさま、常識人かつ苦労人のおりん、天然のお空、そして落ちのこいしが秀逸でwww
ごちそうさまでした!
3.名前が無い程度の能力削除
ダメなさとりだと!?許しがたい!
もっとやれ!!
4.名前を表示しない程度の能力削除
だめだこのさとり様、早くなんとかしないと……いいえすでに手遅れでした。
しかし最後のオチに思わず私の制御(火焔の車輪
5.白徒削除
こんな変態姉を俺はずっと待っていた…。
もーっとやれ!!もーっとやr(ry
6.名前が無い程度の能力削除
さとりんwww
7.謳魚削除
   だ め す ぎ る
しかしそこがまた何とも言えぬ魅惑。
「タグ:血霊殿」でいきなり吹いた野郎は私だけで良い筈……!
ツッコミ気質お燐ちゃんと天然Fusionお空ちゃん可愛いよ。
8.地球人撲滅組合削除
もうこれは駄目かも分からん血霊殿wwww
9.名前が無い程度の能力削除
明らかにどこぞの紅魔館と同じ道を辿ってますねw

桃魔館と血霊殿、はたしてどちらが天国なのやら……。
10.名前が無い程度の能力削除
カオスww
11.名前が無い程度の能力削除
忘れた頃に、このオチwwww
12.名前が無い程度の能力削除
桃魔館vs血霊殿期待age
13.名前が無い程度の能力削除
レミリア=さとり
フラン=こいし
咲夜=お空
美鈴=お燐
パチェ=???

という関係式が幻視できた俺は幻想郷入r(ロイヤルフレア