夜空に浮かぶ三日月は
さながらしょうけらの嘲笑で
空気の凍る丑三刻に
妹紅が輝夜を呼び出した
「待たせたかしら?」
「まぁ、それなりに」
小高い丘の上で寝そべっていた妹紅は
ひょいと枡に入った日本酒を差し出した
「ありがと」
「ん」
「・・・で、突然何の用?」
雅に枡を傾け、妖艶に飲み干す輝夜を眺めながら
ぽつりと妹紅が呟いた
「好きな人ができた」
「あら、そう」
最後の一滴まで飲み干し
口端に残った雫をそっと拭う
「だからさ」
「なに?」
「あんたとの恋愛ごっこも、もうおしまい」
「そう」
輝夜はふと月を見上げた後
妹紅に振り向き微笑んで
「相手は寺子屋の先生さん?」
「よくわかったね」
片眉上げて驚く妹紅にクスクスと
「何年顔を突き合わせてると思ってるの」
「それもそうか」
はぁーっと頭を掻いて、酒を注ぐ
「まだ飲む?」
「もう結構」
「寂しい?」
「・・・まぁ、それなりに」
「そっか」
「・・・一婦多妻はいかがかしら?」
「生憎、妾をとりつつ本妻を愛す、なんて器用な真似はできなくてね」
「それもそうね」
ぼんやりと星達を見つめ、妹紅の飲み干す音を聞く
いつからだったろうか
憎しみ合う事にも飽き
殺しあう事にも飽き
いい加減やりあえることをやりつくした後に
どちらからともなく出された思いつき
「どうせ暇だし、恋愛ごっこでもしてみよう」
もちろんそれからも、幾度となく殺しあったが
たまの恋愛ごっこは、存外楽しかった
里に降り、茶屋で甘物を食べあったり
三姉妹のコンサートを覗きにいったり
月夜に酌を交わしてみたり
竹林の中で体を重ねた事もあったかしら?
けど、それもおしまい
「あんまり気にも留めてない、といった風だね」
「そうね」
輝夜は軽く向き直ると、そっと妹紅の頬に手を滑らせ
「私も近々、同じ事を言おうとしたからかしら?」
「そう」
妹紅はその手を払わず、輝夜の髪を撫でるように腕を伸ばし
「お相手はあの薬師?」
「あら、ご名答」
今度は輝夜が僅かに眉をあげると
妹紅はくつくつと笑い
「それ以外だったら、私が驚く」
「それもそうね」
妹紅と同じように、小さく声をあげて笑う輝夜
そして、しばらく黙ってお互いを慈しんだ後
どちらからともなく大きく距離をとり
「それじゃあ、ちょっと死んでくれない?」
「あなたこそ」
まるで、初めて妹紅が不死になってから対峙した様に
全力で互いを締めにかかった
首をはね
顔を潰し
腕をもぎ
脚をひねり
臓物を抉り
骨を砕いた
しかし、やはり何時までたっても勝負はつかず
半々刻も経っただろうか
やや息を切らせているものの
疲弊した様子もなく、互いに見つめあう二人
「・・・とりあえず、今晩はこのくらいにしとこうか」
「それもそうね」
軽く髪をかきあげ、微笑む輝夜に苦笑する妹紅
「相変わらず容赦ないな」
「元はと言えば、あなたからでしょうに」
何を今更、なんて呆れる顔に笑いかけ
「それじゃ、このへんで」
「ええ」
ふうっ、と息をつき
軽く体をはらい
のんびりと歩み寄ると
そのまま抱きしめあい
馬鹿みたいに深いキスをした
唇を抉じ開け
歯をなぞり
舌を絡め
声を漏らし
唾液を混ぜ
喉を鳴らした
長い間、窒息してしまいそうな口づけ
事実、お互い二度は死んだかもしれない
「・・・満足した?」
「・・・あなたにそっくりお返しするわ」
妖しい笑顔に苦笑で返し
唇から引く糸を断ち切ると
「じゃあね輝夜。さっさと三途の川を渡ってくれ」
「ええ。妹紅も早く閻魔様に謁見なさいな」
背を向けて手を振る妹紅に、小さく手を振り返す輝夜
互いの目尻は、僅かに濡れて
.
さながらしょうけらの嘲笑で
空気の凍る丑三刻に
妹紅が輝夜を呼び出した
「待たせたかしら?」
「まぁ、それなりに」
小高い丘の上で寝そべっていた妹紅は
ひょいと枡に入った日本酒を差し出した
「ありがと」
「ん」
「・・・で、突然何の用?」
雅に枡を傾け、妖艶に飲み干す輝夜を眺めながら
ぽつりと妹紅が呟いた
「好きな人ができた」
「あら、そう」
最後の一滴まで飲み干し
口端に残った雫をそっと拭う
「だからさ」
「なに?」
「あんたとの恋愛ごっこも、もうおしまい」
「そう」
輝夜はふと月を見上げた後
妹紅に振り向き微笑んで
「相手は寺子屋の先生さん?」
「よくわかったね」
片眉上げて驚く妹紅にクスクスと
「何年顔を突き合わせてると思ってるの」
「それもそうか」
はぁーっと頭を掻いて、酒を注ぐ
「まだ飲む?」
「もう結構」
「寂しい?」
「・・・まぁ、それなりに」
「そっか」
「・・・一婦多妻はいかがかしら?」
「生憎、妾をとりつつ本妻を愛す、なんて器用な真似はできなくてね」
「それもそうね」
ぼんやりと星達を見つめ、妹紅の飲み干す音を聞く
いつからだったろうか
憎しみ合う事にも飽き
殺しあう事にも飽き
いい加減やりあえることをやりつくした後に
どちらからともなく出された思いつき
「どうせ暇だし、恋愛ごっこでもしてみよう」
もちろんそれからも、幾度となく殺しあったが
たまの恋愛ごっこは、存外楽しかった
里に降り、茶屋で甘物を食べあったり
三姉妹のコンサートを覗きにいったり
月夜に酌を交わしてみたり
竹林の中で体を重ねた事もあったかしら?
けど、それもおしまい
「あんまり気にも留めてない、といった風だね」
「そうね」
輝夜は軽く向き直ると、そっと妹紅の頬に手を滑らせ
「私も近々、同じ事を言おうとしたからかしら?」
「そう」
妹紅はその手を払わず、輝夜の髪を撫でるように腕を伸ばし
「お相手はあの薬師?」
「あら、ご名答」
今度は輝夜が僅かに眉をあげると
妹紅はくつくつと笑い
「それ以外だったら、私が驚く」
「それもそうね」
妹紅と同じように、小さく声をあげて笑う輝夜
そして、しばらく黙ってお互いを慈しんだ後
どちらからともなく大きく距離をとり
「それじゃあ、ちょっと死んでくれない?」
「あなたこそ」
まるで、初めて妹紅が不死になってから対峙した様に
全力で互いを締めにかかった
首をはね
顔を潰し
腕をもぎ
脚をひねり
臓物を抉り
骨を砕いた
しかし、やはり何時までたっても勝負はつかず
半々刻も経っただろうか
やや息を切らせているものの
疲弊した様子もなく、互いに見つめあう二人
「・・・とりあえず、今晩はこのくらいにしとこうか」
「それもそうね」
軽く髪をかきあげ、微笑む輝夜に苦笑する妹紅
「相変わらず容赦ないな」
「元はと言えば、あなたからでしょうに」
何を今更、なんて呆れる顔に笑いかけ
「それじゃ、このへんで」
「ええ」
ふうっ、と息をつき
軽く体をはらい
のんびりと歩み寄ると
そのまま抱きしめあい
馬鹿みたいに深いキスをした
唇を抉じ開け
歯をなぞり
舌を絡め
声を漏らし
唾液を混ぜ
喉を鳴らした
長い間、窒息してしまいそうな口づけ
事実、お互い二度は死んだかもしれない
「・・・満足した?」
「・・・あなたにそっくりお返しするわ」
妖しい笑顔に苦笑で返し
唇から引く糸を断ち切ると
「じゃあね輝夜。さっさと三途の川を渡ってくれ」
「ええ。妹紅も早く閻魔様に謁見なさいな」
背を向けて手を振る妹紅に、小さく手を振り返す輝夜
互いの目尻は、僅かに濡れて
.
嫌いじゃない、けど、切ねぇなぁ。
こんなてるもこは実に良い。