多少壊れているかもしれません。
如月 一日 (快晴)
本日も定刻通りに目が覚める。特に時間を気にしている訳ではないのだが、月にいた頃の習慣が
身に染み付いている様だ。大抵は永遠亭では私が一番に起きる。
庭に面した廊下の障子を開けてみると、まだ陽は昇ったばかりだが本日は快晴の様だ。
ひとつ伸びをすると、いつもの服装に着替えて台所に向かう。
台所には珍しくてゐがいた。普段はもう少し寝ているのに……
「おはよう、今朝は早いのね?」と声を掛けるとてゐは私に笑いかけた。
なんでも、思いの外早く目が覚めてしまったので久しぶりに朝ご飯でも作ろうと思い立ったとの事。
私は笑顔で了承すると、早速二人で朝ご飯の準備を始めた。
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
未だ鈴仙ですら目覚めていない早朝の永遠亭、台所にてにらみ合う三つの影があった。
一つは永遠亭の主にして月の姫、優雅に微笑を浮かべる蓬莱山輝夜。
一つは永遠亭の影の主にして月の頭脳、柔らかな微笑みを浮かべた八意永琳。
一つは永遠亭にて妖怪兎をまとめる実力者、人懐っこい微笑を浮かべた因幡てゐ。
三者三様の微笑を浮かべてはいるが、目は一切笑っていない。
「お早う御座います、姫。今朝も早いのですね。毎朝毎朝……もう少し寝てらっしゃれば如何です?」
「お早う永琳。それにイナバも。あなた達こそもう少し寝ていれば?特に永琳、研究で毎晩遅いのでしょう?」
「お心遣いありがとう御座います。しかしこれでも医者のはしくれ、健康管理は万全ですわ。それを言うならば
てゐ。貴女はもう少し寝ていた方が良いのではなくて?早く起きれば健康に良いと言う物では無いでしょう?」
「もちろん早起きをすれば良いって物じゃ無いですよ。でも、よく寝れば良いって物でも無いんですよ。むしろ
健康管理に重要なのは「どの位の間・どの様に寝たか?」が重要でしてね。」
会話の内容のみならば相手を気遣っている様にも聞こえるが、辺りには並みの人間ならば即座に失神していまい
そうな程の殺気が満ちていく。
「全く。毎朝毎朝毎朝言っておりますが、ウドンゲと一緒に朝ご飯を用意するイベントは、例え姫であろうと
譲る気は御座いませんわ」
「わたしも鈴仙ちゃんと二人っきりになるチャンス。例え姫様だろうと、永琳様だろうと譲る気はありませんねぇ」
「鈴仙と二人っきりでの料理イベント。こんな分かり易いフラグを私が見逃すと思って?」
「姫様もてゐも……毎朝邪魔ばっかりしてくれたお陰で、23日間連続三者トリプルKO。……でもその忌まわしい
記録も今日でお仕舞いにして差し上げますわ」
そう言うと永琳は懐から数本の注射器を取り出した。それに答えて輝夜も「仏の御石の鉢」を取り出す。
……スペルカードではなく鈍器として使用する気満々だ。
「ねぇ、お二人とも。今日は違う方法で勝負をしません?」
その様子を見ていたてゐが提案する。このまま戦闘に突入しても良いが、またトリプルKOになってもつまらない。
ちなみに昨日までの戦闘では弾幕は使用されていない。爆発音等で鈴仙が起きて来ない様にするためである。
通常の弾幕ごっこならば、てゐでは永琳や輝夜の足元にも及ばないのではあるが、肉弾戦となれば話は違う。
また、永琳や輝夜は別段てゐを殺す気は無いのに対し、てゐは二人を殺す気で仕掛けられる点も大きかった。
……結果、三人の実力は拮抗した。その為、てゐはきっかけが欲しかった。拮抗してしまった流れを変える為の。
「もう、じゃんけんとかにしません?それならば平等ですし」
永琳と輝夜は少し考えると、てゐの意見に賛同した。
「じゃあ、最初はグーで行きますからね。良いですか?……さぁーいしょは……グー!!!」
その刹那、最初に動いたのは輝夜だった。グーを出す素振りで「仏の御石の鉢」を永琳の頭目掛けて振り下ろす。
それを永琳は神掛かった反射神経で受け止めようとする。
瞬間、僅かに永琳の神経が輝夜に向いたのをてゐは見逃さなかった。グーを出そうとしていたまま、体を捻り拳を
永琳の鳩尾に叩き込む。
一瞬ガードが下がった永琳の脳天に「仏の御石の鉢」がめり込んだ。
「イナバ、ナイスアシストよ。それで……良ければ貴女もさっさとダウンしてもらいたいのだけど?」
「そうはいかないんですよ。これがまた」
「……でも貴女は戦局の流れを掌握しコントロールする策士タイプ。純粋な一対一では私には及ばなくてよ?」
「勝負は下駄を履くまでわかりませんから」
「そう。貴女も永遠亭の大切な家族。「仏の御石の鉢」は勘弁してあげるわ!!」
その瞬間、輝夜は大きく跳躍する。
そしてまるで弓を引き絞るかの様に大きく捻った右拳に全体重を乗せ振り下ろした。
ゴスッ!!
異様な打撃音。そして地面に倒れたのは輝夜だった。
てゐは輝夜の後ろに目をやる。そこには巨大な杵を持った妖怪兎が立っていた。
「ご苦労様」
その兎に声を掛けるてゐ。妖怪兎は一度敬礼をすると部屋から出て行く。
てゐは気絶している輝夜に目をやると小さく呟いた。
「姫様の敗因は、永琳様が倒れた事によって「一対一」になったと思い込んだ事ですよ」
てゐは二人を納屋に押し込むと、ポケットからエプロンを取り出した。
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
朝食を済ませると、人里に行く準備をする。今日は週に一度の常備薬の点検日だ。
最近は師匠の薬の評判も知れ渡り、常備薬を置いてくれる人も多くなった。
弟子の私としても、師匠の薬を認められるのは嬉しい。反面、自分もまた師匠の様に皆に認めてもらえるよう
努力しなければと思うと身が引き締まる。
玄関に向かう途中、姫様が庭で洗濯をしているのを見かける。
姫様に洗濯をさせるなんてとんでもないと、あわてて声を掛けた。
「あら鈴仙。今から人里?ご苦労様」
最近、姫様は私の事を「鈴仙」と呼んで下さる。なんだか師匠の様に姫様の特別になったみたいで
とても嬉しい……じゃ無くって!
「良いのよ。私は鈴仙、貴女も永琳も……そして永遠亭の全ての兎達を家族だと思っているわ。だから、
私も「月の姫・蓬莱山輝夜」ではなく「永遠亭の家族の一員」として皆と共に過ごしたいのよ」
そう言って微笑う姫様の笑顔はとても綺麗で……
私は少しの間見惚れていました。
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
走る走る。永遠亭の長く続く廊下を輝夜は全力で走っていた。
今朝は不覚を取ってしまった。……ならば、なんとしても次の「お洗濯」イベントを落とすわけには行かない。
たかが洗濯、されど洗濯。洗濯をあなどるなかれ。
なにしろ、鈴仙の下着(未洗濯)を堪能するチャンスなのだ。
おそらく永琳もてゐもこのチャンスを狙っているだろう。
ならば先手必勝!二人が動く前にこちらから仕掛ける!!
輝夜が目指しているのは庭にある洗濯場ではない。目指すはてゐの部屋。そう、まずはてゐと永琳、
二人を沈黙させてから悠々と洗濯に向かえば良いのだ。
輝夜が予想以上に早いタイミングで仕掛けて来た為か、てゐの指揮する永遠亭防衛部隊の動きが乱れている。
「今がチャンス!」
そう呟いた輝夜はさらにスピードを上げた。
実際てゐは焦っていた。おそらく洗濯についての対立が三人の間に起こるだろうと予測はしていた。
しかし、輝夜が実力行使に出るタイミングがあまりに早かったのだった。完全に後手を踏まされたてゐは
指揮下の部隊を5つに分け、輝夜に対する波状攻撃をかける。が、輝夜がてゐの部屋のすぐ近くまで来ていた為、
思っている程の戦果を挙げられずにいた。
てゐは長期戦になる覚悟を決めた。
しかし、ここで事態は急転する。輝夜・てゐの膠着状態を機と見た永琳が打って出たのだ。
永琳は一気に決着を着ける為、かねてより研究開発していた「対妖怪兎用無力化ガス」通称「G3ガス」を
永遠亭内部に対し使用。催眠及び筋弛緩による因幡達の無力化に成功。蓬莱の薬によりある程度耐性のある
輝夜も呼吸器の痺れ程度はあるだろうとの予測により、永琳は自身の勝利を確信した。
だが、輝夜の行動は永琳の予測を上回った。
ガスの散布を確認するや否や、輝夜は永遠亭より脱出。その後付近を通り掛かった「射命丸 文」と接触。
永琳が永遠亭内部に科学物質を散布したことによる兎達への被害をスクープとして提供。また、このスクープを
永琳のマッドな暴走としてニュースにする事によるプロパガンダへの報酬として輝夜秘蔵の「永琳艶姿写真」数枚を
射命丸に提供。(ちなみに艶姿写真と言うよりは、永琳の入浴や、ウドンゲ人形を抱きしめて(ゲフンゲフン)な
永琳の、ただのエロ盗撮写真である)射命丸文の懐柔に成功する。
文は報道家としての使命と、言論の自由と、多量の鼻血を胸に飛び去って行く。その後姿を輝夜は笑顔で見送った。
輝夜にとっては文は手駒の一つに過ぎなかった。
輝夜はすぐさま、この情報を永琳にリーク。内容を聞くや否や永琳は顔を真っ赤に紅潮させ文の後を追った。
永琳を笑顔で見送った輝夜は、鼻歌を歌いながら洗濯場に向かった。
ちなみに、その後の文と永琳はと言うと……
幻想郷最速と言われる射命丸文でさえ、鬼神の如き形相を浮かべた八意永琳からは逃げることあたわず、
そのまま戦闘に突入。文もかなりの実力者ゆえに瞬殺はされないものの、徐々に追い詰められてゆく。
そして抵抗空しく、遂に文は意識を失った。しかし、報道への使命感か、記者魂か、はたまた単なるエロパワーか
その身に催眠剤・睡眠剤・筋弛緩剤・シアン化カリウム・アコニチン・テトロドトキシン・塩化金酸・ソマン・
ダイオキシン・テトラエチル鉛等、合計20と数種類の薬物・毒薬を受けてなお、膝を着く事無く立ったままの
失神であった。その姿を見た白狼天狗により「射命丸の女立ち」として後世に語り継がれる事になる。
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
人里からの帰り道、竹林の入り口で妹紅さんと会う。
なんでも、永遠亭に人間の患者を送ってきた帰りらしい。
人里で急患が出ると妹紅さんが永遠亭まで連れて行き、帰りは永遠亭の兎が患者を人里近くまで送る事に
なっている。
妹紅さんは姫様とは殺し合いをしているが、私や永遠亭の兎達には気さくに話しかけてくれる。
以前、師匠の事はどう思っているのか聞いてみた所、
「嫌いじゃないけど、学者ってのは何か苦手だ。まぁ、打ち解けてみると慧音の様に仲良くなるかもね」
と言っていた。いつか妹紅さんも姫様や師匠と打ち解けて仲良く出来ると良いと思う。
しばらく立ち話をした後、別れ際に「他の兎には内緒だよ」と言って草もちを頂く。
なんでも妹紅さんの手作りらしい。夜食にしようと有難く頂いた。
永遠亭に戻ると師匠が縁側でお茶を飲んでいた。何だか酷く疲れているようだったので尋ねてみると、
「何でもないわ。ただ、今日は色々あって少し疲れただけ」
との事。逆に
「今日は何時もより帰りが遅かったわね。何か問題でもあったの?」
と聞かれたので、竹林の入り口で妹紅さんと会った事を話す。
「へぇ、妹紅とねぇ」
そう声がしたので振り返るといつの間にか姫様が立っておられた。
つい「しまった」と思ったのが顔に出てしまったのだろう。姫様は私の顔を見ると、ころころと笑いながら
「いいのよ、気を使わなくとも。むしろ貴女と妹紅の仲が良いのは喜ばしい事よ。
私も妹紅もお互い憎み合っているけど、奥底の部分では少し違うの。
何と言うか……「永遠を手に入れてしまった者同士の狂気」と言うのが近いかしらね?
今はそのベクトルが「憎しみ」に向いていると言うだけ。ひょっとしたら100年後位の私と妹紅は
ラブラブかもしれないわよ?」
冗談めかしてそう言うと、姫様は私の頭を軽く撫でて下さった。
「とりあえずウドンゲ、今日は疲れたでしょう?少し休んで構わないわ。私と姫様は少し出かけてくるから」
そう師匠が言うので私もお供を申し出たのだが、永琳と二人で良いのよと姫様がおっしゃるので
お言葉に甘えて自室で少し仮眠を取ることにした。
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
鈴仙が自室に入るのを確認すると、輝夜と永琳は笑顔という仮面を外した。
「あんの糞妹紅がぁ!私の鈴仙に手を出すとは、よっぽどミンチになりたい様ね」
「私のウドンゲを草もち程度で懐柔しようとは、安く見られたものね。意識を保ったまま解剖してやるわ!」
悪鬼羅刹の様な表情で永遠亭を飛び立つ二人。それを見た永遠亭から帰ろうとしていた人間の患者が人里で
その様子を話した事から、事態は思わぬ方向に進む。
人里では少数派であることや、永遠亭の圧力により地下に潜伏しゲリラ的に活動していた秘密結社
「もこ×うどんげ推進評議会連合」が各地にて一斉に蜂起。
連合内最大派閥である「丸兎(マルト)騎士団」42名が永遠亭に対し正面突撃を敢行。
因幡てゐ率いる永遠亭防衛部隊が即座に対応するも、先の永琳の「G3ガス」のダメージが抜け切らない為
苦戦を強いられる事になる。
これを機と見た連合側は全部隊を永遠亭に向け進軍。「モンペと縞十字騎士団」19名、「へにょり耳修道騎士会」
9名が永遠亭に対し多方面攻撃を掛ける。苛烈な四方面戦闘を強いられた永遠亭防衛部隊は戦力を疲弊。
何とか最終防衛ラインは維持しているものの、永遠亭(と鈴仙の貞操)は風前の灯であった。
しかし、この事態を察知した永琳が妹紅との戦闘を放棄、急遽永遠亭に帰還することにより、状況は一変。
最低限の防衛ラインを残し、戦術を各個撃破に変更。永琳の攻撃により「へにょり耳修道騎士会」は壊滅。
「モンペと縞十字騎士団」は人里への撤退を余儀なくされる。
「丸兎騎士団」が残存勢力を回収することで、かろうじて戦力を維持。戦況は泥沼の様相を呈していった。
後日、上白沢慧音を仲介し停戦協定条約が締結されるまでに、実に3日を必要とした。
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
夕食後は師匠と在庫用の薬の調合を行う。
しかし、今日は私のミスでいくらかの薬を駄目にしてしまった。師匠にきつく怒られる。
結局そのミスが響いて調合が終わったのは夜遅くなってからだった。
落ち込む気持ちを何とか紛らわそうと、お風呂に入る。時間が遅い所為か私以外は誰も居らずゆっくりとしていると
珍しく師匠が入ってきた。少々気まずく思って俯いていると、湯船で隣に座った師匠が私の肩を抱いて話しかけてきた。
「ウドンゲ……御免なさいね。さっきはきつく言い過ぎたわ。私はこれから先、永遠と言う時間を過ごして行く。
だから、貴女のような弟子を再び持つ事もあるでしょう。でも、初めての弟子は貴女。私の全ての知識を伝えても良い
と思ったのは貴女が最初なのよ。私は医者として命のあり方には注意しているつもり。でも、不死の所為で疎かになって
しまう事もあるわ。でも、貴女なら私とは違った形で命のあり方に向き合える。だから、これからも厳しくあたる事も
あるかもしれない。でも、決して挫けないで欲しい。私は信じているから」
本当にお風呂の中で良かったと思う。涙をごまかせるから。でも……師匠は気が付いていたのでしょう。
肩を抱く手に少し力が篭ったから……
その後、師匠に背中を流してもらう。師匠は笑っていたけど、恥ずかしいやら、申し訳ないやら。
……でも本当は嬉しかったです。
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
「鈴仙が浴場に向かう」
その一報は永遠亭全土を駆け抜けた。
真っ先に動いたのは永遠亭外部で野戦に入っていた「もこ×うどんげ推進評議会連合」であった。
この決定的なチャンスを物にする為に藤原妹紅自らの出陣を血判状を持って嘆願。
まんざらでもない妹紅はこれを快諾。妹紅の進む道を切り開くため連合メンバーは全員死を賭して望む。
水杯を交わし、今まさに突撃せんとした時、上空より一人の女性が舞い降りた。
上白沢慧音である。
事態を予見していた八意永琳は極秘ルートを通じ、人里における最大派閥である「もこけーね至上主義連盟」に
情報を提供していたのだ。連盟は事態の深刻さに、すぐさま慧音に上告。慧音はすぐに永遠亭に向かったのだった。
慧音は妹紅を根気強く説得。妹紅を血の海に沈めて説得に成功。盟主を失った事により連合は退却を余儀なくされた。
永琳が外部との連携に躍起になっていた頃、てゐは水面下で永遠亭内部のプロパガンダを行っていた。
てゐ及びてゐ直属の諜報部隊による情報操作により、日頃燻っていた輝夜・永琳に対する不満が各地で爆発。先の
永琳による「G3ガス」の使用がさらに拍車をかけた。
まず輝夜・永琳・てゐに対し中立を宣言していた「永遠亭物資補給部隊」並びに「田畑維持管理部隊」が永琳・輝夜に
対して独立戦宣を布告。また、輝夜専属親衛隊や永琳直属の八意診療所職員からも亡命者が殺到。
この事態を受け、てゐは全部隊を統合。部隊名を「神聖因幡帝国」に改名、自らが初代皇帝となる。
勢いに乗る帝国軍に対し次第に領土を疲弊させていった輝夜・永琳は一時的に同盟を結ぶ。
輝夜が戦線を維持している間に永琳が帝国を徹底的に調査。その結果、てゐ及び一部元老院が物資(人参)を横流し
している事を突き止める。この情報の公開によりてゐは求心力を失い失脚。遂には更迭されてしまう。
こうして「神聖因幡帝国」は建国僅か13分で地上から消滅した。
帝国の崩壊と同時に輝夜は帝国を自らの部隊に取り込み永琳を圧倒する。
しかし、ここで輝夜は永琳を見誤った。永琳が輝夜が帝国を取り込むのを訳も無く見逃す筈が無かったのだ。
自分に付き従う圧倒的な戦力を見て
「圧倒的じゃないか、我が軍の戦力は!」
と悦に入る輝夜を尻目に、永琳は輝夜親衛隊の諜略を開始。まるで女神の様な笑顔を浮かべ、そして儚げに
「私はあなた達を傷つける気はありません。私の目標は姫様のみ。この戦いが終結したとしても、あなた達には
何の処分も与えない事を約束します」
と訴えた。
数時間前、何の躊躇も無くNBC兵器を使用した人間とは思えないが、帝国敗残兵として輝夜に取り込まれた
兎達は永琳に帰順。クーデターにより輝夜の身柄を拘束、永琳に差し出す事により事態は収束を向かえた。
最後に戦局を決めたのは、輝夜と永琳の資質の差だった。
謀略は貴婦人の嗜みとはいえ、やはり輝夜は元「月の姫」。最後には上流階級独特のおっとりした部分を残す
のに対し、「薬学に魂を売った魔女」「月の都の惨劇(ワルプルギス)」「静かの海の悪夢の巨乳」等の異名を
持つ永琳である。土壇場の粘りは賞賛に値した。
後に「第2107次熱狂的再征服(レコンキスタ)」と呼ばれる戦いであった。
事態の収束を確認した永琳はスキップで浴場に向かった。……もちろん、勝負下着を持参して。
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
色々あったけど、今日も平和な一日でした。
このまま皆と笑い合う幸せな日々が続けば良いと思う。
以前の私は、あそこから逃げ出してきた自分なんかが幸せになれるのだろうか?なっても良いのだろうか?
そんな事ばかりを考えていました。
でも、師匠や姫様やてゐ、それに皆と出会って私は変わった。ううん……皆のおかげで、私は変わる事が出来た。
今の私は幸せになりたいと思っている。
自分が幸せになる為に日々を一生懸命生きたいと思う。
そして、いつか訪れる今わの際に
師匠に。姫様に。てゐに。兎達皆に。私を彼岸へと案内するであろう、あの死神に。私を裁く、あの閻魔様に。
……そして、願わくばあの時の皆に……
私は胸を張って答えたいと思う。
「鈴仙・優曇華院・イナバは幸せでした」と。
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
鈴仙は筆を置くと日記帳を閉じ、机の引き出しにそっと仕舞った。
随分と夜も遅くなってしまった。
明かりを消すと、布団にもぐり込む。この時期、布団の中は冷え切っていた。
鈴仙はそっと目を閉じる。
少し感傷的になってしまった様だ。目尻に何かが伝うのは、きっと気のせい。
「ちょっと寒いかな」
鈴仙はスンッと鼻を鳴らした。
如月 一日 (快晴)
本日も定刻通りに目が覚める。特に時間を気にしている訳ではないのだが、月にいた頃の習慣が
身に染み付いている様だ。大抵は永遠亭では私が一番に起きる。
庭に面した廊下の障子を開けてみると、まだ陽は昇ったばかりだが本日は快晴の様だ。
ひとつ伸びをすると、いつもの服装に着替えて台所に向かう。
台所には珍しくてゐがいた。普段はもう少し寝ているのに……
「おはよう、今朝は早いのね?」と声を掛けるとてゐは私に笑いかけた。
なんでも、思いの外早く目が覚めてしまったので久しぶりに朝ご飯でも作ろうと思い立ったとの事。
私は笑顔で了承すると、早速二人で朝ご飯の準備を始めた。
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
未だ鈴仙ですら目覚めていない早朝の永遠亭、台所にてにらみ合う三つの影があった。
一つは永遠亭の主にして月の姫、優雅に微笑を浮かべる蓬莱山輝夜。
一つは永遠亭の影の主にして月の頭脳、柔らかな微笑みを浮かべた八意永琳。
一つは永遠亭にて妖怪兎をまとめる実力者、人懐っこい微笑を浮かべた因幡てゐ。
三者三様の微笑を浮かべてはいるが、目は一切笑っていない。
「お早う御座います、姫。今朝も早いのですね。毎朝毎朝……もう少し寝てらっしゃれば如何です?」
「お早う永琳。それにイナバも。あなた達こそもう少し寝ていれば?特に永琳、研究で毎晩遅いのでしょう?」
「お心遣いありがとう御座います。しかしこれでも医者のはしくれ、健康管理は万全ですわ。それを言うならば
てゐ。貴女はもう少し寝ていた方が良いのではなくて?早く起きれば健康に良いと言う物では無いでしょう?」
「もちろん早起きをすれば良いって物じゃ無いですよ。でも、よく寝れば良いって物でも無いんですよ。むしろ
健康管理に重要なのは「どの位の間・どの様に寝たか?」が重要でしてね。」
会話の内容のみならば相手を気遣っている様にも聞こえるが、辺りには並みの人間ならば即座に失神していまい
そうな程の殺気が満ちていく。
「全く。毎朝毎朝毎朝言っておりますが、ウドンゲと一緒に朝ご飯を用意するイベントは、例え姫であろうと
譲る気は御座いませんわ」
「わたしも鈴仙ちゃんと二人っきりになるチャンス。例え姫様だろうと、永琳様だろうと譲る気はありませんねぇ」
「鈴仙と二人っきりでの料理イベント。こんな分かり易いフラグを私が見逃すと思って?」
「姫様もてゐも……毎朝邪魔ばっかりしてくれたお陰で、23日間連続三者トリプルKO。……でもその忌まわしい
記録も今日でお仕舞いにして差し上げますわ」
そう言うと永琳は懐から数本の注射器を取り出した。それに答えて輝夜も「仏の御石の鉢」を取り出す。
……スペルカードではなく鈍器として使用する気満々だ。
「ねぇ、お二人とも。今日は違う方法で勝負をしません?」
その様子を見ていたてゐが提案する。このまま戦闘に突入しても良いが、またトリプルKOになってもつまらない。
ちなみに昨日までの戦闘では弾幕は使用されていない。爆発音等で鈴仙が起きて来ない様にするためである。
通常の弾幕ごっこならば、てゐでは永琳や輝夜の足元にも及ばないのではあるが、肉弾戦となれば話は違う。
また、永琳や輝夜は別段てゐを殺す気は無いのに対し、てゐは二人を殺す気で仕掛けられる点も大きかった。
……結果、三人の実力は拮抗した。その為、てゐはきっかけが欲しかった。拮抗してしまった流れを変える為の。
「もう、じゃんけんとかにしません?それならば平等ですし」
永琳と輝夜は少し考えると、てゐの意見に賛同した。
「じゃあ、最初はグーで行きますからね。良いですか?……さぁーいしょは……グー!!!」
その刹那、最初に動いたのは輝夜だった。グーを出す素振りで「仏の御石の鉢」を永琳の頭目掛けて振り下ろす。
それを永琳は神掛かった反射神経で受け止めようとする。
瞬間、僅かに永琳の神経が輝夜に向いたのをてゐは見逃さなかった。グーを出そうとしていたまま、体を捻り拳を
永琳の鳩尾に叩き込む。
一瞬ガードが下がった永琳の脳天に「仏の御石の鉢」がめり込んだ。
「イナバ、ナイスアシストよ。それで……良ければ貴女もさっさとダウンしてもらいたいのだけど?」
「そうはいかないんですよ。これがまた」
「……でも貴女は戦局の流れを掌握しコントロールする策士タイプ。純粋な一対一では私には及ばなくてよ?」
「勝負は下駄を履くまでわかりませんから」
「そう。貴女も永遠亭の大切な家族。「仏の御石の鉢」は勘弁してあげるわ!!」
その瞬間、輝夜は大きく跳躍する。
そしてまるで弓を引き絞るかの様に大きく捻った右拳に全体重を乗せ振り下ろした。
ゴスッ!!
異様な打撃音。そして地面に倒れたのは輝夜だった。
てゐは輝夜の後ろに目をやる。そこには巨大な杵を持った妖怪兎が立っていた。
「ご苦労様」
その兎に声を掛けるてゐ。妖怪兎は一度敬礼をすると部屋から出て行く。
てゐは気絶している輝夜に目をやると小さく呟いた。
「姫様の敗因は、永琳様が倒れた事によって「一対一」になったと思い込んだ事ですよ」
てゐは二人を納屋に押し込むと、ポケットからエプロンを取り出した。
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
朝食を済ませると、人里に行く準備をする。今日は週に一度の常備薬の点検日だ。
最近は師匠の薬の評判も知れ渡り、常備薬を置いてくれる人も多くなった。
弟子の私としても、師匠の薬を認められるのは嬉しい。反面、自分もまた師匠の様に皆に認めてもらえるよう
努力しなければと思うと身が引き締まる。
玄関に向かう途中、姫様が庭で洗濯をしているのを見かける。
姫様に洗濯をさせるなんてとんでもないと、あわてて声を掛けた。
「あら鈴仙。今から人里?ご苦労様」
最近、姫様は私の事を「鈴仙」と呼んで下さる。なんだか師匠の様に姫様の特別になったみたいで
とても嬉しい……じゃ無くって!
「良いのよ。私は鈴仙、貴女も永琳も……そして永遠亭の全ての兎達を家族だと思っているわ。だから、
私も「月の姫・蓬莱山輝夜」ではなく「永遠亭の家族の一員」として皆と共に過ごしたいのよ」
そう言って微笑う姫様の笑顔はとても綺麗で……
私は少しの間見惚れていました。
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
走る走る。永遠亭の長く続く廊下を輝夜は全力で走っていた。
今朝は不覚を取ってしまった。……ならば、なんとしても次の「お洗濯」イベントを落とすわけには行かない。
たかが洗濯、されど洗濯。洗濯をあなどるなかれ。
なにしろ、鈴仙の下着(未洗濯)を堪能するチャンスなのだ。
おそらく永琳もてゐもこのチャンスを狙っているだろう。
ならば先手必勝!二人が動く前にこちらから仕掛ける!!
輝夜が目指しているのは庭にある洗濯場ではない。目指すはてゐの部屋。そう、まずはてゐと永琳、
二人を沈黙させてから悠々と洗濯に向かえば良いのだ。
輝夜が予想以上に早いタイミングで仕掛けて来た為か、てゐの指揮する永遠亭防衛部隊の動きが乱れている。
「今がチャンス!」
そう呟いた輝夜はさらにスピードを上げた。
実際てゐは焦っていた。おそらく洗濯についての対立が三人の間に起こるだろうと予測はしていた。
しかし、輝夜が実力行使に出るタイミングがあまりに早かったのだった。完全に後手を踏まされたてゐは
指揮下の部隊を5つに分け、輝夜に対する波状攻撃をかける。が、輝夜がてゐの部屋のすぐ近くまで来ていた為、
思っている程の戦果を挙げられずにいた。
てゐは長期戦になる覚悟を決めた。
しかし、ここで事態は急転する。輝夜・てゐの膠着状態を機と見た永琳が打って出たのだ。
永琳は一気に決着を着ける為、かねてより研究開発していた「対妖怪兎用無力化ガス」通称「G3ガス」を
永遠亭内部に対し使用。催眠及び筋弛緩による因幡達の無力化に成功。蓬莱の薬によりある程度耐性のある
輝夜も呼吸器の痺れ程度はあるだろうとの予測により、永琳は自身の勝利を確信した。
だが、輝夜の行動は永琳の予測を上回った。
ガスの散布を確認するや否や、輝夜は永遠亭より脱出。その後付近を通り掛かった「射命丸 文」と接触。
永琳が永遠亭内部に科学物質を散布したことによる兎達への被害をスクープとして提供。また、このスクープを
永琳のマッドな暴走としてニュースにする事によるプロパガンダへの報酬として輝夜秘蔵の「永琳艶姿写真」数枚を
射命丸に提供。(ちなみに艶姿写真と言うよりは、永琳の入浴や、ウドンゲ人形を抱きしめて(ゲフンゲフン)な
永琳の、ただのエロ盗撮写真である)射命丸文の懐柔に成功する。
文は報道家としての使命と、言論の自由と、多量の鼻血を胸に飛び去って行く。その後姿を輝夜は笑顔で見送った。
輝夜にとっては文は手駒の一つに過ぎなかった。
輝夜はすぐさま、この情報を永琳にリーク。内容を聞くや否や永琳は顔を真っ赤に紅潮させ文の後を追った。
永琳を笑顔で見送った輝夜は、鼻歌を歌いながら洗濯場に向かった。
ちなみに、その後の文と永琳はと言うと……
幻想郷最速と言われる射命丸文でさえ、鬼神の如き形相を浮かべた八意永琳からは逃げることあたわず、
そのまま戦闘に突入。文もかなりの実力者ゆえに瞬殺はされないものの、徐々に追い詰められてゆく。
そして抵抗空しく、遂に文は意識を失った。しかし、報道への使命感か、記者魂か、はたまた単なるエロパワーか
その身に催眠剤・睡眠剤・筋弛緩剤・シアン化カリウム・アコニチン・テトロドトキシン・塩化金酸・ソマン・
ダイオキシン・テトラエチル鉛等、合計20と数種類の薬物・毒薬を受けてなお、膝を着く事無く立ったままの
失神であった。その姿を見た白狼天狗により「射命丸の女立ち」として後世に語り継がれる事になる。
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人里からの帰り道、竹林の入り口で妹紅さんと会う。
なんでも、永遠亭に人間の患者を送ってきた帰りらしい。
人里で急患が出ると妹紅さんが永遠亭まで連れて行き、帰りは永遠亭の兎が患者を人里近くまで送る事に
なっている。
妹紅さんは姫様とは殺し合いをしているが、私や永遠亭の兎達には気さくに話しかけてくれる。
以前、師匠の事はどう思っているのか聞いてみた所、
「嫌いじゃないけど、学者ってのは何か苦手だ。まぁ、打ち解けてみると慧音の様に仲良くなるかもね」
と言っていた。いつか妹紅さんも姫様や師匠と打ち解けて仲良く出来ると良いと思う。
しばらく立ち話をした後、別れ際に「他の兎には内緒だよ」と言って草もちを頂く。
なんでも妹紅さんの手作りらしい。夜食にしようと有難く頂いた。
永遠亭に戻ると師匠が縁側でお茶を飲んでいた。何だか酷く疲れているようだったので尋ねてみると、
「何でもないわ。ただ、今日は色々あって少し疲れただけ」
との事。逆に
「今日は何時もより帰りが遅かったわね。何か問題でもあったの?」
と聞かれたので、竹林の入り口で妹紅さんと会った事を話す。
「へぇ、妹紅とねぇ」
そう声がしたので振り返るといつの間にか姫様が立っておられた。
つい「しまった」と思ったのが顔に出てしまったのだろう。姫様は私の顔を見ると、ころころと笑いながら
「いいのよ、気を使わなくとも。むしろ貴女と妹紅の仲が良いのは喜ばしい事よ。
私も妹紅もお互い憎み合っているけど、奥底の部分では少し違うの。
何と言うか……「永遠を手に入れてしまった者同士の狂気」と言うのが近いかしらね?
今はそのベクトルが「憎しみ」に向いていると言うだけ。ひょっとしたら100年後位の私と妹紅は
ラブラブかもしれないわよ?」
冗談めかしてそう言うと、姫様は私の頭を軽く撫でて下さった。
「とりあえずウドンゲ、今日は疲れたでしょう?少し休んで構わないわ。私と姫様は少し出かけてくるから」
そう師匠が言うので私もお供を申し出たのだが、永琳と二人で良いのよと姫様がおっしゃるので
お言葉に甘えて自室で少し仮眠を取ることにした。
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鈴仙が自室に入るのを確認すると、輝夜と永琳は笑顔という仮面を外した。
「あんの糞妹紅がぁ!私の鈴仙に手を出すとは、よっぽどミンチになりたい様ね」
「私のウドンゲを草もち程度で懐柔しようとは、安く見られたものね。意識を保ったまま解剖してやるわ!」
悪鬼羅刹の様な表情で永遠亭を飛び立つ二人。それを見た永遠亭から帰ろうとしていた人間の患者が人里で
その様子を話した事から、事態は思わぬ方向に進む。
人里では少数派であることや、永遠亭の圧力により地下に潜伏しゲリラ的に活動していた秘密結社
「もこ×うどんげ推進評議会連合」が各地にて一斉に蜂起。
連合内最大派閥である「丸兎(マルト)騎士団」42名が永遠亭に対し正面突撃を敢行。
因幡てゐ率いる永遠亭防衛部隊が即座に対応するも、先の永琳の「G3ガス」のダメージが抜け切らない為
苦戦を強いられる事になる。
これを機と見た連合側は全部隊を永遠亭に向け進軍。「モンペと縞十字騎士団」19名、「へにょり耳修道騎士会」
9名が永遠亭に対し多方面攻撃を掛ける。苛烈な四方面戦闘を強いられた永遠亭防衛部隊は戦力を疲弊。
何とか最終防衛ラインは維持しているものの、永遠亭(と鈴仙の貞操)は風前の灯であった。
しかし、この事態を察知した永琳が妹紅との戦闘を放棄、急遽永遠亭に帰還することにより、状況は一変。
最低限の防衛ラインを残し、戦術を各個撃破に変更。永琳の攻撃により「へにょり耳修道騎士会」は壊滅。
「モンペと縞十字騎士団」は人里への撤退を余儀なくされる。
「丸兎騎士団」が残存勢力を回収することで、かろうじて戦力を維持。戦況は泥沼の様相を呈していった。
後日、上白沢慧音を仲介し停戦協定条約が締結されるまでに、実に3日を必要とした。
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夕食後は師匠と在庫用の薬の調合を行う。
しかし、今日は私のミスでいくらかの薬を駄目にしてしまった。師匠にきつく怒られる。
結局そのミスが響いて調合が終わったのは夜遅くなってからだった。
落ち込む気持ちを何とか紛らわそうと、お風呂に入る。時間が遅い所為か私以外は誰も居らずゆっくりとしていると
珍しく師匠が入ってきた。少々気まずく思って俯いていると、湯船で隣に座った師匠が私の肩を抱いて話しかけてきた。
「ウドンゲ……御免なさいね。さっきはきつく言い過ぎたわ。私はこれから先、永遠と言う時間を過ごして行く。
だから、貴女のような弟子を再び持つ事もあるでしょう。でも、初めての弟子は貴女。私の全ての知識を伝えても良い
と思ったのは貴女が最初なのよ。私は医者として命のあり方には注意しているつもり。でも、不死の所為で疎かになって
しまう事もあるわ。でも、貴女なら私とは違った形で命のあり方に向き合える。だから、これからも厳しくあたる事も
あるかもしれない。でも、決して挫けないで欲しい。私は信じているから」
本当にお風呂の中で良かったと思う。涙をごまかせるから。でも……師匠は気が付いていたのでしょう。
肩を抱く手に少し力が篭ったから……
その後、師匠に背中を流してもらう。師匠は笑っていたけど、恥ずかしいやら、申し訳ないやら。
……でも本当は嬉しかったです。
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「鈴仙が浴場に向かう」
その一報は永遠亭全土を駆け抜けた。
真っ先に動いたのは永遠亭外部で野戦に入っていた「もこ×うどんげ推進評議会連合」であった。
この決定的なチャンスを物にする為に藤原妹紅自らの出陣を血判状を持って嘆願。
まんざらでもない妹紅はこれを快諾。妹紅の進む道を切り開くため連合メンバーは全員死を賭して望む。
水杯を交わし、今まさに突撃せんとした時、上空より一人の女性が舞い降りた。
上白沢慧音である。
事態を予見していた八意永琳は極秘ルートを通じ、人里における最大派閥である「もこけーね至上主義連盟」に
情報を提供していたのだ。連盟は事態の深刻さに、すぐさま慧音に上告。慧音はすぐに永遠亭に向かったのだった。
慧音は妹紅を根気強く説得。妹紅を血の海に沈めて説得に成功。盟主を失った事により連合は退却を余儀なくされた。
永琳が外部との連携に躍起になっていた頃、てゐは水面下で永遠亭内部のプロパガンダを行っていた。
てゐ及びてゐ直属の諜報部隊による情報操作により、日頃燻っていた輝夜・永琳に対する不満が各地で爆発。先の
永琳による「G3ガス」の使用がさらに拍車をかけた。
まず輝夜・永琳・てゐに対し中立を宣言していた「永遠亭物資補給部隊」並びに「田畑維持管理部隊」が永琳・輝夜に
対して独立戦宣を布告。また、輝夜専属親衛隊や永琳直属の八意診療所職員からも亡命者が殺到。
この事態を受け、てゐは全部隊を統合。部隊名を「神聖因幡帝国」に改名、自らが初代皇帝となる。
勢いに乗る帝国軍に対し次第に領土を疲弊させていった輝夜・永琳は一時的に同盟を結ぶ。
輝夜が戦線を維持している間に永琳が帝国を徹底的に調査。その結果、てゐ及び一部元老院が物資(人参)を横流し
している事を突き止める。この情報の公開によりてゐは求心力を失い失脚。遂には更迭されてしまう。
こうして「神聖因幡帝国」は建国僅か13分で地上から消滅した。
帝国の崩壊と同時に輝夜は帝国を自らの部隊に取り込み永琳を圧倒する。
しかし、ここで輝夜は永琳を見誤った。永琳が輝夜が帝国を取り込むのを訳も無く見逃す筈が無かったのだ。
自分に付き従う圧倒的な戦力を見て
「圧倒的じゃないか、我が軍の戦力は!」
と悦に入る輝夜を尻目に、永琳は輝夜親衛隊の諜略を開始。まるで女神の様な笑顔を浮かべ、そして儚げに
「私はあなた達を傷つける気はありません。私の目標は姫様のみ。この戦いが終結したとしても、あなた達には
何の処分も与えない事を約束します」
と訴えた。
数時間前、何の躊躇も無くNBC兵器を使用した人間とは思えないが、帝国敗残兵として輝夜に取り込まれた
兎達は永琳に帰順。クーデターにより輝夜の身柄を拘束、永琳に差し出す事により事態は収束を向かえた。
最後に戦局を決めたのは、輝夜と永琳の資質の差だった。
謀略は貴婦人の嗜みとはいえ、やはり輝夜は元「月の姫」。最後には上流階級独特のおっとりした部分を残す
のに対し、「薬学に魂を売った魔女」「月の都の惨劇(ワルプルギス)」「静かの海の悪夢の巨乳」等の異名を
持つ永琳である。土壇場の粘りは賞賛に値した。
後に「第2107次熱狂的再征服(レコンキスタ)」と呼ばれる戦いであった。
事態の収束を確認した永琳はスキップで浴場に向かった。……もちろん、勝負下着を持参して。
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色々あったけど、今日も平和な一日でした。
このまま皆と笑い合う幸せな日々が続けば良いと思う。
以前の私は、あそこから逃げ出してきた自分なんかが幸せになれるのだろうか?なっても良いのだろうか?
そんな事ばかりを考えていました。
でも、師匠や姫様やてゐ、それに皆と出会って私は変わった。ううん……皆のおかげで、私は変わる事が出来た。
今の私は幸せになりたいと思っている。
自分が幸せになる為に日々を一生懸命生きたいと思う。
そして、いつか訪れる今わの際に
師匠に。姫様に。てゐに。兎達皆に。私を彼岸へと案内するであろう、あの死神に。私を裁く、あの閻魔様に。
……そして、願わくばあの時の皆に……
私は胸を張って答えたいと思う。
「鈴仙・優曇華院・イナバは幸せでした」と。
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鈴仙は筆を置くと日記帳を閉じ、机の引き出しにそっと仕舞った。
随分と夜も遅くなってしまった。
明かりを消すと、布団にもぐり込む。この時期、布団の中は冷え切っていた。
鈴仙はそっと目を閉じる。
少し感傷的になってしまった様だ。目尻に何かが伝うのは、きっと気のせい。
「ちょっと寒いかな」
鈴仙はスンッと鼻を鳴らした。
でも、このノリだときっと博霊神社とか紅魔館とか守矢神社とか地霊殿とかでも同様の
血で血を洗うような抗争が繰り広げられてるんだろうなぁ……
1様>たぶん、白玉楼やマヨヒガもだと思います
2様>永遠亭のひ・み・つ
3様>知らない方が良い事もあるのですw
4様>しかも、自分の知らない所で。
5様>コワクナイデスヨ、タノシイトコロデスヨ。
6様>それが永遠亭クオリティ。
って事ですね!
流石幻想郷、俺達に(ry
もしかして豊姫とよっちゃんも…?
>1834次「鈴仙の添い寝権」争奪直上会戦
この場合引金は鈴仙の一言ですねw
鈴仙を温めるのはわt(杵ごっすん