ぱちん。
ふむ、と声を漏らしながらにして、左手の小指を伸ばし、その先端を私は見やる。丁度良い塩梅。いちいち自分を褒めることの程でもないことは、わかっているつもり。更に言えば、いちいち、ひとつ音を鳴らす度に、まじまじと見つめなくたってよいことも。それでもまあ、多少満足といえば満足。切られた爪の欠片は、弾かれた後、無音にて中空に弧を描いて飛んでいく。その時間はとても短いものである筈なのに、何だかとても緩やかだなと思う。
爪切り。居間にてお気に入りの椅子に腰掛け、これをしている間、私は色々なことを考える。静かに独り、誰にも邪魔されず。私には、こんな時間が必要なのだと思う。普段は、私ではない誰かの心の声が溢れてしまいがちだから。
おかしなこと。
それはもっともっと以前なら、望まずとて、訪れた時間。
今まではペットたちの声無き声が主だった。割かし直情的で、裏表の無いそれらは、そんなに気分の悪いものでもないけれど。最近ではそれに、人間の声が混ざるようになった。なんと言うかまあ、悪く言えば単に騒々しい、良く言えば賑やか。そんな心を読むなんていつ以来なのだろうと、本殿に乗り込まれたときは思っていた。
人間、か。
ひと、に限らず、妖も。果ては怨霊までもが、私のことを恐れる。あの人間たちは、そういう風でも無かったか。
また、考える。爪をこうやって切る度に、どうして私は凡そ「ひと」と似た姿かたちをしているのだろうか、と。この爪だって不思議なもので、そんなに易々と、にょっきり伸び出すわけでもない。他の存在に比べて、この伸びが早いか遅いかは、比べたことがないのでわからない。
その辺りのことが気になったのかどうかは私にもわからなかったが。以前、ペットの爪を切ってやろうとしたことがあった。お燐はそもそも猫だけれど、やたら屋敷の壁を引っかいたりはしないから、必要ないことかもしれなかった。でも、とりあえずその辺りの考えについては適当に投げたと記憶している。
極めて優しげに話しかけたつもりだったが、爪切り云々を話題にしたところで、急にお燐の心は騒がしくなった。ぎゃーぉうなーぉにぃーやぁぁーふうぅーごろごろいーやーでーすーやめてやめてごかんべーん、とかだった。気がする。本当はもっとこれに凄まじい擬音が混ざるのだが、私には発音出来ない。
痛くしないですよ、と言っても、やっぱりぶるぶる首を震わせて拒否の意志を返してきたのだった。しょうがないので爪とぎ板をあげたら、猫の姿をしている時は、結構満足気にばりばりやっていたようだったので、それで良しとした。
爪の切り終わった左手の指を五本とも伸ばして、ちょっと反らせてみる。
こうして見ると、少しばかり切りすぎているような気がしないでもない。
もし私が。私たち、が。ひと、のかたちに似ず、もっと恐ろしい容貌をしていたならば。それはそれで、いっそ清々しかったのかもしれない。見た目にて、初めから恐れられていたならば。何かしらの納得、多分諦めにも似た何かを、己の心に、刻めたのかもしれない。
けれど今の自分の姿は、こうやって此処にある。
私は考える。他の誰かに何かしらを想起させ、見せ付けることは、上手くやれる。
私は考える。もう今は、私の心を覗くものなんて居ない。だからこそ、私は私自身のことを、深く想起する。
左手は、おしまい。次は右手。
そう思ったところで、騒々しく居間の扉を開ける音が響いた。
「ただいまー」
「あら。おかえりなさい、こいし」
「おーふーろー」
碌に私に眼も合わせないまま、歩きながらにして上着やらスカートやらをぽいぽい脱ぎ散らかし、下着姿になってしまう妹。
「ちゃんと脱衣所で着替えなさい」
「めんどうだよお姉ちゃん。お風呂が私を呼んでるんだわー」
「せめて上着は片していきなさい。あとタオルは脱衣所に新しいの置いてあるから」
「はーい」
脱ぎ捨てた服を拾い、そのまま風呂場に妹は直行する。はぁ、と溜息をついて、左手を頭にやる。端正に切りそろえられた爪が私の頭に食い込むことなんて、無かった。私は生きるものの声なら聴こえるが、流石に風呂のそれまではわからない。そして、妹の心も。
ぱちん。
気を取り直して、右手親指の爪を切る。細い三日月のような欠片が、また弧を描く。ほんの一瞬。少しだけ長い瞬きのような、時間。私はまた、想起する。
* * *
私たちが、まだこの地底へ追いやられる前のこと。暮らしぶりと言ったら、そこそこ。妖怪とて家は必要、その後大きな屋敷に住むことになるなど当然知らなかった私たちにとって、それは十分に満足な暮らしな筈だった。
そう、私は思っていたのに。
「ねえ、お姉ちゃん」
「なんですか?」
「どうしてさあ、私たち、心の中が覗けちゃうのかなあ」
「仕方ないですよ」
「仕方ない? どうして?」
「……それはわかりませんが」
「わからないのに仕方ないの? どうして? どうしてなの、お姉ちゃんっ」
両眼一杯に涙を溜めて訴えたその時の妹が、どんなことを思っていたのか、私にはわかった。声にならない声、黒く塗り潰されそうな心の色が、私には見えていた。妹は妹で私の心を垣間見て、恐らく泣くに泣けなかっただろう。ぎゅう、と。脱いだ帽子を握り締めて、小さく身体を震わせていた。私はただ、仕方ないですよ、と。それを繰り返すばかりだったから。
その時は。心など覗かずとも、妹がどんな眼に遭っていたかを想像するのは容易だった。服は所々ほつれていて、泥がついている。他人の心が聴こえることに耐えられず、きっと無我夢中に走ってこの家まで戻ってきた。その折、何度か転んでしまったのだろう。
大丈夫。此処で、私たちはひっそりと暮らしましょう。怖いことなんて、何も無いの。
そう思い浮かべた。
「みんな、お姉ちゃんみたいだったらいいのに」
「え?」
「ううん、なんでもない」
――お姉ちゃんなら、いいのに。
そう思い描いてた妹の真意を、私は計りかねた。
私たちは、この存在そのものを恐れられる。
なまじひとに似た姿かたちをしていたから、私たちが覚りの類であることを知らずに、人妖近付いてくることがある。今よりもっと、幼い容貌だった。それは、本当に昔の話。
友好を築こうとしたことも、あったかもしれない。でもそれも空しく、私たちがそれを打ち明けずとも、何処からか噂を聞いてなのか、もう近付いてくることも無かった。
心を読まれることが、そんなに嫌か。『その程度のことが、そんなに嫌か』。嫌だというなら、その存在を認めたくないのなら、いっそ殺しにくれば良いではないか。私は荒事など得意ではないし、案外と楽に死ねるかもしれない。
幻想郷。どこかの誰かが、楽園と呼ぶらしい場所。なるほど確かに楽園だった、ただひっそりと、命永らえるだけの時間を過ごす場所を、そう呼ぶと言うのならば!
妹の髪を、そっと撫でる。
その時、妹は。私の心の声を、きっと聴いていた。
*
明くる日、妹はまた外へ出ようとしていた。私は外出があまりすきでは無かったので、いつも家で大人しくしていたが。好奇心の塊のような妹は、いつも落ち着きが無く、あるひとつの所にてじっとしていることが出来ない。外に出てどんなに哀しい思いをしても、ふらりと出掛けてしまう。
帰ってくるときは、「ただいま」位の声はかけられるものの。出るときは、一体いつ居なくなったのかも気付かないのが、いつもの調子。
でも、その日は違った。私とは違って、妹は諦めていなかったのだ。まだ、ひょっとしたら今日という日なら、誰かと心を通じ合わせることが出来るかもしれないと。そう思っていたのかもしれない。
外へ出るための扉に手をかけるとき、妹の心の色は、すぅっとした青に変わった。深い深い、青色に。それは、期待ではない。悲壮な、決意の色。それが帰ってくる頃には、どす黒く染まってしまうことを知っていても、尚。私は妹を、止めることは出来なかった。
思えば、その頃にはもう、妹の心の声は聴こえなくなっていた。
「いってきます、お姉ちゃん」
「……いってらっしゃい、こいし」
心を読めることなんて、所詮は無力。
読むことと、それを噛み砕いて理解し、飲み込むことは、別の話。
私はその日。
妹のことを理解して、止めるべきだった。
そう、思う。
*
「ただいま」
「おかえりなさい……?」
妹の姿が、其処にあった。
服装は、相変わらず泥に汚れている。けれどその日の妹は、にこにこと笑っていた。
「どうしたの、……?」
「え? うん、ちょっと上手くいかなかった。でもねお姉ちゃん、私たちがびくびく過ごすなんて、やっぱり間違ってたんだよ」
「どういう、意味なの」
「あいつらね、やっぱり逃げるの。私が何言っても、聞いてくれないし。私ももう残念な気分になっちゃったからさ、とりあえずね」
これ、と。妹は、左胸を指差す。
「閉じちゃった」
「そんな……!」
覚りの眼。第三の眼が、ぴったりとその瞼を閉じている。
妹の心の声。そして、それを彩っていた筈の色。それらがもう、完全に見えなくなっていた。
「始めは私もちょっと怖かったんだけど。もう心なんて読まないわー、って叫んでもさ、逃げるのやめない訳。もう何考えてるかもわかんなかったけど、私走ったよ。今まではさ、ほら。あいつら本当にぎゃんぎゃん五月蝿いからさ、こっちも追う気になれなかったんだけど。今日はね、追いついた。何回か転んだけど、頑張って追いついたの」
「……それで……?」
「何だかびくついてるみたいだったんだけどね、心では何思ってるかわかんなかった。とりあえずこいつは駄目だなー、って思ったから」
「思った、から」
「ちょっと引っ掻いたら、ぐちゃってなった」
ひらひらと、左手を振りながら妹は言う。
しかし、妹の服が。どす黒い赤に染まっている訳でもなかった。
妹は私に似て、力はそれ程強くない筈。
私たち覚りの妖怪は、相手の心を覗く。その剥き出しの心を。
妹が、「引っ掻いた」と表現したこと。
それは、肉体的に身体を割いた訳では無かろうと、私は思った。
無防備な心に、その爪をかけたなら。
存外に柔らかいそれは、簡単に破ける。
心の眼を閉ざしてしまった妹。
妹は無意識の内に、相手の心の器を捉え。いとも簡単に、ぐちゃりと潰してしまった。
潰して、殺してしまった。
それは、表象。
ただ自分を知って欲しいのに、と思うだけの。
そんな我侭な思いを、妹は表象してしまった。
「私たちはただひっそり生きていればいいって。お姉ちゃん、昨日そう思ってたよね? でもそれって馬鹿馬鹿しいよ。だって、きっと私たちの方が強いよ。何で私たちが気を遣わなきゃいけないの。だから、大人しくしてることなんて無いよ。もっとこう、ほら。積極的にいかないと。今日は上手くいかなかったけど、明日はきっと大丈夫。ねえ、お姉ちゃん」
そう。
覚りの妖怪である私たち以上に。私たちを忌み嫌うものたちは、考えていたのだ。
心を読むだけでなく。きっと私たちは、その心を、壊すことが出来るのではないかと。
出会ってしまったなら、壊されるのではないかと。
それを、まさに。
もう、心を読めない妹が。
無意識に、やった。
その爪を、かけた。
「こいし」
「なに? お姉ちゃん」
私は妹の左手を掴んで、それをじっと見る。綺麗な掌だった。
裏返して、手の甲を表にする。透き通るように白い指の先。土いじりをした訳でもないというのに、爪の先は、泥が入ったのか、黒く汚れている。そうだ、この爪はもう、こんなにも汚くなってしまっているじゃないの――そう、私は思って。
「お風呂に入ってきなさい。汚れているでしょう。その後、爪を切ってあげますから」
妹の爪を切るのは、いつも私の役割だったから。
「今でもいいよ?」
「ちゃんとお湯に浸かった後のほうが、柔らかくなって切りやすいのです。……そうね、私も一緒に入ろうかしら。ねえ、こいし……」
お湯に流されて、身体の汚れも取れた後。
ぱちん、ぷちんと音を鳴らしながら、爪を切ってやる。
もう、誰も引っ掻いては駄目よ、――
その声が、妹に届くことは、なかったのだけれど。
細い三日月のような欠片が、中空を舞う。ほんの一瞬。少しだけ長い瞬きのような、……
* * *
ぱちん。
右手小指の爪が、切り終わった。指を伸ばして見てみると、やっぱり切りすぎたような感がある。
結局、あの後。妹は他の誰かを「引っ掻く」ことをやめることは無く、いよいよ私たちは危険な存在と見なされ、真に忌み嫌われる存在となる。もう心を閉ざした妹にとっては、何も関係なかった。
地上に置いてはおけぬ、ならば地底へ行かせれば良いと。随分厚い待遇で、私はこの地霊殿を任されることになる。それからまた、長い時が経ったものだ。私はその間、ふと気がついた折に、爪を切っている。前にこうしたのはいつだったか思い出そうとしたけれど、あまりに何気ないことだからか、忘れてしまっていた。それよりもっと昔のことは、ありありと想起出来るというのに。
「はー、いいお湯だったー」
がしがしとタオルで髪をふきながら、寝巻き姿の妹が居間に入ってくる。妹は私と違ってネグリジェなど身につけなくて、きちんと上下揃った寝巻きを着る。
「ボタン、ちゃんとしめなさい」
「えー、だってあっついんだもん」
第三ボタンまで開けているのはどうかと思う、姉として。
「お姉ちゃん、爪切ってたの?」
「ええ、そうです」
ふーん、と言いながら、妹は私を見ている。妹の覚りの眼は、閉じられたまま。だから、私の心の裡が読まれることなんて、無い。そして私も、妹が何を考えているのか、ちっともわからないのだけれど。それが少し寂しいと、思ったこともある。今もそう思っている。
真に寂しいと思っているのは、きっと妹の心に違いないと考えるのに。
今も妹は、よく外へと出かける。けれど、昔のように。何か目的を持って行動しているようにも見えない。全ては無意識の内に、行われていること。
「お姉ちゃん」
「どうしました?」
「爪、切って」
おもむろにこちらに近付いてきた妹は、椅子に座っている私の膝に、とすんと腰を下ろした。
「こいし……?」
「ずぅっと前に、してくれたよね。お姉ちゃん、こうして爪切ってくれた」
先ほどまで、深く想起していたこと。その風景がまた、私の心に表象される。
あの頃に比べて、私たちの体躯は少し大きくなった。それでも、妹の身体は、本当に軽い。お風呂上がりの、確かな温もり。それは確かに感じられるというのに、どうしてこの娘の身体は、こんなにも軽いのだろうか。
私の眼の前で、まだ乾ききっていない妹の後ろ髪が、艶やかな光を保っている。私も妹も、生来癖っ毛であるけれども、たった今湿り気を帯びたそれは、ちょっと真っ直ぐになっていた。ぱっと見、別人の様。
「わかりました。じゃあ、左手から」
「うん」
綺麗な手。何の汚れの無いように見えるその手をとって、私は爪を切り始める。
ぱちん。
ぱちん。
ぱちん、ぷちん。
「いたっ」
妹が声をあげる。
「あ、……」
妹の、左手中指。それを少し、切りすぎてしまった。指の淵が、紅く染まっている。
「ごめんなさい。痛かった?」
「ううん、いいよ別に。続けて」
――お姉ちゃんなら、いいよ。
そんな声が、聴こえた気がした。
本当に? 本当に、そう言ったのだろうか?
ぱちん、ぱちん。
その後は、恙無く。私は妹の爪を、切り終える。
私がいつもそうしているように、妹もまた、爪を切り終えたあとの自分の指先を、じっと見つめている。左手中指だけ、切られすぎてしまっている。
「お姉ちゃん」
「なんですか?」
「お姉ちゃんは、私を深爪するのが、すきだね」
……。
「ありがと」
膝から降りて、くるりと向きを変えながら、妹は言う。
「またよろしくね。おやすみ、お姉ちゃん」
「はい、おやすみなさい」
そうして、ふぁ、と欠伸をしながら、妹は居間を出て行く。その姿が見えなくなってから、私は椅子に座ったまま、ぼんやりとしていた。
深爪するのがすき、か。
妹の爪を切るのは本当に久しぶりだったけれど。今の妹の言葉が、異様なほど私の心に響いている。
遠い昔、私は。
妹の爪が、もう誰の心も、引っ掻いてしまわぬようにと、思っていたのか。
やはり、ある指の爪を、深く切りすぎてしまった。
いたい、いたいと。妹は泣いていたような気がする。
それでも、構わなかった。私もまた、泣いていたから。
その願いが届かぬことなど、きっとわかっていたのかもしれない――
と、思ったところで。ふ、と笑いを零してしまった。
かもしれない、なんて。普段思う度に、おかしくて笑ってしまう。
本当、全く以て。心を覗けようが覗けまいが。自分の思いひとつ、記憶ひとつとて。己で確証を持てないでいるというのか。
「はぁ」
溜息。私も、そろそろ寝ることにする。
*
「……」
んん?
ここは、私の寝室。けれどその寝床には、先客が居た。
すぅすぅと穏やかな寝息を立てて、妹がベッドの上に居る。これじゃ私が寝るスペースが無いじゃない、と。いちいち文句を言ったりは、しない。なぜなら、ふらふらと無意識のうちに動く妹の行動に理由を求めても、あまり意味がないから。
「はい、お邪魔します」
お邪魔してるのは妹の方だが。とりもあえず、よっこらせ、とばかりに。妹の身体を、ずらす。少し大きめのベッドというのも、これはこれで都合がよろしい。
「……んぎー」
一瞬起きたかとも思ったけれど、そんなことも無かった。妹は相変わらず、夢の中に居る。
どんな夢を、見ているだろうか。
幸せな夢なら、きっといい。
誰からも愛されて、仲良く出来るような世界。
そんなもの、楽園と呼ばれた場所でも在り得なかった。
そして、この地底でも。
心を閉じてしまった妹に、そんな世界は、在り得なかった。
「……また、生乾きのままで寝て……もう」
少しだけしっとり感を残した妹の髪を、そっと梳く。ちょっと癖がまた顔を覗かせていて、くるくると巻き毛になり始めている。
丁度妹は、私に背を向ける形で、横になって眠っている。その後ろ髪を、私は暫く、撫で続けていた。
そして、願う。
どうか。どうか、良い夢を。
そしてまた、明日も。何も変わらぬまま、お話出来ますように。
まどろみながら、私の耳に音が届く。
ぱちん、ぷちん。
眠りに落ちる際(きわ)、私はそれが、夢が弾ける音なのだと思う。
その音が聴こえるのは、一瞬だ。
今の私は、閉じた瞼を開けることもなく。深い、眠りに落ちていく。
――随分、深爪してしまったから。次に切る機会は、また暫く先の話になるだろう。
あれ、そもそも。最近は、妹は自分で、爪を切っていたのではなかったっけ――
明日また、起きたときに。
私はまた妹に、おはよう、と言う。
変わらぬ姿。ひとと似た姿かたち、このままで。
それだけでいいと思いながら、私は眠りにつく。
ごめんね、痛くしてしまって。
おやすみなさい、こいし。
そう思うのです。
ところでさ、彼女達は風呂に入る時に目ってどうしてんだろうか?
いいお話でした
他者? 多謝。