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「あー、はいはい。それなら5時前にはそっちにねー。はーい」
朝、7時を過ぎた頃である
湖の傍の廃洋館で
三女が依頼を聞いていた
「あーあ全く、今日は一日買物でもって考えてたのに」
うーんと伸びをしつつ、長女でも起こそうかと階段を上るリリカ
ちなみに次女のほうは、依頼が来たと知るや否や
勝手にテンションがあがった様で、どこかへ飛んでいってしまった
「おーい、ルナ姉ー。朝ごはん出来てるよー」
扉を開けて目の前にいたのは
毛布でこんもりと盛り上がった何か
「・・・ルナ姉。起きてくれたら私としてはそこそこ嬉しい」
情に訴えかけるも、こうかはいまひとつのようだ
というか、いつものことながら毛布が全く上下していない
この姉は呼吸すら満足にしないというのか
あ、頭出した
「・・・・・・・・」
しかし、顔はいまだに隠れたまま
いや、そろそろ朝ごはん冷めるんだってば
「・・・ほら、だから起きなって」
枕元まで寄っていくと
思い切りがばっと布団を首元まで剥ぎ下げる
「・・・・・・・・・」
・・・は、般若だと・・・っ!?
「・・・・・・朝ごはんデスヨー」
「・・・・・・・」
ようやく顔のしかめ面をとって、ジト目で見上げてくるルナサ
「はい。おはようございます」
「・・・・・・・・・眠い」
ルナ姉の朝のテンションの低さは異常
ただでさえ低めなのに、起きぬけはもうリーチ確定激寒演出
ストレッチマンあたりなら目で射殺せるぐらいの殺気を放っている
確かに、ルナ姉のテンションで朝からあの番組は辛い
「・・・・・・・・・・寒い」
「まぁねぇ。でもさすがに布団に入ったまま行動はできないでしょ?」
「・・・・・・・・・」
さすが。さすがだルナ姉
枕を後生大事に抱え、巧みなバランスで掛け布団を被ったままベッドから降りる
「いやさぁ、まぁルナ姉がいいなら私はなにもいわないけども」
「・・・朝ご飯、ここに・・・」
「持ってこないからね」
ばふっと力尽きたように倒れこむと
こてんと上に向き直り、リリカを見上げるルナサ
う、弱いんだよなぁ・・・
無言でルナ姉に見上げられるのは
ぽやーっとした無表情で見つめられるのは
色々と胸辺りに込み上げてくるものがある
「・・・・・・・」
「うわぁっ?!」
なんて考えていたのがいけなかったのか
布団お化けがむくっと立ち上がったかと思うと
そのまま、リリカを捕食するかのように包みこんで倒れこんでしまった
「ちょっ、ルナ姉っ?!」
「・・・・・・・・ぬくい」
そりゃ子ども体温ですからってやかましいわ!
もぞもぞと振りほどこうとするも、体格的にはルナサのほうが若干有利
顎をリリカの頭に載せ、再び冬眠モードに移行せんと目を閉じるルナサ
「朝ごはん!あーさーごーはーんっ!」
もはや馬耳東風、騒音に小言
再び頭上に「意識退席中」の札を掲げたルナサに、本気でもがくリリカ
あ、でも
ルナ姉の体、思ったよりもあったかいかも・・・・・
ばたんっ!
「ちょっと! 私がいない時に何楽しい事やってるの?!」
「「げえっ、メルラン!」」
ジャーンジャーン
「・・・テンションが低い」
「まぁまぁ、偶にはこんなこともあるって」
やや落ち込んでる姉の肩を、ぽんぽんと叩くリリカ
折角朝っぱらからの急な依頼を引き受けたのに
着いてみればの大宴会
それも、こちらも巻き込んでくれるような和気藹々なものではなく
勝手に自分達で盛り上がって完結してしまうような酔っ払い達
依頼だからと、とりあえず演奏はこなしたものの
やはり寂しさの残った一時になってしまった
「こんなことなら結局家で寝てたほうがいい気がしてきたね」
「いや、そりゃまぁ一応外面ってのもあるし」
なんてやり取りをしつつも、両者とも大してそんなことは考えてはいない
ルナサは引き受けたからには、きちんとやり通すべきだと考えているし
リリカは気にいらなければ、さっさとすっぽかしても構わないと思っているあたり
なかなかどうして、うまくやっているのである
「帰ったら美味しいものでも作ってあげるから、元気だしなって」
「私は子どもか」
はふぅとため息をつきつつ、ふよふよと飛んで住処へ向かうルナサ
リリカはそれを後ろから追いながら
「・・・ルナ姉、ちょっと育った?」
「んん?」
一体何を、と振り向くルナサの視線の先は既に虚空
リリカは上から覆うようにルナサに抱きつくと
ぐわしと胸の辺りに腕を回した
「きゃうぅ?!」
「んー、気のせいか。でも、やっぱり私はまだ追いついてないなー」
朝のお返しとばかりに、もにゅもにゅと薄めの胸を揉みしだくリリカ
ちなみにこの光景、下から見上げるとなかなかにえっち
「ちょっ・・・リリカ・・っ!!」
「んー?なーにー?」
巧みに腕の動きを封じ、にやにやと笑う
こういうときに、無駄に狡猾さを発揮するのはいかがなものか
「ほーら、さっきの演奏で凝っちゃってるんじゃないの?」
「凝るわけないって・・・うひゃぁっ!」
首筋に冷たい息を吹きかけられ、ぞくりと背を反らせるルナサ
も、もう、いい加減に・・・・っ!!
ぴしゅーんっ!
「私がいない時に何面白い事してるのよ!!!」
「「げえっ、メルラン!」」
ジャーンジャーン
「メル姉ー、あがったよー」
「はいはーい」
ひらひらとタオルをなびかせながら浴室へ向かうメルラン
リリカはがしがしと頭を拭きながら部屋に向かおうとすると
既に湯浴みを済ませたルナサが、ソファに座ったままぼーっとしていた
「・・・ルナ姉ほんと低血圧だね」
「んー・・・・・」
まだ湯が抜けていないのだろう赤い顔で、返す返事も生返事
翻ってこちらリリカは半ば鴉の行水のごとく
効率的にさっさと洗って出てきてしまう
「ほら、今日はもう疲れたんだから、さっさと部屋で休みなよ」
「うー・・・」
あーほら、答えるそばからうつらうつらして
「ほーら。こんなとこで舟こいでると風邪ひくよ?」
「・・・・・・」
肩をゆさゆさ揺らされるも、その動きに乗ってゆーらゆら
いい加減問答も面倒になってきたのだろうか
少し眉間に皺を寄せると
勢いに任せてリリカのほうに倒れこんだ
「ぶわっっ! ルナ姉!!」
「うるさい・・・・」
風呂からあがって時間もたつくせに、無駄に熱い体に抱きしめられつつ
ふがふがとソファとルナサの猛烈な板ばさみから逃れようとするリリカ
しかし如何せん、ソファさん大きすぎた
「むぎゅっ!」
「はい、おしまい・・・」
ソファの肘掛とルナサの体にしっかり固定され、あっさり動けなくなる
「も・・っ、ルナ姉ったら、もっとしゃんと・・・!」
「・・・リリカ」
「なにっ?!」
「・・・・・・かわいい」
「ふぇっ?!」
予想外すぎる言動に虚をつかれ、ぼっと顔を赤らめるリリカ
いや、そんな顔赤くして言われても、私ってばどう返せばいいのさ?!
わかてるよ、その顔はまだ湯で火照ってるからだって事はさ!
あーくそっ、わかった
ルナ姉覚醒してない時が無駄に強いんだ
「リリカ・・・」
「んぅ・・・・っ!」
徐々に、それも無意識に顔を近づけていくルナサ。
リリカは戸惑いながら最後の抵抗を試みたが
どうにもならないと観念したのか
目を強く閉じて、されるがままに・・・・
そして、朝チュン・・・・・・
バタンッ
「になると思ったか長女そして三女めが!!!」
「せめてタオルぐらい纏いなよメル姉!!」
じゃーんじゃーん
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あとがきの元ネタは「おいしい紅茶の入れ方」でしたっけ?
いちいち伏兵登場のメルランに笑うwwww
だがこのルナリリは実にいいものだ……!