寒い晩秋の昼、空はどんよりと曇っている。その空を見て
「今日の天気はいまいちですね~」
とぼやいたのは紅魔館の門番、紅・美鈴である。
「それに、少し肌寒いですかね…」
はぁ~、と白い息を吐く、そこへ
「メイリーン!」
と言いながら突進してきたのは、フランドールだった。
「妹様、どうなされたんですか?」
「ん~ん、どうもしないよ?メイリンがいるから来たんだ!」
「そうでしたか…しかし妹様、その格好では風邪をひいてしまいますよ?」
「メイリンだってその格好で寒くないの?」
美鈴の服装はいつもと同じで、スリットから足が見えているところ、ズボンも穿いていない、
対するフランも、いつもと同じ服装なわけなのだが、
「私はもう何年もここにいますから、これくらいの寒さ、なんてことはないんですよ」
「そうなんだ~、いつもありがとねメイリン……クチュン!」
「妹様、大丈夫ですか!?やっぱり寒いのでは?館に戻って温まったほうがよろしいのでは…」
「ズズッ、うんそうする、じゃあまた夜ごはんの時にね」
「はい、くれぐれも風邪など引かないようにしてくださいね」
「うん、わかった~」
館に戻っていくフランドールを見ながら、なんとかできないかと考え、ある物を思い出した。
「確かまだ残りがあったはず…よし!」
詰め所に戻り、目的のものを見つけ出す。
「うん、これだけあれば十分ね、さっそく造りにかかりますか!」
それから美鈴は仕事をしながらある物を造り、仕事が終わればすぐ部屋に戻って続きを再開した。
「出来た!」
開いている時間帯をフルに使ったのと、美鈴本来の器用さも手伝って一日で終わらせることができた。
「さて、後はこれを妹様に…」
「メイリーン!」
どうやって渡そうかな、と考えていたら、フランドールは自分から来てくれた、今日は晴れているが日傘を差しているので問題はない、寒いことは寒いのだが…
「妹様おはようございます」
「おはようメイリン!今日も寒いね」
冷たくなった手に息を吹きかけるが、さして効果はないように思えた。昨日と違い長袖ではあるが、
「妹様、手をお出しください」
「うん?わかった」
言われたとおり、両手を突き出すフランドール、その手に美鈴は先ほどまで造っていた物を被せた。
「うわー、手袋だー!」
「はい、昨日寒そうにしておられたので」
美鈴が造っていたのは毛糸で編んだ紅の手袋だった。
「ありがとーメイリン!んふ~、あったか~い」
「それとですね…はい、もう一つです」
そう言って今度はフランドールの首にマフラーを巻いた、これも紅のマフラーである。
「いいのメイリン、貰っても?」
「もちろんです、妹様のために造ったのですから」
「これすっごく温かいね、そうだ、お姉様にも見せてくるね!」
言うが早いか、フランドールは館へと戻って行った。その姿を見て美鈴は微笑む。
「ふふ、あれだけ喜んでもらえるとは思いませんでしたがよかったですね、ふあぁ~、昨日はあまり寝てないからな~、起きてられるかな」
頑張って起きていようとは思っていたが、襲いかかる睡魔に勝てず、美鈴はすぐに意識を手放してしまった。
「……ん、…りん、美鈴!」
「うぉあい!すみません咲夜さん!」
目を開けるがそこには誰もいない、辺りを見渡していると
「こっちよ」
と下から声が、下を向くと、
「お、お嬢様!?」
「随分と気持ちよさそうに寝ていたじゃない」
そこに居たのは紅魔館当主、レミリア・スカーレットだった。レミリアは不敵に笑い、美鈴は土下座をして謝る。
「も、申し訳ありませんお嬢様!い、いえ決してサボろうとだなんてこれっぽっちも思って…」
「静かにしなさい美鈴、とりあえず、今はそんな事いいの、貴女フランに手袋とマフラーを編んだそうね」
「へ!?お嬢様、それは一体どういった…」
「いいから質問に答えなさい、あれは貴女が編んだのよね?」
「は、はい、妹様の手袋とマフラーを編んだのは私ですが」
「そう、それで…私のは?」
ズイっとレミリアは手を差し出す、美鈴はレミリアの手と顔を交互に見る。
「お嬢様の分ですか?」
「そう私の分、当然あるわよね」
「え、いや、ありませんよ?」
「無いの!?なんでよ!?」
「いえ、なんでと言われましても、お嬢様のはてっきり咲夜さんが編むのだろうと…」
「ああ、咲夜は無理よ、だってあの子編み物できないから」
嘘だった、ただ美鈴にマフラーと手袋を編んでもらうため、レミリアは嘘をついたのだ。
それを人がいい美鈴は信じてしまう。
「それは知りませんでしたね」
「ええ、だから美鈴、私にも手袋とマフラーを造りなさい」
「それはいいのですが、もう毛糸が残ってなくて…」
「なら買いに行けばいいじゃない」
ふと美鈴は考える、自分がいなくても門は大丈夫かと、そして、ここら辺の妖怪なら大丈夫かなと思い、
「わかりましたお嬢様、色はどうなされますか?」
「そうね、夜の王らしく黒、と言いたいところだけど、私も紅でお願い、何故かわかるわよね?」
「お嬢様も紅(スカーレット)だからですよね!わかりました、すぐに行ってきます」
「ちょ、ちょっと!」
レミリアの制止も聞かずに、美鈴は走り出した、後に残されたレミリアは
「あなたの名前の色なのに…」
と呟いた。
一応、紅だけでなく、他の色も買ってきて、今度はレミリアの分の手袋とマフラーを編む、そこへ、
「遊ぼうメイリーン、あれ、なにしてんの?」
「ちょっとチルノちゃん、いま美鈴さんお仕事してるんだから邪魔したらダメだよ!」
「大丈夫ですよ大妖精さん、今はねチルノちゃん、手袋とマフラーを編んでるんです」
「ふ~ん、なんで?」
「そうですね~、これから寒い季節になりますから、大事な人が風邪をひかないようにですかね」
大事な人、と聞いて二匹は自分にはそのような人がいたかと思い浮かべる、すぐに二人とも頭の中に浮かび上がった。
「あ、あの美鈴さん」
「なんですか?」
おずおずと大妖精が話しかける、美鈴も手を止め大妖精に向きなおる。
「私に…その、マフラーの編み方教えてくれませんか?」
控え目に頼む大妖精に、美鈴は微笑む。
「ええ、構いませんよ、道具と材料はありますから、好きに使ってくれても構いません」
「あ、ありがとうございます!」
「あー、いいな大ちゃん!メイリンあたいも教えてー」
「わかりました」
チルノと大妖精も加わり、一緒に門の前でマフラーを編む。
以外にも、チルノはそこそこ器用だった、教えるまでが大変だったが…
大妖精は飲み込みも早く、一度教えると美鈴ほどではないが、サクサクと進んでいった。
そして日が暮れ、チルノ達と別れ美鈴は紅魔館へと戻り、レミリアの部屋へと向かった。
レミリアは部屋のベッドに腰かけていた、かと思うと立ち上がり、部屋の中をグルグルと歩く、しきりに時計を見たりしていた。
「どうなされたのですかお嬢様、いささか落着きがないように思えますが…」
「え、ええそうね、少し落ち着かないとね」
とレミリアはベッドへと向かった、その時、レミリアの部屋のドアが叩かれる。
「紅美鈴です、お嬢様昨日の物が出来ました」
「そう、入りなさい!」
「失礼します」
ゆっくりとドアが開けられ、美鈴が部屋へと入ってくる、手には紅い手袋とマフラーを持っていた。
「やっと出来たのね!?」
「はい、どうぞお嬢様」
美鈴から渡された手袋とマフラーを、レミリアは身につける。
「うふふ、パッチェに自慢しにいこ」
パタパタと羽をはためかせ、部屋に残されたのは美鈴と咲夜だけ
「さて…と、咲夜さん」
「な、なに」
ボーっとしていた咲夜は、美鈴の声で意識を戻した。
「咲夜さんの分も編もうかと思っているのですが、何色がいいですか?」
「い、いいの!?」
「もちろんです!」
「そう!?じゃあねぇ…私も紅がいいわ!」
「へっ、咲夜さんもですか?」
「うん、だって、その…ね?」
頬を朱に染め、もじもじと咲夜は美鈴を見るが…
「わかりました!ここは紅魔館、そしてお嬢様も紅(スカーレット)だからですね!
咲夜さんはホントにお嬢様が大事なんですね、、すぐに編みますから待ってて下さいね!」
「えっ!?ちがっ…」
言うが早いか、美鈴は咲夜の話も聞かずに、部屋を飛び出し自分に部屋へと戻って行った。
「あなたの髪の色だからなのに…クスン」
盛大な勘違いをしたまま…
次の日も門の前で美鈴とチルノ、大妖精が三人で編み物をしていた、そこへ
「よう中国、なにしてるんだ?」
「魔理沙さんですか、咲夜さんのマフラーを編んでるんですよ、あと少しで冬ですから」
「お前編み物出来るのか!?」
「ええ、それなりには…」
「だったら頼む!私にマフラーの編み方教えてくれ!」
珍しく魔理沙が両手を合わせて頼んできた、余りの事に美鈴は驚いた。
「珍しいですね、魔理沙さんが頼みごとなんて、もしかして誰かにプレゼントですか?」
「う、いや、その…なんだ、うん」
顔を赤くして下を向く、そんな魔理沙を見て、美鈴は微笑む。
「構いませんよ、あっでも道具とかは…」
「ああ、それなら自分で持ってきたから大丈夫だ」
そう言って、持ってきたバッグから道具を出した。
魔理沙は思ったより不器用だった、普段が普段なだけに、細かいことは苦手らしく、予想以上に悪戦苦闘していた。それでも意地で編んでいった。
結局、チルノ、大妖精、魔理沙は仕上げることが出来ず、また明日と言うことになった。
夜、夕飯を食べ終え、各自休息となった時間、美鈴は咲夜の部屋に居た。
「はい咲夜さん、出来ましたよ!」
「ありがとう美鈴、うふふ、あっ
たかいわ~」
マフラーを顔に当て感触を楽しむ咲夜の表情はだらけきっていた。
「喜んでくれて、なによりですよ」
「当り前じゃない、美鈴が編んでくれたんだもの」
「それでは私はこれで」
「えっ、もう行っちゃうの?」
出て行こうとする美鈴を、咲夜は呼びとめた。
「はい、まだ残ってるんですよ、あと一人」
「そう…わかったわ、でも体だけは壊さないでね」
「はい、わかってます、では」
ニコッと笑って美鈴は部屋を出ていった、咲夜も主のいない部屋に何時まで居るわけにもいかず、部屋を出て自室へと向かう、その途中、
「そういえば、あと一人美鈴は誰に編むのかしら?」
と考えたが、たぶんパチュリーだろうと解釈した。
それからも、四人は一緒にマフラー等を編む、美鈴も今回は急ぎではなく、他の三人に合わせゆっくりと編んでいった、ちなみに、大妖精は三日でマフラーを編み終わり、今度は手袋を編んでいた。チルノと魔理沙はまだマフラーだったが…
そしてさらに三日後…
「出来た!」
「ふぅ、こっちもやっと出来たぜ!」
「私も出来ました」
上からチルノ、魔理沙、大妖精の順番に声を上げ、マフラーを高く上げた。
「よかったですね、冬になる前に出来て」
「ああ、助かったぜ中g…美鈴、ありがとな!」
「ありがとメイリン!レティ喜んでくれるかな」
美鈴に礼を述べ、二人は飛び立った、しかし大妖精だけは動かなかった。
「ありがとうございました美鈴さん、それで…その」
「はい、なんですか?」
大妖精はしきりに紅魔館のほうを見ていた、そしてそれを美鈴は察す。
「ああ、紅魔館に入りたいんですね?」
「はい…ダメ、ですか?」
「ええ、構いませんよ、あなたなら咲夜さんも許してくれますから、さあどうぞ」
「あ、ありがとうございます!」
ペコペコと頭を下げ、美鈴から手形をもらい、大妖精は紅魔館へと入って行った。
美鈴も最後
の細かい仕上げに取り掛かった。
美鈴は今、魔法の森を歩いていた、手には小さなカバンを持ち、目的地へと歩いて行く。
やがて、一軒の家が見えてきた、家の周りにはよくわからないガラクタみたいなものが散乱している。看板には「香霖堂」と書かれていた、ゆっくりとドアを開ける、カランカランと、ベルが鳴る。
「いらっしゃ…、やあ、美鈴じゃないか、今日も買い物かい?」
「いえ今日は違うんですよ」
そう言って美鈴は、霖之助のいる場所へと近づいて行く。
そしてカバンの中からマフラーと手袋を出し、霖之助に差し出した、それは真っ青な色で、キチンと名前も入っていた。
余りの事に、霖之助は驚く
「僕にかい?でも一体なぜ…」
「ええ、まあ…その、お礼ですよ、お礼、値引きやおまけをしてくれたお礼です」
「あ、ああ、なんと言っても君は大事な、その…お得意様だからね」
二人とも顔を赤くして笑う、霖之助はもらったマフラーと手袋をまじまじと見た。
「うーん、見れば見るほどいい出来だ、そうだ!」
ゴソゴソと霖之助は引き出しを漁りだし、やがて二枚の紙を引っ張り出した。
「お礼にお礼を返すのも変だが、これを君にあげよう」
「あっ!これって最近人里にオープンした人気のお店の、しかもその割引券ってものすごくレアものだって、いいんですかこんないい物もらっちゃって!?」
「ああ、構わないよ、福引の景品だからね、それに僕にとってはそちらより、こっちの方が魅力的だからね」
「ふえ~、そうだ霖之助さん!」
「なんだい美鈴」
「今から二人で行きませんか?幸い割引券は二枚ありますから、どうですか?」
「それは構わないが…いいのかい、僕で?」
「はい、霖之助さんで…えい、霖之助さんがいいんです」
「そ、そうかい、なら少し待っていてくれないか」
財布を持ち、先ほどのマフラーと手袋を身につけ、外に出た。
外は肌寒く、冷たい風が少しだけ吹いていた。
「う~、少し寒いですね」
「美鈴、君は防寒具等を着てこなかったのかい?」
「はい、これくらいなら大丈夫だと思ったんですけどね~、あの、渡しておいてなんですが、手袋片方だけ貸してくれませんか?」
「片方?なぜ二つともじゃないんだい?」
「ええ、ちょっと…」
「まあ、構わないが」
右手から手袋を外し、美鈴に渡す、渡された手袋を美鈴は右手につけた。
「ふふ、暖かいです、それでは、えい!」
突然、美鈴は左手で霖之助の右手をつかんだ。
「こうすれば温かいですから…嫌ですか?」
「嫌じゃないよ、でもこうすれば…」
霖之助は自分の指と、美鈴の指を絡ませる、俗に言う恋人つなぎである。
「もっと温かくなる」
「…はい」
そのまま二人は人里へと向かう、
二人の顔が赤いのは寒さのせいだけではないだろう。
「今日の天気はいまいちですね~」
とぼやいたのは紅魔館の門番、紅・美鈴である。
「それに、少し肌寒いですかね…」
はぁ~、と白い息を吐く、そこへ
「メイリーン!」
と言いながら突進してきたのは、フランドールだった。
「妹様、どうなされたんですか?」
「ん~ん、どうもしないよ?メイリンがいるから来たんだ!」
「そうでしたか…しかし妹様、その格好では風邪をひいてしまいますよ?」
「メイリンだってその格好で寒くないの?」
美鈴の服装はいつもと同じで、スリットから足が見えているところ、ズボンも穿いていない、
対するフランも、いつもと同じ服装なわけなのだが、
「私はもう何年もここにいますから、これくらいの寒さ、なんてことはないんですよ」
「そうなんだ~、いつもありがとねメイリン……クチュン!」
「妹様、大丈夫ですか!?やっぱり寒いのでは?館に戻って温まったほうがよろしいのでは…」
「ズズッ、うんそうする、じゃあまた夜ごはんの時にね」
「はい、くれぐれも風邪など引かないようにしてくださいね」
「うん、わかった~」
館に戻っていくフランドールを見ながら、なんとかできないかと考え、ある物を思い出した。
「確かまだ残りがあったはず…よし!」
詰め所に戻り、目的のものを見つけ出す。
「うん、これだけあれば十分ね、さっそく造りにかかりますか!」
それから美鈴は仕事をしながらある物を造り、仕事が終わればすぐ部屋に戻って続きを再開した。
「出来た!」
開いている時間帯をフルに使ったのと、美鈴本来の器用さも手伝って一日で終わらせることができた。
「さて、後はこれを妹様に…」
「メイリーン!」
どうやって渡そうかな、と考えていたら、フランドールは自分から来てくれた、今日は晴れているが日傘を差しているので問題はない、寒いことは寒いのだが…
「妹様おはようございます」
「おはようメイリン!今日も寒いね」
冷たくなった手に息を吹きかけるが、さして効果はないように思えた。昨日と違い長袖ではあるが、
「妹様、手をお出しください」
「うん?わかった」
言われたとおり、両手を突き出すフランドール、その手に美鈴は先ほどまで造っていた物を被せた。
「うわー、手袋だー!」
「はい、昨日寒そうにしておられたので」
美鈴が造っていたのは毛糸で編んだ紅の手袋だった。
「ありがとーメイリン!んふ~、あったか~い」
「それとですね…はい、もう一つです」
そう言って今度はフランドールの首にマフラーを巻いた、これも紅のマフラーである。
「いいのメイリン、貰っても?」
「もちろんです、妹様のために造ったのですから」
「これすっごく温かいね、そうだ、お姉様にも見せてくるね!」
言うが早いか、フランドールは館へと戻って行った。その姿を見て美鈴は微笑む。
「ふふ、あれだけ喜んでもらえるとは思いませんでしたがよかったですね、ふあぁ~、昨日はあまり寝てないからな~、起きてられるかな」
頑張って起きていようとは思っていたが、襲いかかる睡魔に勝てず、美鈴はすぐに意識を手放してしまった。
「……ん、…りん、美鈴!」
「うぉあい!すみません咲夜さん!」
目を開けるがそこには誰もいない、辺りを見渡していると
「こっちよ」
と下から声が、下を向くと、
「お、お嬢様!?」
「随分と気持ちよさそうに寝ていたじゃない」
そこに居たのは紅魔館当主、レミリア・スカーレットだった。レミリアは不敵に笑い、美鈴は土下座をして謝る。
「も、申し訳ありませんお嬢様!い、いえ決してサボろうとだなんてこれっぽっちも思って…」
「静かにしなさい美鈴、とりあえず、今はそんな事いいの、貴女フランに手袋とマフラーを編んだそうね」
「へ!?お嬢様、それは一体どういった…」
「いいから質問に答えなさい、あれは貴女が編んだのよね?」
「は、はい、妹様の手袋とマフラーを編んだのは私ですが」
「そう、それで…私のは?」
ズイっとレミリアは手を差し出す、美鈴はレミリアの手と顔を交互に見る。
「お嬢様の分ですか?」
「そう私の分、当然あるわよね」
「え、いや、ありませんよ?」
「無いの!?なんでよ!?」
「いえ、なんでと言われましても、お嬢様のはてっきり咲夜さんが編むのだろうと…」
「ああ、咲夜は無理よ、だってあの子編み物できないから」
嘘だった、ただ美鈴にマフラーと手袋を編んでもらうため、レミリアは嘘をついたのだ。
それを人がいい美鈴は信じてしまう。
「それは知りませんでしたね」
「ええ、だから美鈴、私にも手袋とマフラーを造りなさい」
「それはいいのですが、もう毛糸が残ってなくて…」
「なら買いに行けばいいじゃない」
ふと美鈴は考える、自分がいなくても門は大丈夫かと、そして、ここら辺の妖怪なら大丈夫かなと思い、
「わかりましたお嬢様、色はどうなされますか?」
「そうね、夜の王らしく黒、と言いたいところだけど、私も紅でお願い、何故かわかるわよね?」
「お嬢様も紅(スカーレット)だからですよね!わかりました、すぐに行ってきます」
「ちょ、ちょっと!」
レミリアの制止も聞かずに、美鈴は走り出した、後に残されたレミリアは
「あなたの名前の色なのに…」
と呟いた。
一応、紅だけでなく、他の色も買ってきて、今度はレミリアの分の手袋とマフラーを編む、そこへ、
「遊ぼうメイリーン、あれ、なにしてんの?」
「ちょっとチルノちゃん、いま美鈴さんお仕事してるんだから邪魔したらダメだよ!」
「大丈夫ですよ大妖精さん、今はねチルノちゃん、手袋とマフラーを編んでるんです」
「ふ~ん、なんで?」
「そうですね~、これから寒い季節になりますから、大事な人が風邪をひかないようにですかね」
大事な人、と聞いて二匹は自分にはそのような人がいたかと思い浮かべる、すぐに二人とも頭の中に浮かび上がった。
「あ、あの美鈴さん」
「なんですか?」
おずおずと大妖精が話しかける、美鈴も手を止め大妖精に向きなおる。
「私に…その、マフラーの編み方教えてくれませんか?」
控え目に頼む大妖精に、美鈴は微笑む。
「ええ、構いませんよ、道具と材料はありますから、好きに使ってくれても構いません」
「あ、ありがとうございます!」
「あー、いいな大ちゃん!メイリンあたいも教えてー」
「わかりました」
チルノと大妖精も加わり、一緒に門の前でマフラーを編む。
以外にも、チルノはそこそこ器用だった、教えるまでが大変だったが…
大妖精は飲み込みも早く、一度教えると美鈴ほどではないが、サクサクと進んでいった。
そして日が暮れ、チルノ達と別れ美鈴は紅魔館へと戻り、レミリアの部屋へと向かった。
レミリアは部屋のベッドに腰かけていた、かと思うと立ち上がり、部屋の中をグルグルと歩く、しきりに時計を見たりしていた。
「どうなされたのですかお嬢様、いささか落着きがないように思えますが…」
「え、ええそうね、少し落ち着かないとね」
とレミリアはベッドへと向かった、その時、レミリアの部屋のドアが叩かれる。
「紅美鈴です、お嬢様昨日の物が出来ました」
「そう、入りなさい!」
「失礼します」
ゆっくりとドアが開けられ、美鈴が部屋へと入ってくる、手には紅い手袋とマフラーを持っていた。
「やっと出来たのね!?」
「はい、どうぞお嬢様」
美鈴から渡された手袋とマフラーを、レミリアは身につける。
「うふふ、パッチェに自慢しにいこ」
パタパタと羽をはためかせ、部屋に残されたのは美鈴と咲夜だけ
「さて…と、咲夜さん」
「な、なに」
ボーっとしていた咲夜は、美鈴の声で意識を戻した。
「咲夜さんの分も編もうかと思っているのですが、何色がいいですか?」
「い、いいの!?」
「もちろんです!」
「そう!?じゃあねぇ…私も紅がいいわ!」
「へっ、咲夜さんもですか?」
「うん、だって、その…ね?」
頬を朱に染め、もじもじと咲夜は美鈴を見るが…
「わかりました!ここは紅魔館、そしてお嬢様も紅(スカーレット)だからですね!
咲夜さんはホントにお嬢様が大事なんですね、、すぐに編みますから待ってて下さいね!」
「えっ!?ちがっ…」
言うが早いか、美鈴は咲夜の話も聞かずに、部屋を飛び出し自分に部屋へと戻って行った。
「あなたの髪の色だからなのに…クスン」
盛大な勘違いをしたまま…
次の日も門の前で美鈴とチルノ、大妖精が三人で編み物をしていた、そこへ
「よう中国、なにしてるんだ?」
「魔理沙さんですか、咲夜さんのマフラーを編んでるんですよ、あと少しで冬ですから」
「お前編み物出来るのか!?」
「ええ、それなりには…」
「だったら頼む!私にマフラーの編み方教えてくれ!」
珍しく魔理沙が両手を合わせて頼んできた、余りの事に美鈴は驚いた。
「珍しいですね、魔理沙さんが頼みごとなんて、もしかして誰かにプレゼントですか?」
「う、いや、その…なんだ、うん」
顔を赤くして下を向く、そんな魔理沙を見て、美鈴は微笑む。
「構いませんよ、あっでも道具とかは…」
「ああ、それなら自分で持ってきたから大丈夫だ」
そう言って、持ってきたバッグから道具を出した。
魔理沙は思ったより不器用だった、普段が普段なだけに、細かいことは苦手らしく、予想以上に悪戦苦闘していた。それでも意地で編んでいった。
結局、チルノ、大妖精、魔理沙は仕上げることが出来ず、また明日と言うことになった。
夜、夕飯を食べ終え、各自休息となった時間、美鈴は咲夜の部屋に居た。
「はい咲夜さん、出来ましたよ!」
「ありがとう美鈴、うふふ、あっ
たかいわ~」
マフラーを顔に当て感触を楽しむ咲夜の表情はだらけきっていた。
「喜んでくれて、なによりですよ」
「当り前じゃない、美鈴が編んでくれたんだもの」
「それでは私はこれで」
「えっ、もう行っちゃうの?」
出て行こうとする美鈴を、咲夜は呼びとめた。
「はい、まだ残ってるんですよ、あと一人」
「そう…わかったわ、でも体だけは壊さないでね」
「はい、わかってます、では」
ニコッと笑って美鈴は部屋を出ていった、咲夜も主のいない部屋に何時まで居るわけにもいかず、部屋を出て自室へと向かう、その途中、
「そういえば、あと一人美鈴は誰に編むのかしら?」
と考えたが、たぶんパチュリーだろうと解釈した。
それからも、四人は一緒にマフラー等を編む、美鈴も今回は急ぎではなく、他の三人に合わせゆっくりと編んでいった、ちなみに、大妖精は三日でマフラーを編み終わり、今度は手袋を編んでいた。チルノと魔理沙はまだマフラーだったが…
そしてさらに三日後…
「出来た!」
「ふぅ、こっちもやっと出来たぜ!」
「私も出来ました」
上からチルノ、魔理沙、大妖精の順番に声を上げ、マフラーを高く上げた。
「よかったですね、冬になる前に出来て」
「ああ、助かったぜ中g…美鈴、ありがとな!」
「ありがとメイリン!レティ喜んでくれるかな」
美鈴に礼を述べ、二人は飛び立った、しかし大妖精だけは動かなかった。
「ありがとうございました美鈴さん、それで…その」
「はい、なんですか?」
大妖精はしきりに紅魔館のほうを見ていた、そしてそれを美鈴は察す。
「ああ、紅魔館に入りたいんですね?」
「はい…ダメ、ですか?」
「ええ、構いませんよ、あなたなら咲夜さんも許してくれますから、さあどうぞ」
「あ、ありがとうございます!」
ペコペコと頭を下げ、美鈴から手形をもらい、大妖精は紅魔館へと入って行った。
美鈴も最後
の細かい仕上げに取り掛かった。
美鈴は今、魔法の森を歩いていた、手には小さなカバンを持ち、目的地へと歩いて行く。
やがて、一軒の家が見えてきた、家の周りにはよくわからないガラクタみたいなものが散乱している。看板には「香霖堂」と書かれていた、ゆっくりとドアを開ける、カランカランと、ベルが鳴る。
「いらっしゃ…、やあ、美鈴じゃないか、今日も買い物かい?」
「いえ今日は違うんですよ」
そう言って美鈴は、霖之助のいる場所へと近づいて行く。
そしてカバンの中からマフラーと手袋を出し、霖之助に差し出した、それは真っ青な色で、キチンと名前も入っていた。
余りの事に、霖之助は驚く
「僕にかい?でも一体なぜ…」
「ええ、まあ…その、お礼ですよ、お礼、値引きやおまけをしてくれたお礼です」
「あ、ああ、なんと言っても君は大事な、その…お得意様だからね」
二人とも顔を赤くして笑う、霖之助はもらったマフラーと手袋をまじまじと見た。
「うーん、見れば見るほどいい出来だ、そうだ!」
ゴソゴソと霖之助は引き出しを漁りだし、やがて二枚の紙を引っ張り出した。
「お礼にお礼を返すのも変だが、これを君にあげよう」
「あっ!これって最近人里にオープンした人気のお店の、しかもその割引券ってものすごくレアものだって、いいんですかこんないい物もらっちゃって!?」
「ああ、構わないよ、福引の景品だからね、それに僕にとってはそちらより、こっちの方が魅力的だからね」
「ふえ~、そうだ霖之助さん!」
「なんだい美鈴」
「今から二人で行きませんか?幸い割引券は二枚ありますから、どうですか?」
「それは構わないが…いいのかい、僕で?」
「はい、霖之助さんで…えい、霖之助さんがいいんです」
「そ、そうかい、なら少し待っていてくれないか」
財布を持ち、先ほどのマフラーと手袋を身につけ、外に出た。
外は肌寒く、冷たい風が少しだけ吹いていた。
「う~、少し寒いですね」
「美鈴、君は防寒具等を着てこなかったのかい?」
「はい、これくらいなら大丈夫だと思ったんですけどね~、あの、渡しておいてなんですが、手袋片方だけ貸してくれませんか?」
「片方?なぜ二つともじゃないんだい?」
「ええ、ちょっと…」
「まあ、構わないが」
右手から手袋を外し、美鈴に渡す、渡された手袋を美鈴は右手につけた。
「ふふ、暖かいです、それでは、えい!」
突然、美鈴は左手で霖之助の右手をつかんだ。
「こうすれば温かいですから…嫌ですか?」
「嫌じゃないよ、でもこうすれば…」
霖之助は自分の指と、美鈴の指を絡ませる、俗に言う恋人つなぎである。
「もっと温かくなる」
「…はい」
そのまま二人は人里へと向かう、
二人の顔が赤いのは寒さのせいだけではないだろう。
パッチェさんがレミリアにマフラーの自慢をされるだけされて、自分にもあるのかとドキドキ待ってる様が憐れでならない。紅魔館組で貰ってないのはパッチェさんとコアクマ・・・
って、そういうことか。
しかし、大妖精は何故紅魔館に行ったのだろうか?
これで小悪魔にプレゼントとかだったら本格的にパチュリー涙目だな。
まあもう一度書けばいいか
香霖殺す