彼女が感じること
よく昼寝をしている門番、瀟洒なメイド長、動かない大図書館、それらを統べる夜の王
紅魔館はおもしろい場所だ。
毎日一回は記事にできそうなことが起こる。記者にとって稀有な場所だ。
突撃取材を行ったときは美鈴に激しく攻撃されたし、レミリアと顔見知りになっていない間は門を通るのですら骨が折れた。
咲夜は問答無用で攻撃してくるし、パチュリーが攻撃してくることさえあった。
いまではレミリアと親しいと言える仲にまでなり、出入りを容認されるほどになった。
満月の前日、紅魔館を訪ねた。
一週間と日を置かずに訪ねているが、拒否されたことはない。
夜も遅く、館の中には最低限の光しか灯っていないことが、魔が住む館であることを示しているように思えた。
長い廊下を歩いていると、「妹」という言葉が聞こえた。
その言葉が眠っていた記憶を呼び起こす。
吸血鬼がここにきたばかりの頃、2人いるという話を聞いたことを思い出した。
しかし、今までに聞いた吸血鬼の話では1人きりだし、全てレミリアを指していた。
レミリアがその1人であるとしたら、もう1人はどうしたのだろう?
彼女は優しく、思慮深い。庇護しているということも考えられなくはない。
だが、レミリア以外の吸血鬼に、この館の中であったことなどない。
館から出て行ったのだとしても、吸血鬼である以上、人里には混ざれないだろうし、吸血鬼という種の特性がそこらの妖怪と混じって暮らすことを許すはずがない。
なにより、レミリアが許さないはずだ。
彼女は果断であり、情けをかけない性格だ。
己には向かうものを野放しにしておくはずがない。
では、死んだのだろうか?
吸血鬼は死して灰になる。こればかりは確認のしようがない。
わからない。
そう、私ではわからないのだ。
狗ならわかるだろうか?
彼女は信用されている。身の回りの世話をさせるほどに。
門番ならわかるだろうか?
彼女は信頼されている。門を守らせてもらえるほどに。
魔女ならわかるだろうか?
彼女は好かれている。親友として側にいられるほどに。
では、私は?
私は紅魔の外のモノ。ただの隣人。
ああ、もうやめよう。
考えたところでどうにもならない。
それにせっかくレミリアに会いにきたんだ。
いつものように笑っていよう。
扉を開ける。
月光の下で本を読むレミリア。
ああ、後ろに控えるその狗さえいなければ、忘れえぬ光景となったろうに。
「前にお茶をしてから、2日も経っていないのではないかしら?」
本を閉じ、私を見てくれるレミリア。
柔らかな微笑が、私を捉える。
ああ、私は少なくとも彼女に読書を止めさせるだけの存在ではあるんだ。
「あやや~、そうでしたか?レミリアさんのお話は楽しいですからね。ついつい、足を運んでしまうんですよ。」
いつものように笑っているはずだ。
その証拠に、彼女の微笑が変わることはない。
吸血鬼たる彼女が聖母の様な微笑を浮かべるなど誰が知り得よう?
限られた存在にしか見せぬその笑み。
その限られた存在に入っているというだけで私の心は満たされてしまう。
翌日。
目を覚ますと、紅い霧が空を覆っていた。
レミリアが起こしたことだとはすぐ解る。
しかし、なぜだろう?
昨日の彼女にそんな様子は見えなかった。
記事にする絶好のネタだが、私にはできない。
椛に取材するように任せ、情報だけは手に入るようにした。
騒動を収めるために動いたのは巫女と人の魔女。
本当に抑えようとしているとは到底思えない。
しかし、予想は裏切られた。
巫女と人の魔女は見事にレミリアを抑えてみせた。
理解などできない。
吸血鬼が人に敗れることなど考えられないことだ。
変わった。
そうとしか考えられない。
昨日までのレミリアと、今日からのレミリアは異質な存在なのだ。
レミリアの妹、フランドールの騒動も続けて起きた。
レミリアの妹、フランドール。
その存在がレミリアを変えたのだ。
ずっと変化させ続けてきたのだろう。
今ならあの日の会話の真意がよくわかる。
「大切な人が、自分が変わることでしか救えない。そうなったらどうする?」
狗が淹れた紅茶を美味しそうに飲みながら尋ねてきたレミリア。
もっと巧みな言い回しをされた気もするが、概ねこんな問いだった。
「私なら、変わりますね。」
迷いなどなく、ただ、結果以外の言葉を飲み込んで率直に応えた。
答えを聞いたとき、彼女の存在感がどことなく弱まった気がして、飲み込んだ言葉を言うことはできなかった。
「私が変わることで、周りの人を悲しませるかもしれないけど」
言えばよかった。
飲み込まず、言えばよかった。
彼女は優しいから、そういえば思いとどまってくれたかもしれないのに。
レミリアの妹、フランドール。
狂気の象徴。
彼女は愛されている。
自身の存在を変えてしまうほどに。
確定した人格を壊しても、ずっと愛されるほどに。
よく昼寝をしている門番、瀟洒なメイド長、動かない大図書館、それらを統べる夜の王
紅魔館はおもしろい場所だ。
毎日一回は記事にできそうなことが起こる。記者にとって稀有な場所だ。
突撃取材を行ったときは美鈴に激しく攻撃されたし、レミリアと顔見知りになっていない間は門を通るのですら骨が折れた。
咲夜は問答無用で攻撃してくるし、パチュリーが攻撃してくることさえあった。
いまではレミリアと親しいと言える仲にまでなり、出入りを容認されるほどになった。
満月の前日、紅魔館を訪ねた。
一週間と日を置かずに訪ねているが、拒否されたことはない。
夜も遅く、館の中には最低限の光しか灯っていないことが、魔が住む館であることを示しているように思えた。
長い廊下を歩いていると、「妹」という言葉が聞こえた。
その言葉が眠っていた記憶を呼び起こす。
吸血鬼がここにきたばかりの頃、2人いるという話を聞いたことを思い出した。
しかし、今までに聞いた吸血鬼の話では1人きりだし、全てレミリアを指していた。
レミリアがその1人であるとしたら、もう1人はどうしたのだろう?
彼女は優しく、思慮深い。庇護しているということも考えられなくはない。
だが、レミリア以外の吸血鬼に、この館の中であったことなどない。
館から出て行ったのだとしても、吸血鬼である以上、人里には混ざれないだろうし、吸血鬼という種の特性がそこらの妖怪と混じって暮らすことを許すはずがない。
なにより、レミリアが許さないはずだ。
彼女は果断であり、情けをかけない性格だ。
己には向かうものを野放しにしておくはずがない。
では、死んだのだろうか?
吸血鬼は死して灰になる。こればかりは確認のしようがない。
わからない。
そう、私ではわからないのだ。
狗ならわかるだろうか?
彼女は信用されている。身の回りの世話をさせるほどに。
門番ならわかるだろうか?
彼女は信頼されている。門を守らせてもらえるほどに。
魔女ならわかるだろうか?
彼女は好かれている。親友として側にいられるほどに。
では、私は?
私は紅魔の外のモノ。ただの隣人。
ああ、もうやめよう。
考えたところでどうにもならない。
それにせっかくレミリアに会いにきたんだ。
いつものように笑っていよう。
扉を開ける。
月光の下で本を読むレミリア。
ああ、後ろに控えるその狗さえいなければ、忘れえぬ光景となったろうに。
「前にお茶をしてから、2日も経っていないのではないかしら?」
本を閉じ、私を見てくれるレミリア。
柔らかな微笑が、私を捉える。
ああ、私は少なくとも彼女に読書を止めさせるだけの存在ではあるんだ。
「あやや~、そうでしたか?レミリアさんのお話は楽しいですからね。ついつい、足を運んでしまうんですよ。」
いつものように笑っているはずだ。
その証拠に、彼女の微笑が変わることはない。
吸血鬼たる彼女が聖母の様な微笑を浮かべるなど誰が知り得よう?
限られた存在にしか見せぬその笑み。
その限られた存在に入っているというだけで私の心は満たされてしまう。
翌日。
目を覚ますと、紅い霧が空を覆っていた。
レミリアが起こしたことだとはすぐ解る。
しかし、なぜだろう?
昨日の彼女にそんな様子は見えなかった。
記事にする絶好のネタだが、私にはできない。
椛に取材するように任せ、情報だけは手に入るようにした。
騒動を収めるために動いたのは巫女と人の魔女。
本当に抑えようとしているとは到底思えない。
しかし、予想は裏切られた。
巫女と人の魔女は見事にレミリアを抑えてみせた。
理解などできない。
吸血鬼が人に敗れることなど考えられないことだ。
変わった。
そうとしか考えられない。
昨日までのレミリアと、今日からのレミリアは異質な存在なのだ。
レミリアの妹、フランドールの騒動も続けて起きた。
レミリアの妹、フランドール。
その存在がレミリアを変えたのだ。
ずっと変化させ続けてきたのだろう。
今ならあの日の会話の真意がよくわかる。
「大切な人が、自分が変わることでしか救えない。そうなったらどうする?」
狗が淹れた紅茶を美味しそうに飲みながら尋ねてきたレミリア。
もっと巧みな言い回しをされた気もするが、概ねこんな問いだった。
「私なら、変わりますね。」
迷いなどなく、ただ、結果以外の言葉を飲み込んで率直に応えた。
答えを聞いたとき、彼女の存在感がどことなく弱まった気がして、飲み込んだ言葉を言うことはできなかった。
「私が変わることで、周りの人を悲しませるかもしれないけど」
言えばよかった。
飲み込まず、言えばよかった。
彼女は優しいから、そういえば思いとどまってくれたかもしれないのに。
レミリアの妹、フランドール。
狂気の象徴。
彼女は愛されている。
自身の存在を変えてしまうほどに。
確定した人格を壊しても、ずっと愛されるほどに。
ただこれからも同じテーマで他のキャラの話が予定されているようなのでそちらに期待(というよりも、まだ書かれていないのも含めてようやく一つの作品として完成するような気がします。