Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

人死にノート

2009/01/17 00:36:20
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 緩やかな風に吹かれつつ、少女はいま境内の掃除をしていた。
 白色に身を包んだ上半身に、青色を纏った下半身。紛れもなく東風谷 早苗、その人である。
 彼女は箒で落ち葉を集めつつ、あることを思案していた。




『君はどこ?あたしは笑うよ(チャーミー!)
 君はだれ?あたし知ってる(スマイリー!)
 君は何が好き?あたし!(ラヴラヴラヴリー!)』


「か、完璧です……完璧に完璧と言ってもいいくらい完璧です!」

 少女は今しがた爆誕した歌詞を口ずさむ。猛烈な勢いで口ずさむ。そして仕事を一時中断し、神社の軒先へと駆け寄った。


 仕事も忘れ、軒先で一心不乱に何かを書き綴る早苗。内容は重複になるので割愛するが、ここから先は問答無用で乙女の秘密である。

 <デスノート。他人に読まれると、書いた本人が死ぬノート。現在の所有者は東風谷 早苗>

 そんな物騒なものを軒先にほっぽり出して、誰かに見られたらどうするのか、疑問は尽きない。だが、今現在幻想郷でノリに乗っている作詞家・東風谷氏にとってはとんだ瑣末ごとだ。幸い、神社の二柱はちょっとそこまで外出中である。

「薄々感づいてはいましたが……この幻想郷に来てから、私の頭は回りっぱなしです! 外の世界じゃ浮かばなかったでしょう!」

 筆の速度はさらに上がっている。ついに歌詞は2番へと突入した。
 とそこへ、

「ふー、山登りはきついぜ」
(どこがよ、飛んでるだけじゃない)

 デスノートの天敵、麓のシーフが現れた。横にはしゃべる人形を連れている。
 討ち取るべき敵の出現に気づき、笑顔を湛えしお花畑モードだった早苗さんは一変、我が子を護る親となる。玉串を携え、我がノートの秘密を死守せんと!


「おや、誰かと思えば」
(ここの巫女ね。あれ、巫女じゃないんだっけ?)
「来ましたね、まずは挨拶をしましょう。そう、この幻想郷では……常識に囚われてはいけないのですね!」




恋のミラクルフルーツ
作詞作曲・東風谷早苗

(朝のヨーグルトを食べて思ったの!
 ミカンとパイナップルって……あたしとあなたみたい!)
(長い前奏)
『君はどこ?あたしは笑うよ(チャーミー!)
 君はだれ?あたし知ってる(スマイリー!)
 君は何が好き?あたし!(ラヴラヴラヴリー!)
 砂糖と一緒に混ぜたいな(ナタデココ!) 君とあたしの(ヨーグルト!)

 だけど時々 気になるの(フー?)
 白桃みたいな 甘いカレ(ワオ!)
 みんながあたしを好きになる(シャル・ウィ・ヨーグルト) 恋のミラクル!(フルーツ!)』


(ちょっと、変な歌歌ってる場合じゃないでしょ)
「う、歌ってるのは私じゃないぜ!」

 強烈な歌とともに繰り出される、珍妙な挨拶、もとい弾幕。フルーツの名を冠したそれらは、情け容赦なく魔理沙の逃げ道を塞いでいく。弾を避ければ歌が聞こえ、歌を避ければ弾が来る。
 たまらず人形を一体爆発させ攻撃に転じようとするが、早苗はその爆風すらかわして見せた。そのことが彼女の精神テンションを上げたのか、乙女チックな歌のボリュームは無意識に上昇していく。もう魔理沙には歌しか聞こえなかった。たまらず目と耳を閉じてしまう。もちろん自殺行為だ。
 早苗の意図しない完璧な攻撃の前に、敢え無く被弾。


(どうしたのよ魔理沙、そんなに激しい弾幕だったの?)
「いや、古傷が痛むのよ……痛むなのぜ」



 あっけなく勝利を収めた早苗、しかし勝敗には既に無関心であった。弾を撃ちつつ閃いた歌詞があったからだ。今にもデスノートを取り出し、歌声と共に幻の3番を書き綴らん勢いである。

「参拝ならご自由にどうぞ、私はちょっと用を思いついたので」
「あ、おいちょっと! 参拝じゃないんだ、ちょっとここの神様に用があるのよ」
(それって同じじゃないの?)

 焦る魔理沙の呼びかけにも応じず、早苗はそそくさと境内に野ざらしの我が子を探しに行った。このとき魔理沙は地底で起きた異変の黒幕を懲らしめる為、守矢神社に来ていたのだが。

「うーむ、神奈子たちが出てこないと話にならないわ」
(いったん出直したら? なんだか調子も変よ)
「そ、そうするか、古傷も痛むし」







「ない、ない、ここにもない!」
 あの誰の目にも見せてはいけないノートがなくなっていた。風で飛んで行ったということはないだろう。ならば先ほどの弾幕ごっこの間に盗まれたのだろうか。でも誰に? この神社にいたのは私だけ。つまり外部の誰かが早苗の目を盗んで我が子を略取したことになる。

「私の目を盗んでなんて、どういう能力ですか!」

 幻想郷に来てずいぶん経つが、気づかれないうちに物を盗めるような能力を持つ人物は思い浮かばない。とはいえ犯人の特定はできないが、今ならそう遠くには行っていないだろう。追いかけ追いつき、そして一刻も早く取り返さねば! 起これよ奇跡!



 早苗はあれに名前を書いている。そう 名前を書かれた者は しぬ







 結論から言えば犯人は古明地こいしだ。お姉ちゃんに倣い、自分のペットも強くしてもらおうという算段で神社に来ていた。しかしどうだ、神はいない。諦めて帰ろうとしたときに、ちょうど二つのものが目に入った。
 一つは弾幕ごっこをする魔理沙。もう一つは見たこともない原料でできている書物。それを手にとって中身を吟味してみると、これがまた理解できない内容だった。言語は読めるのだが、それでも理解ができない。手触りも不気味なほどスベスベしているし、ここに記されているのは呪詛の一種なのだろう。然るべき方法で詠唱すれば、魔法が起動するんじゃなかろうか。そして魔法といえば魔法使いがそこにいる。こんな珍しいものをプレゼントすれば、きっと喜んでくれるに違いない。
 見れば弾幕ごっこは今決着がついたところであった。いざ行かん! そして一刻も早く魔理沙に贈り物を届けるのだ!







「魔理沙!」
「おや、地底の覚じゃないか」
 覚の意味を取り違えたこいしは、頬を膨らませつつ反論する。
「こいしだよ。さとりはお姉ちゃん」
(あら、こいしさんがいるの?)


 喜び勇みながら自分の元へ来る早苗をひょいとすり抜け、魔理沙へと配達に参った。こいし、ミッションコンプリート。

「どうしたんだ? こんなところまで来て」
「魔理沙って魔導書を集めているのよね? それで、はい!」
(贔屓ね、魔理沙だけ)
「魔導書か、そいつはありがたい」


 こいしが差し出したのは果たして早苗渾身のポエム集。これに魔導的価値があったものか。そうとも知らず、礼までして受け取った魔理沙は中身を見て……


「『うふふ、あなたを撃ち抜く恋のレーザ~(はーと)』……!」
「えへへ、どうかな?」

 これが世に言う泡吹き魔理沙。過去のトラウマをえっさほいさと掘り起こされた場合に見ることができる。具体的には赫々と奥歯を鳴らしながら、唇だけを不器用に歪まして魔理沙は返答する。

「本から乙女のエナジーが広がるわ……そうか、私も女の子だったんだぜ、だわ」
(貴方たち姉妹ってつくづくトラウマに縁があるわね)
「ど、どうしちゃったの魔理沙ー!」


 魔理沙は答えず、そして頭をしたたかに石段へと打ちつけた。





『ど、どうしちゃったの魔理沙ー!』


 既に無意識のものではなくなったこいしの声が、早苗の耳を突き刺した。カタキはそこにいる! そう判断した早苗は雷鳴の如くまい進した。
 やがて守矢神社に至る長い階段の途中、泡を吹いて倒れるカタキと邂逅する。


「な、なによコレ……」
 辺りを見渡す目、汗を噴出す体中の穴という穴。
「み、見られた……」
 そして眩暈を感じる早苗。今頃はお花畑の世界でカタキと邂逅しているだろう。合掌。




 渡した魔導書を見せたら、その魔法使いが倒れてしまう。後からきた巫女も倒れてしまった。何が何やら、まったく頭が追いつかない。

「わ、さっきの巫女さんも倒れちゃったよ!」
(こいしさん、何かあったの?)
「ああ、その声はこの前の。あのね、魔導書を見る人間が倒れるの」
 こいしも事態を飲み込めないので、口調に焦りが混じる。
(魔導書を、ねぇ)
 そんなこいしを、アリスはただ魔導書という響きにつられて誘導する。
(こいしさん、もし良かったら私の家に持ってきてくれない?)

 元からこいしの計画は、プレゼントを渡すことで地上の誰かと仲良くなることだ。この際アリスとて例外ではない。
「分かったわ、でも倒れてる二人は……」
(その魔導書に関わった者は不幸になるのよ。今はそっとしておいてあげましょう)





 守矢神社へと至る長い階段。その途中で、二人の人間がトラウマを抉られ、無惨に横たわっている。時折呪文のようなものが聞こえてきて、そして永遠にそれっきりだった。




「うふふ」
「ふ、ふ……ふるーつ」
ここまで読んでくださりありがとうございます。

ぬぅ、デスノート…それは書いた本人が死ぬノート。
前時
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
かっこいい必殺技はスペルカードになるから問題ないんですね
2.名前が無い程度の能力削除
歌うな(w 書き記すな(w そして死ぬな(w