これは、フランドール・スカーレット(以下、フランと記す)と一時的な養子契約が結ばれることになった経緯についての記述である。
契約の対象は当然のことながらフランその子。
え?
人外を養子にするのはどうかと思う?
確かに相手は妖怪の中でも危険度だけで言えば、トップクラスの吸血鬼。
淑女や貴族然としたふるまいをすることから、本能に従うだけの妖怪に比べればマシだとも思えるが、それでも危険なことには変わりはない。
しかし今回は問題なかった。
その問題に対して答える前に前提の話をしよう。
そもそもフランとはいったい誰なのか。
いうまでもないことではあるが、紅魔館の吸血鬼姉妹のひとりである。
技の一号力の二号という言葉があるが、彼女の場合は力の二号といった感がある。
純粋にパワーだけに限れば、彼女の力は幻想郷でも五本の指には入るだろう。
くわえてその容姿。
フランは幼げな瞳、金髪。そしてロリロリボイスと、一部のお方にすこぶる人気を保持している。
ギャップがたまらんというわけである。
フランは吸血鬼であるからにはやはり恐怖の対象にもなる程度には強く、膨大な魔力をその小さな身体に秘めている。
魔力は言ってみれば、バケツの中にある水のようなものでいろいろな用途に使える。
例えば、破壊。
例えば、運命操作。これはフランの姉の能力。
驚異的としか言いようが無い身体能力。
そして、フランの特技の一つには『フォーオブアカインド』と呼ばれるスペルカードがある。
これはフランが自分の分身を三つほど発生させ、本体と合わせて、計四体のフランとなる技である。
四人同時の弾幕攻撃にはあの博麗の巫女でさえも少々苦戦したらしい。
さて、このスペルカード。
『フォーオブアカインド』が今回の事の顛末であった。
かの少女曰く、どれくらいまで分身できるのか試してみたかった。
なるほどわかりやすい。
あまりにも子どもっぽい動機である。
この動機にはさすがのカリスマ的な姉、レミリアもあきれたらしいが、やってみるならやってみなさいという言葉によって、フランの蛮行は断行された。
分身。
そしてその分身した四人がさらにまた分身。
さらにまた分身。
分身。
さらにまた分身。
こうして繰り返すことで、増えに増えたフランの数は総勢、千名。
いかな紅魔館が広大な敷地を有しているとはいえ、さすがにフランが千人もいれば、暑苦しい。
しかもなぜか消せない。
増やしすぎて制御が困難になったのだろう。
さて困ったことになった。
――じゃあ破壊してしまえばいいじゃない。
という意見ももちろんあった。レミリアとパチュリーはこの派閥に属する。
しかしこれにはフランの本体が反対した。
痛いというのがその理由である。分身であってもダメージを受けるのは自分。
当然の主張であった。
これに同調したのが十六夜咲夜である。泣きじゃくるフランの姿を見てしまっては、完璧で瀟洒なメイドといえども憐憫の情を抱かずにはおれない。
しかし問題は場所だけではなかった。
食事代である。
魔力で分身したとはいえ、そのひとりひとりがフランと同じく吸血衝動を有している。血を飲まねば、気が狂う。
それだけではない。
分身といえどもおなかがすくらしく、これも重大な問題であった。
分身から六時間ほど経過したのち。
じたばたと千人のフランがおなかすいたコールをするのだからたまらない。
どこかの国の革命かと思われるほどの地鳴り。
パンを食べさせて。
お菓子を食べればいいのよ。
レミリア様が空気の読めない発言をするも、フランの生存闘争は止まらない。
さすがに千人の吸血鬼を食べさせていけるほどの食料は備蓄されていない。
ここで紅魔館の知恵者パチュリー・ノーレッジは一つの提案をした。
問題となるフランの分身であるが、どうやら魔力の塊によって作られており、備蓄されている魔力が尽きれば自然消滅するのではないかとのこと。
つまりは時間の問題なのである。
もちろん血の補給等によってある程度の延長は可能であろうが、本体とは違い、やはり分身は分身に過ぎない。
要は時間切れまで食料を補給し続ければ、ソフトランディングができるのではないかとのことであった。
そこで、フランの分身を一時的に養子に出す案がでたのである。
当然人里としては警戒心も抱かれるが、容姿端麗なフランのこと、それなりに人気もあるらしく、すぐに断わられることはなかった。さらには分身ということで、ひとりあたりのパワーはそこそこ減殺されており、危険性も薄い。
泣きじゃくるフランの姿を見て、人間たちはとりあえず受け入れ先を募集することにした。
一家に一人、フランちゃんの時代がもうそこまで来ていた。
まさに、理想郷。
すいません俺も一人養子に
目の前でフランちゃんが消えたら泣くわ、マジで。
うふふ・・・
さあ俺の首筋に飛び込んできてくれフランちゃん
その気持ちわからなくはないが