「どうもこんにちわー。ヒナナイクーでーす。
右の私が比那名居天子で、こっちの左の、今は居ないんですけど永江衣玖でーす。二人合わせてヒナナイクーでーす。
ええと今日は地上人の薄汚いクズども、じゃなくて素敵な地上人の皆さんに私がどれだけおもしろいかを、身を持って思い知らせ、じゃなくて、いっぱい知っていただくために、このM-1ぐらんぷり予選会に来たんですけど。
相方っていうんでしたっけ、一人呼んで置いたんですけど、来なかったので、一人でなんかやろうかなとか、思ってたんですけど。
ええと何がいいかなー。あ、桃割りゲームとか。
今これ、すんごく天界で流行ってて、どうやるかっていうとですね。
今ちょうど私の帽子に桃あるんですけど、これ、こういう桃をこう、ぱかっと、二つに割るじゃないですか。
で、どっち側に種が多く入ってるかを、指で一個ずつほじくるゲームなんですよ。
で、種が多い方が勝ちで、わーいとかうふふ、とか言って、やるんですよ。
流行っるんです天界では。
これちょっとやってみませんか?
持ち時間何分でしたっけ?
あ、8分程度?
誰か一緒にやりたい方手上げてください。
いませんか? 8分くらい桃割りゲームしたい人。
……。
え、なんですか、放送事故になるから、なんでもいいから喋れ?
あ、すいません。なんか今ディレクター? とかいう人に怒られたんですけど、桃割りゲームやりたい方居ないみたいなので、私が一人でやりますね。
まあ、ほんとは二人でやるんですけど、だいたいいつも私は一人でやってるんで。
はい、じゃあぱかっと割って……どっちが種多いかしらねえ。ほじほじほじ。
え、なんですか皆さん、空を指さしたりして。空になんかおもしろいものでも飛んでるんですか? それより桃見ましょうよ桃を。私の指でむにゅむにゅほじくられる様を。
ん? 何?
あ、衣玖がこっち飛んできてるじゃん。やっぱ、来てくれたんだ。
ええとそう、きっと止むに止まれない事情があって遅刻しちゃったんですよ絶対ね。
衣玖もほんとは真面目な娘なんですけど、ちょっと空飛ぶのが遅いから、私との待ち合わせとかにもいつも遅れちゃったりしてね。
でも昔からの友達なんで、すんごい仲良しなんですよ~。
昨日も私が電話でM-1予選一緒にやろうね、って言ったときには、すんごい嬉しそうに、うん、がんばろうね、フィーバーしちゃいそう、とか言ってたりしてましてね」
「おや総領娘様、こんな所に居らっしゃったのですか。一応総領主様の顔を立てるために、嫌々来てみたんですけど。
なんというかまた面倒臭そうな事やってるっぽいので、帰ってもいいですか? 思いっきり生テレビみたいんですけど」
「空気読めよ! ほほほほほんとは仲良しなんだよね! 私たちね!? 仲良しよね?」
「はい?」
「疑問形!?」
「はい」
「あ、それは疑問形じゃないんだ……。じゃなくて、あ、そっか、ああ、KY、KY、衣玖またKYだよねそれ。ほら衣玖ってKYなんですよ。
だからこういうKYな事いうんです。許してやってくださいね皆さん。ていうかさ挨拶もしてないじゃんあんた。漫才の基本じゃない挨拶ってさ、大事なの漫才に大事なのよ」
「あの、総領娘様、漫才って何の話しでしょうか」
「昨日電話で言ったじゃん。明日暇なら予選行ってみようよねって」
「あの、それより家に帰って思いっきり生テレビみたいんですけど」
「いいから、私の話しをきけ! 私の約束とみのさんどっち大事よ」
「みのさん」
「即答? っていうかさ、昨日あんたも嬉しそうにしてたじゃん電話で、あれ何よ」
「ああ、あれはそういう仕組みになってるんですよ」
「仕組み? 何それ仕組みって?」
「今時、幻想郷にも番号通知サービスってあるじゃないですか。誰が電話を掛けてきたかわかるサービスです」
「うん、あるね」
「あれで総領娘様から掛かってきたときだけテープ回るようになってるんですよ自動で。相づちだけ録音したテープなんですが」
「ちょちょちょちょちょっと、なな何よそれ! じゃあ何昨日のわくわく声はテープ?
昨日の、『きゃあたのしみ~、衣玖ってばフィーバーしちゃいそう』とか全部録音!?」
「はい。いやあ高かったんですよ自動対応機能付き電話、最近河童が開発しましてね。給料二ヶ月分で買いました十六回払いで」
「聞いてないよそんなことっ!」
「いや是非聞いてください。だってわざわざ総領娘様のために買ったんですから」
「もっと聞いてないよそんなことっ! ていうかKYだよKY。なんでいつも衣玖はKYな事ばっか言うのかな。
そういう事言うのはKYなの。だいたい、なんだかんだ来てくれたじゃない今日。だからほんとは仲良しなんだよね?」
「あの、先ほども少し触れたと思いますが総領主様に『うちの娘がまた地上で何かやらかすつもりらしいから、殴ってでも止めてきてくれ。いややっぱ出来るだけ優しくMYてんこを連れ戻してきてくれ比那名居家の末代までの恥になる前に』と頼まれてしまいまして、まあぶっちゃけ比那名居家なんて末代も何も、どうせこのバカ娘の代で終わりだろJK。って思ったんですけどね」
「ちょちょちょ、って、待て待て待って」
「ええ、だから『安心してください。比那名居家は現在進行形で終わってます。末代とは今の事ですよ』と」
「言ったのっ!? それ言ったのパパに? すごい気にするじゃんパパってそういうの」
「はい、泣いてましたね。いい年こいた中年の男が。をーんをーんって」
「泣くよそりゃパパ、成り上がり者とか言われてるの知ってるでしょ比那名居家。パパにそういう事言っちゃダメだって、また空気読めてないじゃんKYKY超KY。常識とか優しさを持とうよ」
「暇だからという理由だけで、大地震起こそうとしたりする方に常識とか優しさとか言われると、非常に片腹痛いのですが。というか総領娘様はパパとか言うんですね。パパ」
「うん、言うよ。パパ。言うじゃん。パパ。それがどうしたの? ちょっと、なんで笑うのよ衣玖」
「失礼しました。いやいや、なんともおめでたい臭いを発しまくる親子だな、と思ったものですから」
「もっと失礼じゃん! だからちょっとそれダメだよ。絶対にダメだからね。そういう事いったらパパに、私の事とかすんごい気にしてるんだから。
だから今日は私はちゃんと漫才して、優勝したりして、せめて地上のゴミ、じゃなくて地上人の皆さんに尊敬されたりしようかって、それで」
「それで、大恥かいてるわけですか今、相方すら来てない人望のなさを全幻想郷ネットでさらけ出す有様で」
「そうそう、私って天人のくせに人望ねえ~、ってアホカー!」
「……はい? なんですか総領娘様、そのいかにも、今のおもしろかっただろ、っていう顔は」
「おもしろかったでしょ。今のね。ノリつっこみっていう、漫才の高等テクなのよ。昨日ちゃんと十五分くらい漫才の勉強したんだから」
「あの、今、誰も笑ってなかった気がするのですが、私の目が悪いのでしょうか、それとも総領娘様の何かが根本的に悪いのでしょうか、主に脳とか」
「またまた衣玖は、そーいう憎まれ口叩いちゃって、あれでしょ流行りのあれでしょ。ツンデレとか言う奴ね。うん、とにかくそういう事にしておこう」
「はい?」
「……ま、まあでもさ。おもしろかったでしょ。十五分修行した私のノリつっこみ。ねえ地上のカス、じゃなくて地上の皆さんもおもしろかったですよねー?」
……。
「とてもしーんとしてますね総領娘様。あの、ディレクターという方が怒ってらっしゃるようですが、放送事故になるから何か喋れと」
「え、あ、ほんとだ。出来るだけ早く、出来るだけ自然に終わらせろとかも言ってるね」
「ええ、まあ、事故になるから、というよりむしろもう完全に事故ですよねこれ。
早くCM入れて、CM開けに何事も無かったかのように次ぎのコンビを登場させろよとは思うのですが、そうも行かないのがTV局のメンツらしいから大人の事情も大変ですね」
「だからさ。がんばってやろうよ漫才」
「はあ。と言われましても、私、漫才なんかやったこと無いですが」
「簡単、簡単、とりあえず私がボケやるからね。ほらどちらかと言えば衣玖のが、呆けたた感じでいかにもボケがお似合いだけどさ、そこで意表をついて私がやるのがギャップがあっておもしろいと思うのよ」
「あの、総領娘様。総領娘様からボケがお似合いだとか呆けてるとか言われると、はらわたが煮えくりかえるほどの怒りと屈辱を感じるのですが、どうしてでしょうか? それはもうまだ氷の妖精とかに言われる方が救いがある気がしてくるくらいに。(……この桃頭野郎が、頭の中までスカスカのくせしやがって)」
「役割で揉めるのも漫才では良くあること、ここは漫才先輩の私に任せなさい、ていうか今なんか言った? すんごい低くて怖い声でなんか聞こえたんだけど、桃頭なんとかとか」
「ほお、十五分勉強だけで先輩ですか、そうですか、へえ、流石っすね先輩、ねえせんぱーい、なんか今、先輩の事をもの凄く2・3・6強射撃で、その得意げな澄まし顔をゴリゴリ殴りたい気分なんすけど、いいすか~」
「まあ、うん、そうそう、それくらい気合いよ。ちょと違う気もするけど、つっこみ役はね、どつきつっ込みの気合いも大事なの。というわけで丁度いいじゃない。衣玖は突っ込み役ね」
「せんぱーい。つっこみ役って何するんすかー」
「どうでもいいけど、その口調止めなさいよ、下品でみっともない」
「む。むむむ。私としたことが、つい怒りに我を忘れてしまったようです。失礼しました。
TV中継で恥じを全幻想強へと盛大に垂れ流す総領娘様に、みっとも無いと言われては仕方ありません。戒めましょう」
「よろしい。でも恥とか言わないでよ。私がんばってるんだから精一杯。でね、突っ込み役っていうのは、つまり私がボケたらつっこめばいいだけよ」
「何をですか?」
「何をってつっこみはつっこみじゃない。とにかく、ずどーんとつっこみめばいいのよ」
「(穴という穴に龍魚の一撃くれてやるかあ?)」
「は? 今なんか言った? 今すんごい低くて怖い声でなんか聞こえたけど」
「ごほん。具体的に言ってください総領娘様。具体的に突っ込みとは何をすればいいのでしょうか」
「うん、そうね。どつきやりたいなら。叩けばいいのよ、ばしーんって、私を」
「ああ、なるほど、納得しました。総領娘様は要するに叩かれたいんですね? それはもう叩かれてたくて叩かれたくて仕方ないんですね?」
「え、うん、まあボケだからね。思いっきりばしーっといってくれた方が良いに決まってるじゃない。でもなんか引っかかる言い方だよねそれ」
「大丈夫です。あーやっぱ、総領娘様ってドMなんすよね。とか誰も言ってませんから、安心してください」
「ちょちょちょちょ、ちょっと何それ。おかしいでしょ。なんでそうなんの。私はボケなだけ。Mとかじゃないし、ましてやドじゃないから。
おかしな侮辱をするのは止めてちょうだい。これでも私は比那名居家の天人なんだからね」
「まあまあ、そう興奮なさらずに。それで総領娘様、どうやって叩けばいいんですか」
「そうねえ、いろいろコツあるけど」
「それで、どう叩かれるのが総領娘様的にはお好みなんですか?」
「なんで今二回言った? そこ言い直しするの!? 重要な事なのそれ? しかもちょっと嫌な感じになってるし。もう茶化さないでまじめにやってよ」
「なるほど。わかりました。まじめに茶化さず真剣に叩けばいいのですね」
「な、なんか、いちいちひっかかるのよねえ……まあ、うん、でもまじめに突っ込みやってくれるならいいや。それでね。
道具用意してきたのよ。突っ込みの七つ道具ね」
「流石は総領娘様ですね」
「でしょでしょ。私ってば天人だし、仮にも抜かりはないわ。はい、これね道具。じゃんじゃじゃーん。ハリセンです」
「あんまり痛そうじゃないですけど、総領娘様的にそれで満足出来るのですか?」
「いいのいいの、音はいい音なるんだからこれでも良いのよ」
「なら良いのですが、総領娘様が叩く道具と仰るからてっきり鞭とばかり」
「なななななんで鞭なのよ!」
「だって総領娘様。『私ってば天人だし、仮にも抜かりはないわ。
はい、これねいつも持ち歩いてる道具。じゃんじゃじゃーん。鞭と、ろうそくと、さるぐつわと、荒縄と、ラバーマスクと、かんちょう器と、三角木馬です』と来るともの凄く期待してたんですよ私は」
「期待するなっ! 持ち歩くかっ! いつも持ち歩かないし! ていうか、だいたい三角木馬とかどうやって持ち歩くってのよ!」
「携帯式三角木馬とか持ってそうですよね。総領娘様なら」
「無いわんなもん、どこにも無い! どこ探しても無かったわっ!」
「そうですか。探したんですか。アマゾンとかで?」
「え! あ……いやうん、探してないけどね。無いと思うよそういうのは見たことないし」
「ええ、探したんですね。あとで総領娘様のアマゾン検索履歴見ちゃいますから」
「見るなっ、てか探してねーーーーっつってんだろサカナマン女なんで私のパスワードしってんのよ!」
「総領娘様そんな鼻息荒くしなくても……TVに鼻毛映っちゃいますよ鼻毛?」
「鼻毛って……ありえないし、私って美少女じゃん、ありえないよね鼻毛とか言われるの。
あのさ。なんか今日とかもそうだけど、衣玖って、私のする事とかなんか、こうネチネチ邪魔するじゃない。だって、もう私の漫才ぶち壊しじゃんこれじゃ?」
「ですね」
「ですねって、あんたさ、おかしくないこれ? 友達のすることじゃないよね」
「ですね」
「ですね、ってさわやか笑顔で言わないでよそれ。すんごいKYだよねKY、私本気で怒ってるんだけど、そういう冗談やめてくれない? 友達ならさ」
「友達じゃないですから」
「だからそれがKYだっていうの、真剣な話ししてるのに、そういう事いったら、ほんとに衣玖が、わたしの事、超うざい女とか思ってるみたいになっちゃうじゃん。KYだよね」
「KYというか、ただの本音ですから」
「え、あ、そっか、本音だったんだ。なるほどね」
「はい、ただの本音です。KYとか言って、お前こそ人の事考えてないだろみたいな」
「あ、そうだったんだ。じゃ、私って、超うざい女?」
「はい♪」
「うわーーーーーーーーーーん、もうお家帰るー! パパーーーー、衣玖がまた虐めるー、私を虐めるよー意地悪KY衣玖がまた虐めたよーうわーーーーーん。覚えてろーKY衣玖ー。また電話かけるからーーーーーーー!」
……。
「あ、成り上がり総領のバカ娘が飛んで帰っちゃいましたね。結局最後の最後まで空気を読めなかったようです。めでたしめでたし。それでは地上の皆様方、どうもご迷惑おかけしました。ごきげんよう。」
右の私が比那名居天子で、こっちの左の、今は居ないんですけど永江衣玖でーす。二人合わせてヒナナイクーでーす。
ええと今日は地上人の薄汚いクズども、じゃなくて素敵な地上人の皆さんに私がどれだけおもしろいかを、身を持って思い知らせ、じゃなくて、いっぱい知っていただくために、このM-1ぐらんぷり予選会に来たんですけど。
相方っていうんでしたっけ、一人呼んで置いたんですけど、来なかったので、一人でなんかやろうかなとか、思ってたんですけど。
ええと何がいいかなー。あ、桃割りゲームとか。
今これ、すんごく天界で流行ってて、どうやるかっていうとですね。
今ちょうど私の帽子に桃あるんですけど、これ、こういう桃をこう、ぱかっと、二つに割るじゃないですか。
で、どっち側に種が多く入ってるかを、指で一個ずつほじくるゲームなんですよ。
で、種が多い方が勝ちで、わーいとかうふふ、とか言って、やるんですよ。
流行っるんです天界では。
これちょっとやってみませんか?
持ち時間何分でしたっけ?
あ、8分程度?
誰か一緒にやりたい方手上げてください。
いませんか? 8分くらい桃割りゲームしたい人。
……。
え、なんですか、放送事故になるから、なんでもいいから喋れ?
あ、すいません。なんか今ディレクター? とかいう人に怒られたんですけど、桃割りゲームやりたい方居ないみたいなので、私が一人でやりますね。
まあ、ほんとは二人でやるんですけど、だいたいいつも私は一人でやってるんで。
はい、じゃあぱかっと割って……どっちが種多いかしらねえ。ほじほじほじ。
え、なんですか皆さん、空を指さしたりして。空になんかおもしろいものでも飛んでるんですか? それより桃見ましょうよ桃を。私の指でむにゅむにゅほじくられる様を。
ん? 何?
あ、衣玖がこっち飛んできてるじゃん。やっぱ、来てくれたんだ。
ええとそう、きっと止むに止まれない事情があって遅刻しちゃったんですよ絶対ね。
衣玖もほんとは真面目な娘なんですけど、ちょっと空飛ぶのが遅いから、私との待ち合わせとかにもいつも遅れちゃったりしてね。
でも昔からの友達なんで、すんごい仲良しなんですよ~。
昨日も私が電話でM-1予選一緒にやろうね、って言ったときには、すんごい嬉しそうに、うん、がんばろうね、フィーバーしちゃいそう、とか言ってたりしてましてね」
「おや総領娘様、こんな所に居らっしゃったのですか。一応総領主様の顔を立てるために、嫌々来てみたんですけど。
なんというかまた面倒臭そうな事やってるっぽいので、帰ってもいいですか? 思いっきり生テレビみたいんですけど」
「空気読めよ! ほほほほほんとは仲良しなんだよね! 私たちね!? 仲良しよね?」
「はい?」
「疑問形!?」
「はい」
「あ、それは疑問形じゃないんだ……。じゃなくて、あ、そっか、ああ、KY、KY、衣玖またKYだよねそれ。ほら衣玖ってKYなんですよ。
だからこういうKYな事いうんです。許してやってくださいね皆さん。ていうかさ挨拶もしてないじゃんあんた。漫才の基本じゃない挨拶ってさ、大事なの漫才に大事なのよ」
「あの、総領娘様、漫才って何の話しでしょうか」
「昨日電話で言ったじゃん。明日暇なら予選行ってみようよねって」
「あの、それより家に帰って思いっきり生テレビみたいんですけど」
「いいから、私の話しをきけ! 私の約束とみのさんどっち大事よ」
「みのさん」
「即答? っていうかさ、昨日あんたも嬉しそうにしてたじゃん電話で、あれ何よ」
「ああ、あれはそういう仕組みになってるんですよ」
「仕組み? 何それ仕組みって?」
「今時、幻想郷にも番号通知サービスってあるじゃないですか。誰が電話を掛けてきたかわかるサービスです」
「うん、あるね」
「あれで総領娘様から掛かってきたときだけテープ回るようになってるんですよ自動で。相づちだけ録音したテープなんですが」
「ちょちょちょちょちょっと、なな何よそれ! じゃあ何昨日のわくわく声はテープ?
昨日の、『きゃあたのしみ~、衣玖ってばフィーバーしちゃいそう』とか全部録音!?」
「はい。いやあ高かったんですよ自動対応機能付き電話、最近河童が開発しましてね。給料二ヶ月分で買いました十六回払いで」
「聞いてないよそんなことっ!」
「いや是非聞いてください。だってわざわざ総領娘様のために買ったんですから」
「もっと聞いてないよそんなことっ! ていうかKYだよKY。なんでいつも衣玖はKYな事ばっか言うのかな。
そういう事言うのはKYなの。だいたい、なんだかんだ来てくれたじゃない今日。だからほんとは仲良しなんだよね?」
「あの、先ほども少し触れたと思いますが総領主様に『うちの娘がまた地上で何かやらかすつもりらしいから、殴ってでも止めてきてくれ。いややっぱ出来るだけ優しくMYてんこを連れ戻してきてくれ比那名居家の末代までの恥になる前に』と頼まれてしまいまして、まあぶっちゃけ比那名居家なんて末代も何も、どうせこのバカ娘の代で終わりだろJK。って思ったんですけどね」
「ちょちょちょ、って、待て待て待って」
「ええ、だから『安心してください。比那名居家は現在進行形で終わってます。末代とは今の事ですよ』と」
「言ったのっ!? それ言ったのパパに? すごい気にするじゃんパパってそういうの」
「はい、泣いてましたね。いい年こいた中年の男が。をーんをーんって」
「泣くよそりゃパパ、成り上がり者とか言われてるの知ってるでしょ比那名居家。パパにそういう事言っちゃダメだって、また空気読めてないじゃんKYKY超KY。常識とか優しさを持とうよ」
「暇だからという理由だけで、大地震起こそうとしたりする方に常識とか優しさとか言われると、非常に片腹痛いのですが。というか総領娘様はパパとか言うんですね。パパ」
「うん、言うよ。パパ。言うじゃん。パパ。それがどうしたの? ちょっと、なんで笑うのよ衣玖」
「失礼しました。いやいや、なんともおめでたい臭いを発しまくる親子だな、と思ったものですから」
「もっと失礼じゃん! だからちょっとそれダメだよ。絶対にダメだからね。そういう事いったらパパに、私の事とかすんごい気にしてるんだから。
だから今日は私はちゃんと漫才して、優勝したりして、せめて地上のゴミ、じゃなくて地上人の皆さんに尊敬されたりしようかって、それで」
「それで、大恥かいてるわけですか今、相方すら来てない人望のなさを全幻想郷ネットでさらけ出す有様で」
「そうそう、私って天人のくせに人望ねえ~、ってアホカー!」
「……はい? なんですか総領娘様、そのいかにも、今のおもしろかっただろ、っていう顔は」
「おもしろかったでしょ。今のね。ノリつっこみっていう、漫才の高等テクなのよ。昨日ちゃんと十五分くらい漫才の勉強したんだから」
「あの、今、誰も笑ってなかった気がするのですが、私の目が悪いのでしょうか、それとも総領娘様の何かが根本的に悪いのでしょうか、主に脳とか」
「またまた衣玖は、そーいう憎まれ口叩いちゃって、あれでしょ流行りのあれでしょ。ツンデレとか言う奴ね。うん、とにかくそういう事にしておこう」
「はい?」
「……ま、まあでもさ。おもしろかったでしょ。十五分修行した私のノリつっこみ。ねえ地上のカス、じゃなくて地上の皆さんもおもしろかったですよねー?」
……。
「とてもしーんとしてますね総領娘様。あの、ディレクターという方が怒ってらっしゃるようですが、放送事故になるから何か喋れと」
「え、あ、ほんとだ。出来るだけ早く、出来るだけ自然に終わらせろとかも言ってるね」
「ええ、まあ、事故になるから、というよりむしろもう完全に事故ですよねこれ。
早くCM入れて、CM開けに何事も無かったかのように次ぎのコンビを登場させろよとは思うのですが、そうも行かないのがTV局のメンツらしいから大人の事情も大変ですね」
「だからさ。がんばってやろうよ漫才」
「はあ。と言われましても、私、漫才なんかやったこと無いですが」
「簡単、簡単、とりあえず私がボケやるからね。ほらどちらかと言えば衣玖のが、呆けたた感じでいかにもボケがお似合いだけどさ、そこで意表をついて私がやるのがギャップがあっておもしろいと思うのよ」
「あの、総領娘様。総領娘様からボケがお似合いだとか呆けてるとか言われると、はらわたが煮えくりかえるほどの怒りと屈辱を感じるのですが、どうしてでしょうか? それはもうまだ氷の妖精とかに言われる方が救いがある気がしてくるくらいに。(……この桃頭野郎が、頭の中までスカスカのくせしやがって)」
「役割で揉めるのも漫才では良くあること、ここは漫才先輩の私に任せなさい、ていうか今なんか言った? すんごい低くて怖い声でなんか聞こえたんだけど、桃頭なんとかとか」
「ほお、十五分勉強だけで先輩ですか、そうですか、へえ、流石っすね先輩、ねえせんぱーい、なんか今、先輩の事をもの凄く2・3・6強射撃で、その得意げな澄まし顔をゴリゴリ殴りたい気分なんすけど、いいすか~」
「まあ、うん、そうそう、それくらい気合いよ。ちょと違う気もするけど、つっこみ役はね、どつきつっ込みの気合いも大事なの。というわけで丁度いいじゃない。衣玖は突っ込み役ね」
「せんぱーい。つっこみ役って何するんすかー」
「どうでもいいけど、その口調止めなさいよ、下品でみっともない」
「む。むむむ。私としたことが、つい怒りに我を忘れてしまったようです。失礼しました。
TV中継で恥じを全幻想強へと盛大に垂れ流す総領娘様に、みっとも無いと言われては仕方ありません。戒めましょう」
「よろしい。でも恥とか言わないでよ。私がんばってるんだから精一杯。でね、突っ込み役っていうのは、つまり私がボケたらつっこめばいいだけよ」
「何をですか?」
「何をってつっこみはつっこみじゃない。とにかく、ずどーんとつっこみめばいいのよ」
「(穴という穴に龍魚の一撃くれてやるかあ?)」
「は? 今なんか言った? 今すんごい低くて怖い声でなんか聞こえたけど」
「ごほん。具体的に言ってください総領娘様。具体的に突っ込みとは何をすればいいのでしょうか」
「うん、そうね。どつきやりたいなら。叩けばいいのよ、ばしーんって、私を」
「ああ、なるほど、納得しました。総領娘様は要するに叩かれたいんですね? それはもう叩かれてたくて叩かれたくて仕方ないんですね?」
「え、うん、まあボケだからね。思いっきりばしーっといってくれた方が良いに決まってるじゃない。でもなんか引っかかる言い方だよねそれ」
「大丈夫です。あーやっぱ、総領娘様ってドMなんすよね。とか誰も言ってませんから、安心してください」
「ちょちょちょちょ、ちょっと何それ。おかしいでしょ。なんでそうなんの。私はボケなだけ。Mとかじゃないし、ましてやドじゃないから。
おかしな侮辱をするのは止めてちょうだい。これでも私は比那名居家の天人なんだからね」
「まあまあ、そう興奮なさらずに。それで総領娘様、どうやって叩けばいいんですか」
「そうねえ、いろいろコツあるけど」
「それで、どう叩かれるのが総領娘様的にはお好みなんですか?」
「なんで今二回言った? そこ言い直しするの!? 重要な事なのそれ? しかもちょっと嫌な感じになってるし。もう茶化さないでまじめにやってよ」
「なるほど。わかりました。まじめに茶化さず真剣に叩けばいいのですね」
「な、なんか、いちいちひっかかるのよねえ……まあ、うん、でもまじめに突っ込みやってくれるならいいや。それでね。
道具用意してきたのよ。突っ込みの七つ道具ね」
「流石は総領娘様ですね」
「でしょでしょ。私ってば天人だし、仮にも抜かりはないわ。はい、これね道具。じゃんじゃじゃーん。ハリセンです」
「あんまり痛そうじゃないですけど、総領娘様的にそれで満足出来るのですか?」
「いいのいいの、音はいい音なるんだからこれでも良いのよ」
「なら良いのですが、総領娘様が叩く道具と仰るからてっきり鞭とばかり」
「なななななんで鞭なのよ!」
「だって総領娘様。『私ってば天人だし、仮にも抜かりはないわ。
はい、これねいつも持ち歩いてる道具。じゃんじゃじゃーん。鞭と、ろうそくと、さるぐつわと、荒縄と、ラバーマスクと、かんちょう器と、三角木馬です』と来るともの凄く期待してたんですよ私は」
「期待するなっ! 持ち歩くかっ! いつも持ち歩かないし! ていうか、だいたい三角木馬とかどうやって持ち歩くってのよ!」
「携帯式三角木馬とか持ってそうですよね。総領娘様なら」
「無いわんなもん、どこにも無い! どこ探しても無かったわっ!」
「そうですか。探したんですか。アマゾンとかで?」
「え! あ……いやうん、探してないけどね。無いと思うよそういうのは見たことないし」
「ええ、探したんですね。あとで総領娘様のアマゾン検索履歴見ちゃいますから」
「見るなっ、てか探してねーーーーっつってんだろサカナマン女なんで私のパスワードしってんのよ!」
「総領娘様そんな鼻息荒くしなくても……TVに鼻毛映っちゃいますよ鼻毛?」
「鼻毛って……ありえないし、私って美少女じゃん、ありえないよね鼻毛とか言われるの。
あのさ。なんか今日とかもそうだけど、衣玖って、私のする事とかなんか、こうネチネチ邪魔するじゃない。だって、もう私の漫才ぶち壊しじゃんこれじゃ?」
「ですね」
「ですねって、あんたさ、おかしくないこれ? 友達のすることじゃないよね」
「ですね」
「ですね、ってさわやか笑顔で言わないでよそれ。すんごいKYだよねKY、私本気で怒ってるんだけど、そういう冗談やめてくれない? 友達ならさ」
「友達じゃないですから」
「だからそれがKYだっていうの、真剣な話ししてるのに、そういう事いったら、ほんとに衣玖が、わたしの事、超うざい女とか思ってるみたいになっちゃうじゃん。KYだよね」
「KYというか、ただの本音ですから」
「え、あ、そっか、本音だったんだ。なるほどね」
「はい、ただの本音です。KYとか言って、お前こそ人の事考えてないだろみたいな」
「あ、そうだったんだ。じゃ、私って、超うざい女?」
「はい♪」
「うわーーーーーーーーーーん、もうお家帰るー! パパーーーー、衣玖がまた虐めるー、私を虐めるよー意地悪KY衣玖がまた虐めたよーうわーーーーーん。覚えてろーKY衣玖ー。また電話かけるからーーーーーーー!」
……。
「あ、成り上がり総領のバカ娘が飛んで帰っちゃいましたね。結局最後の最後まで空気を読めなかったようです。めでたしめでたし。それでは地上の皆様方、どうもご迷惑おかけしました。ごきげんよう。」
漫才のネタと見ればとろサーモンみたいで中々のネタで面白い。
で、作者さん的にはどっちのつもりだったのでしょう?
素で二人がギスギスしてるのか、あくまでそういうネタだったのか
教えてください
結論から言えば、衣玖が天子に相談されて考えた天子の自虐ネタ、といったイメージで作りました。
なんというか、天子はそういう無駄な方向の精神的強靱性とか体を張った芸とかやるのが好きそうなので。
ええまあ、倒される事前提の悪役ラスボス役とかですね。
一方、衣玖は衣玖で、立場上どうしても天人に振り回される我が日常の憂さ晴らしを、ちょっと楽んでしている節が見受けられるような?
ただネタ的に、そういう背景的なものをどこまで説明するのか、迷ったりもして、
どうせだったらもう、今回はとことん毒の方向でやってみちゃおうかと、
それでもまあ、これはネタでしかありえないよな? よなあ? たぶん?
みたいなところで落としどころかなと。
結局は自分の好みの落としどころなんですが。
>1
貴重なご批判ありがとうございます。
コメディが好きで色々書きたいんですが、なかなか上手くできません。
またたびたび投稿するかと思いますが、厳しい目で批判していただけると、嬉しく思います。