眠気を操る程度の能力

　


「さて、今日も頑張りますか」

　時刻は早朝。
　私は誰に言うでもなく呟いた。
　
　最近はやたら強いやつらが増え、防衛率は急降下中。
　先日も白黒の魔法使いに突破され、パチュリー様に
「たまになら別に良いけど、連日で来られると私も体力がもたないから頑張って頂戴。あ、でも時々は通して良いのよ？」
　等とお叱りを受けた。
　微妙に顔も赤かったし、よほど大変だったのだろう。
　今日こそは名誉挽回せねば。

　決意を新たにすると、私は気合を入れて門へと向かった。






「うふふ…頑張りますよぉ…」
「…」

　午前中の仕事を終えて、様子を見に来ればこれだ。
　一体こいつは一日何時間寝れば気が済むのだろう。
　有事の際は一応起きているが、気付かない時はそのまま寝ている。

「そろそろ痛い目見せないと駄目かしらね…」

　とりあえず起こそう。
　取り出したナイフで美鈴の頬をペチペチと叩く。

「美鈴。起きなさい。美鈴！」
「ｚｚｚ…」

　くそう、いい顔して寝やがって。
　思わず柄で頬をつつく。
　あ、やわらかい。

「むぅ…」

　何度かぐりぐりと頬で遊んでいると、美鈴が呻き声をあげた。
　これだけやっても起きないのは既に門番として問題だが、彼女はそれ以上反応しない。
　それどころか再び寝息をたて始めた。

　こうなったら起きるまでやってやろう。
　そう思って今度は指を近づけたその時。

「え！？」

　がばりと美鈴の両腕がのびた。
　一瞬で私の体を捕らえると、そのまま胸へ抱きこむ。

「むごぉっ！」

　なんだこの胸。ケンカ売ってるのか。
　あまりのボリュームに殺意を抱くも、鍛えられた両腕は私を放さない。
　全力で抜けようともがくが、力は彼女に分がある。

「くっ、このっ！」
「咲夜ちゃんはやわらかいなぁ…」

　咲夜ちゃんって何だ。一体いつの話をしてるんだこいつは。
　確かにあの頃は少々甘え気味だった気もするが、もう私も子供じゃない。

「こら、美鈴！放しなさい！美鈴！」
「すぴー」

　必死に叫ぶが、あれだけやって起きないのに今更起きるわけがない。
　それどころか器用に私をホールドしつつ頭を撫で始めた。

「ちょっと！？止めなさい！」
「いいこーいいこー」
「うぐぐ…やめろぉー…」

　抵抗を続けるものの、彼女の腕はピクリとも動かない。
　しかし必要以上には締め付けず、柔らかな胸と相成って居心地は最高だった。
　いやいや待て待て。屈してはいけない。こんな所見られたら大恥だ。

　理性と本能の境界で、私は独りもがき続けた。






「何やってるのかしら、あの二人」
「おやおや。気持ちよさそうですねぇ」

　小悪魔がせがむので久々に外に出ると、メイドと門番が抱き合って眠りこけていた。
　門番が寝るのは日常茶飯事だが、メイドもいるのは珍しい。

「すぴー」
「やめろーやめろー…あったかい…きもちいい…」
「よく寝てますね。悪戯しましょうか」
「やめときなさい」
「はぁい。あ、そうだ」

　素早く取り出したマッキーをそのまま戻すと、何か思いついたのか小悪魔は二人の眠るベンチへ腰掛けた。

「さぁ、パチュリー様もどうぞ」
「何がよ」
「いい天気ですし、皆でお昼寝しましょう」

　ぽんぽんと膝を叩く小悪魔。
　膝で寝ろということだろう。
　正直外は好きではないが、ここに来てからやけに眠い。
　中々に魅力的な提案だった。

「…じゃあ、折角だから言葉に甘えましょう」
「ええ、どうぞ」

　膝に頭をのせた瞬間、どっと眠気が押し寄せてきた。
　大きく視界に映る彼女も少し眠そうで、私を膝に乗せたまま美鈴の方へもたれ掛かる

　流石にこれだけ眠いのは異常ではないかとも思ったが、既に意識の半分は夢の中だ。
　思考するほどの理性も無く、すぐに私は眠りに落ちた。






「むぅ…。眠れないわ」

　本来なら寝ているはずの時間だが、ふとした拍子で目が覚めてしまった。
　すぐに寝直そうとするものの、中々眠れない。
　咲夜も来ないし、どうしようも無くなった私は廊下へ出た。

「あら、フラン」

　ここから少し離れた所で、フランドールが窓の外を見下ろしていた。

「フラン？」
「…」

　近くで呼んでも反応しない。
　何かあるのかと思ってフランの視線を辿ると、よく知る４人がぐぅぐぅ昼寝していた。

「ｚｚｚ…」
「…」
「むきゅー…」
「こぁー…」

人間に妖怪に悪魔に魔女というなんともカオスな面子だが、本人達は至極幸せそうに眠っている。

「いいなぁ…」

小さくフランが呟く。
外は憎いくらいに良い天気で、特に彼女達の眠っている所はぽかぽかと穏やかな日光が当たっている。
まさか自殺願望があるわけじゃ無いだろうし、おそらく誰かと一緒に昼寝をしたいんだろう。

「…私の所で寝る？」
「いいの！？」

グリンと首を回して振り向くフラン。
違う時に見たら腰が抜けそうなくらい、その瞳が輝いていた。

「眠くなかったんだけどね。何だか段々眠くなってきたわ。来る？」
「行く！」

はやくはやく、と妹に手を引かれて自室に戻る。
一直線にベッドへと直行し、二人で毛布の中に潜り込んだ。

「えへへー」
「ご機嫌ね」
「お姉様は眠そうね」
「言ったでしょう。眠くなったって」
「うん。じゃあ、おやすみなさい」
「ええ。おやすみ、フラン」

　さっきまで眠れずに唸っていたのが嘘の様に瞼が重い。
　ごそごそ動いているフランも段々おとなしくなってきた。
　うん、これならよく眠れそうだ。
　軽く妹の手を握って、私は目を閉じた。






　目を覚ますと、空が赤かった。

「げぇっ！？」

　すぐに体を起こそうとする。が、予期せぬ重みで起き上がれない。

「？」

　ゆっくりと周囲を見渡す。
　上半身にメイド長。足の辺りに小悪魔。そして小悪魔を枕にして魔女が静かに眠っていた。

「…なんだこれ」

　寝ぼけた頭で考えるも、どういう経緯でこうなったのかさっぱりわからない。

　とりあえず動こうとも思ったが、これだけ拘束されていると起こさずに抜け出すのは難しい。
　かといって強引に起こすのも気が引ける。

　仕方ない、寝よう。
　これだけ寝たのだ。今更慌てて起きることもあるまい。

　適当に方針を決めると、再び門番は眠りについた。






　結局、それから日が沈むまで目覚める者はいなかった。



　おわり

あけましておめでとうございます。
読んでいただきありがとうございました。

のんびりした話を作ろうとしたらただ眠るだけの作品になってしまいました。
稚拙な作品ですが、楽しんでもらえた部分があれば幸いです。

誤字や変な表現等があったら指摘をお願いします。