この作品は「天を見よ。見えるはずだ…」の続きものです。
それと衣玖さんが変です。
「覚悟はいいか。俺はできている」人はどうぞ。
私には夢がある。
そう、この永江衣玖には夢がある!
それはギャングスt…じゃなくて!天子様と結ばれることッ!
それも砂糖を入れたお汁粉ぐらいに甘い恋をッ!
そのための計画を今日実行する。
その計画自体は単純なもの。しかしそれ故に王道として使われる手段。
それは『酔った勢い』!この一言で問題なし。
そして今日はお正月。いくら酒を飲んでも問題がない。
さらに天子様の部屋で二人きりというシチュエーション。
「完璧ですね…」
「…衣玖?さっきからテンション高いけど大丈夫?」
あれ、今の口に出してないですよね。見ただけでわかるほど興奮していたのですか私は。
いけないいけない。冷静に冷静に…。
「大丈夫です。それよりもおいしいお酒を貰ったのですがいかがですか」
「ん。もらうわ」
天子様のコップになみなみと注ぐ。この酒が計画の肝となる。
実はこのお酒、98%がアルコールというとても強いものです。
如何に天人は言えどもこれなら酔っぱらうはず。
「む…。結構きついわね、この酒。衣玖はいいの?」
「私はこちらをいただきます」
私は天界でよく飲まれる酒を取り出す。こちらはアルコール度数10%の標準のものだ。
ただ、味はあまり良くない。しかし私が先に酔いつぶれても困る。
「それってまずい酒じゃない。そんなものを飲むくらいならきつくてもこっちを飲みなさい」
はい、と差し出されるコップ。その言葉は私を気遣っていることがわかってとても嬉しいのだけれでも。
その酒を飲めば確実に潰れることになるだろう。
「いえ、私は…」
そこで気づく。
これって間接キス…。
それに気づいた途端、私は熱にうなされたように全身が熱くなる。
天子様と間接キス…。だが!ここで飲めば間違いなく先に沈むことになる。それでは計画が…。
しかし、天子様の気遣いと間接キスを無駄にするわけには…!
「私のじゃあやだ?それなら別のにするけど」
「いいえ!構いません!それでいいです!それがいいです!」
ひったくるように酒を奪い取る。その様子に目を白黒させる天子様。が、今は気にしない。
手に持つ幸せをじっと見る。
ああ、幸せは今ここにある…。
ぐい、と一気にあおる。喉を熱いものが通り過ぎて行き、胃まで熱くなったような錯覚すら覚える。
そして…
「衣玖?ちょっと大丈夫?」
「だ、だいじょぶれす。わたしはへいきです?」
「自分で聞いてどうすんのよ」
「だいじょうぶれすって。そすうもふぇんとかぞえれまふ。3.162277…」
「それは√10の平方根じゃないの。やっぱり酔ってるじゃない」
「へ、へいきれすってば…」
目の前が揺れる。焦点も次第に定まらなくなってきた。
やっぱりイッキに飲むのはまずかったかも…。
少し後悔したが、幸せはかみしめることができたので良しとしよう。
やば。気を緩めると一気に目の前が真っ暗になってきて
「衣玖?ちょっともう寝ちゃうの?」
私の意識はそこで途切れた。
次に目が覚めたとき、朝日は昇っていた。
「そんな…。嘘だと言ってよバーニィ!」
だが、答えてくれるバーニィはいない。もう、計画の続行は不可能だ。お正月だからという大義名分がなくなってしまった。
天子様もどこかに出かけて…?
「て、天子様!?」
座布団か何かだと思って抱いていたのは天子様だった。すやすやと気持ち良さそうに寝て、ぎゅっと抱きしめ返すように私を離さない。
柔らかくいい匂いがして、ずっと抱きしめていたいくらいにかわいい。
しばらく気持ちよさを堪能しはたと気づく。
「これは…。まだ希望が…」
そこで問題だ!私の腕の中にいる天子様に対し何ができる?
①美人で空気の読める衣玖さんはみんなの期待にこたえる(性的な意味で)
②仲間が来て助けてくれる(協力プレイ的な意味で)
③何もしない。衣玖さんは紳士である(本来の意味で)
「いただきます」
丁寧に手を合わせる。答えは①だ。それ以外に何があるだろうか、いやあるまい(反語表現)
「それでは…」
高鳴る鼓動を秘め、ゆっくりと唇を近付ける。天子様は無防備に眠っているだけだ。ああもう、かわいいなちくしょう。
「どうも。清く正しい射命丸文が天界のお正月についてインタビューしに来まし…た…よ」
そこに空気を読まない恥知らずな天狗がやってきた。
ノックもなしにやってきた乱入者は私たちの姿を見て絶句する。
眠っている無防備な女性にキスしようとしている不埒もの。ゴシップ大好き烏天狗。
この二つが合わさった時生れるものは
④社会的抹殺をくらう。現実は非情である。
「いや、そのですね!これはあなたが考えているようなことでは決してないんですよ!無理やりではなく双方の合意のもとにですね!」
「いや、寝てるのに双方の合意も何もないと思いますけど…」
「こ、心でつながってるですよ!こうなんていうか、アレで!」
「いや、アレって言われてましても…」
まずいまずい。このままでは④に!私の人生バッドエンドに!
「ん、むぅ…」
「あや、起きましたね。それでは本人の口から聞きましょう」
うわあああ!駄目だ!もう駄目な気しかしない!いっそのこと天狗をドリルで…!
「ん…」
「むぐぅ!」
私のドリルが唸りを上げようとしたとき、唇が何か柔らかいものでふさがれる。
同時になるシャッター音。
えっと、これは…。
「あやややや。ずいぶんと仲の良いことで。これはいいネタになりますね。ありがとうございました」
それだけ言って帰っていく天狗。
また寝息を立て始める天子様。
そして理解が追い付かない私。
「これは…つまり」
天子様が寝ぼけてキスをしてきて、それを天狗はいいネタだと思って帰って行った。そして、天子様からキスをしてきたということは互いの合意があったということで④にはならない。さらにあの天狗のことだから熱愛発覚だのなんだのと書くに違いない。ということは
「計画は成功した…」
笑いがこみあげてくる。危うく犯罪者になるところだったというのに一転して恋人だ。
成功と言うほかに言う言葉が無い。
「勝った!第三部完ッ!」
その後天狗から連絡が来た。
『フィルムを川に落としてしまった』と。
衣玖さんは自分の部屋で二時間眠った。そして…目を覚ましてからしばらくして熱愛報道がなくなった事を思い出し…泣いた…。
ただこのセリフの後なので
「ほーお それで誰がこの比那名居 天子のあいてをつとめるんだ?」
「まさかてめーのわけはねーよな!」+オラオラされるのかと思いました
全く、作者はいちいち俺の琴線に触れるパロディをしてくるものだぜー
>>喉飴さん 終わりがないのが終わり。それがいくてん
>>2 衣玖さんに決まってるじゃないですか
>>3 恋をするとしたら>>3さんのような人がいいと思います
√10って10の平方根ですね…。