「私はね、ずっと蛇は「へびへび」って鳴くと思ってました」
早苗が言った。
魔理沙と霊夢はコタツを叩いて爆笑した。
「いや、それはないよ」
「流石にね」
早苗は顔を真っ赤にした。
「だ、だって、神奈子様が言ったんです。本当だと思うじゃないですか?」
早苗は一気にまくし立てた。
魔理沙は、早苗をいなすように手を振った。
「分かった。そういうことにしてやるよ。家庭環境柄だろ? 蛇はあれだが、ペンギンが「ペンペン」と鳴くと思いこんでいた、なんて話しはよく聞くぜ」
「他に何かある?」
霊夢が煎餅をかじりながら聞くと早苗は頷いた。
「ガマの油って知ってますか?」
「うん。知ってる」
「ああ」
魔理沙と霊夢が答えた。
「あれは諏訪子様の油だって、思いこんでました」
魔理沙は茶を吹きだし、霊夢は煎餅を噴き出した。
早苗は顔を真っ赤にして伏せ、足をばたつかせた。
「いや。だってガマですよ、ガマ。神社で売ってるし、普通そう思うでしょう。ああ恥ずかしい」
「本気で?」
「はい。あれは、諏訪子様の体から絞り出すんだとばかり」
ひとしきり笑うと魔理沙が咳払いした。
「じゃあ、私の番だな」
霊夢と早苗の視線が集中した。
魔理沙は決まり悪そうにもう一度咳払いした。
その顔が赤いのはコタツのせいではない。
「小さい頃の話しなんだ」
魔理沙は一旦区切った。
魔理沙はコタツの上辺りを手で示す。
「本当に、これぐらい小さい頃」
それきり、沈黙が起きた。
「何よ。さっさと言いなさいよ」
「言ってください」
魔理沙はぼそぼそと口を開いた。
「風ってあるだろ。実はさ、木が揺れるから風が吹くんだと思ってた」
二人は一瞬呆然としたが、やがて笑いだし、大爆笑した。
魔理沙は項垂れた。
「か、可愛らしいじゃん」
霊夢が魔理沙の肩を叩くと、魔理沙は座布団に顔を埋めて転がった。
「うわああ。今まで、人に言ったこと無かったのに」
「き、木が揺れるから風が吹くって、あんた、よく魔法使いになれたわね」
「もう止めてっ」
ひとしきり呼吸を整えた三人は茶を啜った。
今度は霊夢に視線が集中した。
霊夢は先手を切って口を開いた。
「私は別に、そういうのないかなあ。ほら、二人みたいに面白い話しが出揃ったところだし、私の話しをわざわざする事も無いかなって」
魔理沙と早苗は霊夢を睨み付けた。
「言えよ」
「無いわけがないじゃないですか。嘘吐かないでください。みんな、必ず抱えてるんです。例えば、クレヨンとクーピーを取り違えてる、ネコは20歳になると卵を産むと信じてる、コーラで骨が溶けると信じてる、下と上を取り違えてる、とか。しかも、これ全部同じ人ですよ」
早苗は白熱した。
「それ、誰の話し? そんな人いるの?」
「誰だっていいんですっ」
早苗は虚空を睨んだ。
霊夢は溜息を吐いた。
「分かった。言うよ、言いますよ」
「ほら。やっぱりあるんじゃん」
「隠してたぜ」
言わないと責めるくせに、つまらないことを言うと怒る気でいる。
この雰囲気が嫌なのだ。
霊夢は二人の険しい顔を覗き見た。
言うしかないようだ。
「何て言うか、あんた達の話しとはちょっと違うけど」
「いいよ。とりあえず話して」
「私には親の記憶がないわけ。気がついた時には巫女だったみたいな」
魔理沙と早苗は聴き入った。
恥ずかしい過ちを語るには、過去の説明が不可欠であることが多い。
「ふむ」
「母親の顔は知らないし、誰かに聞いても必ず、はぐらかされたし」
霊夢は溜息を吐いた。
「で、最近、紫と会ったのよ。紫は私の母のことを知っているわけ。だから、根掘り葉掘り聞いたのよ。でも、私の記憶にないことばかり。写真の一枚も残っていないしね」
「おい。ちょっと待て。いつ本題になる」
魔理沙が横槍を入れると、早苗が止めた。
「もうそろそろ本題よ。私は小さい頃から疑問があったのよ。何で私だけ特別な力があるのかって。魔理沙は魔法使いだからいいとしても、私はただの人間よ。どう考えてもおかしいじゃない」
魔理沙は考え込んだ。
「紫は母のことを知っていて、私は母のことを知らない。だから、こう思ったのよ。私の本当のお母さんは紫なんじゃないかって」
魔理沙と早苗の表情が凍った。
霊夢は一人笑っている。
「ね、おかしいでしょ。そんな訳ないのにね」
魔理沙と早苗は下を向いたまま、顔を上げようとしない。
「それ、紫に確認したのか?」
魔理沙が聞くと霊夢は笑いながら、手を振った。
「聞くわけないじゃない。あの時はどうかしてたんだって。全くバカバカしい。勘違いもいい所」
魔理沙が黙っていると、早苗が口を開いた。
「私この前、紫さんが霊夢さんに膝枕して子守歌唄ってるの見ました」
魔理沙はぽつりと「洒落にならん」と漏らした。
霊夢は二人の顔を見た。
二人は顔を強張らせたきり、下を向いている。
「ど、どうしたの。面白かったでしょ? 笑わないの?」
霊夢が魔理沙の肩を揺するが、反応はない。
早苗も同様であった。
魔理沙は茶を一杯飲むと、コタツの端を打った。
「お開き」
>「それ、誰の話し? そんな人いるの?」
いつか聞いたような。
早苗さんが幼少の記憶を取り戻さない事を願うばかりです。
一瞬ホントにピシっっとなってしまった。霊夢恐ろしい子。
ケロちゃんの油・・・だと・・・!?
つまり、諏訪子汁ってことなのか・・・?
霊夢の勘は冗談ですむレベルだろうか…?
それにしても…八坂様、洩矢様、悪戯が過ぎますよ。ですから、もっとお願いします。
追伸、私はトウモロコシをトウモゴロシと呼んでいました。
>7様
すみません。完全に頭から抜けていました。修正しておきます。
はっ!そういしたら殆どのれいゆかがきんしんそ(ピチューン