「これは……?」
霊夢は久し振りに大掃除をしている最中、箪笥の後ろの隙間に一つの冊子のような物を見つけた。
「なんだろう?」
ボロボロで、埃を被っているそれをパラパラとめくる。表紙に書かれている文字は掠れてしまっていて読めなかった。
「……っ! これ!」
ページをめくるうちに、それが何か理解した。
中には丁寧な字で、その日その日の出来事が綴られていた。所謂日記というやつだ。文字は辛うじて読めるレベルに残っている。
そして、重要なのはそれが誰の者か。霊夢には中を読んだだけで直ぐに理解出来た。
そこには幼い、本当に幼い頃の博麗霊夢の成長が書かれていた。つまり――
「……お母さん」
それは霊夢の母の日記だった。それも霊夢の成長日記だ。
さっきのパラパラめくるのとは違い、割れ物を触れるかのように、丁寧に最初のページを開く。
『今日から私の可愛い一人娘の日記をつけようと思う。これが、いつまで続けられるか分からないけれど、出来るだけ長く、この命尽きるまで娘を見ていきたい。』
霊夢は小さく息を吸い、目を閉じる。そして、少ししたら再びページをめくる。
『霊夢が初めて私をママと呼んでくれた。本当に嬉しい。頭を撫でてあげると、目を細めて心地良さそうだった。』
霊夢は目を閉じて、昔を思い出そうとするが、こんな幼い日のことを覚えているわけが無かった。
それでも、微かに温もりを覚えている気がした。気のせいかもしれないけれど、霊夢はそれを信じた。
次のページをめくる。
『霊夢が悪戯をした。筆で壁に落書きをしていた。駄目だよ、と叱った後に、筆の墨で汚れた霊夢を洗うために一緒にお風呂に入った。霊夢は楽しいのか、笑顔だった。それを見て私も自然と笑顔になる。』
「私が笑顔……」
今では、楽しくてもほとんど笑顔なんて人には見せない。霊夢自身、普段から笑顔な自分を想像出来なかった。
次のページをめくると――
「あれ?」
今まで綺麗で丁寧だった字が、崩れていた。まるで、震える手で書いたかのように。でも辛うじてまだ読める。
『今日は私の体調が優れないせいで、あまり霊夢に構ってあげられなかった。早く治して、霊夢と遊びたい。』
次のページは、さらに字が崩れていた。
『霊夢が私の体調を心配して、四葉のクローバーを持ってきた。早く良くなってね、って言われた時は、目頭が熱くなった。霊夢は優しい子に育つと思う。』
「――っ!」
微かにある記憶が蘇る。幼いながらも、縁側から見える叢に生えていた四葉のクローバーを採るのに必死だった自分。
次のページをめくる。
『もう私は長くは無いだろう。だから今日は精一杯、霊夢と遊んだ。残された時間の全てを、博麗としてでは無く、私自身として、霊夢と遊ぶことだけに遣う。紫も文句は言わなかった。』
そんなにまで自分が愛されていたことを知り、霊夢は胸がいっぱいになる。そして、幼いから仕方無いとはいえ、昔を覚えていない自分に腹が立った。
次のページをめくる。
『霊夢が転んで膝を擦りむいた。泣いている霊夢を抱っこしてあやしてあげると、そのまま霊夢は眠ってしまった。』
次のページをめくる。
『もう、手が思うように動かない。霊夢を抱き締めるのさえ、一苦労になった。でも、笑顔の霊夢を見ていると、それだけで私は幸せ。』
「お母さん……」
次のページをめくるが、次のページは途中から完全に字が形を無くし、読めなくなっていた。
『今日も霊夢は笑顔だった。私を心配して不安な表情を浮かべるも、私が大丈夫だよ、と言って抱き締めると笑顔になる。この笑顔がずっと見られたら良いのに。だから私は願います。霊夢がこれからの未来――――』
そこから先はもう、字では無くなっていた。読めなくなっていた。
これ程愛してくれた母を、どうして覚えて無いのだろう。母は最後に何を願ったのだろう。霊夢の目には涙が溜まっていた。
「うっ……くっ」
静かに涙を流す。泣くこと自体、何年振りか分からない。
「霊夢ー遊びに来たわよ――ってちょっと!? どうしたの霊夢!?」
隙間から入って来て、最初に見たものが霊夢の泣いている姿なのだから、紫は非常に慌て、驚いた。
「ゆか……り?」
「どうしたの霊夢!?」
「ううん、何でも無い」
「何でも無いわけ無いでしょ!」
「いいから、それより紫……教えて欲しいことがあるんだけど」
「もう、何?」
「私のお母さんのこと。聞かせて」
紫は驚いた。霊夢は覚えていないことだろうし、興味すら今まで持っていなかっただろう。それを突然教えてと言われたのだ。
「別に良いけど」
「ありがとう、紫」
でも紫は理由を訊かなかった。霊夢が胸に抱えるように持っている古い日記が見えたから。
「そうね……じゃあまずは何から話そうかしら」
「何でも良いわよ」
紫から母のことを聴いている間、霊夢は自分でも気付いていなかったが、母が好きだった笑顔を、自分でも忘れていた笑顔をずっと浮かべていた。
霊夢は久し振りに大掃除をしている最中、箪笥の後ろの隙間に一つの冊子のような物を見つけた。
「なんだろう?」
ボロボロで、埃を被っているそれをパラパラとめくる。表紙に書かれている文字は掠れてしまっていて読めなかった。
「……っ! これ!」
ページをめくるうちに、それが何か理解した。
中には丁寧な字で、その日その日の出来事が綴られていた。所謂日記というやつだ。文字は辛うじて読めるレベルに残っている。
そして、重要なのはそれが誰の者か。霊夢には中を読んだだけで直ぐに理解出来た。
そこには幼い、本当に幼い頃の博麗霊夢の成長が書かれていた。つまり――
「……お母さん」
それは霊夢の母の日記だった。それも霊夢の成長日記だ。
さっきのパラパラめくるのとは違い、割れ物を触れるかのように、丁寧に最初のページを開く。
『今日から私の可愛い一人娘の日記をつけようと思う。これが、いつまで続けられるか分からないけれど、出来るだけ長く、この命尽きるまで娘を見ていきたい。』
霊夢は小さく息を吸い、目を閉じる。そして、少ししたら再びページをめくる。
『霊夢が初めて私をママと呼んでくれた。本当に嬉しい。頭を撫でてあげると、目を細めて心地良さそうだった。』
霊夢は目を閉じて、昔を思い出そうとするが、こんな幼い日のことを覚えているわけが無かった。
それでも、微かに温もりを覚えている気がした。気のせいかもしれないけれど、霊夢はそれを信じた。
次のページをめくる。
『霊夢が悪戯をした。筆で壁に落書きをしていた。駄目だよ、と叱った後に、筆の墨で汚れた霊夢を洗うために一緒にお風呂に入った。霊夢は楽しいのか、笑顔だった。それを見て私も自然と笑顔になる。』
「私が笑顔……」
今では、楽しくてもほとんど笑顔なんて人には見せない。霊夢自身、普段から笑顔な自分を想像出来なかった。
次のページをめくると――
「あれ?」
今まで綺麗で丁寧だった字が、崩れていた。まるで、震える手で書いたかのように。でも辛うじてまだ読める。
『今日は私の体調が優れないせいで、あまり霊夢に構ってあげられなかった。早く治して、霊夢と遊びたい。』
次のページは、さらに字が崩れていた。
『霊夢が私の体調を心配して、四葉のクローバーを持ってきた。早く良くなってね、って言われた時は、目頭が熱くなった。霊夢は優しい子に育つと思う。』
「――っ!」
微かにある記憶が蘇る。幼いながらも、縁側から見える叢に生えていた四葉のクローバーを採るのに必死だった自分。
次のページをめくる。
『もう私は長くは無いだろう。だから今日は精一杯、霊夢と遊んだ。残された時間の全てを、博麗としてでは無く、私自身として、霊夢と遊ぶことだけに遣う。紫も文句は言わなかった。』
そんなにまで自分が愛されていたことを知り、霊夢は胸がいっぱいになる。そして、幼いから仕方無いとはいえ、昔を覚えていない自分に腹が立った。
次のページをめくる。
『霊夢が転んで膝を擦りむいた。泣いている霊夢を抱っこしてあやしてあげると、そのまま霊夢は眠ってしまった。』
次のページをめくる。
『もう、手が思うように動かない。霊夢を抱き締めるのさえ、一苦労になった。でも、笑顔の霊夢を見ていると、それだけで私は幸せ。』
「お母さん……」
次のページをめくるが、次のページは途中から完全に字が形を無くし、読めなくなっていた。
『今日も霊夢は笑顔だった。私を心配して不安な表情を浮かべるも、私が大丈夫だよ、と言って抱き締めると笑顔になる。この笑顔がずっと見られたら良いのに。だから私は願います。霊夢がこれからの未来――――』
そこから先はもう、字では無くなっていた。読めなくなっていた。
これ程愛してくれた母を、どうして覚えて無いのだろう。母は最後に何を願ったのだろう。霊夢の目には涙が溜まっていた。
「うっ……くっ」
静かに涙を流す。泣くこと自体、何年振りか分からない。
「霊夢ー遊びに来たわよ――ってちょっと!? どうしたの霊夢!?」
隙間から入って来て、最初に見たものが霊夢の泣いている姿なのだから、紫は非常に慌て、驚いた。
「ゆか……り?」
「どうしたの霊夢!?」
「ううん、何でも無い」
「何でも無いわけ無いでしょ!」
「いいから、それより紫……教えて欲しいことがあるんだけど」
「もう、何?」
「私のお母さんのこと。聞かせて」
紫は驚いた。霊夢は覚えていないことだろうし、興味すら今まで持っていなかっただろう。それを突然教えてと言われたのだ。
「別に良いけど」
「ありがとう、紫」
でも紫は理由を訊かなかった。霊夢が胸に抱えるように持っている古い日記が見えたから。
「そうね……じゃあまずは何から話そうかしら」
「何でも良いわよ」
紫から母のことを聴いている間、霊夢は自分でも気付いていなかったが、母が好きだった笑顔を、自分でも忘れていた笑顔をずっと浮かべていた。
無印で長編にしていただきたいくらいです。
続きが非常に読みたくなってしまった。
温かい家族だったんですね・・・。
あれ?文字がぼやけて読めな…
ありがとうございます。
私は長編を書けないもので……これも本来は無印用だったのを削ってこんな風になってます。
>>2様
これの続きですか……完全に霊夢の母をオリキャラみたいに考えて出さなきゃいけなそうなので難しいですね。
>>3様
温かさを感じてくれて嬉しいです。読んで下さってありがとうございます。
>>4様
少しでもほんわかして下さったようでなによりです。
>>5様
楽しんでいただいたようで幸いです。
>>6様
これは一発ネタなんで展開とかの早さ、短さは仕様です。すみません。
紫はお母さん役には決してなれないと思ってます。
大切な人に代われる人など居ないのですから。
あくまで母の友人立場で語ってあげてます。
涙腺が少しだけ刺激されたぜちくしょう。
>これ程愛してくれた母を、どうして覚えて無いのだろう。
あまりの悲しさに心が壊れそうになった霊夢のために、
恨まれることを承知で紫が記憶の境界を操作した可能性も……と、あくまで予想ですが。
少しでもほんわかして下さってなによりです。
そういう考え方もありますね。この物語はここで終わってますから、そこらへんは想像に任せます。
少しでも、切なくてもほんわか温かい雰囲気を感じて下さっていたなら幸いです。
読んで下さってありがとうございます!