これは「鈴仙家出する」の続きです。
先にそちらを読んでいないと話がわからないかもしれません。
「うっ…ぐすっ、師匠のばかぁ~」
永遠亭を飛び出した鈴仙は今、泣きながら飛んでいた。思い出されるのは先ほどの永琳のことである。
「師匠のバカ!変態!マッドサイエンティスト!」
大声で悪態を吐きながら飛んでいるとお腹から、クゥ~と小さな音がした。
「そういえば昼から何も食べてないな~」
永遠亭の朝食は7時の昼食が12時、鈴仙が永遠亭を飛び出したのが11時半で現在12時半
一時間も泣いて飛んでいたので、まだ鈴仙は昼食を食べていないし、店に入ろうにもいきなり飛び出したのでお金など持ってきていない。戻りたくないし、
盗むなどもってのほか、どうしようかと考えた末、
「そうだ!妖夢の所に行こう、妖夢なら何か作ってくれるかもしれない」
鈴仙と妖夢は何かと親しい、仲の良い彼女なら一食くらい作ってくれると思った。
思い立ったらすぐ行動、鈴仙は白玉楼へと向かった。
長い階段を登り、白玉楼の門をくぐり屋敷の前へと立つ。
「こんにちはー!妖夢いるー!?」
大きな声で呼ぶも返事がない、今度は庭の方へと回って呼びかけてみる、するとドタドタとあわただしい音がして妖夢が姿を現した。
「あっ妖夢、ゴメンね急に、実はごはn「早く逃げて!」」
鈴仙が言い終わる前に妖夢が言葉をさえぎった。
「ごめん鈴仙、今は説明してる暇は無いの!とにかく早くここから逃げて!」
早口で捲くし立てる妖夢、鈴仙は訳がわからないと首をかしげていると、奥からドカーン!の音と振動、そして「よ~う~む~」と妖夢を呼ぶ声、途端に妖夢の顔が真っ青になる。
「妖夢~、どこにいるの~?」
声が近くなってきた、恐ろしい威圧感が鈴仙に襲いかかる、妖夢など歯を鳴らし震えている。そして
「妖夢み~つけた、あら、あの薬師の兎も一緒なの?ふふっ」
白玉楼の主、西行寺幽々子が姿を見せる。口では笑っているが目は笑っていない、それを見て、さらに震える鈴仙と妖夢
「ダメじゃない妖夢~、食べ物をきらしちゃ~」
「す、すみません、幽々子様……今すぐに、持って、まいりますので…」
震える声で謝る妖夢、それに幽々子は首を横に振る。
「いいのよ妖夢、だってそこにちょうどいい兎がいるんですもの、用意する必要なんてないわ」
「ゆ、幽々子様!それはどのような意味で…」
「どんな意味って、そのまんまよ?つまり今日の夕食は…兎鍋だー!」
鈴仙に飛び掛かる幽々子、しかしそれを妖夢が止めた。
「離しなさい妖夢!あの兎を捕まえてのだから!」
「それだけは、それだけは勘弁して下さい幽々子様!鈴仙、早く逃げて!」
妖夢の声にハッと我に返り、急いで駆け出す、後ろでは幽々子と妖夢が弾幕勝負を始めていた。
「危なかった~、もう少しで食べられるところだったわ」
白玉楼を出た鈴仙は、魔法の森上空を飛んでいた。お腹は先ほどよりも大きな音をたてている。
「しかたない、魔理沙に貸しをつくりたくないけど、背に腹はかえられない、か」
上空から家らしきものを探す、ふと目の端に家のようなものを捉える。鈴仙はその家へと向かった。
その家は散らかっておらず、キチンと片付いていた、そして鈴仙は魔理沙以外で魔法の森で住んでいる人物を思い出した。
「確かここはアリスさんの家だっけ」
鈴仙はアリスのことを思い出す、永夜異変から今までの事を思い出すが、魔理沙より随分と常識人だったはず、ならアリスに助けてもらおうという結論が出た。一歩一歩近付くにつれ、家からなんとも言えないいいにおいがしてきた。
「なにか食べてるのかな、少し様子を見てみよう」
音をたてないように移動し、窓から家の中を覗く、そこにはアリスのほかに魔理沙がいた。
(なんで魔理沙が?それに「自分は和食派だぜ」と言ってた魔理沙がパスタ?
アリスさんもパスタじゃなくざるそば?なんで一緒じゃないの?)
あれこれ考えているうちに二人は全部食べ終えてしまった。
「いやー、なかなかいいなパスタも、ゆで加減なんかバッチリだったぜ、やっぱりアリスの愛情が入ってるからだな」
「何言ってるのよ、そう言う魔理沙のざるそばだって、こしが強く歯ごたえもあったし、つゆも甘辛くておいしかったわよ」
二人で笑いながら先ほどの感想を言い合っていた。
「さーて、そろそろ再開といきますか」
「そうね、お腹も一杯になったし、さっきの続きといきましょう」
うーん、と魔理沙が伸びをして立ち上がると、アリスも一緒に立ちあがった。
(続き?何の続きだろ、やっぱり何かの実験かな?)
「「愛の営みを!」」
鈴仙は逃げた、今ここで見つかれば確実にマスタースパークでは済まされないだろう。
後ろでは「あん」やら「ここがいんだろ」との声が聞こえた。
アリスの家を離れた鈴仙は、香霖堂へと向かっていた。
「まさかお得意様を邪険にはしないよね」
見慣れた家とガラクタを見つけ、店のドアへと手を掛けようとした瞬間、
「うわあああああああん!霖之助さあああああん」
と店から叫び声が響いた、驚いた鈴仙は地面へと尻もちをついてしまった。
「紫、いきなりビックリするじゃないか、一体何があったんだい!?」
「藍がー!橙がー!わああああん」
「わかった、わかったから落ち着いてくれ」
中では霖之助が紫の背中をなで、落ち着かせようとなだめていた。
またもや鈴仙はその場を去った、今中に入れば確実に消されるし、何よりあの場に入れなかった。
「…お腹すいた、それに寒いよ~」
空はもうオレンジ色に染まっていた、冬の風は容赦なく鈴仙に吹き付ける。
「そうだ霊夢、霊夢なら一晩くらいなら泊めてくれるかも…」
出来るだけ急いで博霊神社へと向かった鈴仙、着いた時はもう夜へとなりかけていた。
「やっと…着いた、せめて一泊くらいは…」
ふと神社の中を見る、そこにはご飯を食べる霊夢と、緊張した面持ちでそれを見る萃香の姿、
霊夢はゆっくりと箸を焼き魚へと持っていき、一口サイズに切って口に運ぶ、次は味噌汁と順番に食べていく。全部一口ずつ食べ箸を置き、萃香の方へと向く。萃香の顔はいつものように酔ってはいない。
「萃香」
「う、うん」
緊迫した雰囲気が流れ、霊夢がゆっくり腕を上げる、萃香がギュッと目をつむる、そして
ポフっと萃香の頭に霊夢の手が乗せられた。
「合格!」
「ホントに、ホントにおいしい!?」
「ええ美味しいわよ、さあ、萃香も一緒に食べましょう」
「やったー!えへへ」
先ほど置いた箸を再び持ち、ご飯へと運んで行く霊夢、萃香も褒められて嬉しいのかニコニコと箸を運ぶ。
(…行こう)
鈴仙はゆっくりと博霊神社を後にした。あれは萃香が霊夢につくったのだ、それを自分が食べてしまっては萃香が悲しむだろう。お腹は一杯にならなかったが、心が温かいもので満たされた、そう思うと先ほどより寒さは和らいでいた。
「そういえば、なんでいつも萃香って目をつむるの?」
「なんか霊夢相手であと緊張しちゃうんだよね~」
「ふ~ん、変なの」
「もう無理、もう限界、お腹すき過ぎて気持ち悪くなってきた…」
どこも行くあてもなく、鈴仙はさまよっていた、辺りはもう真っ暗で、空には月が輝いている。
「綺麗な月、姫様や師匠…いや、姫様とてゐは何してるかな…」
そんな事を考えながら月を見ていると、ある人物が浮かび上がってきた、
「今日は十六夜か~、ん、十六夜?…そうだ、十六夜咲夜の同僚の、紅 美鈴さん!あの人なら」
正確には彼女の同僚だが、最後の望みを賭け、鈴仙は紅魔館へと飛び立った。夜風が肌に痛いく、空腹で限界だったが、鈴仙は紅魔館へと急いだ、そしてついに鈴仙は紅魔館へとたどり着き、目的の人物を見つける。
「美鈴さん!」
「あれ、鈴仙さん?こんな時間になぜここに?」
「実は…」
鈴仙はこれまでの事を美鈴に話す、もちろん永琳の事は少しごまかしたが…。
「…というわけで、何か食べる物を恵んで下さればありがたいのですが…」
「ええ、もちろん!ちょうど仕事も終わったので、ついて来てください!」
ニコッと笑って歩き出す、それに鈴仙もついて行った。
しかしついた場所は美鈴の部屋だった。
「えっ、食堂じゃないんですか?」
「うん、私ね、料理が好きだからお嬢様に無理言って頼んだんですよ、さあ入って下さい」
美鈴がドアを開け鈴仙を誘う、鈴仙も誘われるまま中に入った。
「あら、御帰り美鈴……ん?なんであの薬師のところの兎がいるの?」
「また勝手に入ったんですかお嬢様?」
「ち、違うわよ!フランが行きたいって言ったから!」
「ちょっと何言ってるのお姉さま!先に言ったのはお姉さまじゃない!」
(レミリアとフラン?なんだかんだ言ってもやっぱり子供なんだな)
そう思って二人の方を見た、しかし、二人を見た瞬間鈴仙は言葉を失う。
二人ともいつもの格好なのだ、いつもの服にいつもの帽子、しいて違うところがあるとすれば、
レミリアは頭にブラジャーを被っていること、フランも頭にパンツを被っていた。
(こいつらもかよ!)
しかも目の前ではフランが被っているパンツを、レミリアが奪い取ろうとしている。さらに
「うふふふふ、美鈴の枕~、スーハースーハー、美鈴の匂いがするわ、うふふ」
声のする方を向けば、完全で瀟洒と名高い咲夜が美鈴の枕に顔をうずめて悶えている。
(…なに、これ)
「どうぞ鈴仙さん、座って待っててください」
余りのことに唖然とする鈴仙、しかし美鈴はそんな鈴仙などお構いなしに、さっさとキッチンへと向う。
部屋の真ん中にあるテーブルで待っているのだが、正直こんなところ、一分一秒いたくなかった。しかし、いまさら行くあてもなく、もう疲れていたので仕方なしに待っていた。
「はーい、できましたよー」
キッチンから大盛りのチャーハンを持って美鈴が戻ってきた、それを鈴仙の前に置く。いただきますと言ってから鈴仙はチャーハンと食べだした。それはいままで食べたどのチャーハンより美味しかった。
空腹もあったが、それ以上に美味しかった。美味しすぎて涙が出て来た。
「美味しいです、美味しいです」
「喜んでもらえて何よりですよ」
チャーハンをあっという間に食べ終わると、鈴仙は部屋を見渡す。
レミリアはブラジャーをメガネとか言っていて、フランドールは先ほど美鈴が脱いだ帽子を被り、
咲夜はまだ枕に顔を埋めて悶えている。鈴仙は我慢できずに聞いてしまった。
「美鈴さん、嫌じゃないんですか?レミリアさん達がやってる事、辞めたくなったことないんですか?」
鈴仙の言葉に、美鈴は苦笑いし、レミリア達はピクッと止まる。
「そうですねー、やっぱり最初は正直嫌で、辞めようかなって考えたんですよ」
美鈴の言葉に、明らかにオロオロするレミリア達、
「でもですね、理由が分ると不思議とその気持ちがどこかへ行ってしまったんですよ。
ですから、今は嫌じゃないですし、辞めようとも思いませんよ」
美鈴の答えに、どうも納得がいかない鈴仙、しかし周りは、よく言ったわ美鈴、などと言っていた。
「それよりも、咲夜さん、寝るなら自分の部屋で寝て下さい、お嬢様方もどうぞ自分の部屋で…」
「いや、もう私はここで寝るんだもん」
「ならせめてお風呂には入って下さいよ」
「お風呂に入ればいいのね!?待ってなさい!5分で済ますから」
ベッドから起き上がり、咲夜は走って出て行ってしまった、よほど嬉しいのか能力のことを忘れている。
「さあ、お嬢様方も」
「咲夜が寝るなら私たちもここで寝るわ、文句ないでしょう?」
「あー、お姉さまズルイ!なら私も美鈴と一緒に寝る!」
「しかし流石に4人はキツイかと…」
「それなら私が美鈴の上で寝るわ!」
「お姉さまばっかりずるい!それは私がもらうの!」
美鈴の胸枕を賭け、最凶の姉妹喧嘩が始まった。
「もう、なら私は鈴仙さんを部屋に連れてきますね、さっ行きましょう」
レミリア達を部屋に残し、鈴仙は美鈴い案内されるべく、部屋へとついて行った。
長い廊下を歩き、ある部屋の前で美鈴が立ち止まる。
「ここが鈴仙さんの部屋です」
開けてみると、美鈴の部屋よりは豪華ではないが、それなりに綺麗であった。
「それでは私はこれで」
「あ、あの…」
戻ろうとする美鈴を、鈴仙が呼び止めた。
「はい、なんですか?」
「さっきの、理由がわかればって、どんな理由ですか?」
鈴仙はずっと考えていた、理由がわかれば嫌じゃない、それがどうしてもわからないのだ。
「そうですね~、理由と言っても沢山ありますからね、お嬢様達の場合だと、好きだからですかね」
「好きだから…ですか?」
「はい、実は前に用事があり長期で門を開けることになったんですよ、一か月くらいでしたかね、それで帰ってきたらあんなことしてて、何故なんですか?と聞いたら、私が好きだから、と答えたんですよ。嬉しかったですね、こんな私でも好きでいてくれるんだと、なら私はそれに精一杯答えようと思ったんですよ。長々と話してしまいましたね。ではお休みなさい」
美鈴が出ていき、明かりを消してベッドの中で考える。
(師匠はどうなんだろうな、私のことが好きなのかな、それともただ寂しいのかな、
よし、明日帰ろう、帰って師匠に聞くんだ、何故あんなことしたのか!)
明日の事を思いながら、鈴仙は眠った。
翌日、鈴仙はまだ早いうちに美鈴に別れを告げ、永遠亭に帰って行った。
どんな答えが返ってきてもいいように心の準備をして…
特に橙と藍の所がツボです。そりゃー隙間妖怪も逃げます(ぇ
私はマリアリ大好きなのでそこでも、別の意味でにやりときました。
鈴仙はこれからどうなってしまうのかとても気になります。
第三弾心待ちにしています。
「待ってる」などのコメントを頂くとすごく嬉しいです。
第三弾も近々書くので気長に待っててください。
美鈴は洗脳されてしまった・・・っ!
正直、「変質者が自分を好いてくれているとわかったので嬉しい」というのは無いだろう。
しかし、あの三人はあのようにあってほしい。「何故枕の臭いを嗅ぐのか?美鈴の枕がそこにry」それでこそ瀟洒というもの!
つまりは「美鈴にとっては『断固止めてほしい』が、三人は『バレないように実行している』」状態が望ましいっ!そう。家出前の鈴仙とほぼ同じ状態である。
最後の良心は陥落してはならないのだ!
紫様も全裸を受け入れればいいんだ!
感想 非常に愛の感じられる作品でした。
次回作 期待しています