(きーんこんかんこーん)
「おっとっと…遅刻遅刻…」
授業のチャイムが鳴ると同時に
教室に一人の先生が入ってきた
「はーい、それじゃあ授業を始めますね…あら?」
グルグル眼鏡をしてスーツを着た赤い髪の毛の先生
その先生が、黒板に文字を書こうとしたら
黒板に文字が書かれていた
『先生、コッペパン買い食いしちゃ駄目です!』
先生が黒板を見つめている様子を見て
教室に居た生徒達が口元を押さえて笑いを堪えていた
「あはは、皆にばれちゃいましたか…慧音さんに内緒ですよ?」
赤い髪の先生がそう言って、口元に指を持っていくと
生徒達全員が口をそろえて返事をする
「では、授業を始めますね」
(キーンコンカンコーン)
「ふぅ…」
授業が終わり赤い髪の先生が寺子屋の外にある
桜並木の傍でタバコを吸っていた
そこに居るのは先ほどの情けない姿は無い
その辺の男ならば、身を竦ませる程の兵の姿であった
「平和ですね…」
寝転がりながら青い空を見つめる
その人物は眠りながらかつての同胞の事を思い出す
(親友…ポンユウ…)
懐かしい記憶を思い出しながら寝ていた
(やれやれ…懐かしい匂いまで…って匂い!?)
急いで目を開くとすぐ傍の匂いの元に顔を向ける
「へへっ…妖精ごときが、人里に来るんじゃねぇ」
「す、すいません」
そこに居たのは、性質の悪い酔っ払いの人間に絡まれた
一人のボロボロの姿の妖精であった
「うるせぇな…早く金を出せって言ってるんだよ!」
「ひっ!」
酔っ払った人間が自分よりも一回り小さい妖精に拳を上げる
それが、振り下ろされようとしたので、妖精が思わず目を瞑る
だが、何時までたっても衝撃は来ない
妖精が不思議そうに思って目を開くと
「弱い者苛めは駄目ですよ?」
「な、なななっ!?」
自分の目の前で、酔っ払いの拳を指一本で支えている人の姿が
「もしお金の話をするのでしたら、あちらの人が居ない所で」
「じょ、上等だこの野郎!」
驚く妖精を無視して、その赤い髪の先生が
人気の無い場所に酔っ払いを誘い出す
(た、大変…わ、私のせいで)
急いで妖精が起き上がると、急いで後を追う
「へへっ…兄ちゃん運が悪かったな…俺は格闘技の経験があるんだ!」
人の居ない場所に来た酔っ払いが
赤い髪の人物に向かって殴りかかる
当たれば、大変な威力を持っているその拳
「はぁ…格闘技ですか…」
だが、赤い髪の先生はその拳を少し体を捻って避ける
「へっ、運がいいな…だが、それも此処までだ!」
男がメリケンサックを取り出して手にはめると
両手で殴りにかかる
絶体絶命のピンチだと誰もが思うが
そのパンチのどれもがその赤い髪の先生に当たらない
どれもこれも、紙一重で交わしていく
「ぜぇ…ぜぇ…」
「踊りの間違いじゃないですか?」
「こ、この野郎!」
空振りをしまくって、肩で息をつく酔っ払いが
最後の一撃を目の前の赤い髪の先生に当てようとした時
「はああっ!」
赤い髪の先生が、拳よりも先に呼気と共に酔っ払いの頭に
強力な指の一撃を、コメカミに見舞った
「あ、ありがとうございます」
その様子を見ていた先ほどの妖精が声をかける
「気にしなくても構いませんよ」
赤い髪の先生が声をかけた瞬間、妖精の目が見開かれる
「ま、まさか…門番長?」
「えっ?」
「わ、私ですよ!門番隊の…」
その言葉を聞いて、赤い髪の先生がグルグル眼鏡を外し
縛っていた赤い髪を開放した
「ウォン!ウォンじゃないですか!」
「ま、まだ私の名前を覚えていてくれましたか」
ボロボロになった服のまま、赤い髪の先生
「当たり前ですよ、それよりも私の名前を覚えていますか?」
「美鈴隊長の名前を忘れるはずがありますか~」
美鈴の胸に顔を埋めて泣き出した
「ですが…どうしたんですか?貴方は紅魔館でも、
少しは名前が知れていたはずなのに」
「い、いえいえ…ちょっと訳有で門番隊を辞めただけですよ」
しばらくの間、懐かしい昔の話をし始める
「そうだった…美鈴隊長にこれを渡さないと…」
ウォンがそう言って、ポケットの中から何かを取り出す
「これ、隊長がかぶっていた帽子です…これだけは大事に持っていたんですよ」
身なりは少しボロボロになっていたが、渡された帽子だけは
新品同様に綺麗なままであった
その帽子を笑顔で渡されて、美鈴が声を震わせて呟く
「ば、馬鹿ですね…ぼ、帽子ぐらい何処でも手に入るんですよ?」
「あはは、そうですよね」
口ではお互い、そう言って笑いあっているが
自分の帽子を其処まで大切にしていてくれた事が
美鈴には泣きたいぐらいに嬉しかった
「…ところで…門番隊はどうしたんですか?」
「そ、それは…」
話を変えようと美鈴が言うと、ウォンが口ごもった
(…駄目だ、門番長に今の紅魔館の話をしてはいけない)
紅魔館の中での権力争い
もちろん、レミリアやフラン等は関係ないが
その下、門番隊やメイド隊他等の力の争いは続いていた
最終的には美鈴が後押ししたメイド長である十六夜咲夜によって
無事に統一を果たしていたのだが
(メイド長だけでは…駄目だった)
咲夜を好ましく思わない反対派を美鈴が力任せに説得
その後、咲夜に全てを託して門番隊を去っていったのだ
(きーんこんかんこーん!)
「あっと…すいませんウォン、少し用事があるんです
寺子屋の待合室で待っていてください」
「あ…は、はい!」
ウォンが頷くのを見て、美鈴が寺子屋に戻って行った
その様子を見て、ウォンは嬉しそうに頷いた
「…門番長は今、平和に暮らしている…」
門番隊の中の組織で裏切りにあったウォンは
門番隊を辞めて、路頭に迷っていたのだ
(でも…門番長が幸せでよかった)
美鈴の姿を見て、満足したウォンが
最後にたどり着いたのは、大きな川
今の美鈴の生活を壊してはいけない…
その思いで自らの命を絶とうとして川に飛こむ
(後は飛び降りれば…美鈴元隊長に気がつかれずに…)
(がばっ!)
「えっ?何これ…夢!?」
フランが布団を蹴飛ばして目を覚ました
「ま、待ってよ!続きが見たかったのに!?そうだもう一回寝よう!」
フランが急いでもう一度布団の中に包まった
「ぐくっ…なぜ死なせてくれないんですか…」
「…お前の血が、あの紅皇を呼び寄せるからだ」
川に飛び込もうとしていた、ウォンを一人の妖怪が阻んだのだ
そして、ウォンを縄で縛り
人が来なさそうな空き家の中に吊るしていた
「美鈴隊長を…知っているの?」
ウォンの言葉にその妖怪が頷く
「…一度対峙している…そして私は負けた」
その妖怪の脳裏に敗北の記憶が蘇る
勝負とも言えない、一瞬の出来事
「ただ負けただけなら仕方が無い…」
妖怪が静かにそう呟く
「だが!奴は私に紅魔神拳を使わなかった!」
拳法家として、これほどの屈辱はない
その日をバネに、より修行に力を入れた
「…故に、今度こそ紅魔神拳を使わせる」
真面目な顔でそう呟く妖怪の顔を見て、ウォンが目を瞑った
(隊長…申し訳ありません…)
「…そろそろ来る頃だな」
その妖怪がそう言って、ウォンの隣に立つと
体を巻いていた縄を切った
「こ、これは?」
「…私は紅魔神拳と戦えればそれで良い…」
驚くウォンにそういい残すと、その妖怪が表に歩いていった
「…ウォンはどうしました?」
「ふん…もうこの世に居ない」
その言葉にを聞いて、美鈴の顔が悲しみに染まる
「そして、紅皇!貴様の首も同じ場所に送ってやる!」
その隙を突いて、その妖怪が美鈴の向かって跳躍した
(この腕が相手に当たれば、それだけで肩を持っていく!)
『重頸』…自らの体重を四肢の末端に全て持っていく技
たとえ腕が軽く相手の肩に触れただけでも
相手の肩を丸ごと叩き潰す事が出来る
「喰らえ紅皇!」
その一撃が美鈴の肩にぶつかろうとした
「ば、馬鹿な?」
だが、その寸前でその妖怪の腕がぴたりと止まる
「…よくも私の戦友を…」
美鈴が怒りながら、妖怪の腕に掌を乗せて持ち上げていた
常人では捕らえきれないスピードでおろされた腕を
それよりも早く、美鈴は掌で止めたのだ
「うぉあたあ!」
「ぶふぁ!?」
驚きで、硬直していた妖怪を美鈴が殴り飛ばす
「ぐっ…ぬぅ…」
飛ばされた妖怪が、何とか持ちこたえると
その目の前で、美鈴が拳法の構えを取った
「…以前貴方の戦った時は、修行中でしたので紅魔神拳は使いませんでした」
故に、試合をしたが、死ぬ事は無かった
「ですが!私の戦友を殺した貴方を許す訳にはいかない!」
そう言いのけると、全身から化け物並みの闘気を放った
(こ、これが…紅魔神拳!?)
その闘気に気圧されて、妖怪が一切動けなくなる
その間に、美鈴がゆっくりと拳を下ろしてくる
(動け…動け!動けぇ!我が体よ!)
だが、妖怪がどれだけ頑張っても、身体は動かない
そして、遂に美鈴の拳がその妖怪の身体に当たろうとして
「…勝負ありですね」
美鈴が動きを止める、それと同時に妖怪が地面に膝をついた
「な、何故…止めを…」
「…ウォンが生きているからですよ」
美鈴の言葉にその妖怪が振り向くと
其処には、逃げたと思われていたウォンの姿が
「門番長…この妖怪…オレンジさんは…」
(がばっ!)
「むきゅ!?凄い懐かしい名前聞いた」
パチュリーが眠っていた机の上から起き上がった
よく見たら、涎が少し頬についていた
「…興味深いわね…もう一度寝たら続きが見れるかしら?」
パチュリーがそう呟いて、再び本を枕にして夢の世界へと向かった
「止めておけ…我が紅魔神拳には勝てない」
「ふふっ…確かに、秘孔には勝てない…」
美鈴とリグルがその場に対峙していた
お互いに身体に負傷を負っているが
それでも、まだ二人とも戦う意思を止めていなかった
「だが!既に秘孔封じは会得している!」
「なに!?」
リグルがそう言うと同時に、自らの頭部に指を当てる
そして、自らの触覚の根元に指を差し入れて
「ぬぅぅぅぅぅ!妖魔幽家拳秘奥義『恐神魂』」
「ぬっ?まさか蟲王…幽家拳の秘奥義を!?」
そのまま、己の触覚を引きちぎった
「ではいくぞ紅皇!」
「くっ!」
リグルの特攻に対して、美鈴がその身体の秘孔に指を突き刺す
その衝撃でリグルが痛みに顔をゆがめるが
「ククッ…この身体に秘孔は通用しない!」
そのまま、微笑を浮かべて美鈴に蹴りを入れてふっとばす
蹴り飛ばされた美鈴が木にぶつかるのを見て
リグルが手を頭に当てて笑い出す
「ぬはははっ!我が拳…遂に紅魔神拳を超えた!」
リグルが笑みを浮かべてそう言い放つ
「(ぱちぱちぱち)…お疲れさん……」
「ぬっ?」
だが、木にぶつかった美鈴が座り込むと
タバコを口にくわえてリグルに拍手を送る
「何を笑っているんだ!貴様の勝ちはありえな…」
リグルが激昂した瞬間、リグルの掌から血が吹き出た
「こ、これは!?まさか秘孔を!」
リグルが驚愕する、秘孔封じは完全だったはずなのに
己の体から血が吹き出てくるのか
「確かに、幽家拳『恐神魂』は身体に流れる経絡
正経拾四経絡をバラバラにする…故に秘孔を突くことは出来ない…」
ボロボロになった美鈴が口からタバコの煙を噴出す
「そうだ!故に紅魔神拳を…」
「だが!身体には正経とは違って、経脈の流れが変わらない
阿是穴と言う物がある、そこはどうやっても変わらない」
「くっ!」
美鈴に答えを教えられて、リグルが悔しがる
そんなリグルに歩み寄っていく美鈴
「よく其処まで拳を極めた…だが秘孔封じだけでは限界がある…」
美鈴が怪我で動けなくなったリグルの傍に立つ
それは相手に止めを刺すため
同じ拳法家として、相手に最高の栄誉を与える為
「偉大なる蟲王…リグル覚悟!」
そして相手を侮辱しない為
「居たぞ!蟲王と紅皇だ」
そんな時、思わぬ邪魔が隣から入ってくる
「この二人を倒したら、賞金が出るぜ!」
「うぉぉ!」
その場に現われた妖精達が銃を二人に向ける
「逃げますよ!」
「ぬっ!?」
その銃から玉が出る前に、美鈴が怪我を負ったリグルを掴んで
窓から飛び降りた、本来なら地面に叩きつけられて終わりだろう
だがその下にあるのは、大きな川…
(ざっぱん!)
「ぶはっ!…どうやら何とかなったみたいですね」
「げほっ…きっ、貴様…なんで助けた!?」
美鈴に掴まれたリグルがそう声をかけると
美鈴は、当然と言わんばかりに答えた
「私と同じ、拳法家をあんな鉛弾で殺させたくなかっただけです」
その答えに、リグルが一瞬驚くが
すぐに笑みを見せて目を瞑った
「ははっ…無駄な事を……既に私の身体は死にかけているのに」
「なっ?」
「…恐神魂を会得する為に、大量の薬を自分の体に打った
…既に、痛みも感じなくなっている…」
リグルが悲しそうにそう伝える
だが、その顔はとても穏やかなものだった
「だが…最後は拳法家として…負けを認めれた…
心も…技も……ふふ…実に…楽しい…旅路で…」
(がばっ!)
「ま、待ちなさい!リグルカッコイイじゃない!」
布団を蹴り上げてレミリアが起き上がる
「まだよ!夢の続きが見たい!」
そして、もう一度布団の中に包まってフラン人形を抱きしめた
「やってきましたよ…」
「待っていたわよ…」
導師服を着込んだ美鈴の前に居るのは
同じく、ゆったりとした服を着込んだ冬の忘れ物
「レティ・ホワイトロック…」
美鈴の名前を聞いて、レティは首を横に振った
「今はレティではないわ…幾多の生き物を殺して回った化け物…」
そう美鈴に呟くと同時にレティの体から凍気が放たれる
「『死氷鬼』のレティよ!」
「!?」
そう叫ぶと同時に、高速で美鈴に突っ込んでくる
(な、なんと言う踏み込みの速さ…)
美鈴が後方に飛んでレティの手刀の間合いから逃れる
間一髪で、その一撃を避けた美鈴が額の汗を拭う
その瞬間、美鈴の胴体に横一文字の傷が刻まれた
「ぐぅっ!?」
「流石は紅魔神拳…この一撃でかすり傷だけとはね…」
踏み込んだままのレティがそう呟く
「な、なぜ戦う…」
美鈴が、脂汗を流しながら話を伝える
「貴方は…チルノちゃんを守るのではなかったんですか?」
美鈴の言葉に、レティが目を瞑る
「チルノちゃんは私の魂…ただ冬の間居るだけの私に沢山の暖かさをくれた…」
死氷鬼と呼ばれた私を怖がらなかった
それどころか、こんな私に懐いてくれた
だから…だからこそ…
「だが!それだからこそ私の傍に居てはいけない!」
「それは違う!チルノは貴方が居ないと」
「黙れ!チルノちゃんには大妖精がいる!
もう私が居なくても悲しまなくて良い!」
美鈴の慟哭にレティが首を振って走りこんでくる
「受けなさい!我が死の氷気『氷妖極十字拳』!」
「この…わからずや!」
高速で走りこんでくるレティに呼応して
美鈴も真っ直ぐ突っ込んでいく
お互いの拳がぶつかる事に、赤い血飛沫が宙に舞う
白い雪が次第に赤く染まっていく
「ぬん!」
美鈴が闘気を込めてレティの秘孔を狙って指を突き入れる
「ぬぁぁあ!」
「むっ!?」
だが、レティの身体に指が届く瞬間
レティが美鈴の指を手で払いのける
払いのけられた美鈴が勢いで後方に下がる
「はぁはぁ…貴方が私に秘孔を突くことは出来ないわ」
レティが肩で息をつきながら、自らの前に両手を出して構える
「…秘孔を突かれないようにするために、この身体に毎日千の弾幕を射させた!
そしてそれを避けきった私の『氷妖極十字拳』は紅魔神拳を超える!」
レティがそう叫び、先ほどよりも更に早い踏み込みで
美鈴に向かって走りこんでくる
「ならば、その矢を超えるもう一本の矢を持って貴方を倒します!」
そのレティを見据えた美鈴が指先に気を込める
「ぬぁぁあああ!氷妖十字拳『氷翔十字鳳』」
「紅魔神拳奥義『門破活殺』!」
二人の体が空中で交差して地面に降りる
「うぐっ!」
先に膝を地に付けたのは美鈴の方であった
その身体は、氷妖十字拳によって袈裟懸けに切られていた
「勝負あったわね…ごふっ!」
レティがそう言って、膝を折った美鈴の方を向いて
口から大量の血を噴出する
「…私の…負けみたいね」
空中で交差した際、美鈴の気を込めた一撃は
レティの体を貫いていたのだ
膝を折っていた美鈴が起き上がると、レティの傍に寄ってきた
「…氷妖十字拳、確かに最強を冠するのに相応しい拳…」
「さあ、早く止めを刺しなさい…」
美鈴の呟きに地面に倒れたレティがそう声を返す
「実に楽しい勝負だったわ…それこそ、命を賭けても惜しくないほどに」
(後は…チルノちゃんが幸せである事を祈るだけ…)
レティが満足して目を瞑ろうとする
「レティー!」
そんなレティの名前を叫ぶ小さな声
その声にレティが目を見開く
「チルノちゃん!?」
この場に居ない者の声にレティが目を開く
目を開いたレティに、誰かが飛び込んでくる
「うわ~ん!レティ~」
「チルノちゃん…ど、どうして此処に…」
全身の痛みを堪えて、レティが起き上がる
「…チルノちゃんには、貴方も居ないと駄目なんですよ」
驚くレティに声をかけたのは
「だ、大妖精?」
「私だけでも…貴方だけもチルノちゃんは泣きますよ」
大妖精の言葉に、レティが口ごもる
そんなレティの肩に美鈴が肩を乗せる
「…貴方が居たから、チルノちゃんの笑顔が守られているんです…
それなのに、貴方は一人で勝手に迷惑になると言って消えようなんて」
美鈴がそう言うと、レティが微笑みながら目を瞑る
「…馬鹿ね私は…ぐぶっ!」
「レティ!?」
「レティさん!」
レティが口から更に大量の血を吐血する
「…気がつくのが遅すぎたわね…」
美鈴の気の一撃を持って、既にレティの身体は崩れ始めている
もう己が消える事はレティにはわかっていた
(…最後ぐらい…笑って…)
「チルノちゃん…大妖精…再見」
(むくっ!)
「って、此処で終わり!?」
咲夜が美鈴の部屋のベッドの上から起き上がる
「はっ!?もう一回眠れば続きが見れるかも!」
咲夜がそう思って、再び美鈴の匂いが染込んだ枕と布団の中に身を埋めた
「…ふん、そろそろ死ぬわね…戒めを外してあげるわ」
「………」
永琳が、十字架に磔にされたレティの戒めを外す
「死氷鬼と呼ばれた妖怪…紅魔神拳に関ってしまったのが不運と知りなさい」
地面に叩きつけられたレティの傍に永琳が立ち尽くす
「…ぬん!」
「むっ!?」
だが次の瞬間、死に掛けていたはずのレティが起き上がり
永琳の腕に裂傷をくわえて、十字架の上に飛び乗った
永琳が切られた自分の腕を見つめて嬉しそうに微笑む
「ふふふっ…我が永斗の姫は生きの良い生贄を望む」
「ほざくな…私はそう簡単に生贄にはならないわ」
長らく磔にされていたレティには力が感じられない
だが、それにも勝る闘気がレティを動かしていた
「受けて見なさい『氷妖十字拳』の死の舞を!」
レティの高速の手刀が永琳に肉薄する
その一撃で永琳の肩に縦一文字に切り裂かれる
「ほう?」
想像以上の一撃に、永琳が驚く
「これで終わりじゃないわ!いくわよ次!」
驚いている永琳に対して、レティが次の一撃を加える
レティが次々に攻撃を加えていく
その度に、永琳の身体に裂傷が増えていく
肩、手、胴体、足
だが、攻撃を加えているレティの顔が青ざめていく
「ぶはぁ…ぜはぁ…こ、これは…」
「気がついたかしら?貴方の攻撃で受ける傷がどんどん浅くなっているのに」
「ば、馬鹿な…我が氷妖極十字が」
レティの攻撃が永琳に見切らたのだ
「貴方の攻撃の間合いが、紅魔神拳の間合い…これで覚えたわ」
「くっ!だが、これはどう!」
レティが己の最後の力を振り絞った一撃を仕掛ける
相打ち覚悟で、永琳に飛び掛る
「おっと、放っておいて死ぬ相手の拳を受けるほど私はマゾじゃないわ」
「なっ!?」
だが、レティの傍から永琳は即座に離れて行った
「あ、貴方は…拳法家じゃないの!?」
「医者よ?…ただ、紅魔神拳に恨みを持つね」
永琳がそう言い放つと、レティが見える場所で立ち尽くした
「後は貴方が死ぬまでの時間を、姫に対して黙祷する事にするわ」
「お、おのれ~!私を拳法家として殺させないつもり!?」
「ええ…紅魔神拳に出会った事を不運と知りなさい…」
永琳が実に嬉しそうに、レティを見下ろしていた
それから1時間
「ぐっ…ぬぅ…」
「苦しい?惜しいものね…紅魔神拳など目指したばっかりに」
地面に倒れこみ、苦しむレティに懺悔させるように
永琳が声をかけた
「ふふっ…引きこもっている姫とやらの御守をする貴方よりはマシね」
「…なんですって?」
「貴方には分からないでしょうね…紅魔神拳と紅美鈴の強さが」
永琳がその発言に不快感をあらわにする
レティがそう伝えてククッと笑いをかける
「…少々早いけどいいわ、我が永斗月拳によって生贄に捧げてあげる」
殆ど動けないレティの傍に永琳が立つと
無表情でその無防備な背中に拳を下ろす
(紅美鈴…チルノちゃんを任せたわよ)
「ぬぅああ!」
(ドスッ!)
竹林の中、永琳の拳がレティの体を貫く
「…ぬぅ…」
「驚いた…まさか反撃してくるなんて」
「ふ…ふふっ…め、冥土の土産に…貴方の片足貰っていくわ」
体を貫かれたレティの手が永琳の片足に突き刺さっていた
「何が貴方をそうさせるの?…『死氷鬼』と呼ばれている貴方が」
「こ、この足で…あの美鈴と戦って…か、勝てるかしら?」
「自分の命を捨て駒にするつもり!?」
驚愕する永琳が、レティの手を外そうとするが
レティの手は中々離れない
(あ、後は…任せたわ……)
「レティさん!」
意識が消え行くレティの耳に聞こえたのは
自分の人生を正してくれた親友(ポンヨウ)の声だった
(がばっ!)
「…って!?いけない寝坊しました!
急いで門の前に行かないと!」
そう言って、夢の事など忘れて
紅美鈴は大急ぎで服を着替えて門の前に向かっていった
お終い
続きが…続きが気になる…
咲夜さんが美鈴の部屋で寝ているという事は
美鈴と添い寝?それとも美鈴は他の所で寝ていたのか?
この台詞で蒼天思い出せた俺は…勝ち組みなのか負け組みなのかw
自分も続きが気になりますね。
まあ、みんな夢がおしいところで終わっててわろたw
オレ、特命門番を最後まで読んだら美鈴と結婚するんだ。
それはともかく、最初の話が一番気になる。つーかオレンジ懐かしい。髪の色から格好まで美鈴そっくりですからね。
せっついてもしょうがないと思ってましたが、ついに特命門番長クルー!?
忘れてたのかちくしょうめ!
いつもいつも今か今かと待ちわびてた俺達に謝……らなくていいけど続きに超期待。
なつかしい