パンツって使い捨てじゃないのか。初めて知った。
衣玖が言うには、洗って何度も履くのが普通だとか。ビックリだ。
一度脱いだパンツは、父親に渡して換金するものとばかり……。
「今凄いこと言ってますよ」
「え。何で?」
「娘のパンツを買い取るとか。異常ですよそれ」
じゃあ他のお父さん達は、どうやってお小遣い増やしてるんだろ。
「そりゃ、奥さんの機嫌を取って……ん? 比那名居家では違うんですか」
「私のパンツを、大きいお友達に転売してボロ儲けって言ってた」
「おま」
「ところで、大きいお友達ってどういう事かしら。2mくらいある人のこと?」
何故だろう。衣玖は、凄く可哀想なものを見るような視線を向けてくる。
そして、私の肩をそっと抱き――
――その商売混ぜて、と囁いた。
一枚千八百円の縞々パンツ。
履き終えた後、それを衣玖に三千円で売る。衣玖はそれを二万円で地上人に売り。地上人はそれを、四万円で誰かに……。
「段々高くなってるのは何故」
「需要の高い商品は、徐々に値上がりしていきますから」
「それなら、私のパンツを購入・転売って繰り返せば、皆お金持ちになるわね」
「全くです。総領娘様は幻想郷の女神ですよ」
「ところで、ちょっと汚れの目立つパンツが有るんだけど……」
あちゃー。そういうキズモノ商品は、買取価格を安くさせて貰いますよーと。ニヤニヤしつつ衣玖は五百円を差し出す。
「参りましたねー。こういうのは安値がついちゃうんですよねー」
「その、五十万円って書かれた値札は一体……」
「ハハハ。どうせ売れないでしょうから。これはディスプレイ用にしようかと。価格なんてお遊びですよ。売り物にしないんですから。ハハハ」
後日、衣玖のタンス預金が五十万円ほど増えていた。
やっぱり汚れたパンツの方が、高く売れてる気がする。
ローン組んでまで、私のパンツを買う人達が現れたと聞く。
転売すれば利益が出るので、もはや真面目に労働する気など起きないそうで。
「そういうプライドの低い人達向け低金利を、サブプライドローンと呼ぶそうですよ」
「カタカナが一杯で、カッコイイ名前ね」
「まさか。意訳すれば、『守銭奴向け低金利』の方がふさわしい、とまで言われてるんですから」
マネーゲームで生計を立てるなんて、信じられません。と息を荒げつつ、せっせっとパンツに値札を貼る衣玖。
うまく言葉に出来ないが、間違ってると思う。
「私達のやってる事は、マネーゲームじゃないですよ。総領娘様は流れ作業でパンツを履き、私はそれを脱がせて売る。ほら、肉体労働じゃないですか」
なにか、間違ってると思う。
「うーん。近頃のパンツは、汚れが少ないですねー」
「え。汚れが多いと、キズモノ商品なんでしょ」
「あ? ……ああ。そうでした。ハハハ。こりゃうっかり」
私は知っている。衣玖がこっそり私のパンツを加工し、汚れの増強を図っている事を……。
そっちの方がセールス的には有利みたいだけど、不潔な子ってイメージがついたら嫌だなあ。
『とんでもない。パンツの汚れは砂金みたいなものです』
いつ私の思考を読んだっていう。謎めいたファンレターを貰った。
私が儲けの根源という事で、好意的(?)な手紙が近頃届く。
『お前のパンツを転売してたら、家が建ったぜ。助かる』
『八坂様が私以外の子のパンツ持ってるなんて、許せなくて。思い余って、××しちゃいました。全部貴方のせいですから』
『パンツ転売で出した利益で、妹紅が商売始めたんだが。燃える英単語~もこたん~とかいうパクリ商品を売るそうだ。買ってやってくれ』
ファンレターかどうか妖しいのも多いけど、私のパンツが幻想郷住人の人生を左右しているって事はなんとなく分かる。あんま実感無いけど。
『オレオレ。オレだよ。父さんだ。
実はヤバイ地上人に脅されててさ。マジぱねぇんだよね。このままじゃ殺されちゃうよ。
この手紙の裏に詳細書いてるから、指定の口座に五百万円振り込んでくれないかな。マジぱねぇから』
……これは明らかにファンレターじゃないな。
有名になると、こういうデメリットまで有るのね。ちょっとした小遣い稼ぎのつもりが、犯罪を誘発するなんて……!
「今時、素直に振り込む人なんかいませんよねー」
「そうよね。わざわざお金を使う必要性なんか無いし。戦うべき」
「は?」
「悪い地上人なんて、私の地震で一網打尽!」
「ちょ」
「離して! 地上人やっつけないと、お父さんが殺されちゃう!」
「騙されてます! それ騙されてますってば!」
衣玖め怖気ついたな。貴方はいつも、難しく考え過ぎだから良くない。
悪いヤツを思い切り倒せばヒーローになれる。最期はホームパーティーでハッピーエンド。これの何が間違ってるのかしら。
……あ、私は女だからヒロインか。
「いや、誤情報に踊らされて無差別攻撃なんてした日には、ぶっちぎりで悪ですよ」
「誤情報じゃないもん!」
「何を根拠に」
「私が、信じてるから!」
「……か、勧善懲悪を極めると、パーになっちゃうって本当だったんですね。自己確信強すぎて、なんかもう怖い」
難しい単語ばっか出てきてよくわかんない。分かりやすく、英語で説明して。
「ユーアーフール」
HAHAHA。笑える冗談だ。このムカツキをマグニチュードに変えてやる。
市場が縮小?
衣玖は難解な事ばかり言う。
「総領娘様が地上を焦土にして下さったので、商売どころじゃねえよ、という状況になり。パンツ売買をする人が減っちゃったんです。また、売買の動き自体も緩やかに」
「……なるほど」
頭の弱い子と思われたくないから、理解したふりしとこう。
「とどめに限界までパンツが値上がりしていたので、いよいよ誰も買い手がつかなくなり。値下がりへと転じてですね」
「……ごめん。一つも分かんない」
「つまりですね、貴方がきっかけで皆が大損こいてると」
あれ。もしかして私マズイ事した?
「だ、大丈夫。私は強いから。なんとかなる」
「強さというより、賢さの問題……なんで態度デカイんですか」
「悪い事してないし」
「そうですね。天然ですもんね。もう何も言いませんよ」
衣玖は目頭を押さえた。何かを諦めたようにも見える。
「……私は、何も言いませんが。幻想郷中の権力者が、総領娘様に言いたい事が有るそうで」
「言いたい事? お礼かしら」
「……私も出席しますから。一緒に謝りましょ、ね?」
「幻想郷の経済は、誰かさんがはっちゃけてくれたので色々と酷い事に。それはご存知よね」
なんだ。いきなり嫌味?
「参考資料を……えーと、お願い咲夜」
「ええ。順番に読み上げます。まずは霧雨邸ですが、急な景気悪化でローンが支払えなくなり、売却されてますね」
「まあ可哀想」
「今ではマーガトロイド邸の居候となり、『毎日洋食ばっかで太りそう。歯磨きまで手伝ってくるので、ストレスたまるぜ』との事」
それ、幸せなんじゃないか。
「次に、守矢神社。八坂神奈子が、資金繰りのためにパンツを売却。すると東風谷早苗の機嫌が治り、瞳のハイライトも復活したそうです」
「あら。あのまま nice god 路線で行くと思ったのに」
良かった。放送禁止な結末にならなくて本当に良かった。
「最期に、上白沢慧音。『燃える英単語~もこたん~がアニメ化されたのはいい。凄くいい。だが変身シーンに規制が入るため、怒りのあまり気が狂いそうだ』と目を血走らせておりました」
「お前は既に狂ってる。そう伝えてやりなさい」
「かしこまりました」
もう何が何だか。
「分かるかしら。比那名居天子――貴方のおかげで、幻想郷中に不幸の連鎖が起きてるの。一連の経済的損失を、そうね。サブプライドショックとでも呼ぼうかしら」
この洋ロリ、無駄に偉そうでムカツク。レミリア……とかいったっけ。
「いや、実際偉いんですってば」
すみっこで小さくなってた衣玖が呟く。
あのね。いつだって堂々としてないと、舐められちゃうよ。
「もしや総領娘様、状況を理解……してませんね」
「というか最初から、よく分かんないうちに巻き込まれ続けてるんだけど」
「当事者なのに自覚不足ですか……。あのですね。今は、頭を下げるのが仕事です」
だからそれが気に入らないと。
「あの吸血鬼の資金援助を得ないと、幻想郷経済は崩壊しちゃうかもなんです」
ふぅん。あのチビっ子、そんなにお金持ちなんだ。
なんか場を仕切ってるし。権限有るのね。
「いや、この会議においての権限は無いです。有るのはお金と実績だけ」
「はあ?」
「この、『幻想郷における自称カリスマ達の会議』はですね。昔、霧の件で幻想郷中に迷惑をかけたから、とかいう理由でレミリア嬢からたかる事で成り立っているそうで」
「え。そんな昔の異変でたかられてんの?」
「貢献を続ければ、いつか理事になれると信じてるのか、それとも義理堅いのか」
お金や、美味しいお茶を用意したり。行き場の無い妖精をメイドとして雇ったり。見た目がアレなので、萌えを振りまいていたりだと。
んー。レミリアの奴、とっくに幻想郷へ利益を与える側にまわってるんじゃあ……。
「紅魔館は、幻想郷のために全力で経済支援するわ!」
この吸血ロリータ、理事にしてくれる見込みの無い議会へ資金注入だと。
「お人よしというより、マゾです。もしくは浪費家」
「なんだか親近感湧いてきたわ」
この紅魔館は好きになれるかも。
と思えば傍にはべらせていたメイドが倒れる。貧血?
「きっと資金援助の額を見て、眩暈がしたんでしょう」
「従者はケチなんだ」
「お金を稼いでくるのはメイド達ですから。金使いの荒いトップを持つと、大変ですよね」
そんなに苦労してるなら、主を幼女にしなきゃいいのに。
「紅魔館のメイドは、大体ロリコンですから。幼女を崇拝してないと労働意欲が失せるんです」
立派な人達の集まりかと思ったけど。一番病んでるんじゃないかそれ。
そして結論らしい結論を出さないうちに終わる会議。なんだったんだ。
お金が動いただけじゃない。
「その、お金が動くという事が重要な訳で。大丈夫、また稼げるようになりますよ」
んー……。衣玖が、ここまでお金に執着するのは何でだろ。
顔もスタイルも良くて、仕事も出来る方なのに。これ以上、何を求めるのさ。
「ははは。お金が有れば……幸せが買えるかどうかは知りませんが。権力は買えるでしょう」
「なに? 女帝にでもなりたいの?」
「女帝というか……裏で世論を操作出来るくらいの身分には……」
ハッキリしないなー。
「……私の名前って、変わってるじゃないですか」
「永江衣玖。普通の名前じゃない」
「いや、アレな言葉と同音っていうか」
「アレってなに」
これだからねんねは、と。何やら失礼な物言いをする。
「だから、アレな言葉ってなに」
「あー、じゃあ教えますよもう」
何故に内緒話風で囁く。
……ふむ。『衣玖』と同音のイケナイ言葉とは……え。よく分かんない。
どういう……だってそれは……そ、そそそそれって、そんな風にしたら……うあ!?
……そうなっちゃうの?
「わかりますか。私の名前には、大変けしからん響きが有るのです。昔から男子にからかわれたりでそれはもう」
「す、凄いんだね! まだ顔が熱いわ!」
「別にこの名前自体が嫌いな訳じゃないんです。例の言葉さえ、この世に無ければいいんです」
「それで?」
「例の言葉の使用をですね。規制してやろうと。そしてゆくゆくは、私の名前には健全な意味合いのみが残るようにと」
そんな深刻な悩みなんだ……。
「言論統制するには、多大な権力やお金がいるって……思って……」
何も泣かなくたって。
「ね、面倒なのはみんな、私が地震でやっつけたげるよ。もう泣き止んだら」
「うん……。いや、また地震起こされたら困ります。ていうか何か有るたび腕力で解決とか」
「駄目なの?」
「常に頭の中も計画性も真っ白では、同じ事の繰り返しですから」
……分かったわ。今度からは、思慮深く。狡猾に。いっそドス黒い、と言われるくらい計画性たっぷりな子になるわ!
「その意気でお願いします」
「ところで、さっき街頭アンケートとかいうのされてね、なんか話の流れで壷とか買うことになったんだけどどうしよう。なんとなく騙されたってのは分かるんだけど」
「全然思慮深くなってな……贔屓目に見て、半分くらいしか黒くなってないじゃないですか」
笑ってしまうからなおタチが悪い! ……もちろん誉め言葉です、ええ。
って、笑い事じゃねぇよ!!
年明け早々にロリコン氏のSSが拝めるとは……ありがたやありがたや
わけがわからない
いえ、待っておりましたとも! 相変わらずで安心しましたw
お帰りを心待ちにしておりました
それにしても衣玖さん黒いなwww
今年は大吉だな
今年も応援してますwww
う、裏切ったな!? 僕の純情を裏切ったな!?
本文の笑いと風刺の絶妙なバランスに尊敬。
>立派な人達の集まりかと思ったけど。一番病んでるんじゃないかそれ。
うん。そこまで合ってる。
幻想郷のマネジメントを知る良い機会となりました。そして・・・
小さければ良いというのですか!ww
で、去年から心の底からひそかにそっと想っていたのですが
あなたの幻想郷はどこまで俗世の垢にまみれているんですかwww
ぱんつバブルはまた来る! 底値のうちに買い占めるんだ!
故に自重しないでもっとイくんで(龍魚ドリル
時事ネタを上手く盛り込んだ内容は相当面白かったです。
そして、何この作品ww
いいぞ!もっとやれ!
さすがロリコン閣下殿だ!
こんな衣玖さんもステキ
……ところでパンツ今なら安値で買えますよね?
うまく言葉にできないが、間違ってると思う。
うまく(ry
より切れ味鋭くなってきましたね
う、売るぞ!
だからその値崩れしたパンツをよこすのです。
面白かったです。