眼が覚めた。
おはよう、私。
多分七時くらいじゃないかしら、今。
冬真っ盛りな朝。外に出て見ないと分からないけど、多分雪はちらついていない。
でも、布団から少し這い出たら肌に染みるように寒かった。冷え切った空気が肌を刺す。
「寒い」
一晩中ずっと空は晴れていたらしい。どうも、今でも晴れているようだ。これが放射冷却とかいうよく分からない効果だろうか(紫が前言っていた。でも、あれの話は滅茶苦茶でよく分からない)。
彼女に罪はないけどレティは自重して欲しい。何もしてないんだけどね? それと、冬将軍断固反対。こっちがメイン。カエレ。
「デモでも起こしてみようかしら……」
冬将軍幕府はいますぐ解散せよ。冬反対、氷点下反対、地獄鴉よcome here。そうやって幻想郷中を練り歩く。
そして何事かと人が集まったとき、あの鳥頭――鴉頭?――が言うのよ。首をくきっと傾けて、
「うにゅ?」
そして我々は世界を手に入れる。
人は集まるはずよ。たわごとを呟いて布団にGet Back、もぞもぞ。
ああ、暖かい。くるまる。外から見たらまるで芋虫か何かのように見えるだろうけど、そんなことは気にしない。
誰か来たって魔理沙だのレミリアだの紫だの萃香だの、気心の知れた奴――いや、訂正しよう。ぶっちゃけどうでも良い奴――ばかりで、見られて恥ずかしい相手なんて来やしないから。
そもそも、見られて恥ずかしい相手って、いないなぁ。
おっと、そんなことはどうでもいい。今は布団の暖かさを受け止めよう。ぬくぬく。
二度寝って何て素晴らしいんだろう。私はその言葉に込められた至福をかみしめる。こういう事ができるのも、秋には狂ったように葉をつけていたイチョウが、こないだようやく丸裸になってくれたからだわ。秋姉妹に落葉させて萃香に萃めさせた甲斐があったわね。
掃除しなくていいってことが、こんなにも素晴らしいなんて、ああ、よきかなよきかな。
――おやすみ。
そうやって私が頭まで布団を被り、母親の胎内でとっていたような体勢になったときだ。
どったんばったんどったんばったん、廊下を駆けてくる音。やかましい。
音は私の部屋の前で止まる。ちょっと待った、これ部屋に入ろうとしてる? うわちょ、やめてよ寒い。
「助けて霊夢ッ!」
時速380キロメートルで障子が開いた。
で、まあ、当然ながら、容赦なく外の空気が入り込んできて――、
「さーむーいー」
寒い。
「いいから助けて霊夢!」
事もあろうにそいつは私の布団をぐいぐいと引っ張ってくるじゃないの。なんという暴挙。私に幸福な惰眠を貪らせないつもりか。眠る権利は誰にだって認められているはず。紫が取りすぎな気がしなくもないけど。
私の眠る権利を奪うとは、良い度胸をしている。
大体何よ「助けて霊夢」って。永琳でも呼んできなさい。右腕を上げて下ろしただけで誠心誠意真心込めて助けに来てくれるわよ。
恨みを込めた眼で、私の愛すべき布団を引っ張る悪魔を見ると、
「優曇華?」
しまりのない耳。間違いない、永遠亭在住のヘタレ兎だ。しかしまぁ何だってまた。
あー、こら、やめい。布団を引っ張るな。
「助けて、霊夢」
「えー、寒い」
切迫感の籠もった声。同じ事を三回も繰り返すだなんて、よほど大事なことらしい。私の寝起きなたるみきったテンションとは大違い。
ああ、寒。おお、寒。
「霊夢ーっ」
おい、こら、布団を引っ張るなと。
「あー、寒い」
健闘むなしく、私の布団は悪魔の如きヘタレに奪われた。何この力、萃香並。いや、私が寝起きで力が入らないからか。
「そんなこと言ってる場合じゃないんだってば」
知るか。私の布団を返せ。
ヘタレは私の布団を完全に奪い取って我が物としている。レミリアよりよっぽど悪魔ねあんた。
布団に手を伸ばす。だがヘタレは布団を引いた。私の手に合わせてだ。返さないつもり?
よし、いいだろう。今度から夜道を歩くときは注意しなさいな。後ろから夢想妙珠が来るわ。
「ねぇ、布団返してくれない?」
「霊夢、いくら何でも普段着で寝るのはどうかと思う」
「いいじゃない別に恋人その他に会うわけでなし。っていうか話題を逸らすな布団返せ」
「……はぁ、あのねぇ……」
何、何で溜息なんてついてるのよ。私何か悪い事した?
「って、そんなこと言ってる場合じゃない。助けて」
「一体何? そんなに狼狽して。っていうか布団返せ」
ヘタレ悪魔兎は布団をぎゅっと深く抱え込み――明らかに私に対する嫌がらせだ――話し始めた。
「てゐの悪戯を喰らったのよ」
「お人好しだからねあんた。学習すればいいものを。で、どんな悪戯だったわけ?っていうか布団返せ」
「もっと不思議のダンジョン98Fでリセット。布団は返さないわよ寝る気でしょ?」
もっと不思議のダンジョン98Fでリセットですって――!?
あの宇詐欺、何という事を。それは博麗的に、かつ幻想郷的に許すべからざる悪業。その点はヘタレに同情する。宇詐欺め、今度会ったら後ろから夢想天生だわ。
勧善懲悪、勧善懲悪。っていうか布団。
「いや、悪戯の内容はこの際どうだって良いんだけどね。それでぶち切れた私はてゐを追いかけたわ」
それはそうだ。ただ追いかけただけならまだ寛大だろう。
私なら全てのスペルカードでもって塵も残さず滅殺するわ。来世まで呪い続けてやる。
私はヘタレに話の続きを促した。
「てゐの手口は巧妙だったわ。私が追いかけてくる事を予測してた。奴は廊下の突き当たりに油を撒いておいたのよ」
「あんた、油で滑って転んだわけ?」
なんとまあ、コントの香りがすることか。
「正解。それだけなら良かったんだけど」
そこまで言うとヘタレは、思い出すのも恐ろしいと言わんばかりに震えだした。
……まぁ、大体理由は分かるけどね。
「転んだ先にちょうど師匠の実験室があってね」
うわあ、何て分かりやすい展開。王道というか陳腐というか。
会う度に思うけど、このヘタレ兎はつくづくヘタレの王道を行くヘタレだわ。
「いや、普段なら別にどうってことも無く終わるのよ。けど、ここ一ヶ月の間、師匠はずっと薬を作ろうと実験室に籠もりっきり。なんでもフェリックスなんたらとかいう薬らしいんだけど」
うわあ、何て分かりやすい展開。……あれ、この発言デジャヴ?
話す度に思うけど、このヘタレ兎はつくづくヘタレの王道を行くヘタレだわ。……あれ、この発言デジャヴ?
「それでブチ切れ?」
「うん。あー、ブチ切れっていうか……いや、あれをあのまま放っておいたら危ないって」
で、私に助けを求めてきたというわけか。
人をたたき起こしておいて自分のミスの尻ぬぐいをさせるとは。ヘタレ、貴様良い度胸だな。
そして私の布団を返せ。
「ねえ霊夢、助けてってば、ねぇ、ねーえー」
ああもう、揺さぶるな揺さぶるな。
「どうせ助けるまで居座るつもりなんでしょうが」
ヘタレの顔が輝く。全く、現金な奴。
「ありがとう霊夢、今度ウチで獲れた人参持ってくる」
「それはやめて」
口を尖らせるな。いくら何でも人参を主食にできるほど落ちぶれちゃ無いっていうのよ、人間は米よ、米。米が有ればご飯三杯は行けますよ。
私は立ち上がって肩を回し、部屋の外に出る。
「で、永琳は何処にいるわけ?」
「分からない。狂気の瞳まで使って必死に逃げてきたから。でも多分、あっちからすぐに来ると思う」
あの医者、随分おかんむりらしい。わざわざ狂気の瞳まで使うなんてねぇ。
にしても、なんであっちから来るといえるのか。撒いたなら、ここをかぎつけるのにもっと時間がかかるはず。
「何で?」
聞いてみた。ヘタレは小さな機械を取り出して、
「服の襟に発信器付いてた」
馬鹿だ! こいつ馬鹿だ!
そう私が心の中で叫んだときだ。
境内に軽いクレーターが生まれた。
これどうやって元にもどそうかなぁ。
ヘタレといい降ってきた医者(砂煙で見えないが多分そうだろう)といい、何で今日は人の迷惑を考えない連中ばかり来るんだろう。
そこまで考えて、レミリアだの萃香だの紫だの魔理沙だのの事を思い出した。なるほど、今日に限った事じゃないわけだ。
今度からお茶を有料にしようかしら。……却下。どいつもこいつも踏み倒すに決まってる。
まあ、そんなことより。
「……うどん」
「ちょ、何その呼び方。……はいはい、人参にプラスで境内の補修ね」
察しの良いヘタレだ。だが人参はいらん。
「分かってるじゃない、香川県」
「やかましい。まあ、命あっての物種っていうからね」
理解力あるヘタレがそれを言い終わったとき、クレーターから揺らめく砂煙に、人影が映った。
見るからに永琳です本当にありがとうございました。目立つ帽子のお陰ですぐわかる。……何となく、リボンを弄った。人の振り見て我が振り直せ、か。
いやいや、リボン付けてる奴なんて他にも居るわよ。ナースキャップ(?)は一人しかいない……はず。
砂煙が止む。
そこには鬼女がいた。
「うぅぅどぅんげぇ」
「ひっ」
そりゃあ、自分の師匠が何かしらのオーラを纏わせながら自分をギロリと眺めた日には、びびりもするだろう。まして、睨まれたのはヘタレな訳だし。
しかし、ヘタレって優曇華って名前じゃなかったっけ? うどぅんげぇだったらしい。私の記憶違いか。
「れ、霊夢、助けてよ」
うどぅんげぇは私の腕を掴んで揺する。冷え症だこいつ。手が冷たい。
うどぅんげぇには悪いが、ぶっちゃけて言うと、助けるのは無理な気がする。助けるにはこの永琳――彼女に思いを寄せる里の男連中が見たら卒倒しそうな状態の永琳を倒さなくてはならない。
そいでもって、こいつはスペルカードルールなんて知ったこっちゃないと言わんばかりの雰囲気をぷんぷんと漂わせているわけで。………スペルカードルール抜きじゃ私なんて、空が飛べることを除けば普通の人間だもんなぁ。
「三十分と少しぶりね、優曇華。新薬実験のモルモットになる準備はできたかしら」
今の永琳、もし角があったら萃香や勇儀以上に鬼っぽいわ。いや………あの二人なんて足下にも及ばない鬼っぽさだわ。
うどぅんげぇが後ずさった。三十メートルほど。
「ええと、うどぅんげぇから頼まれてる以上、あんたを追い返さないといけないんだけど……追い返さないといけないんですけど」
お祓い棒片手に言う。
ぎろっ。
奴の目が私を見た。怖い、超怖い。博麗史上最大の怖さだわこれ。
さとりが見せるトラウマなんて大したこと無いわよこれ。トラウマも真っ青になって逃げ出す恐怖っぷりよ。「眠れる恐怖 ~Sleeping terror~」どころか「起きてる恐怖 ~Terror of staying up~」だわ。
「邪魔するつもりかしら?」
滅相もないです。そう言いたい。言わせてください。
顎が震えるわ足がすくむわで何も言えないから、とりあえず札を構えた。
私ってば律儀すぎ。おっぽり出して逃げても良いのに。
「そう」
永琳が身体をゆっくりとこちらへ向ける。
どうしよう。うどぅんげぇに騙された気がする。っていうかあいつ何処に行きやがった。逃げてないで手伝えっていうのに。
「用があるのは優曇華だけなのよね。あなたに恨みはないし、弾幕でけりを付けようじゃないの?」
恨みがあったら何でけりを付けるつもりだったんだろう。考えたくもない。
永琳がスペルカードを構えた。見たことのないカードだ。私も「夢想天生」を構える。そりゃあ本気よ。なりふり構ってられないんだから。
一応永琳には理性もあるようだから、死ぬようなことは無いと思う。ルールを遵守すれば自然とそうなるし、第一私を殺すようなことがあれば、紫が黙ってないだろう。
でもまあ、怖いものは怖い。
「セット スペルカード」
永琳が舞い上がる。私も合わせて飛んだ。
間合いを取った。相手のカードが何か分からない以上、近づくのは愚策………本音としては、近くにいたくない。
初見のスペルカードを避けるのは難しい。あれが放たれたら、確実に永琳のペースになるだろう。相手のペースにさせない為には、こっちが積極的に攻めなくてはいけない。
つまり、先手必勝。
「『夢想天生』!」
一撃必殺で決める。全力を込めた宣言。
けど、永琳は全く動かない。そしてカードを宣言する。
「蘇活『八意遊戯 -エーリンゲーム-』――!!」
その弾幕は、私の戦意をストップ安にするには十分すぎた。
その間、数時間。
「ふわぁ」
窓から差し込む日光が目に染みる。
良い浅田。いや、朝だ。
いや、朝だなんて大嘘だ。
どうやら昼過ぎらしい。寝過ぎたか。まあ、用事もないから構いやしない。
寝巻きからいつもの服に着替えて、昨日作って残しておいた味噌汁と飯で簡単な朝食――うんにゃ、昼食をすます。
食べ終わって、食器をにとりから物々交換で貰った自動皿洗い機にかける。奴には外の世界の機械をくれてやった。私だって借りてばっかりではない。たまには正当にかつ完全に所有権をもらうのだ。
まあ、あの機械は香霖から借りたものだが。
さて、それにしても……暇だ。
「暇だ」
言ってみたってしょうがない。
することがない。今のところ、これといってやりたい実験もない。
こういう日は図書館かアリスの家か香霖の所だな。
香霖の所からはこないだ機械を借りた。にとりとの物々交換に使った奴だ。あんまり一人から集中して借りるのはよくないな、うん。
アリスにはこないだクッキーをもらったっけ。他意も好意も無く、純粋に作りすぎたからくれた。飾り気もへったくれもないクッキーだったが、まぁ美味かったな。人をゴミ箱代わりにするなとは言いたいが。あんまり一人から集中して貰うのは良くないな。
図書館は最近ご無沙汰だな。多分もうそろそろ、あそこの本達が、私に持って行かれたくて今か今かとうずうずしている頃だろう。多分。
よし、決まった。図書館にしとくか。今日は精霊術関係の本を借りるとするかな。
そこらに散らかるマジックアイテムを部屋の隅に放り投げて(小さな爆発音がしたが、まあ大丈夫だろう)、新たにやってくるであろう本の為のスペースを作っておく。
ベッドの上に放ってあった八卦炉とスペルカード(門番と咲夜対策だ)、立てかけてある箒をとって、玄関のドアノブに手をかけたときだ。
「助けて魔理沙ッ!」
「イェアァッ!?」
ドア、顔面直撃。いくら木製でも痛い痛い。鼻折れたりしてないだろうなこれ。乙女の顔が台無しだぜ。
涙の浮かぶ目で、コントのような真似をしてくれた奴――突然の来訪者を見た。大体、私の家(と書いて、『こんなへんぴな所』と読む)に訪ねて来るような酔狂な奴って誰だ?
「……霊夢と、えーと……あー……う、う……うだ、うぢ、うづ……。喉まで出てるんだよ、喉まで。……あっ! うどんだ、うどん」
「何その忘れたのを必死に思い出してます的な。っていうかあんたも私を香川県呼ばわりしますか」
その酔狂な奴(もとい、奴ら)は、霊夢と後……うどんじゃ無いらしいから、とりあえず仮名で済まそうか。へたれた耳がきしめんによく似た香川県だった。
「どうしたんだお前ら。私の鼻を犠牲にまでして、一体何事だ?」
痛みが大分引いた。やれやれ。鼻をこすりながら訊いた。
これでしょうもない用事だったらどうしてくれよう。とりあえずマスパとミルキーウェイとアステロイドベルト、それにアースライトレイもおまけに付けるか。出血大サービス、文字通り「出血」大サービスだ。
「うどぅんげぇに騙されたわ」
「あっ、そうだ。そういえばうどぅんげぇだったな、こいつの名前」
「アンタらな!」
うどぅんげぇが心底不服だと言わんばかりの顔でこっちを見ている。こっちがしたいぜその表情。なんてったって爽やかな朝(もとい昼)だったのに、顔面ドアで全部ぶち壊されたからな。
「助けてって言ってたな、そういや。それと何か関係があるのか?」
「ありあり、大ありなのよ」
霊夢がこんなにも動揺するのを私は見たことが無い。きっととんでもない何かが起こったのだろう。しかし、霊夢の手に負えないようなことなら紫を頼ると思うんだがな?
「まあいいさ、とりあえず上がれよ。汚い所だが茶くらいは出すぜ。急須と湯飲みを探すの、手伝ってくれたらな」
急須に湯飲み。マジックアイテムに埋もれてると思う。
掘り出したところで使えるのかどうかは微妙だ。アイテムにあてられて変質してしまっているかもしれない。
「悪いけど遠慮しとくわ。時間がないし、家の中にはいない方が良いと思う」
うどぅんげぇが私の誘いを蹴ってくれた。
――時間がない? 家の中にいない方が良い? 全く持って意味が分からん。
「そんなに大変な状態なのか、お前ら?」
霊夢が頷いた。
「まあいい、家の中にいない方がいいってんなら、外で聞いてやる。出ようぜ」
私は霊夢とうどぅんげぇを連れて家の外へ出た。
魔法の森の空気は悪く、長話するのには向かない(呼吸するのにすら向いていないんだからな)。
パチュリーのスプリングウィンド(こっそり真似た)で胞子を吹っ飛ばし、簡易障壁を張る。家の周りを清潔な空間にする為だ。
「問題ないぜ、これで延々と長話しても肺にキノコが生えてくる事は無い」
多分ね。
私は二人に、本題に入るよう促す。助けろと言われても、何から助ければ良いのかわからん。と言うか、まだ助けるとは決めていない。異変解決大好きな私とて、ただで人助けをするわけではない。そんな事してたら「霧雨魔法店」は潰れる。今も開店休業だがな。
私の趣味である異変解決は儲からないと思われそうだが、そうではない。道中で色んな奴から色んな物を借りていくから、がっぽりだ。例えば早苗がやって来たとき、山から山の幸をどっさり借りて帰った。霊夢の神社が潰れたときは、天界から桃を借りたし、地霊騒ぎのときは鬼から酒を借りた。
当然、弾幕するわけだからハイリスクではある。でもリターンとリスクがイコールなのだから構わない。世の中、リスクがリターンより大きくなることはあるが、その逆は無い。
うん、二人が直面している問題のリスクと同じくらいの見返りは欲しい。まあ、二人からは色々借りてるから割引サービスはするが。
「てゐの悪戯を喰らったのよ」
うどぅんげぇが言った。
「オーケー、もう全部分かったからこれ以上何も言わなくても構わないぜ」
「ちょ、最後まで聞いてやりなさいよ」
霊夢が私をたしなめる。そうは言ってもなぁ。
「アレだろ? てゐの悪戯に切れて追いかけた。そしたら、てゐが廊下の突き当たりに油を撒いてて、うどぅんげぇは見事に転倒、するとその転んだ先には永琳の実験室があった。永琳はここ一ヵ月間、薬を作る為に実験室に籠もりっきりだ。その状況で突っ込んで、しかもグチャグチャにしたもんだから、永琳がぶち切れて追いかけてきてる。違うか?」
「「読心術!?」」
魔理沙さんを舐めるなよ。同じ流れを延々とするのは不毛・行数の無駄だからな、それを回避するくらいの気配りは持ってるんだ。
「まあ、私がうどぅんげぇから聞いた話だと、その通りだわ」
霊夢が頷いた。大方、うどぅんげぇに巻き込まれたんだろ、お気の毒様。
どうでも良いけどさっきから、うどぅんげぇが名前を呼ばれる度にゲンナリしてるんだが、理由が分からん。何故?
それは置いておくとして、問題は永琳だ。
「で、このまま行くと私は、怒り心頭の永琳と戦わなきゃならなくなるわけだな?」
「まあね。あんたが駄目って言うなら別に構わないわよ、うどぅんげぇを生け贄にするわ」
うどぅんげぇの顔が絶望に震えた。ああ、どうやら以前も似たような事をやらかして酷い目に遭ったらしい。
何となく、ほっとくのは良心が咎める。
「しょうがないな……うどぅんげぇ、永遠亭にあるレアな薬草とかその他諸々、それで手を打ってやる」
うどぅんげぇの顔が希望に染まった。足下を見た要求をしたつもりなのにな? とっつかまるのに比べたら随分安い出費って事か。
ぶっちゃけ、まさか条件を呑むとは思ってなかった。蓬莱人は厄介だから、弾幕したくないんだけどなぁ。
……にしてもこいつ、よく逃げ出してないよな。こいつくらい真面目で従順なら、紅魔館でもマヨヒガでも働けるだろうに。思いついてないなんてことは無い……よな? 気付いてなかったらチルノ並だぜ。
「で、永琳は何処に居るんだよ」
「あー……すぐに来ると思うわ」
霊夢が気まずそうに答えた。はて、すぐにやって来る?
「何だ、場所が特定されてるのか? うどぅんげぇの能力を使えば、逃げの一手は簡単な気がするが」
霊夢とうどぅんげぇは小さな機械を取り出して、
「「服の襟に発信器付いてた」」
馬鹿だ! こいつら馬鹿だ!
私がそう心の中で叫んだときだ。
私たちが立っている所から二十メートル、クレーターが出来た。
ビックリした。まあそれはどうでもいい。クレーター、どうやって戻すんだよ。
かかる手間を考える。面倒くさい。永琳倒して、うどぅんげぇといっしょに後片付けさせるか。
クレーターからもうもうと立ち上る砂煙、そしてキノコの胞子。やれやれ、さっき障壁張っておいて正解だったぜ。無かったら、あの煙と胞子のまっただ中に立ってるところだ。それは健康によろしくなさ過ぎる。
「で、うどぅんげぇ、あれ埋めといてくれな」
「はいはい」
「はい」は一回で十分、教わらなかったらしいな。魅魔様そのあたり厳しかったなぁ。
おっと、懐古してる場合じゃ無い。砂煙が収まりつつある。永琳の姿がうっすらと見えてきてるな。特徴的な帽子だぜ……っていうか、この森の胞子って蓬莱人にもあんまり良くないと思うんだけど、何で平然と立ってるんだ。
「うぅぅぅどぅんげぇ、れぇいむぅ」
うわ。
これが永琳の声かと思うような、地の底から響く声。お前誰だよと言いたい。
「私も対象!?」
らしいな。ご愁傷様だぜ。蚊帳の外って安心感あるな。助かったぜ。
「数時間と少しぶりね、優曇華、霊夢。危険薬物の投薬実験を手伝う気にはなってくれたかしら、主にモルモット的な意味で」
やれやれ、物騒な台詞だ。うどぅんげぇはともかく霊夢が不憫になってくる。あいつ巻き込まれキャラじゃ無かったと思うんだけどな。
にしても今の永琳、まるで鬼のようだな。いやいや、鬼なんて比じゃないぜ。今のあいつに角を付けたら萃香や勇儀がゴブリンに見えちまう。
ぶっちゃけ、これに声かけたくないんだがなぁ。
「あー、永琳、その、何だ。一応頼まれてるからさ、帰って欲しいんだが」
ぎろりん。
奴の目がこっちを睨んだ……怖ッ! 何その目こっわ!
「貴方に用は無いの。消えてくれないかしらねぇ」
「そうしたいのは山々だが、家の周囲を荒らされて魔理沙さんも黙っちゃいられないぜ」
嘘だ。黙りたい。もの凄く黙りたい。だって今の永琳、スペルカードルールに従うかどうかも怪しい。
スペカ抜きじゃあさすがに勝てないよなぁ。まして相手は何かこう――あいつの姫様が見たら卒倒しそうな恐ろしさ。弾幕ですら勝てる気がしない。
「そう。用があるのは優曇華と霊夢なのよ。……どかないなら、弾幕でどかせる」
相手にまだ、弾幕を使う理性があったのは幸いだ。これが殴り合いだったらどうなっていたことか。だって奴の周りの空気、なんか歪んで見えるんだもん。
「セット スペルカード」
セットしないでください。言いたかったぜ。ああ、怖いさ。私だって怖いもんは怖い。その上で無茶するんだが――いや、これは無理。さとりとはもう弾幕できないな。この永琳を出してきそうだ。
永琳が舞い上がった。私も飛ぶ。しょうがないから飛ぶ。
あいつは一枚のスペルカードを取り出していた。速攻で勝負を決めるつもりだ。しかも、そのカードを私は見たことがない。
牽制も布石も無しに放つカード。多分、初見殺しと呼ばれるタイプのカードだろう。
あの手の弾幕は、パニックにならなければ容易に避けられる。回避はできる。
だが――もしそうでは無かったら? 焦りが心から抜けない。良くない傾向だ。「天網蜘網捕蝶の法」のような大技スペルカードが来たら。私らしくもない慎重すぎる考えだが、相手はバケモンみたいな状態だ。あり得ないとも言い切れない。
「私の時間は永遠にあるけど、あの子たちのは無限じゃないのよね。そう言うわけだから、悪いけど一枚で決めるわ」
永琳がカードを高らかに掲げた。宣言する気だ。私の狙いはマスパで一撃必殺、まだ早い。
「蘇活『八意遊戯 -エーリンゲーム-』――!」
マスパなんて私の考えから消えた。
その間、数時間。
「よく寝たわ」
思わず呟いちゃうくらいよく寝たわ。
睡眠用の隙間に備え付けたベッドから、落っこちて目ざめたらしくて、どうにも変な体勢。
まあ、あんまり良い目ざめ方じゃないわね、頭から落ちて、痛い。いくら妖怪って言っても、感覚はあるものねぇ、人並みに。
大きな欠伸を一つ、寝巻きからいつもの服に着替えた。
……寝巻きってつくづく邪魔ねぇ、着替えるのが面倒だわ。普段着で寝ようかしら、今度から。
頭の中で藍が呆れた顔をした。何よ藍、普段着で寝る方がずっと効率が良いでしょう、違うかしら?
頭の中の藍は溜息を吐いた。何よ。何か不満でも?
まあそれはともかく、隙間を開いてマヨヒガへ。
「藍、藍~、朝ご飯」
お腹が空いたわ、朝食、朝食。
藍を探して居間に入る。
あら、もう並んでるわね、さすが藍、主の起きてくるタイミングを計って食事を準備するだなんて、悪魔の狗並の素晴らしさね。ぱちぱち。
「お早う、藍。さっそく朝ご飯にしましょう」
藍はこっちを見て困ったような顔になった。何よ一体、私が何かしたかしら?
「お遅うございます紫様。早速夕ご飯にしましょうか。橙、ちぇーん」
――あら? 夕ご飯?
窓からちらと外を見る。鴉が鳴いて家に帰り、太陽は傾きつつあった。
「……ちょっと寝過ぎたわねぇ」
「ちょっとですか? ああ、お布団と寝巻きを洗いますから渡してください。今晩はマヨヒガの布団を使ってくださいな」
はいはい。隙間(至寝室)に手を突っ込んで布団と寝巻きを渡すと、藍は引っ込む。どこかへ布団を置いてきたのだろう。帰ってきた時には持っていなかった。
「ごはんっ、ご飯」
橙がやって来て、座る。お腹が空いていたらしい、待ちきれないようだ。
……どうでも良いけれど、私の焼き魚が藍と橙のより小さい気がするのは何故。気のせいよね?
「食べましょう、藍」
「はいはい、召し上がれ」
「頂きます」
「いただきまーす」
可愛らしいわねぇ、橙。いや藍も可愛いわよ? 小言がもう少し少なければ完璧。
箸を取って味噌汁に手を付けようとした、その時だ。
どったんばったんどったんばったん、廊下を駆けてくる音。誰よもう、せっかくの団らんの時間に。
「助けて紫ッ!」
「助けて八雲さん!」
「助けてくれ紫ー!」
時速380キロメートルくらいで障子が開く。そして三人が雪崩れ込んでくるわ。
「せわしないわねぇ。もっとどっしり構えてないと風に吹いて飛ばされるわよ」
「紫様はどっしりのんびりしすぎです」
あら、言うわねぇ藍。どうでも良いけど、橙が驚いてむせ混んでるわよ、背中さすってあげなさいな。
「ああっ、橙、大丈夫か?」
あらあら、そんなに慌ててさすって。藍、もっとどっしり構えてないと風に吹いて飛ばされるわよ。
で、この三人よね、問題は。
「マヨヒガにようこそ、人間二人に兎が一人、兎用のチケットなんてあったかしら?」
「兎の単位は羽なんだけど」
へにょった耳の兎が言った。別に良いじゃないの、人型なんだから。そんなこと言い出したら幻想郷内の「人」で数える生き物が人間以外に居なくなるわ。
……にしても、この子名前何だったかしら。竹林の診療所に居る子なのよね。霊夢と異変解決したときに弾幕した記憶が有る、楽しかったわぁ。
「うどぅんげぇ、そんな事はどうだっていいのよ。紫、助けて」
なだれ込んだ霊夢が座布団に座って、私に頼み込む。
ああ、うどぅんげぇだったわねそういえば。にしても、霊夢が私に助けを求めてくるなんて随分大変な事態なのねぇ。
地霊騒ぎも収まったって言うのに、一体次は何の異変? 神主様は冬コミお休みって言ってなかったかしら?
「とりあえず、何があったか話してごらんなさいな。取り合わせを見る限り大体分かるけどね。あの可愛らしい小さな兎の子、何て言ったかしら」
「てゐの事?」
ご苦労様、うどぅんげぇ。
「うどぅんげぇがてゐの悪戯に切れて、追いかけた。そしたら、てゐが廊下の突き当たりに油を撒いてて、見事に転倒、するとその転んだ先には永琳の実験室があった。永琳はここ一ヵ月間、薬を作る為に実験室に籠もりっきり。その状況で突っ込んで、しかもグチャグチャにしたものだから、永琳が鬼神となりて追いかけてきている。当たり?」
「「「読心術!?」」」
同じ流れをやることで笑いを誘うって手法もあるのよ。天丼とか言ったかしらね。八雲の名を持つからにはメタ的要素も持ってなくちゃね。藍はその辺がたりてないのよねぇ……。
で、三人揃って驚くって事は、大当たりご名答パンパカパーンってことね。
おおかた、霊夢と魔理沙は巻き込まれたってわけ。お気の毒様としか言いようがないわねぇ。
「そういうわけなんだよ、助けてくれ紫」
そうねぇ、正直言ってメリットがないのよね、助けることには。うどぅんげぇはともかく、霊夢と魔理沙は助けてたって何の報酬も得られなさそうだし。
第一、助けるって永琳を追い返すってことでしょう? 面倒だわぁ。いくら私が強くったって、相手が不死身じゃどうしようもないわ。持久力が無限だもの。
「紫様、どうするんです?」
「ん~、どうするもこうするもねぇ。どうしようかしら、面倒だわぁ」
「紫、お願い」
「八雲さんっ」
あー……別に良心の呵責とか無いんだけどねぇ。けど、首を縦に振ろうが振るまいが、結局居座り続けるでしょうね、この子達。そしたら永琳はやって来る。否応なしに。この子らが居る限り。
選択肢なし、か。あぁ、厄日だわ。働きなさいよ厄神様。
「はいはい、分かったわよ。助ければいいんでしょう。藍、やっといて」
「私ですかっ!?」
何、予期してなかったの? 駄目よそれじゃあ。八雲の苗字を持ってるんだから私と同じ様な思考形態を持たないきゃあ。
……何かしら、その嫌そうな顔は。永琳を追い返すのが嫌? それとも私と同じような思考形態を持つこと? 後者だったらきっついお仕置きをしなきゃねぇ。
はいそこ、助平な事を考えない。ここは全年齢向けよ、全年齢向け。Are you all right? 一応英語も喋れるのよ。他には……「Verstanden Sie es?」なんてどうかしら。
「うう、あの人は嫌いなんですよ。何を考えてるのか分からなくて。それは紫様もですが」
あらあら、弾幕結界は確定ね、藍。自業自得よ。
「藍、準備しておきなさいよ、永琳、もうそろそろ来ると思うから」
藍と橙が怪訝そうな顔をする。三人もだ。
やれやれ、どうも気付いてないらしいわねぇ。
「服の襟、発信器付いてるわよ」
「「「二度あることは三度ある!?」」」
天丼だったのねぇ、それも三回目。良いわ、私が(藍が)そこで止める。四回もやったらさすがにクドいもの。
そういう決意をした時よ。爆発音がしたわ。
「何だっ?」
藍が縁側に出て、三人は部屋の隅に下がる。縮こまってるあたりからすると、永琳ね。私は橙を三人の所に残して、遅れて縁側に出る。
あら、大きなクレーター。
藍が愕然としてるわね。そりゃそうか、後片付けするの自分だものねぇ。
やたらと巻き上がった砂煙――このところ雨が降ってないからかしら――の中で、うっすらナースキャップが見える。一目でそれとわかる永琳っぷりだわ。
「ねぇ、お三方」
私は、部屋の中にいる三人に声をかける。
「クレーター、埋めときます」
うどぅんげぇが返事をした。分かってるじゃない。文句を言わないあたり流石永琳の助手、ちゃんと教育されてるわ。藍もあれくらい従順ならいいんだけど。
「さて……藍」
「何でしょう?」
スペルカードを構えている藍に声をかける。殺気を感じ取って、交渉で平和的に解決なんて選択肢が無いことを悟ったらしいわね。そこまで分かってるのなら、もう少し先も理解して欲しかったんだけど。
「下がってなさい、あなたじゃ手に負えないわ」
藍はどうも、打ち込んだ式に従わない悪癖がある。従っていれば私と同等の力で戦えるのに。
今のアレには藍そのものの力では勝てない。……やれやれ、実力差も計れないようじゃ、後を継いでもらうのはまだまだ先かぁ。さっさと隠居してぐうたら生活をしたいんだけど。
「ですが紫様」
「もう、私が弾幕するのがそんなに心配なのかしら? 式に心配されるほど弱っちいつもりは無いんだけど。あなたはのんびりお茶でも飲んでればいいの、ちょうどお茶好きの巫女が居るわよ、部屋に」
砂煙が収まってきている。さっさと藍には戻ってほしいわ。
「……あ、流れ弾のカット、よろしく」
私は藍にそう言うと、庭に降り立った。
クレーターに近づく。砂煙の中心に何か居るわね。まあ、永琳なんだけど。
いいわねこのシチュエーション。「宇宙から降ってきた謎の隕石を調査する特殊部隊の兵士」みたいな感じでワクワクするわぁ。
まあ、相手が宇宙人だからあながち大間違いと言い切れないんだけどね。
「うぅぅぅどぅんげぇ、れぇいむぅ、まぁぁりすわぁぁ」
落ち着いて欲しいわ。魔理沙なんだか魔理諏訪なんだか分からなくなっちゃってるじゃない。魔理諏訪、なかなか新しいカップリングね。今度何かしら書いてみようかしら、そのネタで。
「こんにちは永琳、悪いんだけど帰ってもらえるかしら?」
砂煙が消えて、永琳の姿が現れてから、私は声をかけた――まあ、ホントにエイリアンだったらどうしようとか、ちょっとだけ思ったのよね。ちょっとだけ。具体的には、ここから月までくらいかしら。
ちょっとじゃないって? それは貴方が人たる証拠。私は一瞬で行けるわ。……というか、行ったのよねぇ。個人的に黒歴史なんだけど。
「……紫」
あら怖い。眼が真っ赤に光るだなんて、それ貴方の弟子の技でしょうに。怒りでそういうふうになれるものなのねぇ、驚き。
「ええ、もちろん帰るわよ? あそこでがくがく震えてる三人を渡してくれたら」
何よ、前半だけ聞いてちょっと喜んじゃったじゃないの。まあ、普通に考えたらそうよねぇ。これでハイそうですかなんて言って帰っちゃったら、何のためにクレーター空けたか分からなくなるものねぇ。
「あぁ、それ無理なのよねぇ。霊夢あたりに何されるやら分からないからね。逆恨みって恐ろしいわよ~」
永琳の眉が引きつった。あらあら、医者の不養生ね、カルシウム不足だなんて。
怒ると小皺が増えるわよ?
「邪魔する気?」
「いいえ、ちっとも。私は逆恨みが怖くてここに立ってる哀れな妖怪ですわ」
永琳の眉がさらに引きつる。面白いわねこれ。ギネス挑戦してみる?
なんて、冗談を言ってばかりはいられない。永琳がスペルカードを懐から取りだしたから。さすがに、何の準備も無しに戦うわけにはいかないわ。
私もスペルカードを取りだした。「ストレートとカーブの夢郷」で十分かしらね、小手調べには。久々に楽しい弾幕が出来そうだわ。
「哀れね。けど、どいてもらう」
「残念ながら、哀れな妖怪は巨大な岩となりました。のけることは出来そうにありません」
「岩をも穿つ物って、結構あるわよ。弾幕とか弾幕とか弾幕とか」
冗談が通じないわねぇ。そんなんじゃあ、お酒が美味しく呑めないわよ?
まあ、「巨大な岩はオリハルコン製でした」なんて言おうとした私は、子供過ぎるけれど。オリハルコンなんて、萃香あたりに砕かれるわねぇ。
「「セット スペルカード」」
永琳が飛び上がる。ま、地べたを這って弾幕は出来ないし、マヨヒガの庭がどんなに大きくても、そこで弾幕をされたら家屋はボロボロになるから。
藍に、流れ弾をカットするように改めて眼で伝え、私も飛び上がった。
空中で対峙する。円を描くようにくるくると回るけれど、距離は縮まることも伸びることもない。
どうもあんまり好きじゃない流れね。牽制のし合いって嫌いなのよ、時間がかかるから。そのあたり幽香は心得てて良いわぁ。
……ま、無駄口叩く余裕も、あんまり無いんだけど。
「罔両『ストレートとカーブの夢郷』」
あんまり倒す気もない、小手調べ弾幕。これくらいで手こずって欲しくないわね。まあ、墜ちてくれたら墜ちてくれたで有り難いんだけど。
簡単に抜けるかあっさり墜ちるか、どっちかにして欲しいわ。
永琳はスペルカードを掲げた。通常弾幕で切り抜けて欲しかったんだけど。
高らかに宣言。
「蘇活『八意遊戯 -エーリンゲーム-』――!」
聞いたことのないスペルカード。さて、どんな弾幕かしら?
そうやって、余裕かましてたのが間違い。
いや、もっと前ね。あの三人を追い返すべきだった。あるいは、永琳を隙間に放り込むべきだった。
無理よこんな弾幕。いや、弾幕は問題なし。問題があるのは弾。どうすればいいのよ、これ。
全ての弾が、ヤゴコロだなんて。
おはよう、私。
多分七時くらいじゃないかしら、今。
冬真っ盛りな朝。外に出て見ないと分からないけど、多分雪はちらついていない。
でも、布団から少し這い出たら肌に染みるように寒かった。冷え切った空気が肌を刺す。
「寒い」
一晩中ずっと空は晴れていたらしい。どうも、今でも晴れているようだ。これが放射冷却とかいうよく分からない効果だろうか(紫が前言っていた。でも、あれの話は滅茶苦茶でよく分からない)。
彼女に罪はないけどレティは自重して欲しい。何もしてないんだけどね? それと、冬将軍断固反対。こっちがメイン。カエレ。
「デモでも起こしてみようかしら……」
冬将軍幕府はいますぐ解散せよ。冬反対、氷点下反対、地獄鴉よcome here。そうやって幻想郷中を練り歩く。
そして何事かと人が集まったとき、あの鳥頭――鴉頭?――が言うのよ。首をくきっと傾けて、
「うにゅ?」
そして我々は世界を手に入れる。
人は集まるはずよ。たわごとを呟いて布団にGet Back、もぞもぞ。
ああ、暖かい。くるまる。外から見たらまるで芋虫か何かのように見えるだろうけど、そんなことは気にしない。
誰か来たって魔理沙だのレミリアだの紫だの萃香だの、気心の知れた奴――いや、訂正しよう。ぶっちゃけどうでも良い奴――ばかりで、見られて恥ずかしい相手なんて来やしないから。
そもそも、見られて恥ずかしい相手って、いないなぁ。
おっと、そんなことはどうでもいい。今は布団の暖かさを受け止めよう。ぬくぬく。
二度寝って何て素晴らしいんだろう。私はその言葉に込められた至福をかみしめる。こういう事ができるのも、秋には狂ったように葉をつけていたイチョウが、こないだようやく丸裸になってくれたからだわ。秋姉妹に落葉させて萃香に萃めさせた甲斐があったわね。
掃除しなくていいってことが、こんなにも素晴らしいなんて、ああ、よきかなよきかな。
――おやすみ。
そうやって私が頭まで布団を被り、母親の胎内でとっていたような体勢になったときだ。
どったんばったんどったんばったん、廊下を駆けてくる音。やかましい。
音は私の部屋の前で止まる。ちょっと待った、これ部屋に入ろうとしてる? うわちょ、やめてよ寒い。
「助けて霊夢ッ!」
時速380キロメートルで障子が開いた。
で、まあ、当然ながら、容赦なく外の空気が入り込んできて――、
「さーむーいー」
寒い。
「いいから助けて霊夢!」
事もあろうにそいつは私の布団をぐいぐいと引っ張ってくるじゃないの。なんという暴挙。私に幸福な惰眠を貪らせないつもりか。眠る権利は誰にだって認められているはず。紫が取りすぎな気がしなくもないけど。
私の眠る権利を奪うとは、良い度胸をしている。
大体何よ「助けて霊夢」って。永琳でも呼んできなさい。右腕を上げて下ろしただけで誠心誠意真心込めて助けに来てくれるわよ。
恨みを込めた眼で、私の愛すべき布団を引っ張る悪魔を見ると、
「優曇華?」
しまりのない耳。間違いない、永遠亭在住のヘタレ兎だ。しかしまぁ何だってまた。
あー、こら、やめい。布団を引っ張るな。
「助けて、霊夢」
「えー、寒い」
切迫感の籠もった声。同じ事を三回も繰り返すだなんて、よほど大事なことらしい。私の寝起きなたるみきったテンションとは大違い。
ああ、寒。おお、寒。
「霊夢ーっ」
おい、こら、布団を引っ張るなと。
「あー、寒い」
健闘むなしく、私の布団は悪魔の如きヘタレに奪われた。何この力、萃香並。いや、私が寝起きで力が入らないからか。
「そんなこと言ってる場合じゃないんだってば」
知るか。私の布団を返せ。
ヘタレは私の布団を完全に奪い取って我が物としている。レミリアよりよっぽど悪魔ねあんた。
布団に手を伸ばす。だがヘタレは布団を引いた。私の手に合わせてだ。返さないつもり?
よし、いいだろう。今度から夜道を歩くときは注意しなさいな。後ろから夢想妙珠が来るわ。
「ねぇ、布団返してくれない?」
「霊夢、いくら何でも普段着で寝るのはどうかと思う」
「いいじゃない別に恋人その他に会うわけでなし。っていうか話題を逸らすな布団返せ」
「……はぁ、あのねぇ……」
何、何で溜息なんてついてるのよ。私何か悪い事した?
「って、そんなこと言ってる場合じゃない。助けて」
「一体何? そんなに狼狽して。っていうか布団返せ」
ヘタレ悪魔兎は布団をぎゅっと深く抱え込み――明らかに私に対する嫌がらせだ――話し始めた。
「てゐの悪戯を喰らったのよ」
「お人好しだからねあんた。学習すればいいものを。で、どんな悪戯だったわけ?っていうか布団返せ」
「もっと不思議のダンジョン98Fでリセット。布団は返さないわよ寝る気でしょ?」
もっと不思議のダンジョン98Fでリセットですって――!?
あの宇詐欺、何という事を。それは博麗的に、かつ幻想郷的に許すべからざる悪業。その点はヘタレに同情する。宇詐欺め、今度会ったら後ろから夢想天生だわ。
勧善懲悪、勧善懲悪。っていうか布団。
「いや、悪戯の内容はこの際どうだって良いんだけどね。それでぶち切れた私はてゐを追いかけたわ」
それはそうだ。ただ追いかけただけならまだ寛大だろう。
私なら全てのスペルカードでもって塵も残さず滅殺するわ。来世まで呪い続けてやる。
私はヘタレに話の続きを促した。
「てゐの手口は巧妙だったわ。私が追いかけてくる事を予測してた。奴は廊下の突き当たりに油を撒いておいたのよ」
「あんた、油で滑って転んだわけ?」
なんとまあ、コントの香りがすることか。
「正解。それだけなら良かったんだけど」
そこまで言うとヘタレは、思い出すのも恐ろしいと言わんばかりに震えだした。
……まぁ、大体理由は分かるけどね。
「転んだ先にちょうど師匠の実験室があってね」
うわあ、何て分かりやすい展開。王道というか陳腐というか。
会う度に思うけど、このヘタレ兎はつくづくヘタレの王道を行くヘタレだわ。
「いや、普段なら別にどうってことも無く終わるのよ。けど、ここ一ヶ月の間、師匠はずっと薬を作ろうと実験室に籠もりっきり。なんでもフェリックスなんたらとかいう薬らしいんだけど」
うわあ、何て分かりやすい展開。……あれ、この発言デジャヴ?
話す度に思うけど、このヘタレ兎はつくづくヘタレの王道を行くヘタレだわ。……あれ、この発言デジャヴ?
「それでブチ切れ?」
「うん。あー、ブチ切れっていうか……いや、あれをあのまま放っておいたら危ないって」
で、私に助けを求めてきたというわけか。
人をたたき起こしておいて自分のミスの尻ぬぐいをさせるとは。ヘタレ、貴様良い度胸だな。
そして私の布団を返せ。
「ねえ霊夢、助けてってば、ねぇ、ねーえー」
ああもう、揺さぶるな揺さぶるな。
「どうせ助けるまで居座るつもりなんでしょうが」
ヘタレの顔が輝く。全く、現金な奴。
「ありがとう霊夢、今度ウチで獲れた人参持ってくる」
「それはやめて」
口を尖らせるな。いくら何でも人参を主食にできるほど落ちぶれちゃ無いっていうのよ、人間は米よ、米。米が有ればご飯三杯は行けますよ。
私は立ち上がって肩を回し、部屋の外に出る。
「で、永琳は何処にいるわけ?」
「分からない。狂気の瞳まで使って必死に逃げてきたから。でも多分、あっちからすぐに来ると思う」
あの医者、随分おかんむりらしい。わざわざ狂気の瞳まで使うなんてねぇ。
にしても、なんであっちから来るといえるのか。撒いたなら、ここをかぎつけるのにもっと時間がかかるはず。
「何で?」
聞いてみた。ヘタレは小さな機械を取り出して、
「服の襟に発信器付いてた」
馬鹿だ! こいつ馬鹿だ!
そう私が心の中で叫んだときだ。
境内に軽いクレーターが生まれた。
これどうやって元にもどそうかなぁ。
ヘタレといい降ってきた医者(砂煙で見えないが多分そうだろう)といい、何で今日は人の迷惑を考えない連中ばかり来るんだろう。
そこまで考えて、レミリアだの萃香だの紫だの魔理沙だのの事を思い出した。なるほど、今日に限った事じゃないわけだ。
今度からお茶を有料にしようかしら。……却下。どいつもこいつも踏み倒すに決まってる。
まあ、そんなことより。
「……うどん」
「ちょ、何その呼び方。……はいはい、人参にプラスで境内の補修ね」
察しの良いヘタレだ。だが人参はいらん。
「分かってるじゃない、香川県」
「やかましい。まあ、命あっての物種っていうからね」
理解力あるヘタレがそれを言い終わったとき、クレーターから揺らめく砂煙に、人影が映った。
見るからに永琳です本当にありがとうございました。目立つ帽子のお陰ですぐわかる。……何となく、リボンを弄った。人の振り見て我が振り直せ、か。
いやいや、リボン付けてる奴なんて他にも居るわよ。ナースキャップ(?)は一人しかいない……はず。
砂煙が止む。
そこには鬼女がいた。
「うぅぅどぅんげぇ」
「ひっ」
そりゃあ、自分の師匠が何かしらのオーラを纏わせながら自分をギロリと眺めた日には、びびりもするだろう。まして、睨まれたのはヘタレな訳だし。
しかし、ヘタレって優曇華って名前じゃなかったっけ? うどぅんげぇだったらしい。私の記憶違いか。
「れ、霊夢、助けてよ」
うどぅんげぇは私の腕を掴んで揺する。冷え症だこいつ。手が冷たい。
うどぅんげぇには悪いが、ぶっちゃけて言うと、助けるのは無理な気がする。助けるにはこの永琳――彼女に思いを寄せる里の男連中が見たら卒倒しそうな状態の永琳を倒さなくてはならない。
そいでもって、こいつはスペルカードルールなんて知ったこっちゃないと言わんばかりの雰囲気をぷんぷんと漂わせているわけで。………スペルカードルール抜きじゃ私なんて、空が飛べることを除けば普通の人間だもんなぁ。
「三十分と少しぶりね、優曇華。新薬実験のモルモットになる準備はできたかしら」
今の永琳、もし角があったら萃香や勇儀以上に鬼っぽいわ。いや………あの二人なんて足下にも及ばない鬼っぽさだわ。
うどぅんげぇが後ずさった。三十メートルほど。
「ええと、うどぅんげぇから頼まれてる以上、あんたを追い返さないといけないんだけど……追い返さないといけないんですけど」
お祓い棒片手に言う。
ぎろっ。
奴の目が私を見た。怖い、超怖い。博麗史上最大の怖さだわこれ。
さとりが見せるトラウマなんて大したこと無いわよこれ。トラウマも真っ青になって逃げ出す恐怖っぷりよ。「眠れる恐怖 ~Sleeping terror~」どころか「起きてる恐怖 ~Terror of staying up~」だわ。
「邪魔するつもりかしら?」
滅相もないです。そう言いたい。言わせてください。
顎が震えるわ足がすくむわで何も言えないから、とりあえず札を構えた。
私ってば律儀すぎ。おっぽり出して逃げても良いのに。
「そう」
永琳が身体をゆっくりとこちらへ向ける。
どうしよう。うどぅんげぇに騙された気がする。っていうかあいつ何処に行きやがった。逃げてないで手伝えっていうのに。
「用があるのは優曇華だけなのよね。あなたに恨みはないし、弾幕でけりを付けようじゃないの?」
恨みがあったら何でけりを付けるつもりだったんだろう。考えたくもない。
永琳がスペルカードを構えた。見たことのないカードだ。私も「夢想天生」を構える。そりゃあ本気よ。なりふり構ってられないんだから。
一応永琳には理性もあるようだから、死ぬようなことは無いと思う。ルールを遵守すれば自然とそうなるし、第一私を殺すようなことがあれば、紫が黙ってないだろう。
でもまあ、怖いものは怖い。
「セット スペルカード」
永琳が舞い上がる。私も合わせて飛んだ。
間合いを取った。相手のカードが何か分からない以上、近づくのは愚策………本音としては、近くにいたくない。
初見のスペルカードを避けるのは難しい。あれが放たれたら、確実に永琳のペースになるだろう。相手のペースにさせない為には、こっちが積極的に攻めなくてはいけない。
つまり、先手必勝。
「『夢想天生』!」
一撃必殺で決める。全力を込めた宣言。
けど、永琳は全く動かない。そしてカードを宣言する。
「蘇活『八意遊戯 -エーリンゲーム-』――!!」
その弾幕は、私の戦意をストップ安にするには十分すぎた。
その間、数時間。
「ふわぁ」
窓から差し込む日光が目に染みる。
良い浅田。いや、朝だ。
いや、朝だなんて大嘘だ。
どうやら昼過ぎらしい。寝過ぎたか。まあ、用事もないから構いやしない。
寝巻きからいつもの服に着替えて、昨日作って残しておいた味噌汁と飯で簡単な朝食――うんにゃ、昼食をすます。
食べ終わって、食器をにとりから物々交換で貰った自動皿洗い機にかける。奴には外の世界の機械をくれてやった。私だって借りてばっかりではない。たまには正当にかつ完全に所有権をもらうのだ。
まあ、あの機械は香霖から借りたものだが。
さて、それにしても……暇だ。
「暇だ」
言ってみたってしょうがない。
することがない。今のところ、これといってやりたい実験もない。
こういう日は図書館かアリスの家か香霖の所だな。
香霖の所からはこないだ機械を借りた。にとりとの物々交換に使った奴だ。あんまり一人から集中して借りるのはよくないな、うん。
アリスにはこないだクッキーをもらったっけ。他意も好意も無く、純粋に作りすぎたからくれた。飾り気もへったくれもないクッキーだったが、まぁ美味かったな。人をゴミ箱代わりにするなとは言いたいが。あんまり一人から集中して貰うのは良くないな。
図書館は最近ご無沙汰だな。多分もうそろそろ、あそこの本達が、私に持って行かれたくて今か今かとうずうずしている頃だろう。多分。
よし、決まった。図書館にしとくか。今日は精霊術関係の本を借りるとするかな。
そこらに散らかるマジックアイテムを部屋の隅に放り投げて(小さな爆発音がしたが、まあ大丈夫だろう)、新たにやってくるであろう本の為のスペースを作っておく。
ベッドの上に放ってあった八卦炉とスペルカード(門番と咲夜対策だ)、立てかけてある箒をとって、玄関のドアノブに手をかけたときだ。
「助けて魔理沙ッ!」
「イェアァッ!?」
ドア、顔面直撃。いくら木製でも痛い痛い。鼻折れたりしてないだろうなこれ。乙女の顔が台無しだぜ。
涙の浮かぶ目で、コントのような真似をしてくれた奴――突然の来訪者を見た。大体、私の家(と書いて、『こんなへんぴな所』と読む)に訪ねて来るような酔狂な奴って誰だ?
「……霊夢と、えーと……あー……う、う……うだ、うぢ、うづ……。喉まで出てるんだよ、喉まで。……あっ! うどんだ、うどん」
「何その忘れたのを必死に思い出してます的な。っていうかあんたも私を香川県呼ばわりしますか」
その酔狂な奴(もとい、奴ら)は、霊夢と後……うどんじゃ無いらしいから、とりあえず仮名で済まそうか。へたれた耳がきしめんによく似た香川県だった。
「どうしたんだお前ら。私の鼻を犠牲にまでして、一体何事だ?」
痛みが大分引いた。やれやれ。鼻をこすりながら訊いた。
これでしょうもない用事だったらどうしてくれよう。とりあえずマスパとミルキーウェイとアステロイドベルト、それにアースライトレイもおまけに付けるか。出血大サービス、文字通り「出血」大サービスだ。
「うどぅんげぇに騙されたわ」
「あっ、そうだ。そういえばうどぅんげぇだったな、こいつの名前」
「アンタらな!」
うどぅんげぇが心底不服だと言わんばかりの顔でこっちを見ている。こっちがしたいぜその表情。なんてったって爽やかな朝(もとい昼)だったのに、顔面ドアで全部ぶち壊されたからな。
「助けてって言ってたな、そういや。それと何か関係があるのか?」
「ありあり、大ありなのよ」
霊夢がこんなにも動揺するのを私は見たことが無い。きっととんでもない何かが起こったのだろう。しかし、霊夢の手に負えないようなことなら紫を頼ると思うんだがな?
「まあいいさ、とりあえず上がれよ。汚い所だが茶くらいは出すぜ。急須と湯飲みを探すの、手伝ってくれたらな」
急須に湯飲み。マジックアイテムに埋もれてると思う。
掘り出したところで使えるのかどうかは微妙だ。アイテムにあてられて変質してしまっているかもしれない。
「悪いけど遠慮しとくわ。時間がないし、家の中にはいない方が良いと思う」
うどぅんげぇが私の誘いを蹴ってくれた。
――時間がない? 家の中にいない方が良い? 全く持って意味が分からん。
「そんなに大変な状態なのか、お前ら?」
霊夢が頷いた。
「まあいい、家の中にいない方がいいってんなら、外で聞いてやる。出ようぜ」
私は霊夢とうどぅんげぇを連れて家の外へ出た。
魔法の森の空気は悪く、長話するのには向かない(呼吸するのにすら向いていないんだからな)。
パチュリーのスプリングウィンド(こっそり真似た)で胞子を吹っ飛ばし、簡易障壁を張る。家の周りを清潔な空間にする為だ。
「問題ないぜ、これで延々と長話しても肺にキノコが生えてくる事は無い」
多分ね。
私は二人に、本題に入るよう促す。助けろと言われても、何から助ければ良いのかわからん。と言うか、まだ助けるとは決めていない。異変解決大好きな私とて、ただで人助けをするわけではない。そんな事してたら「霧雨魔法店」は潰れる。今も開店休業だがな。
私の趣味である異変解決は儲からないと思われそうだが、そうではない。道中で色んな奴から色んな物を借りていくから、がっぽりだ。例えば早苗がやって来たとき、山から山の幸をどっさり借りて帰った。霊夢の神社が潰れたときは、天界から桃を借りたし、地霊騒ぎのときは鬼から酒を借りた。
当然、弾幕するわけだからハイリスクではある。でもリターンとリスクがイコールなのだから構わない。世の中、リスクがリターンより大きくなることはあるが、その逆は無い。
うん、二人が直面している問題のリスクと同じくらいの見返りは欲しい。まあ、二人からは色々借りてるから割引サービスはするが。
「てゐの悪戯を喰らったのよ」
うどぅんげぇが言った。
「オーケー、もう全部分かったからこれ以上何も言わなくても構わないぜ」
「ちょ、最後まで聞いてやりなさいよ」
霊夢が私をたしなめる。そうは言ってもなぁ。
「アレだろ? てゐの悪戯に切れて追いかけた。そしたら、てゐが廊下の突き当たりに油を撒いてて、うどぅんげぇは見事に転倒、するとその転んだ先には永琳の実験室があった。永琳はここ一ヵ月間、薬を作る為に実験室に籠もりっきりだ。その状況で突っ込んで、しかもグチャグチャにしたもんだから、永琳がぶち切れて追いかけてきてる。違うか?」
「「読心術!?」」
魔理沙さんを舐めるなよ。同じ流れを延々とするのは不毛・行数の無駄だからな、それを回避するくらいの気配りは持ってるんだ。
「まあ、私がうどぅんげぇから聞いた話だと、その通りだわ」
霊夢が頷いた。大方、うどぅんげぇに巻き込まれたんだろ、お気の毒様。
どうでも良いけどさっきから、うどぅんげぇが名前を呼ばれる度にゲンナリしてるんだが、理由が分からん。何故?
それは置いておくとして、問題は永琳だ。
「で、このまま行くと私は、怒り心頭の永琳と戦わなきゃならなくなるわけだな?」
「まあね。あんたが駄目って言うなら別に構わないわよ、うどぅんげぇを生け贄にするわ」
うどぅんげぇの顔が絶望に震えた。ああ、どうやら以前も似たような事をやらかして酷い目に遭ったらしい。
何となく、ほっとくのは良心が咎める。
「しょうがないな……うどぅんげぇ、永遠亭にあるレアな薬草とかその他諸々、それで手を打ってやる」
うどぅんげぇの顔が希望に染まった。足下を見た要求をしたつもりなのにな? とっつかまるのに比べたら随分安い出費って事か。
ぶっちゃけ、まさか条件を呑むとは思ってなかった。蓬莱人は厄介だから、弾幕したくないんだけどなぁ。
……にしてもこいつ、よく逃げ出してないよな。こいつくらい真面目で従順なら、紅魔館でもマヨヒガでも働けるだろうに。思いついてないなんてことは無い……よな? 気付いてなかったらチルノ並だぜ。
「で、永琳は何処に居るんだよ」
「あー……すぐに来ると思うわ」
霊夢が気まずそうに答えた。はて、すぐにやって来る?
「何だ、場所が特定されてるのか? うどぅんげぇの能力を使えば、逃げの一手は簡単な気がするが」
霊夢とうどぅんげぇは小さな機械を取り出して、
「「服の襟に発信器付いてた」」
馬鹿だ! こいつら馬鹿だ!
私がそう心の中で叫んだときだ。
私たちが立っている所から二十メートル、クレーターが出来た。
ビックリした。まあそれはどうでもいい。クレーター、どうやって戻すんだよ。
かかる手間を考える。面倒くさい。永琳倒して、うどぅんげぇといっしょに後片付けさせるか。
クレーターからもうもうと立ち上る砂煙、そしてキノコの胞子。やれやれ、さっき障壁張っておいて正解だったぜ。無かったら、あの煙と胞子のまっただ中に立ってるところだ。それは健康によろしくなさ過ぎる。
「で、うどぅんげぇ、あれ埋めといてくれな」
「はいはい」
「はい」は一回で十分、教わらなかったらしいな。魅魔様そのあたり厳しかったなぁ。
おっと、懐古してる場合じゃ無い。砂煙が収まりつつある。永琳の姿がうっすらと見えてきてるな。特徴的な帽子だぜ……っていうか、この森の胞子って蓬莱人にもあんまり良くないと思うんだけど、何で平然と立ってるんだ。
「うぅぅぅどぅんげぇ、れぇいむぅ」
うわ。
これが永琳の声かと思うような、地の底から響く声。お前誰だよと言いたい。
「私も対象!?」
らしいな。ご愁傷様だぜ。蚊帳の外って安心感あるな。助かったぜ。
「数時間と少しぶりね、優曇華、霊夢。危険薬物の投薬実験を手伝う気にはなってくれたかしら、主にモルモット的な意味で」
やれやれ、物騒な台詞だ。うどぅんげぇはともかく霊夢が不憫になってくる。あいつ巻き込まれキャラじゃ無かったと思うんだけどな。
にしても今の永琳、まるで鬼のようだな。いやいや、鬼なんて比じゃないぜ。今のあいつに角を付けたら萃香や勇儀がゴブリンに見えちまう。
ぶっちゃけ、これに声かけたくないんだがなぁ。
「あー、永琳、その、何だ。一応頼まれてるからさ、帰って欲しいんだが」
ぎろりん。
奴の目がこっちを睨んだ……怖ッ! 何その目こっわ!
「貴方に用は無いの。消えてくれないかしらねぇ」
「そうしたいのは山々だが、家の周囲を荒らされて魔理沙さんも黙っちゃいられないぜ」
嘘だ。黙りたい。もの凄く黙りたい。だって今の永琳、スペルカードルールに従うかどうかも怪しい。
スペカ抜きじゃあさすがに勝てないよなぁ。まして相手は何かこう――あいつの姫様が見たら卒倒しそうな恐ろしさ。弾幕ですら勝てる気がしない。
「そう。用があるのは優曇華と霊夢なのよ。……どかないなら、弾幕でどかせる」
相手にまだ、弾幕を使う理性があったのは幸いだ。これが殴り合いだったらどうなっていたことか。だって奴の周りの空気、なんか歪んで見えるんだもん。
「セット スペルカード」
セットしないでください。言いたかったぜ。ああ、怖いさ。私だって怖いもんは怖い。その上で無茶するんだが――いや、これは無理。さとりとはもう弾幕できないな。この永琳を出してきそうだ。
永琳が舞い上がった。私も飛ぶ。しょうがないから飛ぶ。
あいつは一枚のスペルカードを取り出していた。速攻で勝負を決めるつもりだ。しかも、そのカードを私は見たことがない。
牽制も布石も無しに放つカード。多分、初見殺しと呼ばれるタイプのカードだろう。
あの手の弾幕は、パニックにならなければ容易に避けられる。回避はできる。
だが――もしそうでは無かったら? 焦りが心から抜けない。良くない傾向だ。「天網蜘網捕蝶の法」のような大技スペルカードが来たら。私らしくもない慎重すぎる考えだが、相手はバケモンみたいな状態だ。あり得ないとも言い切れない。
「私の時間は永遠にあるけど、あの子たちのは無限じゃないのよね。そう言うわけだから、悪いけど一枚で決めるわ」
永琳がカードを高らかに掲げた。宣言する気だ。私の狙いはマスパで一撃必殺、まだ早い。
「蘇活『八意遊戯 -エーリンゲーム-』――!」
マスパなんて私の考えから消えた。
その間、数時間。
「よく寝たわ」
思わず呟いちゃうくらいよく寝たわ。
睡眠用の隙間に備え付けたベッドから、落っこちて目ざめたらしくて、どうにも変な体勢。
まあ、あんまり良い目ざめ方じゃないわね、頭から落ちて、痛い。いくら妖怪って言っても、感覚はあるものねぇ、人並みに。
大きな欠伸を一つ、寝巻きからいつもの服に着替えた。
……寝巻きってつくづく邪魔ねぇ、着替えるのが面倒だわ。普段着で寝ようかしら、今度から。
頭の中で藍が呆れた顔をした。何よ藍、普段着で寝る方がずっと効率が良いでしょう、違うかしら?
頭の中の藍は溜息を吐いた。何よ。何か不満でも?
まあそれはともかく、隙間を開いてマヨヒガへ。
「藍、藍~、朝ご飯」
お腹が空いたわ、朝食、朝食。
藍を探して居間に入る。
あら、もう並んでるわね、さすが藍、主の起きてくるタイミングを計って食事を準備するだなんて、悪魔の狗並の素晴らしさね。ぱちぱち。
「お早う、藍。さっそく朝ご飯にしましょう」
藍はこっちを見て困ったような顔になった。何よ一体、私が何かしたかしら?
「お遅うございます紫様。早速夕ご飯にしましょうか。橙、ちぇーん」
――あら? 夕ご飯?
窓からちらと外を見る。鴉が鳴いて家に帰り、太陽は傾きつつあった。
「……ちょっと寝過ぎたわねぇ」
「ちょっとですか? ああ、お布団と寝巻きを洗いますから渡してください。今晩はマヨヒガの布団を使ってくださいな」
はいはい。隙間(至寝室)に手を突っ込んで布団と寝巻きを渡すと、藍は引っ込む。どこかへ布団を置いてきたのだろう。帰ってきた時には持っていなかった。
「ごはんっ、ご飯」
橙がやって来て、座る。お腹が空いていたらしい、待ちきれないようだ。
……どうでも良いけれど、私の焼き魚が藍と橙のより小さい気がするのは何故。気のせいよね?
「食べましょう、藍」
「はいはい、召し上がれ」
「頂きます」
「いただきまーす」
可愛らしいわねぇ、橙。いや藍も可愛いわよ? 小言がもう少し少なければ完璧。
箸を取って味噌汁に手を付けようとした、その時だ。
どったんばったんどったんばったん、廊下を駆けてくる音。誰よもう、せっかくの団らんの時間に。
「助けて紫ッ!」
「助けて八雲さん!」
「助けてくれ紫ー!」
時速380キロメートルくらいで障子が開く。そして三人が雪崩れ込んでくるわ。
「せわしないわねぇ。もっとどっしり構えてないと風に吹いて飛ばされるわよ」
「紫様はどっしりのんびりしすぎです」
あら、言うわねぇ藍。どうでも良いけど、橙が驚いてむせ混んでるわよ、背中さすってあげなさいな。
「ああっ、橙、大丈夫か?」
あらあら、そんなに慌ててさすって。藍、もっとどっしり構えてないと風に吹いて飛ばされるわよ。
で、この三人よね、問題は。
「マヨヒガにようこそ、人間二人に兎が一人、兎用のチケットなんてあったかしら?」
「兎の単位は羽なんだけど」
へにょった耳の兎が言った。別に良いじゃないの、人型なんだから。そんなこと言い出したら幻想郷内の「人」で数える生き物が人間以外に居なくなるわ。
……にしても、この子名前何だったかしら。竹林の診療所に居る子なのよね。霊夢と異変解決したときに弾幕した記憶が有る、楽しかったわぁ。
「うどぅんげぇ、そんな事はどうだっていいのよ。紫、助けて」
なだれ込んだ霊夢が座布団に座って、私に頼み込む。
ああ、うどぅんげぇだったわねそういえば。にしても、霊夢が私に助けを求めてくるなんて随分大変な事態なのねぇ。
地霊騒ぎも収まったって言うのに、一体次は何の異変? 神主様は冬コミお休みって言ってなかったかしら?
「とりあえず、何があったか話してごらんなさいな。取り合わせを見る限り大体分かるけどね。あの可愛らしい小さな兎の子、何て言ったかしら」
「てゐの事?」
ご苦労様、うどぅんげぇ。
「うどぅんげぇがてゐの悪戯に切れて、追いかけた。そしたら、てゐが廊下の突き当たりに油を撒いてて、見事に転倒、するとその転んだ先には永琳の実験室があった。永琳はここ一ヵ月間、薬を作る為に実験室に籠もりっきり。その状況で突っ込んで、しかもグチャグチャにしたものだから、永琳が鬼神となりて追いかけてきている。当たり?」
「「「読心術!?」」」
同じ流れをやることで笑いを誘うって手法もあるのよ。天丼とか言ったかしらね。八雲の名を持つからにはメタ的要素も持ってなくちゃね。藍はその辺がたりてないのよねぇ……。
で、三人揃って驚くって事は、大当たりご名答パンパカパーンってことね。
おおかた、霊夢と魔理沙は巻き込まれたってわけ。お気の毒様としか言いようがないわねぇ。
「そういうわけなんだよ、助けてくれ紫」
そうねぇ、正直言ってメリットがないのよね、助けることには。うどぅんげぇはともかく、霊夢と魔理沙は助けてたって何の報酬も得られなさそうだし。
第一、助けるって永琳を追い返すってことでしょう? 面倒だわぁ。いくら私が強くったって、相手が不死身じゃどうしようもないわ。持久力が無限だもの。
「紫様、どうするんです?」
「ん~、どうするもこうするもねぇ。どうしようかしら、面倒だわぁ」
「紫、お願い」
「八雲さんっ」
あー……別に良心の呵責とか無いんだけどねぇ。けど、首を縦に振ろうが振るまいが、結局居座り続けるでしょうね、この子達。そしたら永琳はやって来る。否応なしに。この子らが居る限り。
選択肢なし、か。あぁ、厄日だわ。働きなさいよ厄神様。
「はいはい、分かったわよ。助ければいいんでしょう。藍、やっといて」
「私ですかっ!?」
何、予期してなかったの? 駄目よそれじゃあ。八雲の苗字を持ってるんだから私と同じ様な思考形態を持たないきゃあ。
……何かしら、その嫌そうな顔は。永琳を追い返すのが嫌? それとも私と同じような思考形態を持つこと? 後者だったらきっついお仕置きをしなきゃねぇ。
はいそこ、助平な事を考えない。ここは全年齢向けよ、全年齢向け。Are you all right? 一応英語も喋れるのよ。他には……「Verstanden Sie es?」なんてどうかしら。
「うう、あの人は嫌いなんですよ。何を考えてるのか分からなくて。それは紫様もですが」
あらあら、弾幕結界は確定ね、藍。自業自得よ。
「藍、準備しておきなさいよ、永琳、もうそろそろ来ると思うから」
藍と橙が怪訝そうな顔をする。三人もだ。
やれやれ、どうも気付いてないらしいわねぇ。
「服の襟、発信器付いてるわよ」
「「「二度あることは三度ある!?」」」
天丼だったのねぇ、それも三回目。良いわ、私が(藍が)そこで止める。四回もやったらさすがにクドいもの。
そういう決意をした時よ。爆発音がしたわ。
「何だっ?」
藍が縁側に出て、三人は部屋の隅に下がる。縮こまってるあたりからすると、永琳ね。私は橙を三人の所に残して、遅れて縁側に出る。
あら、大きなクレーター。
藍が愕然としてるわね。そりゃそうか、後片付けするの自分だものねぇ。
やたらと巻き上がった砂煙――このところ雨が降ってないからかしら――の中で、うっすらナースキャップが見える。一目でそれとわかる永琳っぷりだわ。
「ねぇ、お三方」
私は、部屋の中にいる三人に声をかける。
「クレーター、埋めときます」
うどぅんげぇが返事をした。分かってるじゃない。文句を言わないあたり流石永琳の助手、ちゃんと教育されてるわ。藍もあれくらい従順ならいいんだけど。
「さて……藍」
「何でしょう?」
スペルカードを構えている藍に声をかける。殺気を感じ取って、交渉で平和的に解決なんて選択肢が無いことを悟ったらしいわね。そこまで分かってるのなら、もう少し先も理解して欲しかったんだけど。
「下がってなさい、あなたじゃ手に負えないわ」
藍はどうも、打ち込んだ式に従わない悪癖がある。従っていれば私と同等の力で戦えるのに。
今のアレには藍そのものの力では勝てない。……やれやれ、実力差も計れないようじゃ、後を継いでもらうのはまだまだ先かぁ。さっさと隠居してぐうたら生活をしたいんだけど。
「ですが紫様」
「もう、私が弾幕するのがそんなに心配なのかしら? 式に心配されるほど弱っちいつもりは無いんだけど。あなたはのんびりお茶でも飲んでればいいの、ちょうどお茶好きの巫女が居るわよ、部屋に」
砂煙が収まってきている。さっさと藍には戻ってほしいわ。
「……あ、流れ弾のカット、よろしく」
私は藍にそう言うと、庭に降り立った。
クレーターに近づく。砂煙の中心に何か居るわね。まあ、永琳なんだけど。
いいわねこのシチュエーション。「宇宙から降ってきた謎の隕石を調査する特殊部隊の兵士」みたいな感じでワクワクするわぁ。
まあ、相手が宇宙人だからあながち大間違いと言い切れないんだけどね。
「うぅぅぅどぅんげぇ、れぇいむぅ、まぁぁりすわぁぁ」
落ち着いて欲しいわ。魔理沙なんだか魔理諏訪なんだか分からなくなっちゃってるじゃない。魔理諏訪、なかなか新しいカップリングね。今度何かしら書いてみようかしら、そのネタで。
「こんにちは永琳、悪いんだけど帰ってもらえるかしら?」
砂煙が消えて、永琳の姿が現れてから、私は声をかけた――まあ、ホントにエイリアンだったらどうしようとか、ちょっとだけ思ったのよね。ちょっとだけ。具体的には、ここから月までくらいかしら。
ちょっとじゃないって? それは貴方が人たる証拠。私は一瞬で行けるわ。……というか、行ったのよねぇ。個人的に黒歴史なんだけど。
「……紫」
あら怖い。眼が真っ赤に光るだなんて、それ貴方の弟子の技でしょうに。怒りでそういうふうになれるものなのねぇ、驚き。
「ええ、もちろん帰るわよ? あそこでがくがく震えてる三人を渡してくれたら」
何よ、前半だけ聞いてちょっと喜んじゃったじゃないの。まあ、普通に考えたらそうよねぇ。これでハイそうですかなんて言って帰っちゃったら、何のためにクレーター空けたか分からなくなるものねぇ。
「あぁ、それ無理なのよねぇ。霊夢あたりに何されるやら分からないからね。逆恨みって恐ろしいわよ~」
永琳の眉が引きつった。あらあら、医者の不養生ね、カルシウム不足だなんて。
怒ると小皺が増えるわよ?
「邪魔する気?」
「いいえ、ちっとも。私は逆恨みが怖くてここに立ってる哀れな妖怪ですわ」
永琳の眉がさらに引きつる。面白いわねこれ。ギネス挑戦してみる?
なんて、冗談を言ってばかりはいられない。永琳がスペルカードを懐から取りだしたから。さすがに、何の準備も無しに戦うわけにはいかないわ。
私もスペルカードを取りだした。「ストレートとカーブの夢郷」で十分かしらね、小手調べには。久々に楽しい弾幕が出来そうだわ。
「哀れね。けど、どいてもらう」
「残念ながら、哀れな妖怪は巨大な岩となりました。のけることは出来そうにありません」
「岩をも穿つ物って、結構あるわよ。弾幕とか弾幕とか弾幕とか」
冗談が通じないわねぇ。そんなんじゃあ、お酒が美味しく呑めないわよ?
まあ、「巨大な岩はオリハルコン製でした」なんて言おうとした私は、子供過ぎるけれど。オリハルコンなんて、萃香あたりに砕かれるわねぇ。
「「セット スペルカード」」
永琳が飛び上がる。ま、地べたを這って弾幕は出来ないし、マヨヒガの庭がどんなに大きくても、そこで弾幕をされたら家屋はボロボロになるから。
藍に、流れ弾をカットするように改めて眼で伝え、私も飛び上がった。
空中で対峙する。円を描くようにくるくると回るけれど、距離は縮まることも伸びることもない。
どうもあんまり好きじゃない流れね。牽制のし合いって嫌いなのよ、時間がかかるから。そのあたり幽香は心得てて良いわぁ。
……ま、無駄口叩く余裕も、あんまり無いんだけど。
「罔両『ストレートとカーブの夢郷』」
あんまり倒す気もない、小手調べ弾幕。これくらいで手こずって欲しくないわね。まあ、墜ちてくれたら墜ちてくれたで有り難いんだけど。
簡単に抜けるかあっさり墜ちるか、どっちかにして欲しいわ。
永琳はスペルカードを掲げた。通常弾幕で切り抜けて欲しかったんだけど。
高らかに宣言。
「蘇活『八意遊戯 -エーリンゲーム-』――!」
聞いたことのないスペルカード。さて、どんな弾幕かしら?
そうやって、余裕かましてたのが間違い。
いや、もっと前ね。あの三人を追い返すべきだった。あるいは、永琳を隙間に放り込むべきだった。
無理よこんな弾幕。いや、弾幕は問題なし。問題があるのは弾。どうすればいいのよ、これ。
全ての弾が、ヤゴコロだなんて。
ってそれはさておきオチがwwwwwww
新年一発目、楽しませていただきましたw
オチ以外にも、どこから突っ込めばいいのかもう分からないwww
新年早々張り切ってくれちゃった、作者さんにも幸あれ。
>うどぅんげぇ
繰り返しはギャグの基本ですよねw
個人的には魔理沙でもう限界でした。
「読心術!?」私は油ですっころぶところまでは予想できなかったwwwww
しかしヤゴコロは当たり判定怖いなぁてか当りたくない。。。ネギ回しそうだし。
>他意も好意も無く、純粋に作りすぎたからくれた。
ダウト!
あけたら閉める、先生との約束だよ。
>1 様
惜しかったwww惜しかったわちくしょうwww
楽しんでいただけたなら幸いです
>地球人撲滅組合 様
お粗末様でしたー。
貴方にも幸あれ。
>欠片の屑 様
大変でしたww
基本ですとも。
>4 様
魔理沙「うどぅんげぇ、下から読んでも うどぅんげぇ」
うどぅんげぇ「違う!」
>灰華 様
あけましておめでとうございます。
当たりたくないのは幻想郷中のみんなもです。
アリス「Doubtですって……!?」
はーい!
年明けに残念な気分だちくしょう。
試煉じゃないよ、盗る猫だよ!
いやヤンガスかも…。
ヤゴコロは避けられない。
それは宇宙が授けた光の答。
とか思ってしまいましたが、オチで吹っ飛びました。
ヤゴコロはだめですって。ヤゴコロは。
あと、投稿時間が惜しすぎる・・・
さすがはwawawawawawawawawa喚く狂人氏! 俺達にできないことを平然と(ry
そんな狂人氏のために↑のwaを多めに入れておきました。お早めにご賞味ください。
とりあえずヤゴコロ弾幕が来たら避けられる気がしない。
視覚的なインパクトがでかすぎるだろwwww
髭のオッサンがダンジョンを探険するあのゲームが、私をローグライクの世界へ誘いました。
>8様
霊夢で終わらすつもりだったんです。
それを「天丼行こう!」みたいなことを考えたせいで自己最長作品になったんですよね。天丼は計画的に。
>名前を表示しない程度の能力様
いえいえこちらk……サーセンwwww
wawawaって生物なんだ。本人も知らない新事実