Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

日はまた昇る

2008/12/30 22:42:48
最終更新
サイズ
4.39KB
ページ数
1

分類タグ


「朝日が綺麗ねえ、霊夢」
「うるさい」
「何バテてんのよ」
「バテるわよ。あんな連日夜中に連れ出されたんじゃ」
「だってねえ、それは貴方が」
「疲れてたのよ!誰かさんがベロベロにさせるせいで!」
「そうだったかしら。ゆかりん覚えてなーい」
「殴りたいけど殴る気力さえ残っていないのが恨めしい」

永かった夜が明け、出てきた朝日を見ていたら、まるで砂になりそうだった。
眩しい。
見るんじゃなかった太陽なんて、と霊夢は後悔した。

「眠い」
「そう?」
「あんたみたいに冬眠できないし」
「関係ないでしょ、それ」
「あんたといるとなんとなく疲れるのよ」
「そうかしら。そういうつもりないのにー」

紫はツンツンと、扇の端で霊夢の頬をつつく。

「だああ!そういうところよ!」
「くすくす。照れちゃって」
「照れてないわよ!あんたはとっととスキマに帰れ!」
「嫌よ。ほら朝日が綺麗だし」
「妖怪が活動する時間の終わりでしょ」
「連れないわねえ」

東の空が明るい。
ここは幻想郷の外れなのに、世界はまだずっと広がっているようだった。
本当の端は一体どこなのだろうかと、寝ぼけた頭で思った。

「こんなに綺麗な朝日なのに」
「同じでしょ、朝日なんて、ふあああ」
「同じじゃないわよ」

紫は言う。

「同じよ」
「貴方が同じに感じるの?若いのに」
「どういう意味よ」
「そのままよ。老け込んでいるってこと」
「あんたにだけは言われたくな・・・・・・いででっ!何すんのよ!」
「目を覚ましてあげているだけよ」

紫はスキマから手を出し、霊夢の頬をつねる。

「ったく、これだから年増は・・・・・・いだいいだい!」
「目、覚めた?」
「覚めたついでに退治してやろうか」
「いやん、怖い」
「決めた、やっぱり退治する」

きゃあきゃあ言う紫に対し、仁王立ちになる霊夢であった。
それを見て、更にきゃあきゃあ言う紫。
やめだ。
今日はいつも以上に疲れている。
あとで魔理沙に突っかかれるかもしれない。今は体力温存するべきだ。、
霊夢は腰を下ろし、そのまま横にごろりとなった。

「あら、寝ちゃうの?」
「寝る」
「つれないわねえ」
「あんたじゃあるまいし」

紫は隣で扇をパタパタとさせている。
いつもは即刻倒しにかかる霊夢であったが、今はうっとおしいとすら思わなかった。
色々と調子が狂っているのは疲れているからだ。そう思うことにした。

「あら、妖怪の前で寝る気?」
「心配されなくったって、昔からここは妖怪のたまり場でしょ」
「クスクス。そうかもね」

胡散臭い笑い声。
それすら子守唄のように思えてくる。
このまま瞼を閉じてしまうなんて巫女失格だなあと思っても、本能には逆らえない。
ゆらゆら、うとうと。
日はとっくに昇っているというのに。
ああそうだ。昇っているからこのまま寝てしまっても平気だ。これからは人間の時間なのだから。

「ねえ霊夢」
「んー」

隣で声がする。
何かを問いかけるというよりは、独り言のような、そんな声が。

「同じじゃないのよ」
「何がよ」
「朝日がよ」
「はあ?」

霊夢は寝ぼけたように紫に返す。
何が言いたいのかわからない、そういう意味も込めて。

「昇ってくる景色も、沈みゆく景色も、その時その時で全然違うの」
「・・・・・・」
「違うのよ、霊夢」
「ふうん」
「私にとっては、全部違うのよねえ」
「長生きの癖に」
「ええそう、長生きの癖に」
「全部覚えているの?」
「ええ」
「なんで」
「なんでかしら」
「ふうん」

霊夢は身をごろりと返す。紫は相変わらず、どこか遠くを見ている。
金色の髪が朝日に透けて、綺麗だと思った。

「そうは思わないのかしら」
「別に」
「老け込んでるわねえ。いや、若すぎるからかしら」
「なにがよ」
「過ぎ行く時間を感じられないのは」
「んなことはないわよ」
「そうね、きっとそう」
「どうでもいいわよそんなこと」
「あらそう?」

面倒臭そうに霊夢は受け答える。

「結局あんたは何が言いたいのよ」
「今日の朝日は綺麗ねってこと」
「ふうん」

どこか遠く。
それはいつか見た朝日だったりするのだろうか。
1000年以上生きている奴のことなんて、わかるはずも無い。
真剣に考えること自体馬鹿馬鹿しい。
だけど。

「でも、日は沈んでも、また昇るでしょ」

寝転がりながら、でもはっきりした声で、霊夢は言う。
紫は霊夢のほうに振り返る。

「どういう意味?」
「そのまんま。日は沈んでもまた昇る。ずっと夜は続かない。暗くて寒い夜は、永遠には続かない」
「・・・・・・」
「だから、平気なんじゃないの」

だけど、そんな風に口走ってしまったのは、やっぱり疲れているせいで。
的外れでもなんでもいい。
これ以上こいつがここにいて、あんな風に外を見ながら、独り言を呟いているのにはなんとなく腹が立った。

「それでも、私は覚えているのよね」

逆光のせいか、単純に眠いせいか、
紫の表情は見えない。

「勝手にすれば」
「ええ」
「勝手にすればいい。もう、知らん」
「ええ」
「寝る」
「呆れた?」
「呆れた」
「そう」

霊夢はごろりと向きを変える。
ただ、声だけが、頭の隅で響いている。

「日は沈んでも、また昇る、か」

子守唄のような、声が。

「確かにそうだったわね」

瞼を閉じる。
視界が暗くなる。
隣にいる人物は、それでも笑っている気がした。
人間と妖怪のお話でした。








1/2 誤字修正いたしました。ご指摘ありがとうございます。
sirokuma
コメント



1.地球人撲滅組合削除
>「昇ってくる景色も、沈みゆく景色も、その時その時で全然違うの」
確かに、千年も生きればそんな些細な違いが分かってくるのかも。
とても和むお話でした。
2.喉飴削除
こういう雰囲気・お話が大好物の私にとってかなりの良作でした。
いい作品をありがとう!
3.ティファーリア削除
むむ?誤字っぽいのを発見。

>きゃあきゃあ言う霊夢に対し、仁王立ちになる紫であった。
霊夢と紫が逆じゃないかな。怒ってるのは霊夢だし。