Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

紅き館の小さなメイドSIDE:美鈴(2)

2008/12/28 15:13:09
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 この物語は『紅き館の小さなメイドSIDE:美鈴(1)』の続編です。
 
 ※この物語にはオリジナル設定が多々含まれております。そういうものがダメな方は
この場で回避することを推奨いたします。
 大丈夫という方だけ↓へどうぞ。



























 木製の上品な造りの扉を前に立ち、私はその扉をノックする。

「開いているわ。入っていいわよ」

 直ぐに部屋の中から声が掛かる。

「失礼します」

 ドアを開け、室内へと足を踏み入れる。
 咲夜が入ったこと確認するとドアを閉める。
 室内には小さな窓が一つあり、その下に天蓋の設けられたキングサイズのベッドが一
つ置かれていた。そのベッドの脇には、平均よりやや小さなサイズの真っ黒な棺桶が置
かれている。棺桶の蓋に紅く『レミリア』と書かれているのがなんとも可愛らしくて、
ついつい緩みそうになる頬を私は意識的に押さえる。
 壁際に等間隔で下げられた燭台の火がユラユラと室内を照らす。
 その明かりに照らされ、部屋の中央に人影が3つ。
 室内の中央に設けられた遠目から見ても上等なものと解る椅子にお嬢様が腰掛けてい
る。傍に控えた妖精メイドがティーカップに注いだ紅茶を、お嬢様の前のテーブルに音
も無く置く。そして、同様にもう一つ。

「ここはもういいわ。あなたは席をはずして頂戴」

 妖精メイドにお嬢様が声をかける。
 はい、と妖精メイドは深々と一礼すると私と入れ替わるように部屋を出て行った。
 お嬢様が紅茶に口を付ける。
 一口飲むとティーカップをソーサーに置く。

「律儀なあなたのことだから、一度顔を見せに来るんじゃないかとは思ったけど、やっ
ぱり来たわね」
「あ、はい。見習いメイドの教育、および身の回りの世話をするに当たって一度挨拶だ
けでもしておこうと思いまして」
「あなたは本当に律儀ね」

 お嬢様が呆れたように溜息をつく。

「それでレミィ。随分と久しい格好をした美鈴の後ろにいる人間がさっきあなたが言っ
ていた新しいメイドかしら?」

 お嬢様の対面に座って静かに紅茶を飲んでいたパチュリー様が口を開いた。
 パチュリー様が私の後ろに視線を向ける。

「ええ、そうよ。ほら、自己紹介してみて頂戴」

 パチュリー様に頷き、お嬢様も私の後ろを見る。
 それに答えるように、私は咲夜に前に出るように促す。
 私の後ろからおずおずと咲夜が前に出る。

「……今日からこの紅魔館で働くことになった。……十六夜咲夜……です」

 緊張のためか、自己紹介するもだんだんと尻すぼみになっていく。
 それにお嬢様は椅子に座ったまま不遜に、けれど優雅に口を開く。

「では、改めて自己紹介するわ。私はこの紅魔館の当主、レミリアスカーレットよ。こ
れからしっかり働いてもらうわよ、咲夜」
「私はレミリアスカーレットの友人、パチュリーノーレッジ。咲夜ね、これからよろし
く」
「はい」

 お嬢様とパチュリー様に咲夜はしっかりと頷く。

「ところで、美鈴。何から始めるか既に決まっているのかしら?」
「いえ、まだ決まってません」
「だったらちょうどいいわ」

 そう言うとお嬢様はパチュリー様を見る。
 それを見てパチュリー様は頷いて私を見た。

「そうね。そろそろ私の書斎の整理をしようかと思っていたところなの。そのための人
手が欲しかったから、ちょうど良かったわ。二人に手伝ってもらおうかしら」
「書斎の整理ですか。……分かりました。お手伝いいたします」

 少し考え、私は手伝うことを決める。

――少しくらいなら咲夜にも任せられるかな。

 私が頷くのを確認するとパチュリー様は椅子から立ち上がる。

「そう、じゃあ早速行きましょうか。レミィ、また後でね」
「ええ、行ってらっしゃい」

 パチュリー様にお嬢様はヒラヒラと手を振る。
 パチュリー様もお嬢様に小さく手を振る。
 私はドアを開け、パチュリー様に道を譲る。

「ほら、咲夜も一緒に」

 咲夜と一緒にお嬢様に一礼する。そして、咲夜が退出したのを確認すると私も部屋を
出て扉を閉める。

「ふふ……、今日の私はカリスマが満ち溢れていたわね」

 扉を閉める直前、室内からそんな声が聞こえたが気にしないでおこう。







「片付けるのはここよ」
「うへぇ……」

 パチュリー様に付いて扉を開けると、思わず声が漏れてしまった。
 広さ9畳ほどの部屋に天井まで届くかというほどに積み上げられた本の塔が幾つも建
造され、文字通り本の壁と化している。
 隣に立つ咲夜も目の前の光景に目を丸くしている。

「積み過ぎですよパチュリー様……」
「まあそんなことは置いといて、頼んだわよ二人とも」
「はあ……」

 ため息と共に私は返事をする。

「この本は全て図書館に運べばいいですか?」
「そうね、御願い。私は先に地下の図書館に行っているわ」
「分かりました。じゃあ始めようか、咲夜」
「……はい」

 適当に本を分けながら、軽そうな本を見繕って3冊ほど咲夜に渡してやる。
 その本を受け取り、前に抱えながら咲夜はフラフラと部屋を出て行く。
 その後を私も本を抱えながら追いかける。

「そこの階段を降りるんだよ」

 部屋を出て直ぐの所にある、地下へと続く階段を降りていく。
 それほど急な階段ではないが、咲夜は一段一段確かめるように階段を下りていく。
 どうにも足元が危なっかしく、内心ハラハラしながら咲夜にペースを合わせてゆっく
りと階段を下りる。
 図書館があるのは一つ階を降りた廊下の先だ。

「付いておいで」

 階段を下りたところで私は先に立って歩く。
 後ろを付いてくる気配を感じながら、廊下の先にある一際大きな扉の前まで歩くと、
そこで立ち止まる。

「ここが紅魔館の図書館だよ」

 ドアノブに手を掛け、扉を開く。

「来たわね。とりあえずその辺りに置いといて頂戴」

 扉の先で何か探し物をしていたパチュリー様が、こちらを見ずに図書館の一角を指し
示す。そこは図書館の書棚に入り切らなくなったり、分類の済んでいない本が積まれて
いる場所だった。
 この図書館は広さはそれなりにあるのだが、パチュリー様が掛けている魔法の影響な
のか、蔵書数が日々増え続けるという妖怪化に近い特性を持っている。そのため、現在
では本の数が書棚の数を上回ってしまい、入り切らない本はまとめてこの一角に置かれ
ている。

「……増えてる」

 以前見た時はこの4分の1程度の量だったはずだ。今は積み上げられた本から威圧感
さえ漂ってくる。
 この威圧感が今後どれほど増すのだろうか。考えるだけで恐ろしい。

「残りの本も頼むわね」
「……はい」







 その後、書斎と図書館の間を10往復ほどして、やっと本を全て運び込むことができ
た。

「ご苦労様。今日はもう休みなさい」

 全て運び終わり、一休みしているとパチュリー様が声を掛けてきた。

「あ、いえまだ休むわけには」
「あなたじゃないわ」

 パチュリー様は私の横にいる咲夜に視線を向ける。
 咲夜は相当疲れたのか、壁に背中を預けてグッタリとしている。
 やはり子供の身では今日の仕事はきつかったのだろう。

「……そうですね。分かりました、今日はこれで休むことにします」
「ええ、レミィには私から言っておくわ」
「はい、ではこれで失礼しますね。咲夜、今日はこれで終わりだから戻るよ」

 小さく頷いて咲夜はノロノロと立ち上がる。

「ほら」

 それに私は手を差し出す。しかし、咲夜はその手を取らずスタスタと図書館を出て行
く。
 小さく息を付く。

「先は長そうね、美鈴」
「そうですね。しばらく一緒に生活するわけですし、私はもう少し咲夜と仲良くなれれ
ば良いなとは思っているんですけどね」

 パチュリー様に私は肩を竦めてみせる。

「そうかしら、それほど悲観することも無いんじゃない?私はそう思うけれど」

 パチュリー様は小さく笑って私を見る。

「そうでしょうか」
「ええ、……ほら、早く行かないと見失うわよ」

 開けっ放しにされていたドアの先を見ると、咲夜はもう大分先まで歩いていっていた。
 慌ててパチュリー様に一礼し、咲夜を追って私は図書館を後にした。







 門番隊の宿舎は、何か異常があれば直ぐに駆けつけられるように門の傍に建てられて
いる。3階建ての比較的大きな造りの建物だ。
 けれど、門番隊は現在少数精鋭の部隊になっているため、かなりの数が空き部屋にな
っている。
 その宿舎の2階部分に門番長の部屋がある。部屋の広さは他の部屋と大差は無い。

「今着替え探すからちょっと待っててね」

 咲夜を部屋に上げると私は箪笥の中を漁り、咲夜の寝巻きに使えそうな服は無いか探
してみる。

「こんなもんしかないかぁ」

 あれこれ探して、結局見つかったのは私が普段寝巻きに使っているワイシャツ程度し
かなかった。

「今日はこれで勘弁してね。明日にはちゃんとしたの用意するから」

 それを咲夜に手渡し、私もメイド服を脱いで同じものを出して袖を通す。
 もともと、私のサイズに似合わせているため、私の腰程度の身長しかない咲夜が着る
と、裾が完全に床に付いてしまっている。
 その姿に苦笑する。

「来る前にちゃんとお風呂にも入ったし、寝ようか」

 宿舎の部屋は基本的に相部屋である為、ベッドは二段ベッドになっている。私の部屋
は私一人で使っているが、ベッドは二段ベッドのままなので上に咲夜を寝かせることに
して、私は下で寝ることにした。
 咲夜がベッドに潜り込んだのを確認すると、おやすみ、と声を掛ける。
 答える声は無かった。
 明かりを消す為に燭台に息を吹きかける。
 ふ、と火が消え、室内が真っ暗になる。
 ベッドに潜り込み、目を閉じる。

「……おやすみ……めーりん」

 静かな声が私の耳に届いた。
 小さな声、けれど確かに私の耳に届いた私の名前。
 自然、口元に笑みが浮かぶ。

「おやすみ、咲夜」

 声をかけ、私は再び目を閉じた。
レミリア嬢にはいつまでもカリスマ溢れるお嬢様でいてもらいたいものです。
美鈴編はまだ続く。もうしばらくお付き合いいただけると幸いです。

ここまで読んでくださった方々に多大なる感謝を。


追伸:前作『紅き館の小さなメイドSIDE:美鈴(1)』にてコメントしていただいていたのに気が付かず申し訳ありませんでした。
1様>あのオチで楽しんで頂けたようで何よりですw
2様>今後も御期待に答えられるように頑張ります。最後までお付き合いいただけると幸いです。
青水晶
コメント



1.狐今削除
咲夜さんがかわいい。
続きを希望します!