Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

幸せのわからない女の子

2008/12/28 07:10:02
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 昔々、そして今も、ある所に二人の女の子がいました。


 この二人に、直接の面識はありません。
 お互いのことを、お互いに何も知りません。
 二人のことを、二人とも知っているのは、ただ歴史だけです。



 二人はとてもよく似ています。
 そして丸っきり正反対でもあります。
 それはどういうことなのでしょう?



 片方の女の子は、何も知りません。
 その女の子は、生まれてこのかた、ずっと家に、地下の自分の部屋に、閉じこめられているのです。
 彼女は何も知りません。
 言葉を知っています。
 字が読めます。
 外を、窓から見たことがあります。
 家のみんなが色んなことを教えてくれます。
 でも、彼女は知りません。
 窓から見える以外の景色を知りません。
 外の空気を知りません。
 温度を知りません。
 家の中の誰かが話すこと以外を知りません。
 家の人以外を知りません。
 誰かの感情を知りません。
 他人を知りません。
 当然知らなければいけない大事な何かを、彼女は何も知りません。


 もう片方の女の子は、何でも知っていました。
 彼女にはいつでも、今も、自由な世界が広がっていました。
 外を知っています。
 世界の美しさを知っていました。
 喜びを知っていました。
 怒ることを知っていました。
 悲しいことを知っていました。
 楽しいことを知っています。
 世界の醜さを知っていました。
 自分以外の誰かを数え切れないくらい知っています。
 自分に向けられる感情を知っていました。
 嫌悪を知っていました。
 悪意を知っていました。
 優しさを知っていました。
 知らなくてもいいことまで、彼女は何でも知っていました。




 何も知らない女の子と、何でも知っていた女の子。
 こうしてみると彼女達はまるで正反対です。




 何も知らない女の子には、何でも壊す力がありました。
 彼女が手を握るだけで、何でもドカンと壊れます。
 家具が壊れます。お人形が壊れます。生き物が壊れます。家族が壊れます。
 彼女の姉は、そんな力を持つ彼女が嫌われるだろうことを思いました。
 彼女が自分を嫌うだろうことを思いました。
 だから、彼女を閉じ込めることにしました。
 嫌われること、嫌うことから、見つけられないようにしました。



 何でも知っていた女の子には、他人の心を読むことができました。
 誰が何を思っているのか、意識しなくても勝手にわかります。
 彼女の読む感情の大多数は、自分への恐れでした。
 自分への嫌悪でした。自分への憎悪でした。自分への嘲笑でした。
 彼女と同じ力を持つ姉は、自分達が嫌われることは運命なのだと受け入れていました。
 彼女に、自分と同じ心の強さを求めました。
 だから、彼女に何もしませんでした。
 嫌われること、嫌うことに、立ち向かわせました。




 隠した姉と、隠さなかった姉。
 彼女達の、ただ一人の肉親も、まるで正反対です。




 何も知らない女の子の心は、雪のように真っ白です。
 それは何も書かれていない紙です。
 知るべきことを知らないそれ。知るべきことから遠ざけられたそれ。
 大事なもの、大事じゃないもの。好きなもの、嫌いなもの。
 嬉しいもの、悲しいもの。美しいもの、醜いもの。
 そんな区別も、線引きもされていないそれは、とても綺麗で。
 綺麗で、綺麗で、それを見た人はその綺麗さを、狂っていると思いました。


 何でも知っていた女の子の心は、傷だらけです。
 何度も何度も、傷つき、傷つけられ、ボロボロになったそれ。
 女の子は痛くて、とても痛くて、ついには耐えられなくなり。
 その傷も、傷じゃないものも。痛いことも、辛いことも。
 怒ることも、嬉しいことも。世界の醜さも、美しさも。
 全部ひっくるめて、それをもう見ないことにしました。
 それらを、忘れることにしました。
 それらに、傷つけられないようにしました。
 そうして傷だらけの心を直しました。
 色んな何かが欠け落ちてツギハギされたそれは、とても歪で。
 歪で、歪で、それを見た人はその歪さを、狂っていると思いました。




 正反対の二人の終着点は、結局同じでした。
 二人とも、最後には狂っていると判断されてしまったのです。
 こうしてみると、二人はとても似ていますね。
 これが、丸っきり正反対で、それでいてそっくりな二人の女の子の話の全てです。
 彼女達は昔も今もこのままですから、これ以外はありません。





 彼女達に幸せな結末はなかったんでしょうか?
 たとえば?


 たとえば、閉じ込められた女の子は、外に出して欲しかったかもしれません。
 彼女の姉に、色んなことを教えてもらいたかったかもしれません。
 自分を後ろに守るだけじゃなくて、一緒に並んで歩いて欲しかったのかもしれません。


 たとえば、何もされなかった女の子は、自分を離さないで欲しかったかもしれません。
 彼女の姉に、あなたは弱いからしょうがないのだと、許して欲しかったのかもしれません。
 自分に強さを求めるだけじゃなく、弱さも認めて欲しかったのかもしれません。


 でも、そうされていたことが、彼女達にとっての幸せなのかはわかりません。
 私達から見たら、成る程それは今よりマシに見えるかもしれません。
 しかし、そういう仮定や想像を、彼女達は出来ないのです。 


 だって、彼女は幸せが何なのかを知らないのですから。


 だって、彼女は幸せが何だったのかを忘れてしまったのですから。




 彼女は今も、薄暗い地下室に一人で座っています。


 彼女は今も、知らないどこかを一人でふらふらと歩いています。


 それが幸せなのかは、私達にも、彼女達にもわからないのです。
幸せってなんだろう

知っている方はお久しぶりです、知らない人は初めまして
三作目です、ご存知EX妹'sのお話
初期コンセプトはこいしちゃんフランちゃんに自分がダブルちゅっちゅのはずでした
作品というのは書き終わるまでわからないものです
ロディー
コメント



1.名乗ってもしょうがない削除
極力無駄なものを排した小説、詩のような。話としては味気ない気もしますが、自分は成程と思えました。
2.名前が無い程度の能力削除
なんか……ものすごく納得する、言い表すのが難しい作品だと思いました
3.名前が無い程度の能力削除
姉妹、いいわぁ…
4.名前が無い程度の能力削除
妹様とこいしが余すことなく表現されているなあと感じました。
良いお話をありがとう。
5.七人目の名無し削除
幸せか……深いテーマですね。
6.奇声を発する程度の能力削除
うーむ幸せとは…
考えさせられる良いお話でした