昔々、そして今も、ある所に二人の女の子がいました。
この二人に、直接の面識はありません。
お互いのことを、お互いに何も知りません。
二人のことを、二人とも知っているのは、ただ歴史だけです。
二人はとてもよく似ています。
そして丸っきり正反対でもあります。
それはどういうことなのでしょう?
片方の女の子は、何も知りません。
その女の子は、生まれてこのかた、ずっと家に、地下の自分の部屋に、閉じこめられているのです。
彼女は何も知りません。
言葉を知っています。
字が読めます。
外を、窓から見たことがあります。
家のみんなが色んなことを教えてくれます。
でも、彼女は知りません。
窓から見える以外の景色を知りません。
外の空気を知りません。
温度を知りません。
家の中の誰かが話すこと以外を知りません。
家の人以外を知りません。
誰かの感情を知りません。
他人を知りません。
当然知らなければいけない大事な何かを、彼女は何も知りません。
もう片方の女の子は、何でも知っていました。
彼女にはいつでも、今も、自由な世界が広がっていました。
外を知っています。
世界の美しさを知っていました。
喜びを知っていました。
怒ることを知っていました。
悲しいことを知っていました。
楽しいことを知っています。
世界の醜さを知っていました。
自分以外の誰かを数え切れないくらい知っています。
自分に向けられる感情を知っていました。
嫌悪を知っていました。
悪意を知っていました。
優しさを知っていました。
知らなくてもいいことまで、彼女は何でも知っていました。
何も知らない女の子と、何でも知っていた女の子。
こうしてみると彼女達はまるで正反対です。
何も知らない女の子には、何でも壊す力がありました。
彼女が手を握るだけで、何でもドカンと壊れます。
家具が壊れます。お人形が壊れます。生き物が壊れます。家族が壊れます。
彼女の姉は、そんな力を持つ彼女が嫌われるだろうことを思いました。
彼女が自分を嫌うだろうことを思いました。
だから、彼女を閉じ込めることにしました。
嫌われること、嫌うことから、見つけられないようにしました。
何でも知っていた女の子には、他人の心を読むことができました。
誰が何を思っているのか、意識しなくても勝手にわかります。
彼女の読む感情の大多数は、自分への恐れでした。
自分への嫌悪でした。自分への憎悪でした。自分への嘲笑でした。
彼女と同じ力を持つ姉は、自分達が嫌われることは運命なのだと受け入れていました。
彼女に、自分と同じ心の強さを求めました。
だから、彼女に何もしませんでした。
嫌われること、嫌うことに、立ち向かわせました。
隠した姉と、隠さなかった姉。
彼女達の、ただ一人の肉親も、まるで正反対です。
何も知らない女の子の心は、雪のように真っ白です。
それは何も書かれていない紙です。
知るべきことを知らないそれ。知るべきことから遠ざけられたそれ。
大事なもの、大事じゃないもの。好きなもの、嫌いなもの。
嬉しいもの、悲しいもの。美しいもの、醜いもの。
そんな区別も、線引きもされていないそれは、とても綺麗で。
綺麗で、綺麗で、それを見た人はその綺麗さを、狂っていると思いました。
何でも知っていた女の子の心は、傷だらけです。
何度も何度も、傷つき、傷つけられ、ボロボロになったそれ。
女の子は痛くて、とても痛くて、ついには耐えられなくなり。
その傷も、傷じゃないものも。痛いことも、辛いことも。
怒ることも、嬉しいことも。世界の醜さも、美しさも。
全部ひっくるめて、それをもう見ないことにしました。
それらを、忘れることにしました。
それらに、傷つけられないようにしました。
そうして傷だらけの心を直しました。
色んな何かが欠け落ちてツギハギされたそれは、とても歪で。
歪で、歪で、それを見た人はその歪さを、狂っていると思いました。
正反対の二人の終着点は、結局同じでした。
二人とも、最後には狂っていると判断されてしまったのです。
こうしてみると、二人はとても似ていますね。
これが、丸っきり正反対で、それでいてそっくりな二人の女の子の話の全てです。
彼女達は昔も今もこのままですから、これ以外はありません。
彼女達に幸せな結末はなかったんでしょうか?
たとえば?
たとえば、閉じ込められた女の子は、外に出して欲しかったかもしれません。
彼女の姉に、色んなことを教えてもらいたかったかもしれません。
自分を後ろに守るだけじゃなくて、一緒に並んで歩いて欲しかったのかもしれません。
たとえば、何もされなかった女の子は、自分を離さないで欲しかったかもしれません。
彼女の姉に、あなたは弱いからしょうがないのだと、許して欲しかったのかもしれません。
自分に強さを求めるだけじゃなく、弱さも認めて欲しかったのかもしれません。
でも、そうされていたことが、彼女達にとっての幸せなのかはわかりません。
私達から見たら、成る程それは今よりマシに見えるかもしれません。
しかし、そういう仮定や想像を、彼女達は出来ないのです。
だって、彼女は幸せが何なのかを知らないのですから。
だって、彼女は幸せが何だったのかを忘れてしまったのですから。
彼女は今も、薄暗い地下室に一人で座っています。
彼女は今も、知らないどこかを一人でふらふらと歩いています。
それが幸せなのかは、私達にも、彼女達にもわからないのです。
この二人に、直接の面識はありません。
お互いのことを、お互いに何も知りません。
二人のことを、二人とも知っているのは、ただ歴史だけです。
二人はとてもよく似ています。
そして丸っきり正反対でもあります。
それはどういうことなのでしょう?
片方の女の子は、何も知りません。
その女の子は、生まれてこのかた、ずっと家に、地下の自分の部屋に、閉じこめられているのです。
彼女は何も知りません。
言葉を知っています。
字が読めます。
外を、窓から見たことがあります。
家のみんなが色んなことを教えてくれます。
でも、彼女は知りません。
窓から見える以外の景色を知りません。
外の空気を知りません。
温度を知りません。
家の中の誰かが話すこと以外を知りません。
家の人以外を知りません。
誰かの感情を知りません。
他人を知りません。
当然知らなければいけない大事な何かを、彼女は何も知りません。
もう片方の女の子は、何でも知っていました。
彼女にはいつでも、今も、自由な世界が広がっていました。
外を知っています。
世界の美しさを知っていました。
喜びを知っていました。
怒ることを知っていました。
悲しいことを知っていました。
楽しいことを知っています。
世界の醜さを知っていました。
自分以外の誰かを数え切れないくらい知っています。
自分に向けられる感情を知っていました。
嫌悪を知っていました。
悪意を知っていました。
優しさを知っていました。
知らなくてもいいことまで、彼女は何でも知っていました。
何も知らない女の子と、何でも知っていた女の子。
こうしてみると彼女達はまるで正反対です。
何も知らない女の子には、何でも壊す力がありました。
彼女が手を握るだけで、何でもドカンと壊れます。
家具が壊れます。お人形が壊れます。生き物が壊れます。家族が壊れます。
彼女の姉は、そんな力を持つ彼女が嫌われるだろうことを思いました。
彼女が自分を嫌うだろうことを思いました。
だから、彼女を閉じ込めることにしました。
嫌われること、嫌うことから、見つけられないようにしました。
何でも知っていた女の子には、他人の心を読むことができました。
誰が何を思っているのか、意識しなくても勝手にわかります。
彼女の読む感情の大多数は、自分への恐れでした。
自分への嫌悪でした。自分への憎悪でした。自分への嘲笑でした。
彼女と同じ力を持つ姉は、自分達が嫌われることは運命なのだと受け入れていました。
彼女に、自分と同じ心の強さを求めました。
だから、彼女に何もしませんでした。
嫌われること、嫌うことに、立ち向かわせました。
隠した姉と、隠さなかった姉。
彼女達の、ただ一人の肉親も、まるで正反対です。
何も知らない女の子の心は、雪のように真っ白です。
それは何も書かれていない紙です。
知るべきことを知らないそれ。知るべきことから遠ざけられたそれ。
大事なもの、大事じゃないもの。好きなもの、嫌いなもの。
嬉しいもの、悲しいもの。美しいもの、醜いもの。
そんな区別も、線引きもされていないそれは、とても綺麗で。
綺麗で、綺麗で、それを見た人はその綺麗さを、狂っていると思いました。
何でも知っていた女の子の心は、傷だらけです。
何度も何度も、傷つき、傷つけられ、ボロボロになったそれ。
女の子は痛くて、とても痛くて、ついには耐えられなくなり。
その傷も、傷じゃないものも。痛いことも、辛いことも。
怒ることも、嬉しいことも。世界の醜さも、美しさも。
全部ひっくるめて、それをもう見ないことにしました。
それらを、忘れることにしました。
それらに、傷つけられないようにしました。
そうして傷だらけの心を直しました。
色んな何かが欠け落ちてツギハギされたそれは、とても歪で。
歪で、歪で、それを見た人はその歪さを、狂っていると思いました。
正反対の二人の終着点は、結局同じでした。
二人とも、最後には狂っていると判断されてしまったのです。
こうしてみると、二人はとても似ていますね。
これが、丸っきり正反対で、それでいてそっくりな二人の女の子の話の全てです。
彼女達は昔も今もこのままですから、これ以外はありません。
彼女達に幸せな結末はなかったんでしょうか?
たとえば?
たとえば、閉じ込められた女の子は、外に出して欲しかったかもしれません。
彼女の姉に、色んなことを教えてもらいたかったかもしれません。
自分を後ろに守るだけじゃなくて、一緒に並んで歩いて欲しかったのかもしれません。
たとえば、何もされなかった女の子は、自分を離さないで欲しかったかもしれません。
彼女の姉に、あなたは弱いからしょうがないのだと、許して欲しかったのかもしれません。
自分に強さを求めるだけじゃなく、弱さも認めて欲しかったのかもしれません。
でも、そうされていたことが、彼女達にとっての幸せなのかはわかりません。
私達から見たら、成る程それは今よりマシに見えるかもしれません。
しかし、そういう仮定や想像を、彼女達は出来ないのです。
だって、彼女は幸せが何なのかを知らないのですから。
だって、彼女は幸せが何だったのかを忘れてしまったのですから。
彼女は今も、薄暗い地下室に一人で座っています。
彼女は今も、知らないどこかを一人でふらふらと歩いています。
それが幸せなのかは、私達にも、彼女達にもわからないのです。
良いお話をありがとう。
考えさせられる良いお話でした