「また来たの」
「また来たわ」
博麗の巫女、紅白など呼び名は数あれど、つまるところ、博麗霊夢という一個人を指し示す記号に代わりはない。
何が面白いのか、そんな私のところへ暇さえあれば通う妖怪がいる。
八雲紫だ。
「あら、美味しそうなお茶菓子ね」
「妖夢の差し入れよ、幽々子の我が儘ついでに買ってきたんだって」
「お呼ばれしても?」
「断ってもつまみ食いするんでしょ……お茶入れてくるわ」
「御構い無く~」
紫用の新たな湯飲みにお茶を注ぎ、お盆で運ぶ。
紫は縁側に腰掛け、手にした扇子を閉じたり開いたりしている。
ぱちぱちり、ぱちぱちり。
手持ちぶさたなのかはわからない。
少なくても魔理沙やチルノみたいに、私に断りなくお茶菓子に手を出す暴挙は働かないみたいだ。
ちなみに、前者二人には漏れなく陰陽玉をプレゼント。
どうでも良いけど、
「どうでも良いけど」
「なぁに?」
地の文が表に出たみたい。言いたいことだったから気にせず言葉を続ける。
「それ、やめてくれない?うっとおしいから」
「これは失礼」
おかしそうにクスクス笑うけど、やめるつもりも、扇子をしまう気もないみたい。
「……まあ良いけど」
少し気になっただけだし。
紫のそばに湯飲みを置いて、自分の座布団に……紫のとなりに腰を下ろす。
お皿に乗せたお菓子をつまんでは食べ、つまんでは食べ、お茶を飲みながら時々美味だの美味しいだのと言葉を交わす。
―――当たり前だけど、有はそのうち無になる。
よって、お茶もお菓子も尽きた今、私は暇をもて余していた。
「……」
ぱちぱちり、ぱちぱちり。
紫は何をするわけでもなく、飽きもせず手元の扇子を弄くっている。
なんだか、この場の空気に居心地の悪さを感じて、つい声をかけた。
「ねぇ」
んー?と気だるそうな動作でこちらを向く紫。
今彼女は縁側に、私は床の間にいるもんだから、彼女は自身の肩ごしに、小首を傾げるように私を見ている。
その動きに、大人の色気と子供っぽさ、相反する印象を受けて、気恥ずかしくなる自分をそっと圧し殺し話を続ける。
「おやつの時間は終わったわよ」
「そうね」
「帰らなくていいの?」
「帰ってほしいの?」
「そういう訳じゃないけど……」
「なら良いじゃない、もうしばらく居させてちょうだいな」
「好きにしなさい」
押し負けた。
紫が来るといつもこんな感じだ。
のんびりゆったりくつろいで、陽が陰る頃になると「また明日」と言い残して去っていく。
早く帰るときは、決まって来客が訪れるあたり、どうも人が来ない時間帯を狙って現れているような気がしてならない。
ぱちぱちり、ぱちぱちり。
静かな神社に扇子の音が木霊する。
「―――紫は」
独り言のようにか細い声だけど、構わず言葉を連ねる。
「紫は、何でここに来るのかしら」
別に、答えがほしい訳じゃない。
ただ、気になったから自問自答してみただけだ。
特に意味はない。
妖怪が退魔の者に会いに来るなんて、考えてみればひどく滑稽じゃないのか。
ひょっとして牽制しているつもりか、それとも私のことを監視してるんじゃないでしょうね。
とりとめなく流れる思考に、我ながら嫌気がさす。
私の悪い癖だ。
色々な奴に会ってきたせいか、相手のことを疑い、真意を確かめたがる節がある。
そのくせ、その思考を表に出さず、飄々とした態度で接するため、無愛想だ不気味だと感じる人が多い。
わかってる、神社に人があまり来ないのは、道中が危険というだけじゃなくて……
「私は」
紫の声に反応して、思考速度が減退する。
けれど続いて発せられた言葉を受けて、私は頭が真っ白になった。
「あなたが好きよ」
――――――――――――――――――……。
「それが理由じゃダメかしら」
「……どうして」
「あなたの側にいるだけで、胸がポカポカして、私は幸せになれるの」
「そんなことで神社に入り浸ってちゃ、他の妖怪に示しがつかないんじゃないの?
巫女にご熱心だなんて、悪い噂が立つかもしれないわ」
「別にいいわ」
「良いわけないじゃない、あんたは大妖怪八雲で、私は博麗の巫女で……」
気づけば、正面にいる紫に、指先で口元を押さえられていた。
いつのまに、こんなに近寄られたんだろうか……。
「私は紫であなたは霊夢」
頬に両手が添えられて。
「八雲や博麗の姓は、些細なことよ」
そっと、畳に押し倒された。
「え、あ……」
「最近はね、あなたのことばかり考えているの。
寝ても覚めても、食事の時も境界にいるときも。
目に浮かぶのは、あなたの無愛想な、それでいて、とても可愛い顔ばかり」
「ゆ、紫、ちょっと、近い」
「その鈴のような声だって、花のような匂いだって、いつでもどこでも思い出せるわ」
「やっ、スカート捲れちゃ……」
「霊夢は、私のこと嫌い?」
私に直に触れる手を止めて、じっと見つめてくる紫。
その様子が、なんだか小さな子供みたいで、私のことを純粋に好いてくれてることだけは、靄がかかったような頭でも理解できて。
「その言い方は、ずるいよ……」
恐る恐る、彼女の気持ちを、受け止めた。
「また来たわ」
博麗の巫女、紅白など呼び名は数あれど、つまるところ、博麗霊夢という一個人を指し示す記号に代わりはない。
何が面白いのか、そんな私のところへ暇さえあれば通う妖怪がいる。
八雲紫だ。
「あら、美味しそうなお茶菓子ね」
「妖夢の差し入れよ、幽々子の我が儘ついでに買ってきたんだって」
「お呼ばれしても?」
「断ってもつまみ食いするんでしょ……お茶入れてくるわ」
「御構い無く~」
紫用の新たな湯飲みにお茶を注ぎ、お盆で運ぶ。
紫は縁側に腰掛け、手にした扇子を閉じたり開いたりしている。
ぱちぱちり、ぱちぱちり。
手持ちぶさたなのかはわからない。
少なくても魔理沙やチルノみたいに、私に断りなくお茶菓子に手を出す暴挙は働かないみたいだ。
ちなみに、前者二人には漏れなく陰陽玉をプレゼント。
どうでも良いけど、
「どうでも良いけど」
「なぁに?」
地の文が表に出たみたい。言いたいことだったから気にせず言葉を続ける。
「それ、やめてくれない?うっとおしいから」
「これは失礼」
おかしそうにクスクス笑うけど、やめるつもりも、扇子をしまう気もないみたい。
「……まあ良いけど」
少し気になっただけだし。
紫のそばに湯飲みを置いて、自分の座布団に……紫のとなりに腰を下ろす。
お皿に乗せたお菓子をつまんでは食べ、つまんでは食べ、お茶を飲みながら時々美味だの美味しいだのと言葉を交わす。
―――当たり前だけど、有はそのうち無になる。
よって、お茶もお菓子も尽きた今、私は暇をもて余していた。
「……」
ぱちぱちり、ぱちぱちり。
紫は何をするわけでもなく、飽きもせず手元の扇子を弄くっている。
なんだか、この場の空気に居心地の悪さを感じて、つい声をかけた。
「ねぇ」
んー?と気だるそうな動作でこちらを向く紫。
今彼女は縁側に、私は床の間にいるもんだから、彼女は自身の肩ごしに、小首を傾げるように私を見ている。
その動きに、大人の色気と子供っぽさ、相反する印象を受けて、気恥ずかしくなる自分をそっと圧し殺し話を続ける。
「おやつの時間は終わったわよ」
「そうね」
「帰らなくていいの?」
「帰ってほしいの?」
「そういう訳じゃないけど……」
「なら良いじゃない、もうしばらく居させてちょうだいな」
「好きにしなさい」
押し負けた。
紫が来るといつもこんな感じだ。
のんびりゆったりくつろいで、陽が陰る頃になると「また明日」と言い残して去っていく。
早く帰るときは、決まって来客が訪れるあたり、どうも人が来ない時間帯を狙って現れているような気がしてならない。
ぱちぱちり、ぱちぱちり。
静かな神社に扇子の音が木霊する。
「―――紫は」
独り言のようにか細い声だけど、構わず言葉を連ねる。
「紫は、何でここに来るのかしら」
別に、答えがほしい訳じゃない。
ただ、気になったから自問自答してみただけだ。
特に意味はない。
妖怪が退魔の者に会いに来るなんて、考えてみればひどく滑稽じゃないのか。
ひょっとして牽制しているつもりか、それとも私のことを監視してるんじゃないでしょうね。
とりとめなく流れる思考に、我ながら嫌気がさす。
私の悪い癖だ。
色々な奴に会ってきたせいか、相手のことを疑い、真意を確かめたがる節がある。
そのくせ、その思考を表に出さず、飄々とした態度で接するため、無愛想だ不気味だと感じる人が多い。
わかってる、神社に人があまり来ないのは、道中が危険というだけじゃなくて……
「私は」
紫の声に反応して、思考速度が減退する。
けれど続いて発せられた言葉を受けて、私は頭が真っ白になった。
「あなたが好きよ」
――――――――――――――――――……。
「それが理由じゃダメかしら」
「……どうして」
「あなたの側にいるだけで、胸がポカポカして、私は幸せになれるの」
「そんなことで神社に入り浸ってちゃ、他の妖怪に示しがつかないんじゃないの?
巫女にご熱心だなんて、悪い噂が立つかもしれないわ」
「別にいいわ」
「良いわけないじゃない、あんたは大妖怪八雲で、私は博麗の巫女で……」
気づけば、正面にいる紫に、指先で口元を押さえられていた。
いつのまに、こんなに近寄られたんだろうか……。
「私は紫であなたは霊夢」
頬に両手が添えられて。
「八雲や博麗の姓は、些細なことよ」
そっと、畳に押し倒された。
「え、あ……」
「最近はね、あなたのことばかり考えているの。
寝ても覚めても、食事の時も境界にいるときも。
目に浮かぶのは、あなたの無愛想な、それでいて、とても可愛い顔ばかり」
「ゆ、紫、ちょっと、近い」
「その鈴のような声だって、花のような匂いだって、いつでもどこでも思い出せるわ」
「やっ、スカート捲れちゃ……」
「霊夢は、私のこと嫌い?」
私に直に触れる手を止めて、じっと見つめてくる紫。
その様子が、なんだか小さな子供みたいで、私のことを純粋に好いてくれてることだけは、靄がかかったような頭でも理解できて。
「その言い方は、ずるいよ……」
恐る恐る、彼女の気持ちを、受け止めた。
紫さん自重してくださいwwwww
飄々としきれずに押し切られた霊夢が可愛いです。
……霊夢よ、お前さんは幸せ者だよ。
ところで、床の間って掛け軸とか生け花を飾るところじゃあ……?(汗