深々と雪の降りつもる十二月二十四日。
一人の少女と一人の妖怪が談話をしている。私はそれをじっと見ていた。
しかし、視点がどうにもおかしかった。まるで、天から見下ろしているかのような視点だったのだ。
「それにあの子って…」
炬燵の中で楽しそうに笑っている七歳かそこらの少女。赤いリボンでまとめた髪と紅白の巫女服。
その少女を楽しげに見る妖怪はドレスみたいにふわふわした服を着ている。
そして見覚えのある部屋の間取りと内装。
「あれは私で…あっちは紫かな」
ああ、なるほど。私は夢を見ているのか。ということは昔の体験か何かだろうか。
「ねえ、紫お姉さん。『さんたくろーす』ってどういう人なの?」
うわ、紫お姉さんなんて言ってるよ私。今はババァとか言ってるのに。
「サンタクロースね。そうね。じゃあ、今日はその話をしましょうか」
こっちはこっちで私の知ってる紫とは違う。普段の胡散臭い笑顔ではなく、まるで母親みたいに穏やかで優しい笑顔だ。
七歳の私はそんな紫に頭をなでられて嬉しそうにしていた。
「サンタクロースか…」
紫は私の母親みたいなものだった。両親の顔をよく覚えていない私を何かと世話を焼いてくれた、らしい。ぼんやりとした記憶はあるがはっきりとしたことは覚えていない。 霖之助さんがそうだったと教えてくれたからそうだったかもしれないという程度だ。
「今からずっと昔。ある一人の妖怪がいたの。名前はジョニー」
「は?」
何だそれは。ジョニーっていったいどこの傭兵だ。子供に嘘を吹き込むな。
しかし、七歳の私はそこは不自然に思わなかった。
「じょにーはどんな妖怪だったの?」
「そうねえ、金髪の怠け者ってよく言われていたみたいね。家族のボブにもよく怒られていたわね」
だから。ボブって誰だよ。どこの黒人傭兵だ。そんなサンタクロースはいない。
「で、ジョニーは小さな村で平和に暮らしていたの。だけどそれは永遠には続かなかった。人間たちは妖怪たちを迷信のものだと考え始めたの」
存在を否定された妖怪は力を失っていく。そのためレミリアや早苗たちはこちらに引っ越してきた。
だが、これは幻想郷ができる前の話だ。その中で妖怪たちが力を失わずにしていく方法は。
「まだ妖怪や悪魔、神が幻想になっていない場所に移る。そうすることでなんとかしようと考えた。けど、全員が同じ場所に移ることはできなかった」
「どうして?」
「その場所によっては信じられているモノが違ったから。ひとつの場所で信じれていてももうひとつの場所で信じれているわけじゃないの」
「じょにーはさびしくなかったの?」
紫は、
「寂しかったわ。もう会えないと思うと尚のことね」
ただそう言って。
「だけどね。寂しいだけじゃなかった。ボブは言ったの。『いつまでもお互いを忘れないように贈り物をしてはどうか』って。人間はそうやって思い出にしていくのだと」
懐かしむように笑った。
「ジョニーは別れる日までに一生懸命に贈り物を作った。今までろくにしたことがなかった裁縫でぬいぐるみを作ってみんなに配ったの」
「それからどうなったの?」
「みんなは驚いて。そして笑ってくれたわ。『ありがとう』ってね。だから、笑顔で別れることができたの」
私は過去に聞いたはずのその昔話を思い出そうとしていた。ジョニーはそれからどうなって、今はどうしているのか。何か大事なことを私は言ったはずなんだ。それが思い出せない。とても大事なことなのに。
「それからジョニーは…」
見上げた先にあるのは見慣れた天井。
ではなく紫の顔だった。
「…何してんのよ」
「クリスマスプレゼントにキスをと思って」
「帰れ」
酷いわあと嘘泣きをする紫。たく、こんなのに私はお姉さんなんて言っていたのか。
「まだ、日付が変わったばっかりじゃない。こんな時間に何の用?」
つまらない用事なら夢想封印をかましてやる。
「サンタクロースに頼まれてプレゼントを持ってきたのよ。それにしても」
そこでくすくす笑う紫。なんかむかつく。
「なにがおかしいのよ」
「だって、霊夢ったらぬいぐるみ抱いて寝てるんだもの」
言われて気付いた。私ははずっとぬいぐるみを抱いていた。
「えっ、これは!寒かったから暖の取れそうなものを探していたら、ちょうどあっただけで!べつにいつも抱いて寝てるわけじゃないわよ!」
今まで抱いていた尾が九本の狐のぬいぐるみを紫に投げつける。紫はあっさりと片手でキャッチした。
「はいはい。わかりました」
「…なんかむかつくわね。その返事」
「気にしなさんな。はい、ジョニーからのクリスマスプレゼント」
はい、と渡されたのは猫又のぬいぐるみだった。いつかもらった九狐のものよりもほつれや歪みが少なっている。
「…ねえ紫」
「何?」
私はぬいぐるみを手に取ったまま尋ねる。
「ジョニーはさ、幸せになったの?」
それを聞いた紫は一瞬だけ驚いて。すぐにいつもの胡散臭い笑顔に戻る。
「ええ、もちろん。ジョニーはそれから新しい居場所を見つけて、新しい家族のジョナサンと三人で暮らしているわ」
「そう…」
そうか。幸せになれたのか、ジョニーは。今も幸せに暮らしているのか。
「紫…」
「何かしら」
「私、あんたからプレゼント貰ったことないわ」
「そう言えばそうね。なにか欲しいものがあるのかしら?」
「抱き枕…」
「え?」
たく。私は何を言ってるんだ。こんな隙間妖怪にこんなことを言ったら一生からかわれるようなことを今言おうとしているのだ。
私は自分の顔が真っ赤になっていることを自覚しながら言う。
「今日は寒いから…あんたが抱き枕になりなさい…」
ああもう。恥ずかしくて紫の顔なんて見れやしない。何をしているのだ。
こんな私を紫はただ、
「霊夢は甘えん坊さんね。ほら、来なさいな」
そっと、抱きしめて優しく髪を撫で上げた。
「それと…私からも御返し」
紫の体温のぬくもりを感じながら、私は唇を紫のものに近付ける。
「んっ…」
驚いた紫は体に力を入れるがすぐに力を抜いた。
「どうしたのよ…キスしに来たんじゃないの」
私は唇を離すとすぐに紫の胸に顔を埋める。まともに顔を見ることなんてできない。
「いや…霊夢からするなんて思わなかったから…」
珍しく呆然とした紫の声が聞こえる。これならおあいこだ。
「別に…ただ思い出したの」
サンタクロースの話を聞いて自分に約束した。『ジョニーにいつかお返しをする』と。
まったく。なんで今まで忘れていたんだ。これだから巫女はボケているなんて言われるのか。
「…そう。ありがとう霊夢」
お礼なんて言われることじゃない。むしろ謝るべきだ。今まで約束を忘れていたことを。
「謝罪の言葉は聞きたくないわ」
私の心を読んだような言葉。
「私はお礼の言葉が聞きたいの」
その言葉は夢でみたときと同じく、優しい母親のもので愛情の言葉だった。
「…ありがとう」
ありがとう、ジョニー。
一人の少女と一人の妖怪が談話をしている。私はそれをじっと見ていた。
しかし、視点がどうにもおかしかった。まるで、天から見下ろしているかのような視点だったのだ。
「それにあの子って…」
炬燵の中で楽しそうに笑っている七歳かそこらの少女。赤いリボンでまとめた髪と紅白の巫女服。
その少女を楽しげに見る妖怪はドレスみたいにふわふわした服を着ている。
そして見覚えのある部屋の間取りと内装。
「あれは私で…あっちは紫かな」
ああ、なるほど。私は夢を見ているのか。ということは昔の体験か何かだろうか。
「ねえ、紫お姉さん。『さんたくろーす』ってどういう人なの?」
うわ、紫お姉さんなんて言ってるよ私。今はババァとか言ってるのに。
「サンタクロースね。そうね。じゃあ、今日はその話をしましょうか」
こっちはこっちで私の知ってる紫とは違う。普段の胡散臭い笑顔ではなく、まるで母親みたいに穏やかで優しい笑顔だ。
七歳の私はそんな紫に頭をなでられて嬉しそうにしていた。
「サンタクロースか…」
紫は私の母親みたいなものだった。両親の顔をよく覚えていない私を何かと世話を焼いてくれた、らしい。ぼんやりとした記憶はあるがはっきりとしたことは覚えていない。 霖之助さんがそうだったと教えてくれたからそうだったかもしれないという程度だ。
「今からずっと昔。ある一人の妖怪がいたの。名前はジョニー」
「は?」
何だそれは。ジョニーっていったいどこの傭兵だ。子供に嘘を吹き込むな。
しかし、七歳の私はそこは不自然に思わなかった。
「じょにーはどんな妖怪だったの?」
「そうねえ、金髪の怠け者ってよく言われていたみたいね。家族のボブにもよく怒られていたわね」
だから。ボブって誰だよ。どこの黒人傭兵だ。そんなサンタクロースはいない。
「で、ジョニーは小さな村で平和に暮らしていたの。だけどそれは永遠には続かなかった。人間たちは妖怪たちを迷信のものだと考え始めたの」
存在を否定された妖怪は力を失っていく。そのためレミリアや早苗たちはこちらに引っ越してきた。
だが、これは幻想郷ができる前の話だ。その中で妖怪たちが力を失わずにしていく方法は。
「まだ妖怪や悪魔、神が幻想になっていない場所に移る。そうすることでなんとかしようと考えた。けど、全員が同じ場所に移ることはできなかった」
「どうして?」
「その場所によっては信じられているモノが違ったから。ひとつの場所で信じれていてももうひとつの場所で信じれているわけじゃないの」
「じょにーはさびしくなかったの?」
紫は、
「寂しかったわ。もう会えないと思うと尚のことね」
ただそう言って。
「だけどね。寂しいだけじゃなかった。ボブは言ったの。『いつまでもお互いを忘れないように贈り物をしてはどうか』って。人間はそうやって思い出にしていくのだと」
懐かしむように笑った。
「ジョニーは別れる日までに一生懸命に贈り物を作った。今までろくにしたことがなかった裁縫でぬいぐるみを作ってみんなに配ったの」
「それからどうなったの?」
「みんなは驚いて。そして笑ってくれたわ。『ありがとう』ってね。だから、笑顔で別れることができたの」
私は過去に聞いたはずのその昔話を思い出そうとしていた。ジョニーはそれからどうなって、今はどうしているのか。何か大事なことを私は言ったはずなんだ。それが思い出せない。とても大事なことなのに。
「それからジョニーは…」
見上げた先にあるのは見慣れた天井。
ではなく紫の顔だった。
「…何してんのよ」
「クリスマスプレゼントにキスをと思って」
「帰れ」
酷いわあと嘘泣きをする紫。たく、こんなのに私はお姉さんなんて言っていたのか。
「まだ、日付が変わったばっかりじゃない。こんな時間に何の用?」
つまらない用事なら夢想封印をかましてやる。
「サンタクロースに頼まれてプレゼントを持ってきたのよ。それにしても」
そこでくすくす笑う紫。なんかむかつく。
「なにがおかしいのよ」
「だって、霊夢ったらぬいぐるみ抱いて寝てるんだもの」
言われて気付いた。私ははずっとぬいぐるみを抱いていた。
「えっ、これは!寒かったから暖の取れそうなものを探していたら、ちょうどあっただけで!べつにいつも抱いて寝てるわけじゃないわよ!」
今まで抱いていた尾が九本の狐のぬいぐるみを紫に投げつける。紫はあっさりと片手でキャッチした。
「はいはい。わかりました」
「…なんかむかつくわね。その返事」
「気にしなさんな。はい、ジョニーからのクリスマスプレゼント」
はい、と渡されたのは猫又のぬいぐるみだった。いつかもらった九狐のものよりもほつれや歪みが少なっている。
「…ねえ紫」
「何?」
私はぬいぐるみを手に取ったまま尋ねる。
「ジョニーはさ、幸せになったの?」
それを聞いた紫は一瞬だけ驚いて。すぐにいつもの胡散臭い笑顔に戻る。
「ええ、もちろん。ジョニーはそれから新しい居場所を見つけて、新しい家族のジョナサンと三人で暮らしているわ」
「そう…」
そうか。幸せになれたのか、ジョニーは。今も幸せに暮らしているのか。
「紫…」
「何かしら」
「私、あんたからプレゼント貰ったことないわ」
「そう言えばそうね。なにか欲しいものがあるのかしら?」
「抱き枕…」
「え?」
たく。私は何を言ってるんだ。こんな隙間妖怪にこんなことを言ったら一生からかわれるようなことを今言おうとしているのだ。
私は自分の顔が真っ赤になっていることを自覚しながら言う。
「今日は寒いから…あんたが抱き枕になりなさい…」
ああもう。恥ずかしくて紫の顔なんて見れやしない。何をしているのだ。
こんな私を紫はただ、
「霊夢は甘えん坊さんね。ほら、来なさいな」
そっと、抱きしめて優しく髪を撫で上げた。
「それと…私からも御返し」
紫の体温のぬくもりを感じながら、私は唇を紫のものに近付ける。
「んっ…」
驚いた紫は体に力を入れるがすぐに力を抜いた。
「どうしたのよ…キスしに来たんじゃないの」
私は唇を離すとすぐに紫の胸に顔を埋める。まともに顔を見ることなんてできない。
「いや…霊夢からするなんて思わなかったから…」
珍しく呆然とした紫の声が聞こえる。これならおあいこだ。
「別に…ただ思い出したの」
サンタクロースの話を聞いて自分に約束した。『ジョニーにいつかお返しをする』と。
まったく。なんで今まで忘れていたんだ。これだから巫女はボケているなんて言われるのか。
「…そう。ありがとう霊夢」
お礼なんて言われることじゃない。むしろ謝るべきだ。今まで約束を忘れていたことを。
「謝罪の言葉は聞きたくないわ」
私の心を読んだような言葉。
「私はお礼の言葉が聞きたいの」
その言葉は夢でみたときと同じく、優しい母親のもので愛情の言葉だった。
「…ありがとう」
ありがとう、ジョニー。
って、おいおい…地味に酷い事言うな霊夢も(笑)
ジョナサンには吹いていいよね?w
つまりヘイブンでジョニーがXM8COMPACTを何も無いところから取り出したのも
対物ライフルをどっかやっちゃったのも、全てはスキマ様の所為だということですね。