※ ※ ※
ねぇ、そこのお姉さん! そうだよ! お姉さんしかいないじゃん!!
ねぇ、ちょっとでいいんだ。
ちょっとアタイの話を聞いてくれないかい?
え? いきなり何よって?
まあ、いいじゃない。
周りはみんな何かのお祭りでウキウキしているみたいでさ。
な~んかアタイは、そんな空気が合わないみたいでさ。
それにさ、お姉さんもアタイと同じみたいじゃん?
え? 違うって?
ま、まあここで会ったが100年目っていうじゃない。
少しの時間でいいんだ。
アタイの話を聞いとくれよ。
※ ※ ※
子供ってのは、時に残酷なもんだよ。
よくいるだろう?
蟻の列を面白がって踏み潰したりしている子供とかさ。
やっている本人は楽しい顔しているけどさ、蟻からしてみれば恐怖以外の何者でもないんだよね。
まあ、蟻が恐怖を感じているかは分からないけどさ。
でも、悪意のない残酷さっては、子供ならではなんだよね。
でさ。
一匹の子猫が居たんだよ。
生まれた時から独り身でさ。
その日を生きていくだけで精一杯だったんだよ。
その子猫はさ。
体毛が真っ黒だったのもあってさ、誰も救いの手を差し伸べてくれなかったんだ。
後で知ったんだけど、黒猫って不幸の代名詞みたいなものらしいじゃん。
そりゃ、そんな事を知っていればどんな奴だって手は差し伸べないよね。
だから、その子猫は誰も信じないで独りで生きてく事を決めたんだ。
でもやっぱりまだ子供なんだよ。
下手をすると、食べる物もなく何日も過ごしたり、他の大きな猫や犬に追われたり、
空を飛ぶ黒い鴉に付狙われたりさ……気の休まる時はなかったね。
でさ。
その子猫はとある場所へたどり着いたのさ。
何か大きな鉄の塊の物が数個置いてある場所でさ。
その塊は偶に黒い煙を吐きながら大きな音を立てて地面を掘り返していたりしていた場所なんだ。
朝の日が高くなると、その塊は動き出して、夕暮れ前には死んだ様に動かなくなるんだよ。
で、そんな鉄の塊がたくさんいる場所からちょっと離れた場所に、ゴミ捨て場があったんだ。
その子猫はそこをネグラにしたんだよ。
滅多に人間も近寄ってこないし、何か他の猫や犬が襲ってきても逃げ隠れる場所がたくさんあったんだ。
生まれて初めて気の休まる場所ってのを見つけた感じだったよ。
まあ、でも食べる物には困ったけどね。
でさ。
ある日、この場所に人間の子供の姉弟が遊びで来たんだよ。
まだ幼い姉弟でさ。
その子猫を見るなり、かわいいって言って近寄ってきたんだよ。
このアタイをかわいいってさ。
初めて言われたね。
でさ、その弟がポケットに何かお菓子を持っていたのさ。
それを私にくれたんだよ。
いや~、うれしかったね。
ちょっと警戒したけど、また子供じゃん?
取って何か酷い事をされるとは思わないじゃん?
まあ、ちょっと体を触らせてあげればそれで満足するんじゃない?
それくらいなら、いいよってね。
それからさ、その姉弟はさ。
自転車って物に私を乗せてさ、どこかに色々と連れていてくれたんだ。
今まで見たこともない場所を見せてくれたよ。
へぇ、こんな風景もあったんだって思ったね。
遠くに見える大きな山の陰に太陽が沈んでいく光景は忘れられないね。
それから、私はその姉弟の家に連れて行かれたんだ。
あ、あれ?
姉弟が泣いているよ。
どうしたのよ?
『ごめんね』って、一体私が何をしたっていうのよ?
弟も何か必死に親に訴えているみたいだね。
人間の言葉はよく分からないけど、どうやら私はこの姉弟の家に入れられないらしい。
いいよいいよ。
慣れているからさ。
だから、泣かないでよ。
やっぱりアタイには、暖かい場所なんて似合わないのさ。
暗い道をいつもアタイがいたゴミ捨て場まで姉弟は送ってくれたさ。
寒いだろうって、ゴミ捨て場に置いてあった何か蓋が丈夫な鉄の箱の中に、
自分達のお菓子や、布の切れ端を入れてくれたんだ。
いや~、有難かったね。
『それじゃ、ごめんね』
いいって事よ。
ほら、泣かないでよ。
こっちまで悲しくなるじゃない。
アタイはこういうのが似合っているのさ。
いいよ、また遊びに来てよ。
それで充分さ。
【翌朝】
『ごめんね! 本当にごめんね!!』
ん? 何よ?
朝からうるさいなぁ。
って、この声は昨日の姉弟の姉の声じゃない?
ああ、遊びに来てくれたんだ。
でも、しょっぱなから『ごめんね』って何さ?
目の前の光景を見て、私は一気に目が覚めたね。
だって、私の体が冷たく固まっているんだもの。
その冷たい体を姉が持って泣いていたんだ。
その後ろで弟も泣いていたんだ。
ああ、そうか。
アタイ死んじゃったんだ。
自分でも気が付かなかったよ、って当たり前か。
まあ、いいんじゃない?
これでさ、毎日その日暮らしの生活からおさらば出来るんだよ。
食べ物に困ったり、寒さで震える事もないのさ。
いいよ、アンタら、気にしなくってもさ。
遅かれ早かれ、こうなる運命だったのさ。
だからアンタらが気にすることはないのさ。
でも。
最後に楽しい思い出をありがとね。
短い命だったけど、唯一楽しい思い出だったよ。
アンタのくれたお菓子は美味しかったよ。
じゃあね、ほらそんなに泣かないでおくれよ。
逝きづらいじゃないか。
はぁ、今度は誰かのペットとして生まれ変わりたいな。
暖かい場所でさ、食べ物にも困らないでさ。
仲のいい仲間がたくさんいる所でさ。
これだけ不幸だったんだ。
少しぐらいお願い叶えてくれてもいいでしょ? 神様!
※ ※ ※
って話なんだよ。
え? 自分の話じゃないかって?
いやいや、ただの子猫の話だよ。
え?
途中で、自分だって言っていた?
いやだねぇ、姉さん! 耳が悪いんじゃないのかい?
まあ、どうでもいいけどさ。
アタイの周りにいるのはさ、全部子供の霊なんだよ。
あの時の礼もあるけど、実際自分が逆の立場になったときにさ、何かこの子らも繋がりが欲しいんじゃないかってさ。
まあ、アタイの勝手な思い込みだけどさ。
でも罪人の死体は、問答無用で灼熱地獄に速攻で放り込むけどさ。
え? なんで私にそんな話をしたんだって?
そりゃ、その子猫が死んだのが、何かクリスマスとかいう日の話でさ。
里とかで、その話を聞いた時にちょっと思い出してね。
え? その話を何で私にって?
だってさ。
お空に話しても、あいつ鳥頭だからさ、話しても反応がなくってつまらないし。
さとり様は、アタイが話す前に全部分かっちゃうしさ。
自分の口から話したかったんだよ。
で、フラフラ飛んでいたら、偶然にお姉さんを見つけたと。
だってお姉さんもアタイと同じ様にさ、体の周りに何か漂わせているじゃないか。
え? お姉さんは厄ってのを漂わせているのかい?
へぇ、珍しいねぇ。
ま、いいっか。
とりあえず、アタイの話を聞いてくれてありがと。
また、アタイの話を聞いてくれるかな?
嫌だって言っても、強引に聞かせるけどさ。
「それじゃ、貴女は今はとても幸せなのね」
うん、そうだねぇ。
幸せだねぇ。
だって、前の子猫の時の死んだ時の願いが全部叶っているしね。
それじゃ、ありがとね。
何かスッキリしたよ。
アタイは火焔猫 燐 。
お燐でいいよ。
お姉さんは?
「私は……」
※ 了 ※
とりあえず誤字など
また、アタイを話を聞いてくれるかな?→また、アタイの話を聞いてくれるかな?
会社の裏で子猫が四匹産まれ、一匹だけ寒空の中死んでいたのを思い出しました。
一応埋めてやったけど、ヤツはお燐に会えたのかなぁ……
その日を生きていくだけで精一杯だった子猫の姿は、まるで今の社会そのものだと感じました。
そして、子猫の最後…マジで他人事じゃないです。
お燐の願いが叶ってよかったです。
有難う御座いました<(u_u)>
子供がチョコレートあげたんじゃないかとヒヤヒヤしたりw
>1様
ゴスロリ、いいですよw。
>2様
誤字報告ありがとうございます。
>欠片の屑様
その1匹がお燐に会えますように……
>思想の狼様
書き終わって、投稿したあとで、思想の狼様のコメントを読み、
そういう風にも捉えられる事に気が付きました。
やっぱり、今のご時世を見ると考えてしまいますよね。
>hotp様
大丈夫ですw。
このSS内に出てくる姉妹は、私自身がモデルになっています。
チョコもネギもあげませんよ~w
また話がしたい時はここに訪れて下さいな。