今日の夜が私の最期の夜になるだろう。
私が紅魔館に来て60年が経つ。もう先も長くない。
かねてから実行しようと思っていた事を、いつもの様に部屋に来た美鈴に話す。
「朝日が昇る前に咲夜さんを連れて山に登る、ですか」
「お願い。最期は貴女と居たいのよ。お嬢様にはもう話してあるし」
「でも死期が近いなんて分かるんですか?」
「自分の体だからね。それぐらい分かるわ」
「…分かりました。朝の暗い内に迎えに来ます」
これで良い。これで私の望みは叶う。
安堵して床に就く。よく分からないが穏やかな夢を見た。
そして再び美鈴がやって来た。軽々と私を抱える。
「今の時期は寒いですからね。毛布を被ってください」
毛布が被せられると同時に暖気が流れ込んできた。
美鈴が気を送り込んでいる。相変わらず器用な能力だ。
そのまま部屋を出て門に向かう。辿りついた所で深々と紅魔館に礼をする。
今まで私がずっと世話になり多くを見てきた館だ。
だが、もう戻る事は無いだろう。しばらく館を見続ける。
そして美鈴にもう良いと伝える。美鈴は無言で頷きそのまま飛び上がった。
抱えられたまま上空まで飛び上がると夜の幻想郷が見えた。
この時間は起きている者が居ないのだろう。
里に光は見えない。妖怪の山の方向に微かな光が見える。
河童のエンジニア達が夜通し作業しているのだろうか。
「もうすぐ着きます」
声と共に優しく地面に降ろされた。
美鈴が肩からぶら下げたバッグから茣蓙とクッションを取り出す。
「冷えると駄目ですからね。この上に座って下さい」
「もうすぐ死ぬ人間よ?」
「そんなの関係ないです」
気付くとクッションの上に座っていた。恐らく気を逸らされたのだろう。
もうすぐ朝日が昇る。連れて来て貰ったこの山の中腹、ここからなら紅魔館を中心に幻想郷全てが見渡せる。
美鈴が後ろから私を抱きしめる。軽く吐息がかかる。少し震えているのが分かった。
最期に言いたい事を全部伝えよう。悔いの無いように。
「美鈴、貴女に会えて本当に良かった」
「人として生きられて私は満足してる。心が折れそうな時、貴女が支えてくれたからよ」
「貴女と子は成せなかったけど、貴女は私の投げナイフも料理も紅茶の煎れ方も全部覚えてくれた。だから私が生きた証は消えない」
ずっと紅魔館での思い出話を続ける。
美鈴が黙って抱く力を強める。
朝日が昇り始めた。もうすぐ私は死ぬだろう。
死ぬ時はこうやって好きな人に見守られ死にたいとずっと思ってた。後悔は何も無い。
朝日が昇り始め幻想郷が白く輝きだした。里の方角から煙が立ち昇る。
これが私の最期に見る景色だ。しっかりと目に焼き付ける。
しばらく時間が経ったが死ねない。
おまけに静寂を私の腹の音が破った。
思い出せば昨日から何も食べて無かった。
…人間、そう都合良く格好良くは死ねないのね。
振り返ると美鈴が泣き笑いの顔をしている。
「…美鈴」
「…はい」
「あのね、私まだ死なないみたい」
「はい」
「お腹空いたから朝ごはん作ってくれる?」
「はい!」
おいしいめーさくをありがとう
咲夜さんは年老いた姿で死ぬのだろうか、それとも若いままの姿で死ぬのだろうか…。まぁ普通に考えたら年老いた姿っすよね。
そりゃあ死期なんて分かるもんじゃないかもしれんが・・・。
まさか
「私、もうすぐ死ぬの」
「咲夜さん。これで7回目ですよ?」
「あら、そうだったかしら?それより朝ご飯作らないと」
「もう夜ですよ。咲夜さん」
「なら夕飯の仕度しなきゃ」
「咲夜さん。夕飯はさっき食べましたよ」
みたいな感じに・・・?
ありがとうございます!現在、世界めーさく劇場のプロット中です。
>>2様
咲夜さんはきっと気品のある老婦人になると思います。
>>3様
この咲夜さんの死期が近いのは確かなのでそうなる前に亡くなるとは思います。
それに近いテーマでは中山可穂さんの小説「燦雨」が好きです。