「こんにちは、ごめん下さい」
「あ、これはどうも」
アリスは紅魔館にやって来ました。
図書館で本を読む為です。
しかし彼女はどこぞの黒白と違い、門番を光線で薙ぎ払ったり相手の様子も確かめずに突入したりはしません。
きちんと挨拶もするし、相手の状況をきちんと確認します。
「今日はパチュリーは居る?」
「あちゃ~……さっき寝てしまわれたところなんですよ」
「あらら」
残念ながら図書館の主はどうやら現在お休み中。
迷惑になる事はちょっと避けたいところ。
「すいません…」
「いや気にしないで、そういう日もあるわ」
相手の都合もあるだろう。
アリスも納得してすんなり諦めたようです。
「じゃあこれ、人に上げるつもりだったものを渡すのも何だけど……」
すっと取り出したのは何やら大きめの箱。
「あんまし日持ちしないからささっと食べちゃって」
「わっ、ありがとうございます、食べ物ですか」
「そうそう、クッキーハウス」
「ん?くっきーはうす?」
「平たく言うと、お菓子で作った家よ」
「へぇ~、ちょっと中を見ていいですか?」
「良いわよ」
中の物を崩さないよう、慎重に慎重に箱を開ける美鈴。
ゆっくりと開けた箱の中には、お菓子で出来た可愛らしい小さな建物がありました。
相当なデコレーションが施されたお菓子の家。
見れば見るほど、本当に食べるのがもったいなく思えてきます。
「うわぁ~よく出来てますね~」
「甘さも控えめだし紅茶にも合うわ、よかったら門番隊で食べちゃって」
「うわぁ……ホントに頂いちゃっていいんですか?」
「いいのいいの、こんなの幾らでも作れるしパチュリーの分はまた起きてる時にでも持ってくるわ」
「本当にありがとうございます~」
美鈴は箱を元に戻し、崩さないよう慎重に詰め所まで持って行きました。
「それじゃ帰るわ、またパチュリーによろしく言っといてね」
「あ、待って下さい!こちらからもお礼を……」
「いいわよそんなの、気にしないで」
「いえ、気を遣うのが私の能力です!」
「だから気を遣われたらこっちが疲れちゃうから、また今度来たときにでもお願い」
「いやいや、ここでお客様を返してしまっては紅魔館門番・紅美鈴の名折れです!!」
「名折れって言われてもねぇ……」
踵を返しかけたアリスを、美鈴は必死に引き止めました。
何やらお礼をしたいようです。
「お願いします!何か、何かお礼を!!」
「ん~…そこまで言われちゃうとなぁ」
「では決まりです!ではこちらをどうぞ」
「わっ、割と強引ね……って、お品書き?」
門の前に用意されたイスに座った私。
手元にあるのはお品書き。
正直、どういうもてなしをされるのか検討が付かない。
「あの~…私はどうすれば……」
「ああ、そのお品書きにある注文をして頂ければ何でもお答えさせて頂きますよ」
元気よく答える美鈴。
「当然全て無料ですからご安心を、横の値段は気にせずどうぞ!」
何やらいきなりだけど、何か食べさせてくれるのかな?
でもさっきお昼ごはん食べたばかりだし、軽い飲み物でも頂いて帰ろう。
そう思いながらお品書きに目を通す私。
しかし、書いてある内容に飲み物や食べ物の名前が無かった。
「……?」
「ああ、初めての方にはシステムがわかり難いですね」
手をポンッと叩く美鈴。
「失礼しました、とりあえずつきだしから入りましょう『気まずい』で」
「気まずい?」
何やら飲食には関係なさそうな単語が出てきた。
「そーいえば、自律人形を作られたそうですね、おめでとうございます!いやぁ努力っていつかは報われるんですね」
不思議な顔をした私を他所に、美鈴は話を始めた。
「自律人形?」
「またまた~惚けないで下さいよっ『アリス・マーガロイドここにあり!』って感じで弾幕も見事じゃないですか」
「ひょっとしてメディスンの事?」
「そうそう!可愛いですね~まさに造形美って感じで…」
「ちょっと待って」
「?どうしました」
「…あれは私の作品じゃないから」
「えっ…?」
表情が変わる美鈴。
「鈴蘭の毒であんなになったらしいわ、別に私が作った訳じゃない」
「そ、そうでしたか……ま、まぁ努力するのはとっても大事な事で…」
「それと、私の名前は『マーガ「ト」ロイド』だから」
「…っ………」
微妙な沈黙。
「……名前を間違われるのって……ツライですよね…」
……ずーん……
「確かに『気まずい』!」
「でしょう?こんな感じで色々な雰囲『気』を味わって頂こうって訳なんですよ!」
美鈴はぱっと表情を戻した。
「そういうお品書きだったのね」
「新鮮なのが揃ってますよ!じゃんじゃんリクエストして下さいね!」
「さっきのは話題自体が古い気がしたけど」
「まぁそれも味って事ですよ」
私は内容をようやく理解した。
その上で、お品書きを改めて眺める。
「じゃあこの『イラッ』ってので」
「分かりました!」
「ちぃーッス~!!イエッス!紅め~り~~ん!!」YO!!
「何かこう、みぞおちに来るわね」
「でしょ?でもアリスさん、通ですねぇ」
何かちょっと楽しくなってきた。
「じゃあ次『思い出し』」
「分かりました、さっぱり目で?」
「そうね、さっぱり目でお願い」
「はい了解!」
「ところでアリスさん」
「何?」
「ええっと、『狂視調律』ってどう読むんでしたっけ」
「ああ『イリュージョンシーカー』よ」
「じゃあ『幻朧月睨』は?」
「それは『ルナティックレッドアイズ』」
「『月兎遠隔催眠術』
「『テレメスメリズム』」
「凄いですね!!」
「そう?」
「ん~ちょっと濃い目だったかな?」
「あらら、すいません」
「まあでもいい感じだったわ」
「ありがとうございます」
本当は相手が何かをど忘れをして、首の辺りまで出掛かっている言葉を思い出させるようなのが「さっぱり目」らしい。
でもそうそう上手い具合にはど忘れする事って無いから結構貴重なんだとか。
ど忘れするモノなんて、そう大した話じゃ無いけどね。
「じゃあ次は『ハモリ』?」
「はいはい、ではハモリ入りまーす」
「あ、アリスさんルナサさんがあんな所に」
「ホントだ、でもまた随分と低い位置を飛んでるわね」
湖の方を見ると低空飛行をするルナサの姿があった。
しかもかなり憂鬱そうだ。
「テンションもいつにもまして低そうですね、って事は」
「「もうじき雨ね」」
「「あーあ、また寒くなりそう」」
「「いやだなぁ…」」
「今の凄い!!」
「気を合わせるのも技術の一つですよ」
「いや、中々出来る事じゃないわよ」
「ははは」
照れたように笑う美鈴。
見事なハモらせ方もそうだが、肩の落とすタイミングなんかも合わされたのでちょっとびっくりした。
「歌の『ハモリ』も出来るんですよ」
「ふ~ん…でも今やるのは何故か得策じゃない気がするわ」
「奇遇ですね、私もそんな感じがしました」
何故かは秘密。
「ささ、次のご注文は?」
「ん~この『気になる』ってのが気になるわね」
「甘口と辛口がありますけど」
「とりあえず甘口をお願いするわ」
「畏まりました」
「ウチの近所には湖が近いんで」
そう言いながら美鈴は自分の帽子に手をかけた。
「チルノちゃんがちょくちょく遊びに来るんですよ」
帽子を取り、自分がその内側を見られる位置に帽子を持ってくる。
「こないだなんか友達4・5人を連れてきまして」
そしてゆっくりと帽子の星の部分を指で摘み、少し力を込めた。
「『めーりんも遊ぼー!』って門に向かって突進してくるんですよ」
すると帽子の中身が「ポウッ」っと小さく光った。
「私も仕事中なんで勘弁してくれって言ったんですけどね」
その光を見た美鈴は、ちょっと複雑な表情を浮かべながら苦笑いをした。
「他の子も一緒に遊ぼうって聞かないんですよ」
やれやれと言った感じで帽子を被りなおす美鈴。
「仕方ないからちょっと遊んであげたんですけど、その後サボりだと怒られちゃいまして」
そして頬をぽりぽりと指で掻いた。
「あ~確かに気になる」
「ウチの甘口はこれくらいですね」
「他所にも甘いの辛いのってあるの?」
「ありますよ、ただ最近は天界だか何だか知りませんが空気を読むとか言う人も出てきましてね、
あんなの値段が高いだけで味なんか変わりゃしませんよ」
えっ?
○玖さんも?
「他行きましょうか?」
「そうねぇ……じゃあこの『大丈夫?』を」
「あいよ、『大丈夫?』一丁!」
「この門番って仕事にも最近飽きてきましてね」
「ええ、そうなの?楽しそうにやってるって思ってたけど」
「いやいや、結構面倒なんですよ?待機も多いし…」
「へぇ」
「それでですね、もっとこう…体をアクティブに動かす仕事は無いかな~って探してみたんですよ」
「うん」
「そしたらいいのを見つけましてね、真剣に転職考え中なんですよ!」
「どんな仕事?」
「何でもマグロギョセンって言いまして…」
「……やるわね」
「はは、ありがとうございます」
「もうどこから突っ込んでいいか分からないもの」
他人事ながら、本当に大丈夫かと心配してしまった。
「ん~そろそろお腹一杯かな?」
「じゃあ〆の一品で『うそぉ!?』なんかどうですか」
「いいわね、じゃあそれで〆ようかしら」
「わかりました」
「今までの話は、ノンフィクションです」
「うそぉ!?」
(終)
しかし職人芸ktkr、テンポがお見事。
面白いっていうよりも凄い、上手い。
マグロ漁船じゃなくてこっちの道で食ってこうよ美鈴ww
この元ネタ芸人は7回くらいしか見たこと無いんですが、このネタは知ってましたww
お笑い最高!
>「ちぃーッス~!!イエッス!紅め~り~~ん!!」YO!!
これはみぞおちに来るというかみぞおちに(一撃を)入れたくなるwww
でも、面白かったです!!